ng09 中村獲得記念 2017年ドラフト会議について
秋晴れが戻ってきた空だが、週末にまた台風が来るなんて話もある。ともかく、十月二十六日木曜日にはドラフト会議が開かれる。
「まずカープは早々と中村奨成の指名を決めたわね」
「広島出身で広陵高校から、甲子園でもとんでもない大活躍だったもんね」
「とは言えポジション的な問題なんかもあって本当に指名するものかと訝しむ部分はあったけど、そう決めた以上は後はクジが当たるのを祈るしかないでしょう」
「競合するのはもう確定的?」
「さすがに単独はないでしょうね。あそこまで打ちまくって、しかもキャッチャーだからね。巨人とか、阿部慎之助が四番キャッチャーで盤石だった時代はその存在だけで他球団とは比べ物にならないほどのアドバンテージを有していたし」
「それが今ではファーストに回って、レギュラーとなった小林は逆に打撃は弱いタイプ」
「どれだけ守備能力があっても、さすがに二割ギリギリではね。それで言うと中村は、さすがに甲子園は当たりすぎだったにせよ、実力を伸ばしていけば非常に大きな戦力となってくれるでしょう」
「そうなるといいね。それで他には誰がいるかな」
「まずは清宮幸太郎、と言うかこのドラフトは清宮が中心となっているわ。小さい頃からずっと注目されていてマスコミの報道も加熱して、しかしそのプレッシャーに押し潰される事なく数字を積み重ねた強さは他にない部分よ。守備走塁がどうとか言われたりするけど、そんなのは承知の上でどこもかしこもが一位候補に入れているわけだから、むしろ圧倒的打力の証明でしょう。他に大阪履正社高校の安田というバッターも注目されていて、中村含めて一位になるでしょうね」
「投手はどうなの?」
「高校生は正直あんまり……。大学や社会人では左の田嶋や東、コントロールはないけど豪速球を投げ込むヤマハの鈴木博志らが注目されているわ。特に田嶋は既に複数球団が指名を表明して、抽選確実となっているわ。ただ今年は全体的に不作とも言われていて、現時点では一位の十二人がどうなるかさえ見えてこないのが現状よ。実際一位の段階で意外な名前が出てくるかも」
「そうなると当然ながら二位や三位なんて分かるはずもないね」
「報道も少ないしね。基本的には素材重視になるって話もあるけど。まあ、去年みたいに思いがけない選手が残っているかも知れないし、そうじゃないとしてもその順位で指名されるって事はそれなりのものを持っていると信じたいものね」
「どうなる事やら。そうだ、明日はまたお邪魔していい?」
「もちろん、我が家の扉はいつでもとみお君に開かれているんだから」
という訳で二人はドラフト当日を楽しみにしながら、その夜は眠りについた。ついでにCSに関してだが、要は短期決戦で働けなかった選手の問題であってそれはドラフトでどうこうするものでもない。強いて言うなら他球団からの補強を増やしてフラットな血に刺激を与えたら少しはどうにかなるといいなという希望的観測をしたい程度で、今語るものでもなかろう。
そして当日の午後四時半、いつも通りに悠宇の家に二人が集まり、テレビのスイッチを入れた。五時が過ぎて、各球団の関係者が続々と会場入りしてきた。
「さてさて、いよいよだけど」
「まず中村に何球団来るかよね。中日が来るのはぼぼ確実で、それ以外にも楽天や日本ハム、DeNAなんかがどうなるか分からないとされるわ。普通に清宮に行くか、安田や東の一本釣りを狙うか、それとも……」
「当然それはもうとっくに決まっていて、そしてもう数分後には判明するわけだからね。ドキドキするなあ」
「指先が冷えるわ。外も次第に暗くなってきているしね」
そして第一巡目入札選手が発表された。その結果田嶋がオリックスと西武、中村が中日と広島、東がDeNA、それ以外が清宮を指名した。
「さすが清宮。よくもまあここまで集まったものよ。お見事」
「大体事前報道通りかな」
「DeNAが東を単独指名してるけど、基本的には策を弄する事なく一番欲しいと思った選手に突撃した感じね。まあ東も実力は確かだから、逃げたというより上手く立ち回ったなって感じ」
「いきなり七球団競合の清宮クジ、関係者が引く時間からして長いわ。さて、どこが引き当てるものか」
そして抽選の結果、清宮を引き当てたのは日本ハムだった。
「まあ何となくそんな雰囲気あったよね」
「ちょうど大谷がアメリカに行くし、中田翔もFAでどこか行くかも知れないからね。さあ、世間一般ではこれで本番終わりだけど私達からするとここからが本番よ」
続いて中村の抽選となり、見事に広島が引き当てた! 緒方監督が高らかに拳を掲げた。
「やったぜ!!」
「うはははい! やったねえ、ゆうちゃん!」
「おう! とりあえず良かったわ。クジ外して終わりじゃあ惨めだもんね。うふふ、広島県出身でここまで甲子園で大暴れした選手は近年いなかったし、プレッシャーも大きくなると思うけど、それに負けないぐらい立派に成長してくれるといいわ」
