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ca12 Mr. ASIAについて

 成人の日とは直接関係しなくても、休日だけは享受せねば。渡海雄と悠宇は今日もまた寒風吹きすさぶ中でも気にせず、一緒に遊んでいた。それと本当は終わらせねばならないものが他にあったけど全体のバランスなどを考慮して後回しにした。でも可能な限り迅速に対処したい。


「という訳で今回は『Mr.ASIA』。一九八七年の五月に発売されたアルバムだよ。前回からは八ヶ月ほどで、しかも間にミニアルバムも挟んでいるからね。このアグレッシブさはまさしく奔流の如し」


「しかしまたえらく大きく出たものね。日本代表すらおぼつかないのにアジア代表とは。しかもグーグルで画像検索したら謎のマッチョマンが大量出現してなかなか壮絶な光景が現出してるし」


「まあ多分そういう名前のボディビル大会でも開かれてるんだろうね。ミス・ユニバースとかと同じ流れのネーミングなのは間違いないし。ジャケットのデザインは灰色の海と空をバックに、かなり加工されてデザイン化された二人の写真が真ん中に置かれているもの。それとこの時期からC&Aと略したロゴも出てくるようになる。八十年代後半のテレビ番組の映像を動画サイトなんかで見てるとミュージシャン表記がC&Aって書かれたりしてて、半分ぐらい改名したようなものだったり」


「それもMr. ASIA化の一環?」


「そうなんだろうね。カタカナや漢字だけじゃなくてより広く知らしめたいという野心か、はたまた。で、このアルバムのネーミングだけど、単なる大言壮語ではなくてちゃんと由来もあるんだ。というのもね、当時からアジアでは結構売れてたらしいってのがひとつ。『男と女』なんかは特に人気で、初期のアルバム曲も結構台湾とか香港あたりの歌手にカバーされてたりするからね」


「それはこの頃からそうだったの?」


「うん。もちろん曲にもよるけど『この恋おいらのからまわり』のカバーが八十五年に出されてたり、確かにそういう流れは存在していたみたい。ストリングスやら間奏のギターやらアレンジが結構そのまんまなのにも驚くけどね」


「ふうむ、でもまさか作ってた頃はそういう消費されかたするとは思ってなかったでしょうね」


「多分ね。でもそういうのを知ったのは自信になったはず。世界は広いのだから今日本で売れなくてもそれだけで終わるもんじゃないってね。それとこっちがより直接的な理由だろうと思うけど、前年の大晦日にフジテレビが『世界紅白歌合戦』なる番組を作ったんだ。言うまでもなくNHKの現在まで続くキラーコンテンツに対抗するための手段で、NHKは基本的に日本人歌手が中心だからだったらこっちは世界だ! って事で、ロッド・スチュワートとかスティービー・ワンダーとか色々出してたんだ。で、その日本代表の中にチャゲアスが選ばれたんだ」


「へえ」


「それでロンドンに行って歌って、そのまま現地で年越しを迎えたんだ。そこで見た光景に大いに刺激されて、それはこのアルバムにもかなり影響を与えているんだ。この番組自体は気合の割にやはり紅白や当時は大晦日にやってたレコード大賞の権威が強すぎたからか、視聴率的には惨敗に終わったらしく、調べてもチャゲアス関連で語られる話ほど肯定的なところはほとんどないんだけど、とにかくそんなイベントであっても彼らにとっては一大転機となったのは間違いないみたい」


「ふうん。それで一曲目は早速タイトルチューンの『Mr. ASIA』。作詞作曲A、編曲佐藤準、コーラス編曲山里剛」


「これなんか今の話がもろに当てはまってて、非常に勢いのある楽曲となっている。歌詞からしても何か音楽番組で今まさに歌いだすぞって瞬間の緊張感とか、それを振り切って全力で歌いきってやるぜという若々しい気概に満ち溢れている。編曲が佐藤準なだけあってシンセバリバリのハイテンションなサウンド。またサビの歌詞ではこの数ヶ月後にデビューを果たす光GENJIのデビュー曲のタイトルが使われているのも、狙ったのかな」


「ああ、もうそこまで来たんだ」


「光GENJIのファーストシングル発売が八十七年の八月だけど、当然話はもっと早い段階から来てるものだからね。まずはジャニーズ事務所の方から『新しいアイドルをデビューさせるので楽曲をお願いします』とオファーがあったんだ。じゃあ何でチャゲアスなのって問いかけに対する答えは『PRIDE 10年の複雑』に色々書いてたけど、大雑把に言うとこれからのアイドルには今までのいかにも歌謡曲的な邦楽ではなく欧米の単なる後追いでもないオリジナリティある楽曲が必要で、じゃあそれを作れる日本人は誰かと言うとチャゲアスしかないと、大体そんな感じの答えだったらしい」


