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ca06 熱い想いについて

 台風が日本を通過していったので派手に雨が降った。それに北朝鮮がミサイルを打ったり、昨日はニュースの多い一日だった。しかし渡海雄と悠宇にとって一番のニュースは別のものであった。


「森保監督辞めたねえ!」


「そうね。ふう、ついに時が来たってところよね」


「やっぱり、仕方ないのかな。順位からしてもそうだし、直接的には浦和戦の、一時はリードしたものの脆弱な守備ゆえに逆転を許すという残念な展開は限界という言葉を思い起こさせずにはいられなかった」


「どんな監督も最後はかくの如し。プロの世界の厳しさよね。とは言え、思い返してみれば浮かんでくるのは数多くの素晴らしい場面ばかりよ。サンフレッチェとして初の優勝を果たした二〇一二年。槙野が移籍した浦和を下した開幕戦、覇権を争った仙台との直接対決や優勝を決めたセレッソ戦の虹、石川大徳の初ゴール、地面に跪く佐藤寿人。どれも甘美なワンシーンよ」


「そして僕とゆうちゃんが出会った二〇一三年も優勝だったよね」


「あの年は上位対決でもよく負けて、今でもマリノスが優勝して然るべきだったとは思うけど、まあ先方が勝手にこけてくれたお陰で連覇という稀なる勲章を得られたのは幸いだったわ。最終節の鹿島戦で石原が上手く決めたり、石原っていい選手だったわね」


「二〇一四年はあまり勢いを見せなかったものの、二〇一五年はまたも優勝」


「浦和戦の逆転勝利とかお互いスーパーゴール連発から最後は終了ギリギリで山岸が決めた川崎戦とかリーグ戦においても印象的なシーンは数多くあったけど、やはりチャンピオンシップよね。あえてリズムを崩すバックパスを挟んでから放り込まれたボールを合わせた佐々木の同点ヘッド、そして先制点を誘発するミスを犯した森崎和幸のボール奪取から最後の最後でねじ込んだ柏の一撃。力強さだけでなく突如直接フリーキックを決めるなど意外な引き出しの多さを見せたドウグラス、スーパーサブ浅野の『何かやってくれる』と確信させるスピード。三度の優勝の中で一番強かったのはこの年だったわ」


「去年はウタカが良かったよね。しかし今年は……」


「とにかく、お疲れ様でした。でもサンフレッチェの戦いはまだ続くわ。まずは横内コーチが暫定監督を務めると言うわ。その後正式な監督に昇格するのか、別の監督を招聘するのか。いずれにせよ、時代の扉が開かれたのは間違いないわ」


「頑張ってくれるといいよね。さて、今日は今のサンフレッチェに一番必要かも知れないもので『熱い想い』。これは一九八二年の五月、前作から三ヶ月ほどで発売されたチャゲ&飛鳥のアルバムなんだ」


「三ヶ月って凄いペースね」


「これは一種番外編的なアルバムで、まず当時『真紅な動輪』なる映画の音楽担当としてチャゲアスが選ばれ、そのサウンドトラックとして制作されたみたいなんだ。だからこのアルバムの曲はその映画で使われているらしいけど、正直見た事ないしその辺については何とも言えない。特にソフト化なんかもされてないみたいだし」


「それじゃ今から見るのは困難って事に?」


「CSなんかじゃやってたみたいだけど、それも今となってはね。一応内容は鉄道のドキュメント映画みたい。満洲国の時代に作られた機関車を求めて中国ロケしたとか。だから『万里の河』をヒットさせるなど大陸を感じさせる歌手って事でチャゲアスに白羽の矢が立ったんだろうとは想像出来るけど」


「とにかく実際の映像を見られない以上は耳を使うしかないでしょう。まず一曲目は『THEME FOR "PACINA"』。作曲A、編曲平野孝幸」


「表題曲にもなっている『熱い想い』のインスト。タイトルのパシナってのは満洲国を支配していた南満洲鉄道の花形だった超特急あじあ号を牽引していた機関車で流線型のデザインらしい。というか珍しく二人の写真も使われているジャケットに写ってる奴がそれらしいけど、付け焼き刃で鉄道の知識を披露するのはやめよう。言ってる自分もよく分かってないんだから」


「汽笛の音から始まるけど、それ以降の音はそこまで鉄道っぽくはないわね。次は『暁』。作詞阿里そのみ、作曲C、編曲平野孝幸」


「前曲のラストで聞こえてくる車輪の音からこの曲のイントロに繋がっているという演出で、楽曲としては結構鉄道っぽい力強さがある。サビの最後にロングトーン炸裂するのは『南十字星』的。あそこまで過剰じゃないけどね。それと『南十字星』は海だけどこれは陸地を爆走、という事で疾走感も泥臭い」


「次は『OMOIDE』。作曲チャゲ&飛鳥、編曲平野孝幸」


「これもインスト。『夢から夢へ』『終章』などの曲をキーボードサウンドで繋げた構成」


「次は『御意見無用'82』。作詞阿里そのみ、作曲C、編曲平野孝幸」


「『風舞』収録の『御意見無用』のリメイクで、イントロのブラスなどファンキーかつ洗練されたサウンドになったなという印象。それとこの御意見無用ってのは当時のコンサートツアーの名前にも付けられたんだ。これはまずその前の……、ちょっと長くなるけどいい?」


