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fh01 東京オリンピック決定記念 国旗について

 吉報は九月八日の明朝にもたらされた。二〇二〇年オリンピックとパラリンピックの開催地、東京に決定。その瞬間は布団に包まれて眠りの世界にいた渡海雄と悠宇であったが、朝起きてテレビをつけると画面の向こうはすでにオリンピック一色であったので当然、翌日の学校で開口一番に語られる話題もこれであった。


「ねえねえ、決まったね! オリンピック!」


「うん! 本当に来るんだよね! 未来になったらオリンピックがこの日本に!」


「ああ、最初は全然実感なかったけどずっとニュースでもオリンピックが決まったって事を言ってたから今は凄い実感として湧いてるわ。本当に来ていいのかしらね」


「そうだねえ。正直イスタンブールとか面白そうって勝手に思ってたけど、まあ地域的に厳しかったかな。僕としてはね、ケバブとかトルコ料理も好きだしパエリアとかスペイン料理もおいしいと思うし、もちろん日本も大好きだからどこに決まっても良かったんだけどね。いやあ、まだちょっとドキドキしてるよ。そう言えば昨日ちょっと家にある本棚をいじってたら面白いものが見つかってね。これ、前に東京でオリンピックが開かれた時の国旗の本だって」


「へえ、世界国旗図鑑。監修日本ユネスコ協会連盟、平凡社刊だって」


「うん。発行されたのは一九六四年九月二五日でまさに大会直前。当時の独立国はもちろん、例えばイギリスあたりの植民地で未だに独立していない地域でもIOC国際オリンピック委員会に所属しているところの旗も掲載されてるんだ。この本いわく『1964年7月現在IOC加入総数は118』だけど、この本に掲載されている旗は百四十三とプラスアルファってところなんだ。で、前回の東京オリンピックに参加したのは九十三ヵ国。ちなみに今IOCに加入してるのは二百五ヵ国」


「五十年ほどで倍加してるのね」


「所得だけじゃなくてね。まずページを開くと塚本寿一ってユネスコの偉い人の言葉が掲載されてるんだ。ここをめくるとまずは国連旗と赤十字、それにオリンピックの旗の紹介。横に長いページの上半分で旗のデザインが鮮明に描かれ、下半分は文字による解説となってるんだ。例えば赤十字はイスラム圏では三日月になって、イランでは国章のライオンになってるみたいなね」


「ふうん。確かあれは宗教的などうこうって話よね。そしてその横には日の丸ね」


「まずは日本を含めた東アジアからだけど、北朝鮮とか酷い政治を続けてるのに国旗変更という事態になってないのがある意味凄いよ。この辺は一見どこの国も変わってないように見えるけどモンゴルの左上の星が今はなくなってるという地味な変更がなされてるんだ。でも本番はこれからで、そのもっと右を見ると明らかに見慣れないデザインの旗があるでしょ」


「本当だ。と言うかベトナムが二つあるのね。一つは見た事があるデザインだけど」


「ベトナム戦争ってあるよね。これはこの本が出た当時もなされてたけど、この頃のベトナムは南北に分断されてたんだ。北の部分がベトナム民主共和国で、こっちが勝ったから国旗もこれのままで統一したんだ。南はベトナム共和国で負けた方。黄色い地の真ん中あたりにやや細めの赤い横線が三本でABCマートみたいなカラーリングだね。それとお堂に象三匹のラオスもなかなか面白いデザインだね」


「象さんが阿修羅像みたいな配置だけど、正面を向いた象さんってえも言えぬ迫力があるわね。やっぱりこれも政治的に色々あったから変わったのかしら」


「そうらしいね。七十年代に王国から共和国に変わったから旗も変更になったみたい。次のページめくると、まずビルマ、今のミャンマーだね。赤地に左上の部分をカントンって言うらしいけど、カントンは濃い青。その真ん中に白で大きな星があって、その周辺に小さな星が五つでちょっとゴチャゴチャしてるね。これが七十年代にカントンの中が変わって、今はまた全然違うデザインになってるよ。セイロンは今のスリランカだけどここはデザインが変わってないね」


「あれでしょ。首都はスリジャヤワルダナプラコッテ」


「はは、よく覚えてるね。でもこの頃はコロンボって刑事みたいな街が首都だけど。じゃあ西に進むよ。まずはアフガニスタン。結果的に今の国旗とこの頃の国旗はよく似てるけど、この間にかなり変わってるからね。この後共産主義の国家になったら変更され、あのタリバン政権時代にも変更されて、タリバンが倒れてからも何度か変遷しつつ今に至るって形だからね」


「やっぱり政情不安だと変わるものなのね。それにしてもイラク、シリア、イエメンにアラブ連合共和国ってところの国旗もデザイン共通しすぎじゃない?」


「うん。赤白黒の横三色で、白地の部分に緑の星がいくつかって違いしかないからね。まずアラブ連合は今のエジプトなんだ。ここのナセルって偉い人が『アラブ世界をひとつに統一しよう』って考えて手始めにシリアと合体してイエメンとも組んだけどすぐ分裂して、でもナセルにも意地があるからこの国旗と国名を死ぬまで名乗り続けたんだ。で、シリアとイラクの国旗がまったく同じなのもその一貫で、この辺も合併したかったけど結局お流れになったみたい。今ではイラクは中に文字が書かれてるし、シリアとイエメンは星がひとつ減った。それと全然違うのはイランで、この頃は皇帝がいたんだ。その名もイラン帝国。この剣を持ったライオンと太陽が皇帝を示すデザインだったんだ」