元々私は投手を指名すべきではないかと思っていたけど、中村を指名すると発表された時に全ての覚悟を決めてその決定を支持した。レギュラー會澤に期待の若手では坂倉もいてポジションどうするんだろうとかそういう問題はあれど、とにかく嬉しい。ようこそ中村、きっと大きくなれ。
最後に田嶋の抽選は、オリックスが引き当てた。二十一世紀に入って初めて抽選で勝利したのが実に今回であった。
「オリックスかあ」
「ここはなぜかクジ運が悪くて、今まで外しまくってたけどようやく運が巡ってきたみたいね。まあ当たる時はこんなもんよね。社会人で、確かにオリックスっぽいわね」
そして外れ一位はまず中日が鈴木博志、西武が斉藤大将を単独で確保。ロッテ、阪神、ソフトバンクが競合した安田はロッテが射止めた。ヤクルト、巨人、楽天が競合した村上はヤクルトが引き当てた。
「両リーグの最下位が引き当てるとか、素晴らしくドラフト精神に溢れているわね。安田も村上も強打者として注目されてきた逸材。清宮や中村含めて、やはり野手中心となっているわね。しかし安田はともかく村上がこんなに競合するとは。やはり強打のキャッチャーって需要がこんなにもあるものね」
「そう考えるとさっさと中村を引き当ててたのは本当に幸いだったね。ところで中村が外してたら誰になってたのかな? ポジション的には村上?」
「ううん、多分鈴木博志だったでしょうね。元々投手が必要って声も大きかったけど、中村は地元だから特別、例外的事象だし。馬力のある即戦力リリーフタイプで、今現在必要なのはこっちではある」
「そうなるとここも中日と被ってたのか」
「あくまで推測だけどね。評価高かったのは鈴木に田嶋と東で、左腕二人はすでに他球団の指名あったから、多分そうだったでしょうって程度で。ともあれ中村を引き当てた過去は変わらないから」
外れ外れ一位では巨人が鍬原、楽天が近藤で阪神とソフトバンクが馬場で競合し、阪神が引き当てた。そして最後にソフトバンクが吉住を指名した。
「吉住、誰?」
「山形県の高校生投手で、下位で指名ありそうな好素材とは言われていたけど、まさか一位とは。しかしここで社会人などになびかないのはさすがよね。必要なのは即戦力じゃなくて将来を担う素材なんだと、そういう明確な意志を感じる。でもまさか一位とはねえ。大胆」
一番最後に驚きが待っていた。吉住かあ。それと広島県出身の近藤は楽天となったが、これは仕方ない。二位の尻尾まで残る選手でもなかったし、それなら一位で決まったのは本人にとっても良かっただろう。
しばらく休憩時間が入った。時間が経つにつれて、中村を引き当てた嬉しさが五臓六腑に沁み渡る。本当によくぞ引き当ててくれたものだ。それだけで心が晴れ渡るようだ。
そしてフェイズは二位指名に移る。ロッテ藤岡、ヤクルト大下、日本ハム西村、中日石川、オリックス鈴木康、巨人岸田、楽天岩見、DeNA神里、西武西川、阪神高橋遥、ソフトバンク高橋礼が指名された。
「ここまで十一人が指名されて、そしてカープは二位の最後と三位の最初を二人連続で指名となるんだよね」
「そうよ。意外だったのはヤクルト大下。ここで指名されるほど評価高い選手だったとはね」
「広島の人なんだね。こういう選手がまだいるもんなんだなあ」
「ドラフト解禁は去年だったはずだけど。さて、カープは、まずは二位で山口翔。すでに球速百五十キロを突破している高校生よ。コントロールに不安はあれど、ここまで残った中では随一の素材でしょうね。熊本生まれだけど子供の頃広島県にいた事もあるんだって」
「ふうん、なら地元選手に準じる存在と言えない事もないのか。さて連続となる三位は、ケムナ! これは?」
「おお、なるほどね。ケムナかあ。アメリカ人とのハーフで、百九十センチを超える長身から投げ下ろす速球が武器の投手よ。ハーフの投手は九里に、アドゥワも二軍でいいピッチングしてるみたいだからケムナも続くといいわね。それと生まれはカープが毎年キャンプを張っている日南で、極めて大きく解釈すれば地元みたいな」
「さすがにそれは無理があるかな」
「まあ、地元がどうこうってのはプロ入りしたら関係なくて、後は実力の世界よ。山口とケムナはともに素材として大きな存在で、即戦力とかじゃなくてしっかりと育ててくれるといいわね」
山口翔はコントロールに難ありという話もあるが、素材として良いものを持っているのは間違いない。ケムナブラッド誠は、高校一年生の頃はサーフィンに熱中していたと言う。大きな波のようにたくましく育ってほしい。
それから三位と四位ではロッテ山本大菅野、ヤクルト蔵本塩見、日本ハム田中瑛難波、中日高松清水、オリックス福田本田、巨人大城北村、楽天山崎渡辺佑、DeNA阪口斎藤俊、西武伊藤翔平良、阪神熊谷島田、ソフトバンク増田椎野が指名された。
