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ca13 RHAPSODYについて

 今年は例年より冬の寒さが厳しい気がするけどやっぱり気のせいかも知れない。何度繰り返してもやはり冬は寒いものだし、夏になれば今年の夏はやけに暑いなと感じてしまうだろうから。


「という訳で今回のアルバムは『RHAPSODY』。一九八八年の三月に発売されたアルバムだよ。時期的にはちょうど光GENJIが大売れしてて、同じ月には『パラダイス銀河』も発売されている。それとほぼ同時期に彼らの先輩である少年隊にも『ふたり』ってシングルを提供してるけどこっちは後輩の勢いがありすぎてオリコン一位を逃してたり、とにかく楽曲提供者として大いに注目を集めていたんだ」


「そういう意味では別の仕事で一つのピークを作り上げていた時期なのね」


「ジャニーズ系以外でも当時多くいた女のアイドルに提供しまくってたり、一回それもまとめてみようかな。でも全部持ってるわけじゃないからねえ、簡単にはいかないけど。まあとにかく本人の売上はともかく存在感としては抜群だったとは言えるね」


「でもジャケットは結構シンプルなデザインよね」


「それでも加工してわざと古びさせた銅板にアルバムタイトルとC&Aのロゴがスタンプされたようなデザインはなかなかに自信を感じさせるものだと思うけど。マイルストーンみたいな」


「そうね。それで一曲目は『風のライオン』。作詞作曲A、編曲西平彰」


「いきなりだけどこれは素晴らしい名曲だよ。勇気と自信に満ち溢れていた子供の頃に思いを馳せて現状を嘆きながらも、それでもまだその牙は失われているわけではないはずだと己を奮い立たせる様を描いた歌詞が鮮やかだけど、最大の違いはサウンド面にあるんだ。心に清々しい風を吹かせるイントロからして全然違う。メロディーもミディアムテンポで歌唱も優しいハーモニーを響かせ、だからと言ってただ優しいだけでなく強さも見られる。そしてその強さは単なる勢い任せじゃなくて内面における葛藤を乗り越えた先に辿り着いた確かな決意に基づいた雄大さ、芯の強さを非常に感じさせるもので、このスケール感は一段階上のステージに到達した雰囲気が漂っている。うん、これはいいよ。今まではあんまり用いていなかった曲調かつ、過去を超越するレベルの高さで冒頭にして最高の曲」


「いきなり褒めるわね。次は『恋人はワイン色』。作詞作曲A、編曲西平彰」


「これがこの年の二月に出たシングルだけどね、これもやっぱりミディアムテンポで柔らかなハーモニーを奏でる曲。と言うか今までは主にボーカリストとしてのパワーを重視してきたのもあって意図的に声と声をぶつけるようなハーモニーでやってきたけど、この辺で解禁してみたって話もあるらしい」


「へえ。でも確かに今までとは比べ物にならないくらい当時におけるお洒落な雰囲気っぽくなってるじゃない。サックスとか入れちゃってね」


「これもイントロのキーボードの音色からしてそれまでのロックサウンドとは大違い。編曲の西平はキーボーディストとしても知られるだけあってこういうサウンド構築はお手の物なんだろうね。物語調の歌詞にワインという小道具もちょっと大人びてるし、時代の要請にも合っていたものと思うよ。それと『あぶない雑居カップル』なるドラマの主題歌にも使われたらしいけど、それ自体は見た事もないし誰が出演したとかもまったく知らない。でもドラマタイアップは近い将来において大きな武器となるわけで、その始まりがここにあるとこじつけも可能かな。まとめると八十八年というタイミングにふさわしい曲」


「次は『BELIEVE IT?』作詞A、作曲C、編曲瀬尾一三。作詞と作曲を分担ってあんまりなかった印象だけど、珍しいわね」


「でも光GENJIではちょくちょくあったし、そっちでやってみて案外好感触だったから本家でも導入してみたって事なのかな。この曲自体は絶対光GENJIじゃ無理なタイプだけどね。曲の雰囲気もそうだし、何より歌詞がね。タイトルを日本語で言うと『信じられるか?』ってところで、実際信じられないほどにスキャンダラスな一夜のストーリーが描かれている。アルバムの流れで言うとポップな流れの曲が続いたところでこれを持ってくるセンスはなかなかのものだよ」


「かなりパンチの効いた曲ではあるわね。次は『待ちぼうけLONELY TOWN』。作詞澤地隆、作曲C、編曲村上啓介。あれ、村上戻ってきた」


「THE ALPHAはチャゲアスのバックバンドから独立してレコードデビューも果たしたんだけど、元々音楽性の相違とかで別れたわけじゃないしね、実力は買われていたんだから戻ってくるのもやぶさかではないってもので。村上の編曲だけに、金属質なロックサウンドでチャゲのシャープな部分を見せている」