「ほおう、そこまで言われるとは」


「光とGENJIそれぞれ別の曲でデビューしてからある日突然その二曲が合体して光GENJIデビュー曲になる、とかいうとんでもない構想もあったらしいし。さすがに無理だったけど。とにかく光GENJIファーストアルバム用の曲が通常よりやや少ない八つしか出来なかった時に、他の作家で穴埋めなどは一切せず八曲入りアルバムとして発売するぐらいにチャゲアスを信じているのも極めて大胆というか、よくそこまで賭けられたもんだなと感心しちゃうよね。後の大売れを知ってるとそれも必然と見えるけど」


「提供の実績はないでもないけど、決してトップクラスってわけでもなかったのよね」


「『ボヘミアン』に『ふたりの愛ランド』とかもあったとは言えね。当時からするとさすがにいい加減演歌フォークじゃないにしても、やっぱり売上のほうは決して順風満帆とはいかなかったわけだしね。それでも見てる人はちゃんと見てると、そういう眼差しって嬉しくなるよね、勇気になるよね」


「そうね。次は『mebius』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三、コーラス編曲山里剛」


「ちょっと黒い感じのなかなか格好良い曲。出だしなんかはちょっとまどろっこしい感じなのかなって思うけど、段々コーラスの人達なんかも増えていって仄暗い感情がふつふつと湧き上がるような盛り上がりを見せる。こういうハードボイルドな雰囲気も出せるんだという新鮮さもあり、なかなかの新境地」


「次は『噂のトラブル・メーカー』。作詞澤地隆、作曲C、編曲瀬尾一三」


「イントロはちょっと印象的だけど曲が始まってみると意外とまったりムードの曲。タイトルにあるトラブルメーカーはどうやら魅力的な女の事で、それに振り回される男の姿はややコミカルに描かれている」


「次は『SAILOR MAN』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三」


「これがシングルになった曲で、当時はJALの沖縄旅行を促すCMにも使われたんだ。大海原に白い大きな帆を上げて勇躍進んでいくような雄大なスケール感があり、これはいいよ。相当いいよ。今までのシンセバリバリすぎて逆に音に時代を感じる、みたいな部分もかなり減退しているし、その上で力強さは劣るどころかむしろ増している。歌唱もかなりガツンとしてるしね、それでいて確実に洗練されている。それとこの辺から二番まで終わった後にまったく新しいメロディーが登場する、いわゆるCメロ的な手法も使われるようになるけど、ここの部分も楽曲のクオリティを確実に一段階アップさせている。いやあ、本当にこれはいいよ。ぶった切られるように終わるサビは何事かってなるけど」


「イントロから雰囲気が違うわね。次は『どのくらい"I love you"』。作詞作曲A、編曲佐藤準」


「今さっき勇壮な楽曲で来たと思ったら今度は一転、とんでもなく甘い楽曲がお出しされた。とろけるようなメロディーを囁きかけるように歌って、しかもこのアルバム発売前に飛鳥が結婚を発表したらしい。そう考えるとかなり直接的な楽曲だよね」


「次は『スローダウン』。作詞澤地隆、作曲C、編曲佐藤準」


「これは元々はクリスタルキングのボーカルとして強烈なハイトーンボイスで一世を風靡した田中昌之に提供した曲。タイトルにスローって出てるけど楽曲自体はイントロ出だしのギターからも分かるようにむしろガツンとしたロックナンバーで、まあまあ格好良い」


「次は『LONDON POWER TOWN』。作詞作曲A、編曲瀬尾一三」


「これも一曲目と同じくロンドンでの体験を反映させたもので、とにかく新年を迎える瞬間は凄くお祭り騒ぎだったらしくて、その光景をそのまんま楽曲にしてみたのがこれ。本当に勢い一発って感じで、ちょっとダサめ」


「次は『PLASTIC KISS』。作詞作曲C、編曲瀬尾一三」


「プラスチックとタイトルにもあるようにちょっとデジタル風味入ったロックナンバー。Bメロあたりは格好良いし、サビの飛鳥のコーラスもいいんだけど何となくハマりきれない」


「次は『指環が泣いた』。作詞作曲A、編曲佐藤準」


「これは前年に出されたシングルで、世界紅白でもこの曲が披露されたらしい。その際向こうのミュージシャンに『このイントロはどうやって作ったんだ? どういう意味があるんだ?』とか聞かれたみたいだけど、確かにこのイントロは凄いぞ。『誘惑のベルが鳴る』を大幅にパワーアップさせたようなシンセ大爆発のサウンドから、別れの瞬間を劇的に描いた歌詞をスピーディーに歌い上げる。ちゃんとチャゲにも見せ場あるし、最後の狂気的なまでの情念を原色そのままにぶつけるかのような歌唱もスリリングで強烈な緊張感に溢れている。ただこっちでは聴けないシングルバージョンのシンセサウンドは微妙にチープだったりして、これでも一回聴いたらそのインパクト絶大だし、本当何で売れなかったんだろうね」