「凄いなあ巨人。社会人のキャッチャーを連続指名なんて」
「何と言うか、思い切ったと言うか……。いやあ、珍しいものを見させていただいたわ。それとヤクルトもこの順位であえてその選手かあって結構大胆なドラフトね。さて、カープは、まず永井ね」
「これはどういう選手?」
「二松学舎大附属だから鈴木誠也の後輩で、がっちりした体格から身体能力の高さが特徴の外野手よ。身長の割に体重の数値が大きいけど、足も速いとか。外野手はやや数が少なかっただけに指名も納得か」
「鈴木誠也ぐらい活躍出来るといいね」
「本当にね。そして五位は遠藤。ここ数年プロ選手を相次いで輩出している霞ヶ浦高校の投手で、球速なんかはまだ出てないようだけど手足が長いタイプらしいわ。ここまである程度名前を知られている選手はまだまだ残っている中で、本当に素材型が続くわね」
永井敦士と遠藤淳志、ともに関東出身の高校生で名前の読みは「あつし」となる。来年どうこうという選手ではない。時間をかけて、欠かせない戦力となれるだろうか。それと永井はチーム初となる二〇〇〇年生まれの選手となる。そうか、来年にはもう二十一世紀生まれがドラフトか。二十世紀が終わる時大人になった誰かが産んだ子供達はもうこんなにも大きくなって。
さて、五位と六位ではロッテ渡辺啓永野、ヤクルト金久保宮本、日本ハム北浦鈴木遼、中日伊藤山本拓、オリックス西村西浦、巨人田中俊若林、楽天田中耀西巻、DeNA桜井寺田、西武與座綱島、阪神谷川牧、ソフトバンク田浦が指名された。
「ここまで指名終了がなかなかないね」
「いえ、ここでソフトバンクが終了したわ。ここは支配下に優秀な選手が多いし、育成でも多分ガンガン指名するでしょうし、このぐらいで終わるのは予定通りでしょうね。さあ、カープは?」
「平岡敬人」
「岐阜県の大学リーグ出身で、これも長身から速い球を投げるって話よ。怪我なんかもあって投げられない時期もあったけど、素材としての評価は高いという」
「なんかそういうタイプ多いねえ。そしてこれで選択終了だ」
「ここまでそんなに枠が空いてるわけでもないし、人数的にも頃合でしょう。連覇して二軍は日本一に輝いた、そういう現状を反映した指名と言えそうね。しかし左とか変則とか、今の投手陣にはいないタイプを加えるような指名はせずに右の素材型投手を連打という潔さ」
「しかも高校生が多い」
「大学生のケムナと平岡もチームとしては即戦力と考えているようには思えないし、本当にこれは数年単位で見守って初めて答えが出るドラフトとなりそうね。ここまで余裕ある指名するのは三軍まで充実してるソフトバンクぐらいだと思ってたけど」
「来年は現有戦力維持と若手の成長、ついでに外国人でどうにかなると考えてるのかな。まさかFAとかで補強するわけないし。ところで育成ドラフトはあるかな?」
「近年は参加していないけど、おっと、どうやら今年は久々に参戦するみたいね」
「とは言っても誰が誰やらってなるところだけど」
「まずは岡林飛翔と藤井黎来を指名したわね」
「二人とも凄い名前だ。特に藤井、この顔でレイラとか」
「でもどっちもドラフト候補としてよく名前が出てた選手で、よくここまで残っていたものよ。育成で入ってくれるかしら。岡林なんか最速151キロだし。そしてやはりどっちも右。おっと、三位まで行った。佐々木健。静岡県の長身投手」
「これで、終わりみたいだね」
「いやあ、素材素材また素材と割り切ったわね。長身で力ある右腕という近年よく育っているタイプを多く指名している。個人的にはワンパターンすぎてどうかなってちょっとなったけど、育成枠三人も含めて誰か出てきたら十分だし、そこは腰を据えて見ていたいわ。今より未来、そういう指名」
「そうだね。ああ、もう八時か。じゃあそろそろ」
「あらまあ、すっかり暗くなって、隙間風も冷たいわ。気を付けてね」
「うん。じゃあまた明日」
二人は手を振って夜に別れたが、その笑顔は朗らかであった。とにかく中村奨成だろう。引き当てて良かった。それからも期待出来そうな選手を多く指名し、きっと彼らが力になってくれる日が訪れるだろうと信じている。
一位 中村奨成 捕手 広陵高
二位 山口翔 投手 熊本工
三位 ケムナブラッド誠 投手 日本文理大
四位 永井敦士 外野手 二松学舎大学附属高
五位 遠藤淳志 投手 霞ヶ浦高
六位 平岡敬人 投手 中部学院大
育成
一位 岡林飛翔 投手 菰野高
二位 藤井黎来 投手 大曲工
三位 佐々木健 投手 小笠高
今回のまとめ
・素材素材素材でガッチリ固めた将来に期待のドラフト
・地元の星である中村を獲得出来たのをまずは喜ぼうそして絶対育てよ
・投手は同系統連発だがもう少しバリエーションあっても良かったかも
・久々に活用した育成枠も面白そうな投手が多く誰か育ってくれると嬉しい