「次は『レノンのミスキャスト』。作詞澤地隆、作曲C、編曲村上啓介」


「偶然が生み出した出会いとその終わりを歌った曲。タイトルとなっているジョン・レノンを始めとして歌詞に登場する一つ一つの小道具がいちいち具体的で、それが澤地特有の皮肉っぽさを醸し出している。始まった時はなんでもない一つ一つにも全て意味があるように思えていたけどいざ終わりとなるとそうやって意味があると思ってた事自体が虚しさを引き立てるばかり、みたいなね」


「次は『狂想曲』。作詞作曲A、編曲西平彰」


「まずこの曲自体は明るい都会を軽快に突き進むような曲調で、出だしとかちょっと真似したくなる。光GENJIのデビュー曲を作ってくれと依頼されて最初に提出したのがこれだったらしいけど、曲調もそうだし歌唱力的にも無理じゃないかなって思う」


「いや、でも編曲によっては全然別物になるかも知れないし」


「まあそうなんだけどね。そもそもこの曲自体が編曲でかなり二転三転してるからね。まずはこのアルバムバージョンが最初に出て、サウンドも一番普通。五月にタイトルを『ラプソディ』とカタカナ表記にしてシングルカットされたけど、そこでは編曲に西平だけでなく十川知司が加わっている。この十川は、はっきり言って今後におけるかなりの重要人物だよ。まず村上啓介率いるTHE ALPHAがバックバンドから抜けた後に次のバックは誰にしようかと試行錯誤が繰り返されたんだけど、なかなか見つからずに何度かメンバー変更を繰り返したって事は前にも言ったかな。その中で十川はキーボーディストとして加入して、後には編曲家として大いに活躍するんだけど、これがその最初期の仕事だよ」


「へえ、そうなんだ。それでどう違ってるの?」


「一言で言うとかなりリミックスっぽいのが特徴。間奏にあったスキャットをイントロにも持ってきたり、妙にガシャガシャした音がいかにも後から付け加えたような繋がりのぎこちなさ、微妙な収まりの悪さがあって不思議な感覚となっている。特にシンセベースっぽいビョンビョンした音が印象的。シングルになるからより派手にやろうと考えてちょっと滑ったのかな。その後ベストアルバムなんかに収録されるバージョンではまた変更されてて、アルバムバージョンをベースに、イントロとか明らかに別の音が入ってるけど一応これが完成版になるのかな。ちょっと長くなったしそろそろまとめると、曲自体はポップ路線で一貫してるけど、その表現に試行錯誤している曲。それと関係ないけどタイトル表記変更されたのは狂想曲はラプソディじゃなくてカプリッチョだって気付いたからなのかな」


「どうかしらね。次は『焦燥』。作詞澤地隆、作曲C、編曲村上啓介」


「キーボードの軽いサウンドから始まって独特のうねりを生み出す曲。レゲエのリズムを使っているらしいけど、陽気さではなく不気味な迫力が漂う」


「次は『失恋男のモンタージュ』。作詞作曲A、編曲村上啓介」


「まずタイトルからして何これってなって、イントロのやけにチープなキーボードサウンドや泣き声のようなスキャットがそれを助長するけど、やっぱり奇妙な曲ではある。いや、曲自体はそうでもないけど、Bメロでちょっと良さげなメロディー来たかと思ったらちょっと下手な女声コーラスが入ったり。歌詞は男も時には涙流すよって事だけど、全体的にやけっぱちな勢いに貫かれている」


「次は『ロマンシングヤード』。作詞秋谷銀四郎、作曲C、編曲瀬尾一三。何か作詞に珍しい名前が出てきたわね」


「これは前年に出たシングル曲で、秋谷はチャゲアスではこの一曲だけの関わり。思えば光GENJIでもシングルになった『風の中の少年』一曲だけだったし、これは一体どういう厚遇なのか。それはともかく、曲としてはガツンとしたロック調で今までの流れを継承している。それとこの曲に関してはオーストラリアでやってるラグビーのもっと激しい奴をオージーボールと呼んで日本で流行らせようとフジテレビが目論んでて、その中継のテーマソングとして使われていたそう。それを反映してか歌詞は日常に押し潰されそうになっても闘志を失わずに頑張っていこう、という応援歌的なもの。この競技自体が日本で流行る事はなかったけど、ライブでは大いに有効活用されてたみたい」


