sk05 2017年衆議院選挙について
台風が秋雨前線を引きちぎり、今日の天気は案外悪くない。どんよりとくすぶった天気がしばらく続いたが、これからはもう少し明るくなるだろう。そして衆議院の選挙が終わった。
「しかしまあ酷い雨だったね。昨日の夜なんかざんざんと降りまくって風も吹き荒れ、怖いくらいだった」
「そういう日に選挙があるのも大変よね。今は天気が悪そうだからって理由で期日前投票ってのも出来るみたいだから、それである程度は投票だってなされたんでしょうけどね。一応投票率は前回より上がったみたいだしね」
「しかし選挙結果、結局自民党だったね」
「結局政権を担えるのは誰かってなるとそれしかないからね。安倍政権は随分な長期政権となっているけど、いくつか綻びのようなものも見え隠れしてはいたわ。森友学園とか加計学園とかね」
「森友学園は確か教育勅語を暗唱させるなど今の時代において度を越した愛国教育やってる学校が小学校作る際の土地を異常に安い価格で払い下げられたのはおかしいぞ、みたいな話だったよね」
「総理も最初は素晴らしい教育方針と褒め称えていたのに今や頭おかしい詐欺師扱いで、そして笑いどころとしてはそうやって関係が決裂した途端野党が籠池理事長を持ち上げたところ。まあ結局は問題や教育の異常性よりも理事長個人の異常性にフォーカスが向けられたみたいね」
「学園でまとめられがちな加計学園は?」
「まず加計学園の理事長と首相は昔から仲が良かったの。そして加計学園はかねてから獣医学部を作りたいと思ってたけど文科省から拒否されていた。でも安倍首相になってから文科省の態度が変わり、それは首相が文科省に圧力をかけたからって疑惑が浮上したの。加計学園自体は森友なんかと比べるべくもないほどまっとうな学校法人で、カープの薮田や九里はここが運営してる岡山理科大附属高校の出身だし。それで獣医学部認可されるかどうかで揉めてるのがこの岡山理大よ」
「でも作られるのは四国なんだね。それと加計学園創立者の加計勉は安芸津出身、旧制忠海中学校卒業。何気に地元案件だったんだね」
「だから許してあげなさい、ってわけじゃないけど、これも告発した元官僚が天下りだのいかがわしい店に行ってただのしょうもない報道連発で、結局本質がぼやけたままだったわね。実際のところどっちも何もなかったとは思わないわ。でも北朝鮮がミサイルをボンボン打ち上げてるこのご時世、呑気にモリカケモリカケじゃあね。結局そこが一番楽に叩ける部分なんでしょうけど、甘いわ。安倍批判大いに結構。けれどそれしか出来ないと見切られているのが今の野党よ。本当に勝ちたいなら自らの信念を全て吐き出さなきゃね。まあそんなものはないってのは今回の選挙でも改めて露呈したんだけど」
「例の野党第一党さんねえ。民主党が民進党に変わったと思ったら今度はまた分裂。何考えてるんだろうね」
「本当によくやるものよ。まあざっくり言うと東京都議会選挙でも惨敗を喫して蓮舫が辞任するなど相変わらず嫌われていた民進党が、このままじゃ総選挙でも大敗確実だからってまたそれを捨てて新しい衣を身に纏ったのが希望の党」
「東京都知事やってる小池百合子の政党だったはずだよね」
「元々は都知事になった小池が自分の味方を議会に送り込もうと都民ファーストの会を作って、それは成功したから今度は国政だって事で希望の党を作る事にしたの。そこにまず民進党からは細野豪志なんかが合流した。この細野が、やはり真っ先に民進党を見捨てただけあってなかなかの小物で、せっかく一番乗りしたのに後から来た実力者にイニシアチブを握られたらお山の大将気取れなくて困るから偉い人を排除したわ。それと小池とあまりにもかけ離れた思想の持ち主、いわゆるリベラルの人たちも合流を拒否された」
「でも全然違う考えの人が同じ党に入るのも変な話じゃない。それ自体は良かったんじゃないの?」
「ただあんまり純化しても自民党とどう違うのかってなるし、ある程度の幅の広さは特に政権交代も見据える野党第一党を担う組織としては必須。それに公約もいまいちだったし排除という言葉も強すぎた。ただいわゆるリベラルもねえ、実際のところもう二十年以上前に死滅したものを未だに墨守しているようなもので大して未来もないと思うんだけどな。ともかく排除された人達は枝野幸男を党首に立憲民主党を結成したわ。野田前総理みたいに無所属で出た人もいるけどね」
「選挙結果を見ると立憲民主党のほうが希望の党を上回ったんだね」
「元々は希望の党に入りたかったけど入れなかった敗残者同盟的な存在だったなんて事はほどほどに忘れ去られて、筋を通したみたいに見られたのは幸いだったでしょうね。本当に筋を通したのかはまた別にして、枝野個人は未だに震災の時にそれこそ不眠不休で記者会見を繰り返した印象もあって基本的に好意的に見られていたし、何より希望の党に便乗した人たちのぶれ方が酷かったからね」
