rm27 広陵準優勝について
夏休みももう残りわずかになってしまった。宿題はきちんとやり遂げたでしょうか。そのぐらいさっさと仕留められない人間にはなりたくないものです。というわけで渡海雄と悠宇は合同で宿題を終わらせるべく、という名目で逢瀬を重ねていた。
「でも別にこそこそする事もなかろうにねえ。悪い事してるわけでもないのに僕達」
「まあ、そのほうが気分も出るってものよ。しかし甲子園、よく点が入るわね」
「そうだね。噂の清宮は来てないのにポンポンホームランが出る出る」
「清宮に関しては、出てるとマスコミの注目がそこばっかりになってた可能性もあるし、全体の調和を考えると出なかったのは間違いじゃなかったかもしれないわね。その代わりと言っては何だけど、広陵の中村奨成捕手がすさまじい成績を叩きだして一気にその名を高めたわね」
「ああ、本当に凄いよねえ。ホームランの大会記録更新したんだっけ?」
「今までが清原選手の五本だったけど、準決勝で六本。ついでに打点や塁打の記録も塗り替えたわ。後世今回の第九十九回大会は中村が大活躍した大会だったと記憶される可能性もあるぐらいに、歴史に残る大当たりっぷり」
「九十九回か。来年で百回目になる大会で歴代最高って事はざっくり百年に一度の逸材って事に?」
「それはさすがにざっくりしすぎだけど、ただ全体的に打撃優位だった大会においてそのトップとなったのはこの中村選手であったのは間違いないわ。特にしびれたのは秀岳館戦のホームラン。初球、内角に投じられた速球をためらいなく振り抜いて打球はスタンドへ一直線。向こうの田浦もプロ注目の左腕で、力と力の勝負って感じで思い出しても格好良かったわ。初戦の中京大中京は途中まで抑えられていたけど、相手が投手交代した途端に逆転の力強さ」
「次の秀岳館も、一二塁からのバントとか小技をしっかり絡めて加点しつつ、最後にとどめとして中村の一撃って感じだったよね」
「三回戦の聖光学院では満塁ホームラン。仙台育英では二安打を放っているのに一旦休止って雰囲気すら漂っていたわ」
「準決勝の天理戦での暴れっぷりも見事。ホームラン以外にも満塁から走者一掃とか、九回もきちんと追加点のタイムリー放つし。あそこ敬遠かなとも思ったけど」
「天理としてはあそこで中村を抑えれば流れはまた変わるという心理もあったはず。しかし中村は追い込まれてもほどほどにファールで粘りつつ、良い球は打ち返してて、結果的には一枚上手だったかな」
「九回裏に天理は追い上げを見せたし、あの攻撃がなかったら逃げ切れたかどうか」
「今大会は得点がよく入る試合が多いし、最後にひっくり返る試合も多かったわね。好投手山下擁する木更津総合とか、平凡なショートゴロで終わりと思いきやファーストがベースを踏み損ねて直後にサヨナラとなった大阪桐蔭とか。お互い諦めなかったからこそそういう鍔迫り合いも生まれるもので、いきなりホームランが生まれがちだったり油断出来ない試合が多かったのも特徴よね」
「ただ決勝戦は随分大差で終わったね」
「まあ、今大会を象徴するような終わり方だったし、それは良いわ。それ以外で印象的だったのは香川県代表の三本松高校。かき氷食べたり温泉に行ったりと夏の冒険旅行を満喫したみたいで、非常に好ましい姿だったわ。高校野球かくあるべしみたいな説教は辟易だけど、まさに一生の思い出となるようなかけがえのない体験を高校野球と関わる事で得られたなら、それがまさに理想じゃないかしら」
「そうだね。未来の事か。中村はやっぱりこの秋にはドラフトで指名される人間になるんだろうね。進学とかしないよね?」
「今のところはプロ志望って話だし、ここまで活躍したからには大会が始まる以前の順位予測はもう通用しないでしょう。もう二位では残ってないでしょうね」
「カープは、指名する可能性あるかな?」
「ここまでの情報を総合すると、可能性はゼロじゃないものの非常に低いかなと見るわ」
「あらまあ。それはどういう考えで?」
「まずキャッチャーは去年指名した坂倉が今、二軍で三割打ってる事。相当有望な数字よ。世代近いしあえて競争させるものか。他にも船越とかいるし、その上の一軍にはベテランの石原はともかく會澤も。それでこの間カープのスカウトが中村はサードでも行けるみたいな事言ってたけど、キャッチャーとして注目されている選手を大本命にする場合そういう言い方にはならないのでは。大会期間中にドラフト会議を行ったそうだけど、この会議では高校生についてまとめたって言うのにJR東日本の田嶋やヤマハ、日立の両鈴木と言った社会人投手もチェックしたとあるし、つまりこっちが本命と見るのが自然でしょう」
「それもそうか。せっかくの広島だしもったいない気もするけどね」
「とは言え、まだドラフト本番までしばらくの時があるわ。ここからどう流れが変わるか分からないし、しばらくは見守っていましょう」
「そうだね。ところでカープの本体だけど」