「でも確かに最初からライブ映えを考えたような曲よね」


「間奏で歓声っぽい音が入ってたりね。それと『ラプソディ』もプロレス中継のテーマソングになってたらしい。ちょっと意外なチョイスだけど、肉体と肉体がぶつかり合う激しさ、男らしさを売りにした競技って部分はオージーボールと共通している。確かにちょっと前はそういうロック調のサウンドも多かったからテレビマンはそこを買ったけど、本人たちはまた別の方向へ進んでいたから結果的にはちょっとピントのずれたタイアップになったのかな」


「そして最後に『ミステリー』。作詞作曲A、編曲村上啓介」


「六分を超えるバラードで、甘い曲だけど村上編曲だけあって間奏のキーボードの音が独特な主張してきたりする。この手の曲は後により洗練されるからこの曲自体がどうこうってものでもないかな」


「という訳で全十曲終わったわね」


「このアルバムを最初に聞いた時は『ここで九十年代に直接繋がってきたな』と思ったけど、もっとよく聴くと意外とそうでもないのかも知れないと感じるようにもなった。とにかく冒頭に置かれた二曲のインパクトが大きいからね。その中でも『恋人はワイン色』は当時の空気に乗じた雰囲気だし狙いすました一撃って感じもあるけど『風のライオン』はまた違う。純粋に楽曲のレベルが一段階アップしてる。とにかくアルバムの一発目にこの曲がある事で全然イメージが変わってくるよ」


「でもそれ以降はそこまででもないみたいね」


「全体的には村上の編曲が多くて、ちょっと硬いキーボードの音色がいかにも八十年代っぽいなってなる。それとシングルで言うと『ロマンシングヤード』から『恋人はワイン色』って落差は相当なものだよね」


「確かに。ここで明らかにこれまでとここからに分かれるみたいな」


「特にレコード会社移籍以降はパワフルなロック路線でライブを沸かせるエネルギッシュなアーティストという方向性で、タイアップを見るにそっち方面でも一定の評価は得られたものと思われるけど、早くも別の方向性を見出した。それは先行者がいくらでもいるがゆえに真の実力が試されるポップスというフィールドだった。大きい言い方だと今後のブレイクの下地となったと言えるけど、それも現状維持で満足しない心意気のなせる業。最初の方にマイルストーンって言ったけど、でも冷静に考えてアルバム全部マイルストーンみたいなものだからね。完成はない。それは最後であってもそうだったようにね」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすぐ戦闘服に着替えて敵が出現したポイントへと急いだ。


「ふっははっは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のアカエイ男だ! 毒にまみれたこの大地を浄化するのだ」


 誰もいない海沿いに出現したのは、自分自身こそ毒を持っている魚の姿を模した男であった。その毒は人の命さえも奪うという強力なものだが、この男も地球人類を滅ぼすほどの力を持っており野放しにしてはおけない。そのためのカウンターである二人が間もなく到着した。


「出たなグラゲ軍。お前達の目論見はここで潰えたぞ」


「あまり危険な真似はしないでほしいものだけどね」


「やはり来たかエメラルド・アイズ。お前達の死こそ最大の浄化よ。行け、雑兵ども!」


 次々と襲い掛かってくる無機質な雑兵たちを渡海雄と悠宇は一体ずつ着実に破壊していき、ついには壊滅させた。


「よし、これで終わりらしいな。後はお前だけだアカエイ男!」


「私達だって攻めてこなければ戦う事もなかったんだし、そろそろ諦めてくれるといいのに」


「我らがグラゲの覇権を拒むような蛮族など滅びてしまえばいいのだ。今すぐにでもな!」


 そう言うとアカエイ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり拳には拳で応えるしかないのか。時に虚しさを感じつつも、それでも今は戦わねば生きていけない。覚悟を決めて二人は合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 ひらひらとした姿で空を飛ぶアカエイロボットの雄姿はまさしく妖怪のようであったが、その不規則な動きにもメガロボットはよく辛抱してタイミングを見計らった。そして毒針攻撃をうまくかわすと一気に距離を詰めた。


「よし、今よとみお君!」


「うん。ランサーニードルでとどめだ!」


 渡海雄はすかさず黒いボタンを叩いた。胸から腹にかけて備え付けられたポイントに内蔵された無数の棘がアカエイロボットに風穴を開けた。


「ええい生意気な。だがこれで終わりだと思うなよ。捲土重来だ!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってアカエイ男は宇宙へと帰っていった。そろそろ冬季オリンピックも始まるし、こんな事にばかりかまけてはいられない。渡海雄と悠宇はすかさず明日に向けて瞳の進路を定めた。

今回のまとめ

・とにかく「風のライオン」は頭ひとつ抜けた名曲

・「ロマンシングヤード」と「恋人はワイン色」の格差も凄い

・「ラプソディ」に関してはこのアルバムバージョンが一番好み

・でもどういう経緯でプロレス中継に使われたのだろうか

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