「実際あれと比べればってのはあったよね。何か希望の党に入ったくせに希望の党の公約とは反対の事を公言する候補者とか出てきたし」
「選挙ポスターで最初は小池と一緒に写っていた写真使ってたのにいつの間にか自分だけの写真に切り替えたりね。結局小池人気に便乗して生き延びようとして、でも小池人気が案外失速したので一緒に沈没した人が多くいたと」
「それで結局立憲民主党以下だなんてお笑い草だね」
「まあ過去を捨てて安易な希望に縋るようなポリシーのない人間が議員にならなかったのなら、日本にとっては朗報でしょう。ただ選挙後にまた野党再編となれば、どういう形になるか。それも気になる部分ね。それ以外の政党だと、まず共産党は議席数を減らしたけど、これは前回が民主党への不信感ゆえに異常に伸びてただけで、戻るところに戻ったって話。現政権に批判的な勢力は少なからず存在している。前回『民主党よりは共産党のほうがまだまし』と考えた人は今回概ね立憲民主党に入れたんじゃないかしら」
「維新はどうかな?」
「大阪以外でなかなか伸びもなく、当初の勢いがなくなったら単なる問題児って部分も見え隠れして、ここで踏ん張れるか。千葉県の某候補とか、あんなのを擁立するようじゃあね」
「後は、豊田真由子落ちたね」
「そりゃあ、そうよ。あれは政治家じゃなくて芸人の枠だから。本人はそれこそ違うだろと叫びたいところでしょうけど。今後はワイドショーのコメンテーターでも目指せばいいんじゃない?」
「でも本人はかなりプライド高そうだし、それにどう見ても不利なのに出馬したのはよっぽど政治家やりたいのかなあって思うけど」
「まあ、それでも本人が政治家やりたいって事なら一度頭を冷やしてねえ、捲土重来を図るしかないでしょう。そこまで粘れるか。自業自得だけど周りには敵しかいないという逆境の中で、それさえも力にする強さを得られるか、そういう覚悟にかかってるでしょう。ただ稲田とか山尾はいけしゃあしゃあと生き残ったくせにってのは多少あったり。それと今村や務台なども」
「やっぱり実績なのかな」
「基盤もあるしね。でもやらかした人間は今後も君はそんな奴なんだなと見られ続けるわけだし、これからの生き方でどれだけ挽回出来るかよ。人間性を上回る能力があればどうにかなるでしょう。それだけの人材には見えないけど、とにかく議員になったのなら日本のために頑張ってくれるといいわ」
このような事を語っていると、敵襲を告げる警告の合図が輝いたので、二人はすぐさま有事体制に移行して敵が出現したポイントへと急いだ。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のトラツグミ女だ! この星をぶち壊して正しい道へ再生させるのだ」
選挙カーの叫びが消え去った道に、体の色が黄色くて黒い斑点がある姿が虎を彷彿とされる鳥を模した異星人が出現した。また夜に物悲しげな声で鳴くから夜の鳥と書いて鵺とも呼ばれていたが、今では鵺と言えばよく分からない化け物の名前となり、その化け物のほうの鵺はトラツグミの声で鳴くと言われている。政界に鵺は多いらしい。
「やはり出たかグラゲ軍。お前たちの思い通りにはさせないぞ」
「ようやく平穏を取り戻した街を荒らされるわけにはいかないわ」
「ふふふ、ようやくお出ましか愚か者どもめ。今日がお前たちの最期だ。行け、雑兵ども!」
トラツグミ女の号令とともに大勢出現した名も無き機械を二人は次々と撃破して、残った敵は一人だけとなった。
「これで雑兵は終わりかな。となると後はお前だけだトラツグミ女」
「このような戦いはもはや無益よ。今すぐ立ち去れば何も問題ないのに」
「貴様らを殺し手柄を上げるためにわざわざこんな場所まで来ているのだ。さあ、我が栄達の肥やしとなれ」
そう言うとトラツグミ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかない。覚悟を決めた二人は合体してそれに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
敵の鋭い動きは見事なものだが、悠宇は日本だけでなく世界の安寧がかかっているんだと意地を見せて踏ん張った。自分の利益のためだけに世界を滅ぼすような女には負けたくなかったのだ。そしてひっくり返した。
「よし、今よとみお君!」
「うん。レインボービームで勝負だ!」
一瞬の隙を見逃さず、渡海雄は白いボタンを押した。七色のビームがトラツグミロボットを貫き、その戦闘能力を決定的に奪った。