「赤十字のと同じデザインね。それにしても帝王がこんな最近までいたなんてね。やっぱ歴史って今と地続きなものね」


「この辺は政情不安もあるし色々変わるよ。それとレバノン、真ん中の杉の幹が茶色から緑に変更されてたりするね。さあ次はアフリカだけど、まずはリビア。ちょっと前までは緑一色だったけど革命が起きてその国旗も変更され、今はこの頃と同じデザインになってるね。西アフリカではまず象牙海岸、これは今のコートジボワールで、これはフランス語で象牙海岸って意味だから要は何も変わってないんだけど、政府の人が『現地語を使わず私たちが言ってるようにフランス語でコートジボワールと言って』と要請してるからそれに従ってるんだ」


「へえ、よく分からないけどこだわるものね。じゃあダホメとオートボルタってのは?」


「ダホメは今のベナン、オートボルタはブルキナファソだね。ダホメは途中社会主義国家になったけど倒れて今は当時と同じ国旗になってるけど、黒白赤の横三色が精悍なオートボルタの国旗は変更されたっきりだよ。それとガーナ、当時は赤白緑の横三色に黒い星だけど今は白の代わりに金色なんだ。と言うか元々赤金緑だったけどこの時期だけ例外的に白だった感じ。中央アフリカではカメルーンだね。左から緑赤黄の色合いは変わってないけど、この頃は黄色い星が左上に二つ縦並びでちょっとバランス悪いよね。今は真ん中に一つと改善されてるけど」


「確かにこれは今の方がいいかもね。それとコンゴてのが二つあるわね。レオポルドビルとブラザビルって」


「これはね、この後レオポルドビルって地名がキンシャサになり、コンゴもザイールって国名になって国旗も松明を持った手がデザインされたものになったんだ。でも結局ザイールは国旗含めてまたコンゴに戻っちゃったけど。今でもたまに使うらしいけど、同じコンゴを首都の名前で区別するんだ。それとエチオピアもこの頃は帝国だったんだ。その皇帝も七十年代に倒されて、メンギツスって独裁者が国政を壟断したけど彼の政権も倒れて今の国旗には五芒星が描かれてるね」


「なんかアフリカは独裁者多いイメージあるけど、国が正しくまとまらないとなかなか発展もままならないでしょうね。じゃあ次のページ行くわね。ううむ、タンガニーカ・ザンジバルってこれタンザニアでしょ」


「その通り。元々タンガニーカとザンジバルって国があって統合して、名前も合わせてタンザニア。それよりもっと南だよ。まずは黒のRがインパクト大なルワンダ。今はもっと爽やかなデザインだけどね。それにブルンジもこの頃は真ん中に植物と太鼓だけど今は緑でふちどられた赤い星三つになってるね。そして南アフリカもこれまた凄いね」


「確かに。オレンジ白青の横三色の真ん中にはよく分からない国旗が三つ並んでるわね。左はイギリスのユニオンジャックだけど、真ん中とかなんで立ててるの?」


「それは知らないけど、とりあえず真ん中はオレンジ自由国、右はトランスバールってところらしくて、まあいずれもこの辺りに白人が作った国の旗だよ。アパルトヘイトって、アフリカなのに白人が一番偉くてそれ以外を差別する政策をやめた途端に国旗が今の派手な奴に変わったんだから。これでアフリカは終了だけど、この当時から二十ぐらい国が増えてるよ。半世紀前はまだまだ植民地も多かったんだ。そして次はアフリカを食い物にしてきたヨーロッパ」


「その言い方は、まあその通りだけど。まず北欧は変わってないわね。次のページは、おお、ドイツが二つ」


「これもベトナムと似ていて、こっちは東西で分裂してたんだ。西がドイツ連邦共和国で今のドイツと同じ黒赤金の横三色旗。東はドイツ民主主義共和国って、真ん中にハンマーとコンパスと小麦の紋章付き。東が西に吸収合併された感じで統一がなされたんだ。ベルリンの壁って奴が壊されてね。未だに分断されてるのが朝鮮半島だけど、ここも最終的に統一されなきゃいけないはずだけどいつになるんだろうね」


「生きてるうちに統一できるのかしらね。後は、スペインの国章が多分今と違うわよね。こんな黒鷲いなかったはずよ」


「盾のデザインも変わってるね。それとギリシャも今の国旗のカントンだけで国旗になってるね。どちらも七十年代に変わったそうだよ。そしてユーゴスラビアは見事に解体されたね。まあここはそもそも民族がバラバラだったものをチトーって偉い人が頑張って一つにまとめてたけど、この人が死んで十年したらもうまとめ切れなくなって今ではクロアチア、スロベニア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、セルビア、モンテネグロ、コソボって多すぎだなあ」