「特に言うこともないわ。順調。後はマジックを地道に減らしていけばおのずと優勝よ。もちろんこれから逆転される可能性もあるけど、数字上の話で現実味はまだない」
「かなり差があるもんね。ただここ最近はちょっと怪しい試合も続いてない?」
「無論、課題は色々あるんだけどね。采配とか細かい部分を除けばまず投手陣に関して野村、大瀬良、岡田、薮田以外どうするのかとか。福井はもうあれが実力として、中村祐太がどれだけやるかが鍵かしらね。ただあんまりイニング数稼げる先発じゃないからそれだけリリーフに負担が来るし」
「そうなるとやっぱりジョンソンが戻ってくればって事になるのかな」
「ジョンソンはもう今年はいなくても仕方ないと割り切るのが良いかとも思うわ。まあ、優勝するだけなら今機能している四人がしっかり働いてくれれば、ついでに誠意をエゴではなく勝利に捧げる采配を続ければ逃げ切りはたやすいわ。打線の援護もあるしね」
「打線は田中菊池丸鈴木といった流れがしっかりしてるよね。それと最近サードは西川が一番手になった雰囲気もある」
「センスの高さはもはや言うまでもないしね、よりパワーアップして来年にも規定到達するようになるとありがたいんだけど。そして安部だけど、時々ファーストとして出てくるけどあれでそれなりに身長もあるほうだし、面白い使い方だと思うわ」
「そうしたらエルドレッドと新井がどっちも代打に控えてるって事にもなる。特に新井が代打に告げられた時の声援は凄いし、これも武器になってるよね」
「新井に関しては去年MVPに輝いた選手を自然な形でああいうポジションに回せてる手腕をちょっと褒めたかったり。なまじ実績があると引き際で跡を濁したりするパターンもあるけど、幸い今の新井は個人として残したい記録ってのもないでしょうしね。二千本はもう打った。優勝にも貢献して最優秀選手にも選ばれた。強いて言うなら次は日本一だって程度で、そういうエゴのないベテランはチームとしてもありがたい存在でしょう」
「そうだね。そう言えばパリーグだけど、ここに来てソフトバンクが一気に抜け出したね」
「ソフトバンクが強いのは誰が見ても明らかだし、そういう意味ではなるようになったとは言えるけど、さすがよね。層の厚さが違う。石川とか出てくるし。楽天もここが限界かしらね。去年の日本ハムみたいに何か起こしてくれるかとも思ったけど、最終的には金持ちが順当に強いで落ち着きそう」
「その日本ハムは現在絶賛低迷中で、そういえば両リーグの最下位に位置するロッテの伊東監督とヤクルトの真中監督はともに今年限りで辞任するみたいだね」
「順位もそうだし、内容からしれもそうなるのは仕方ないわ。とにかく勝率が低すぎる。ロッテに関してはあんまり言えないけど、ヤクルトなんて負け方も信じられないものが多いでしょう。真中監督は七月の上旬から辞任を考えていたって言うけど、まさにその頃に起こった例の大逆転とか精神的にもきつかったでしょうね」
「実際はそう単純じゃないだろうけど、確かにあの逆転劇は広島ファンからしてもショッキングだった。それでも一昨年、ヤクルトを優勝に導いたという功績は残るから、そういう意味では幸いだったのかな」
「そうね。NPBが続く限りは二〇一五年のセリーグ優勝はヤクルトで、そのチームを率いたのは真中満という男だという事実は刻まれ続けるわけだから。でも今思うとあのヤクルトの優勝ほどのフロックもなかったわ。セリーグ全チームこけて、最後にちょっと抜け出したのが外国人リリーフ好調かつ先発がそこそこ働いて打撃陣の日本人に怪我が少なかったヤクルトだったという流れで。今はあの外国人リリーフが誰も残っていない」
「タイトル取った人達も、山田は今シーズン絶不調で川端と畠山は怪我のため不在。本当に夢か幻かという優勝だった。しかしあの時は確かに勝ち取ったんだ。思えばサンフレッチェもあの年、確かに勝利を勝ち取ったんだよね」
「ああ、今となっては霞がかった遠い昔の記憶みたいだけど。しかし優勝を求めた戦いに勝るとも劣らない崇高な戦いを今、彼らはこなしているわ。残留を争うライバルたちとの連戦。ここで負けるようなら即終了という中で、まずは甲府にはどうにか勝った。じゃあ次はどうかってところ」
「しかしまだ十七位のまま。まずは脱出してからじゃないとあれこれ言えないよね」
「確かに勢いは出ているけどね。パトリックの推進力で青山も切れ味が多少蘇ったみたいだし。しかし懸念するのは、また期限付き移籍で出て行く選手がわらわらと出た事よ。しかも若手だけでなく十年ほど在籍して実績もある清水が移籍とはねえ」
「しかも清水に」
「向こうじゃどう呼ばれてるのかしら。その代わりとしてセレッソから椋原健太という、サイドバックの人材を獲得したわ。これはヨンソン監督に交代して、現在のフォーメーションにより適した選手を得たって事なんでしょうけどね。ただこの椋原、ここ数年は実績に乏しくて救世主を担わせるにはいささか荷が重いようにも映るわ」