「くっ、だがまあ良かろう。撤退する」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってトラツグミ女は宇宙へと帰って行き、ようやく平穏が戻った。
それと選挙期間中、地元に小泉進次郎が来たので行ってみた。その日は小雨だったので傘を差して、歩いて目的地まで向かった。予定時刻の五分ほど前に着いたが、すでに道は色とりどりの傘が花開いており、警備員が「ここは車が通るので前に進んでください」と声を張り上げていた。
まずは地元選出の参議院議員が応援演説を行っていた。対立候補が民主党から民進党、そして希望の党と所属をコロコロ変える不実さを詰り、前の総選挙で当選した議員がやらかした件については頭を下げてお詫びしつつ「それからふさわしい人を必死に探しました。そして決めました」と、落下傘候補を持ち上げていた。
次に候補者本人が色々語っていたが私含めた聴衆はすでに気もそぞろ。「まだ来ないのかな。どこから来るかな」と、そればかりだった。この辺りで雨はやんで、うっすらと陽の光さえ差し込んできたので人々は傘を畳んだ。これで多少遠くても見やすくなったのは、まさしく天佑と言えよう。
「あっ、来た来た!」
どこからともなく響く女性の声に、私は背伸びをしてみたが、しばらくは人だかりしか見えなかった。何か誤解したのかと思ったが、その直後、若い男がささっと選挙カーの階段を登って登場した。あれが小泉進次郎か。おお……。ちょっと遠くて天気も悪かったので画像はぼやけているけど一応こんな感じ。
小泉はまず「お祭りお疲れ様でした」と、近くの神社でこの間まで秋祭りが開催されていた事にさらっと触れた。お得意のご当地ネタだが、やはり言われる側になると「ほう、そこを知っているのか」という気分になる。うまい。神社の呼び方もガイドブックにはないローカル特有のそれになっており、なるほど見事にリサーチが行き届いているものだ、これは人気を呼ぶのも当然だろうと非常に納得するものであった。
それからここの神社は安産祈願だが、この候補者は子育て支援をしっかりとやりますよって話に繋げた。そこでかく言う自分は子供いないし結婚すらしていないのですがと、やや自虐的トーンで述べる事で笑いを生み出しながら「お前子育て経験ないくせによくもまあ知ったような事をほざけるな」といった反論を抑えつつ「でもそんな事は関係ないんです。既婚者も未婚者も全員で考えるべき問題なんです」と言い切る姿も印象的だった。
それからも何気ない話から政策につなげる話術は抜群。お酒の名産地って話からお酒を作るのに大切なのは水、水を育むのはと繋げて農業政策を語ったり、そこから医食同源という事で医療問題にも切り込んだり、何よりそれらの言葉に淀みがない。鍛錬の成果なのだろう。
ついでに「食べないと生きていけないんですよ」ってところから賃金値上げを国が働きかけたという話になって「労働者の十七パーセントしか加入していない組織が労働者の代表と呼べるのでしょうか」と連合を批判したり「マスコミを信じてはいけません」とぶっこんだり。
マスコミのほうは軽減税率の話を持ち出して軽く批判しつつ「今言ってる事は新聞には書かれませんしテレビでは放送されません。ですから皆さんが持っているスマホで流してください」などと述べていた。実際ネット上に流した人がいたのかは知らないが、これも巧妙なくすぐり方だった。何を今更って事でもこうやると秘密を共有したみたいだ。
後にテレビでも時間ギリギリの反論しにくいタイミングでこの問題に触れていた。普通に時間切れですありがとうございましたで終わらせず「都合の悪い話をされたので無理やり打ち切った」とコントロール。こういったメディアの取り扱いも巧みで、なかなか尻尾を出さない。まったくもって立派な、政治家の鑑と言える。
応援を終え、選挙カーから降りた小泉にチェックのシャツを着た集団がまとわりついた。有権者と握手する段取りだが、彼らマスコミが集まってむしろ遠くなったみたいだった。私も見るべきものは見たと、程々で退散して近くの商店街まで歩いた。同じ行動をしていた老夫婦が「それにしてもうまいこと喋るねえ」と感心していた。同感であった。なお候補者は敗れた。
でもこの候補者含めて二人が比例で復活した。特にもう一人の候補は比例復活がなくなる供託金没収ラインギリギリでの当選で、実はここが一番の接戦だったのかも知れない。かくして三人の議員を国会に送り込んだが、前みたいにつまらない事で有名にならないよう頑張ってほしい。
今回のまとめ
・安倍政権は盤石ではないと思うが野党がそれ以上に弱い
・ポリシーのない人間が落選したならそれは日本にとって幸い
・立憲民主党は伸ばしたけど結局与党圧勝だから何か変わる事もないか
・小泉進次郎は聞いてみてなるほど納得という演説の巧みさだった