「ええ、どうぞどうぞ」


「うん。元々チャゲアスはエネルギッシュなライブに定評ある歌手で、実は『黄昏の騎士』の前にライブ盤がレコード化されてるほどなんだ。でも『黄昏の騎士』を引っさげてのコンサートツアーは不完全燃焼に終わったらしい。と言うのも、ドン・キホーテの生き様というコンセプトからなる完成度を求めて曲の合間にポエムみたいなのを入れたり凝った構成にしたけど、それが逆に最大の武器である勢いとか熱気を削いでしまったみたいなんだ」


「ふうむ、角を矯めて牛を殺すって奴ね」


「そう。それを受けての御意見無用。型にはまる必要もなければ無理をする必要もなかったんだ、俺達は俺達のやりたいようにやるぜという宣言だね。その象徴としてリメイクされたけど、個人的な好みだとリメイク前のほうかな。二番以降かなり崩して歌ってるけど、普通で良かったのではとなる」


「さて、次は『THEME FOR "BUJUN"』。作曲C、編曲後藤真和」


「これはインストだけどオリジナルの楽曲。泥臭くてちょっとのんびりした曲調」


「次は『MARGARITA』。作詞松井五郎、作曲C、編曲平野孝幸」


「中国ロケなのになぜ明らかに欧米風の名前なのか不明だけど、そんなのお構いなしと言わんばかりに非常に軽い曲。サウンドも歌詞もコミカル。ふにゃふにゃで情けなさ全開の歌声にもびっくりする。アウトロのカントリー的な演奏の盛り上がりもギャグっぽい。煮ても焼いてもって感じはあれど、間違いなく新境地ではある」


「次は『カーニバル』。作詞作曲A、編曲平野孝幸」


「やたらと哀愁漂う曲。……そんなに嫌いじゃないし、もうちょっと何か言ってあげたいけどこれといって浮かぶ言葉もない。ああそうだ、イントロのギターなんかはメランコリックで良いよ」


「次は『魅惑』。作詞松井五郎、作曲A、編曲後藤真和」


「曲自体はフェニックスが復活するような劇的さがあるけど、サウンドは非常にロック調で洗練されている。とは言え二人のパワフルな声は健在で、『暁』と同じような泥臭さと疾走感のブレンド具合。くるくる回って聴こえるキーボードの音色が印象的」


「次は『夢から夢へ』。作曲A、編曲平野孝幸」


「『風舞』収録曲をインスト化。ギター基調の音」


「そして『熱い想い~CLOSING THEME~』。作詞松井五郎・A、作曲A、編曲平野孝幸」


「元々はこれがこのアルバムのラストで、それにふさわしい壮大さを誇る楽曲だよ。四月には先行シングルとしても発売されたんだ。一応映画の内容に合わせて機関車への愛をイメージして作ったらしいけど全体的にはプロポーズみたいな歌詞で、これで飛鳥は結婚するんだと思い込んだファンも多かったとか。シングルでは初となる平野編曲だけど二人の歌声という素材を活かした味付けと言えるかな。それなりにストリングスやギターを効かせてはいるけど、あまり厚着をしてなくても声だけで十分分厚いからね。シングルバージョンでもラストサビの熱唱など十分に大団円なんだけど、アルバムバージョンはそこからが本番となっているんだ」


「つまりどういう事?」


「五分を超え、シングルのほうではここで終わりってところでガタンゴトンと鉄道の音が響いて演奏が続行するんだ。ここからが多分CLOSING THEMEなんだろうけど、『カーニバル』のインストなんかを経て、更に壮大な演奏と熱唱が炸裂する。ここの歌唱のパワーはまさに圧巻で、他のベストアルバムなんかには収録されてないのでこのアルバムならではの必聴シーンだよ」


「まずこれで元のアルバム分は終わったけど、やっぱりボーナストラックもあってまず一曲目は『北風物語』。作詞松井五郎・A、作曲A、編曲平野孝幸」


「これは『熱い想い』の次のシングル。ラーメンのチャルメラのCMに使われたらしく、タイアップの霊験あらたかだったか前後のシングルと比べてもちょっとだけ売上伸ばしてるんだ。イントロにおけるタムタムとヴァイオリンの喜劇的とも言える響きが印象的。正直ちょっと笑えるんだよね。早口でまくし立てるサビは『万里の河』の再来かな。歌詞は一部屋で完結してるのがいかにもフォークソングだなあって感じ。一番では悲しみの涙、二番では一転嬉し泣きって構成もベタと言うか、ヒット狙ったんだろうなとは思うけど手が古かったか」


「それで実際にCM見てみたけど、えっそこ使われるんだって微妙に驚いたわ。次は『恋はア・ヤ・フ・ヤ』。作詞松井五郎、作曲C、編曲平野孝幸」


「『熱い想い』のB面で、タイトルもさる事ながらビシバシと硬質なドラムの音がびっくりするほど八十年代。でも曲自体はあっさりしてるなと思ってたら、アウトロでいきなりサウンドがひしゃげるように失速して終了するのには唖然とさせられる。『誓い』の反対だけど、一体どういう意図があったのか」