「でももう移籍ウィンドウは閉じられてるし、この中でやっていくしかないんだね」
「現在左サイドバックの高橋は未熟で、降格さえなければ試合で鍛えるのも良いけどね。それこそ優勝した頃は二チーム分の戦力があるみたいに豪語してたけど、今の期限付き移籍選手一覧を見るとそれもあながち間違いじゃなかったのかななんて皮肉めいた思案も虚しいばかりよ」
「今移籍してる人達が各地で学んで将来の戦力になればいいけど、どう考えても戻ってこないでしょって人もいるよね。移籍先で大活躍して、もはやサンフレッチェ時代より長くそっちにいるとか」
「才能ある若者を違うチームにみすみす受け渡すだけにユースから育成したんだとしたら、そんな馬鹿な話もないわ。簡単に結果を総括したくはないものだけど、今シーズンの編成は少なくとも短期的には大失敗に終わったと結論付けてもいいでしょうね。今あの選手がいればどれだけ楽だったかと恨めしくもなるわ。でも振り返るのはもう少し先にしないと。今は戦わねば」
「厳しい日々が続くね」
「マイペースに自分たちのサッカーをのんべんだらりと追い求めるのは前半戦でもう十分に堪能したし、この後半戦はチームのためにファンのために、勝利と残留を目指すための全力疾走を大いに期待したいところ。まあ、良し悪しもこれからよ」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人はすぐに戦うための姿に移行して外へと駆け出して行った。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のリャマ女だ。この汚い星もグラゲの威光を照らす事で役立つのだから幸いよ」
緑の生い茂る草原に出現したのは、南アメリカのアンデス山脈に生きて現地の人々にとっては必需品となっている動物の姿を模した侵略者の女であった。野生のリャマはいないというが、彼女もまたグラゲに飼い慣らされた家畜のようであった。しかしこの星をそうはさせまいとする少年と少女が間もなくこれを追って出現した。
「また出たかグラゲ軍。お前達の好きにはさせないぞ」
「夏が終わるようにあなた達の悪事も終わればいいんだわ」
「ふん、終わるのは貴様の命だ。さあ行け、雑兵ども!」
ぞろぞろと出現した雑兵の群れはあたかも解けていない宿題の問題のようだった。渡海雄と悠宇は一つ一つ潰していき、ついには全てに手をかけた。
「よし、雑兵は終わりだな。後はお前だけだリャマ女!」
「観念する事ね。今なら戦わなくてもいいかもしれない」
「既に遅いわ。私がこの星に降り立った時点で覚悟は決まっているのだから」
そう言うとリャマ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。可能な限り戦いは避けたい。しかし避けられない戦いならば全力で勝利を目指す以外に道はない。渡海雄と悠宇は合体して、巨大なる暴力に対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
夕方になっていきなり空模様が黒ずんで、あっという間に雨が降り出した。悠宇は一瞬のタイミングを見計らってリャマロボットに接近すると、得意の格闘技を披露して敵を地面に倒した。
「よし、今よとみお君!」
「うん。ドリルキックでとどめだ!」
渡海雄はすかさず青色のボタンを押した。脚がドリルに変形したメガロボットは一直線に突撃していって、リャマロボットの胴体を貫いた。
「ぐううっ、これまでか。撤退する!」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってリャマ女は宇宙へと帰っていった。そして夏は終わりゆく。空はまた晴れたようだ。雨上がり、洗われた空気に映る夕暮れはいつもより色鮮やかに見えた。グラゲ軍に負けたら、人類は二度とこの雄大なオレンジ色を眺められなくなるだろう。この美しいものを守るためにこそ、二人は人知れず傷つく事を恐れないのだ。
とか言ってたら鈴木誠也今季絶望とか少し厄介な事態に陥った。それとDeNAにサヨナラ負け連発しているが、これ自体は特にどうという事もない。サヨナラ負けって事はそこまでは勝ててたわけだし、打撃は少なくとも短期的には離脱の影響はそうなさそうだ。
ならば後は投手陣。これとて実力がなくてそうなったわけではなく悪い結果が続いたというものなので、これを教訓にまた心を巻き直せば問題ないだろう。初戦に関しては下手な功名心が事故を招いた部分もあるだろうし、そこは首脳陣も当然承知の事と信じる。幸い差は付いているだから、大きな心で臨めば勝てる。
今回のまとめ
・今回の甲子園はよく点が入るスリリングな大会だった
・中村は多分カープ以外のどこかへ行ってしまうのだろうか
・カープに関してはとにかく油断大敵とだけは言いたい
・サンフレッチェは血を吐いて死ぬ思いで結果を求める以外にない