「確かにこれは凄いわね。こんなのあったんだって驚いちゃった。次は『夏の終わり』。作詞澤地隆、作曲C、編曲瀬尾一三」


「これでこのアルバムも終わりですよ、という訳でスケールの大きなバラード。たまにちょっとスケールありすぎてスカスカだなってなる時もあるけど、例えばサビで伸ばした声が途切れる時のかすれ方とか絶妙で、この時代においてはチャゲ屈指の名曲とも言われたりする」


「確かにいかにも最後って曲ね。これでアルバムも終わりかという余韻が残る」


「『終章』みたいなのを作ってってリクエストに応えたものでもあるらしいからね。で、アルバム全体の総括だけど、単に勢い任せではない力強さが出てきているのが特徴かな。『Mr. ASIA』とか『指環が泣いた』あたりはシンセゴリゴリなアップテンポでそれまでのイメージも強いけど、『SAILOR MAN』はそれまでとは違う形でよりスケールある力強さを出していて、これはまさしく新境地」


「このアルバムだと実際その曲が一番印象に残ったしね。それと『どのくらい"I love you"』も」


「あれは女性人気高そうな曲だよね。今までは優しさを見せるにしてももっと不器用そうだったけど、こういうのもすんなりと入るようになっている。他には、ちょうど一月頃にTHE ALPHAが単独でデビューするためにバックバンドを離脱したってイベントもあったんだ。だから今作では編曲に携わってない」


「そう言えばそうね。佐藤と瀬尾の実績組で固められている」


「それで次のバックバンドを探したけど既存のバンドでこれといったのがそう簡単に見つかるものでもなく、オーディションで集めるにしても個々の実力はともかくコンビネーションとか人間関係で色々あったらしく、何度かメンバー交代させたり急場凌ぎのメンバーでライブをこなしたり苦労したみたい。そんな中でアイドルに曲作れだの結婚だのでてんやわんやだったとか」


「音だけだとそんなにゴタゴタしてるとは思えなかったわ」


「音は相当洗練されてるよね。サウンドや歌唱もそうだし、それにチャゲ曲もあんまり実験に走らず普通のロックサウンドがメインとなっていて比較的聴きやすいし。良し悪しはあれど、今までより広く受け入れられるサウンドに進化したのがこの『Mr. ASIA』と言えるかな」


このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが響いたので、二人はすかさず戦闘服に着替えて敵が出現したポイントへと走った。


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のタヒバリ女だ!」


 普段はアラスカやシベリアで暮らしているが、冬になると日本の方へ来る鳥の姿を模した女がビルの谷間に出現した。しかし渡り鳥が日本に訪れるのと侵略者の来訪を一緒にしてはいけない。すぐにその対抗勢力は現れた。


「そこまでだグラゲ軍。お前達の好きにはさせないぞ!」


「年が移り変わっても出てくるなら戦うしかないわ。生きるためにもね」


「ふふ、愚か者どもめ、今すぐ楽にしてやろう。行け、雑兵ども!」


 ぞろぞろと出現した雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と打ち倒していった。そして残った敵は指揮官1人だけとなった。


「よし、雑兵は倒した。後はお前だけだなタヒバリ女!」


「早く故郷へ帰りなさい。戦う意味なんてないわ」


「このような辺境の地まで来て戦わずに去るなどあまりにも無駄だ。成果を残すためには死んでもらう」


 そう言うとタヒバリ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。それに対抗して二人も合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 いい加減この辺のワンパターンなんてもんじゃない文章を書くのも精神的に参るしどうしようかと思案中だが、ともかく戦いは激戦の末に悠宇がタヒバリロボットの背中に回った。


「よし今よとみお君!」


「うん。メガロソードでたたっ斬ってやる!」


 渡海雄はためらいなく赤いボタンを押した。左腕が激しく輝いたと思ったら召喚されたソードを両手に握り、タフバリロボットを一刀両断に切り捨てた。


「ぐおお、ここまでか。何の成果もなく撤退とは我ながら情けない」


 嘆きつつも機体が爆散する寸前に脱出装置に乗り込んで、宇宙へと帰っていった。今年もまた激戦は避けられそうにない。しかし地球を守るために二人は戦い続けるだろう。

今回のまとめ

・気合入ったタイトルだが空回りする事なく形にしている

・これでいいんだと自分を信じて進む勇気こそが最大の力か

・「mebius」「SAILOR MAN」あたりの男らしい曲が好み

・「指環が泣いた」の持っていかれるようなイントロは本当に凄い

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