「最後は『MESSAGE』。作詞作曲C、編曲平野孝幸」


「『北風物語』のB面で、『終章』『嘘』など別れの名曲が多かったチャゲによるラブバラードの決定版、になれなかった曲。イントロから名曲の雰囲気十分だし、メロディーも歌声も甘くて良いと思うけどなあ。ただ歌詞はもう一歩かも。劇的な出会いとして描かれた一番のシチュエーションが今となっては陳腐だし、二番でどうも別れてるらしいのも中途半端。この曲なら幸せの真っ最中っぽく、もっとベタベタで永遠を誓うぐらいの勢いで良かったんじゃないかな。その辺の不徹底さが惜しい。でも総合的にはかなり好き」


「こう見ると時代性を感じる楽曲がボーナスになってるわけね」


「特にB面の二曲は八十年代のこの頃以外ありえないって感じだよね。さて、アルバム全体について総括すると、インストが多いあたりがサウンドトラックらしさなんだろうけど、楽曲そのものは鉄道やアジアを意識しているものばかりでもない。でもそれまで通りってわけでもなく『MARGARITA』みたいな徹底的な軟派っぷりは今までになかった路線だし、B面の二曲も含めて非常に時代にコミットしてきたなって印象。その中で全身全霊でぶつかっていくような熱唱の『熱い想い』は今までのイメージが色濃いけど、そういう楽曲でありながら編曲が重くなり過ぎていないのは一つ特徴的じゃないかな。瀬尾一三ならもっと派手派手になってただろうね」


「そう言えば今回は瀬尾一三参加してないわね」


「ほとんど平野編曲で、後藤も火魔神のメンバー。そこは番外編だからってのもあるだろうけど、大先生に頼らず身内で一枚作るってのは一つのチャレンジだったんじゃないかな。チャゲの『暁』に飛鳥の『魅惑』と、こういう色の曲も極端に力が入る事なく自然にこなせてるのはいわゆる演歌フォーク路線からの脱却という点においても大きな前進が見られる」


「とは言えまだ答えを導く最中って印象も強いわね」


「決定的な曲ってのもないしね。歌唱は盤石だけどアレンジは意外とあっさり気味な楽曲の『熱い想い』とか、過剰すぎないサウンドが好ましい人もいれば意外と食い足りないなってなる人もいるかと思う。ポップに行くにはまだまだ積み重ねが必要で、しかしそれを確実に積み上げている過程にあるという感じ。人生いつでも旅の途中って事だね」


 このような事を語っていると、敵襲を告げるサイレンの音が響いたので二人は素早く戦闘モードに切り替えて、敵が出現したポイントへと急いだ。


「ふははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のミズグモ男だ! この汚染された星を浄化させる任務を果たしてみせる」


 川沿いのグラウンドに出現したのは、水中で生活する蜘蛛の姿を模した男であった。基本的には北の方に住んでいて、日本でも数は少ないが目撃例が報告されている。しかしこのミズグモ男はイレギュラーな外来生物であり、駆除するために戦いの専門家がすぐさま駆けつけた。


「出たなグラゲ軍! お前達の企みもこれまでだ!」


「見ず知らずの星を訪れてご苦労様だけど、あまり暴れてほしくはないところね」


「やはり出てきたか。さあ行け雑兵、俺の栄達のために戦え!」


 人の心を感知しないメカニカルな雑兵たちを、渡海雄と悠宇は次々と破壊していって残る敵は一人だけとなった。


「これで雑兵は片付いたみたいだな。後はお前だけだミズグモ男!」


「もうお互い戦いなんてやめて帰ってくれたらありがたいんだけど」


「仕事を果たせずに帰る馬鹿がいるかよ。お前達こそここで死ね」


 そう言うとミズグモ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。覚悟を決めた二人は合体してそれに対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 不穏な雨模様の中、川辺の水面を滑るように繰り広げられる攻防戦。しかしミズグモがずっと水の中でいられるわけではないように、ミズグモ男も本当はこんな星に来たくなかったという面が顕在化したか、一瞬動きが鈍った。そこを悠宇に殴られて頭から地面に倒れ込んだ。


「罠? 油断? いずれにせよ今がチャンスよ!」


「うん。サンダーボールでとどめだ!」


 渡海雄はすかさず黄色いボタンを押した。右の手首から発射された電気の球がミズグモロボットの機体をショートさせた。


「ああ、駄目か。仕方ない、撤退しよう」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置でミズグモ男は宇宙の彼方へと帰っていった。今後の事はどうなるか分からないが、とりあえず今を生きる中でこれが最善と思える手段を選んでいくしかない。今日は一日雨模様だった。

今回のまとめ

・ああ森保監督退任今まで本当にお疲れ様でした

・どんな映画だったか見たくはあるが自分が楽しめるかどうかは微妙かも

・一枚のアルバムとして見るとインスト多いし可食部少な目

・歌声もサウンドも洗練されつつあるが時代を感じさせる部分も

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