「コソボなんかは今もまだもめてなかった? 逆にまとめにしようとしたのが間違いと言うか、元々バラバラなのが本当の形なんでしょうね」


「うん。そして次のページもまた凄いのがいるよ。ソビエト連邦、略してソ連。社会主義諸国の親玉だよ。赤い色や星、鎌やハンマーなど労働イメージのモチーフは社会主義各国で使われてたんだ。そんなソ連も貧乏こじらせて一九九一年に崩壊して、ここもユーゴスラビア以上に多くの国家を残して分裂したんだ。ついでにこの本には白ロシア、今のベラルーシとウクライナの旗も掲載されてるけど見事に赤いでしょ。ベラルーシの今の国旗はこれにソ連マークを消したものに近いね。ウクライナは全然違うけど」


「チェコスロバキアってのも今は分裂してるわね。それにルーマニア、ブルガリア、アルバニアと言われた通りの国章なり星なりが描かれているわね。これが社会主義の証明だけど、これらも全部今はなくなってるんでしょう」


「そうだね。ヨーロッパでも東の方はソ連みたいな国家を目指したけどどうやら無理でしかも貧乏だって判明したから国民が怒って次々と社会主義の政権が崩壊して、最終的には親玉のソ連もお亡くなりに。今はアメリカの資本主義万歳な世界さ。と言う訳で次のページはアメリカ大陸だよ」


「アメリカはちゃんと五十州なのねって、カナダが! カナダが! 何この国旗は」


「これは僕もびっくりしたよ。カントンにユニオンジャックは英連邦の証。赤いけど社会主義じゃないよ。これの翌年に今のメイプルリーフを前面に押し出した国旗に変更となるんだけど意外と新しいんだねって。そして中南米は意外と変わってなくてハイチぐらいかな。ご覧の通り、黒と赤の縦二色だったものが今では青と赤の横二色になってるんだ。残ったオセアニアは当時わずか三国。西サモアは今は西のないサモアとなってるけど国旗は変わってないよ。これで当時の独立国家はとりあえず終了。次からはアフリカで当時独立秒読みだったマラウイとザンビアで、これは今も同じデザインだね。ザンビアは東京オリンピック開会式ではイギリス領の北ローデシアとして登場して、閉会式では独立後の名称であるザンビアとして登場したってお話はちょっと有名だよ」


「さらに次のページにはまだ独立してないけどIOCに加盟してる地域が並んでるのね。それにしてもイギリスばっかりじゃない。どれもこれも左上にユニオンジャックがはためいているわ」


「ホンコンはアジア、マルタはヨーロッパ、南北のローデシアはアフリカ、バハマにバルバドスとバミューダは中米、さらにフィジーはオセアニアだからね。まさに世界一周だよ、まあ今はどこもかしこも手放してるけどね。ここのページで今も旗のデザインが変わってないのはプエルトリコとアンチルぐらいかな、と思ったらアンチルは中央の星の数が今は一つ少ないんだね」


「でもユニオンジャックを用いてないイギリス植民地もあるわね。この、西インドっての」


「青地に白の波模様と中央には太陽を示すオレンジの円って、いかにも海に囲まれた地域だよね。この西インドってところがちょうどカリブ海の東側で帯のように連なってる島々だけど、今ではセントなんとかとかいくつもの独立国家になっててオリンピック参加国を増やしてるんだ。そしてスリナムは白地に黒、茶色、黄色、赤、白の星を黒い楕円で結んだなんとも言い難いデザインの旗だね。今のスリナムの国旗は個人的に結構好きだけど、これはちょっと。そして百四十三番目、この本に掲載された最後の旗はドイツオリンピック統一チーム旗だよ。黒赤金の真ん中に白い五輪というデザイン。この時期に数回使われてたけど、その後また東西バラバラに戻ったみたい」


「でも今はスポーツの世界だけじゃなくて国ごと統一したから、この旗を見る事はもう二度とないのね」


「それは良い事だよ、多分。それにしてもざっと世界をめぐってきたけど、半世紀も経つとやっぱり色々変わるもんだね。帝国が消滅したり、社会主義国家の失敗が明らかになったり、イギリスの植民地が激減したり。特に後ろ二つのお陰で世界の国は飛躍的に増加したんだから。二十一世紀に入ってから分離独立した国もあるにはあるけどやっぱりそんなハイペースとはいかないね。この世界の分量は限られてるものだし」


「そうよね。でもこんなに増えて後七年後、きっと私も大きくなって、今よりずっと強く美しく育ってるって信じてるわ」


「大きく、か。うん、なれるといいよね。それまでには戦いも終わってるといいけど」


「それは確かにそうだけど、命ある限りはこの星を守り続けるって決意した事だから。私はやるわ」


「僕だってやるよ! 与えられた命を全うするまで僕とゆうちゃんは既に運命共同体となっておりますので、どうか最後までお付き合いください。という訳で、家に帰ったら前の話の続きをしようよ」


「いいわよ。それじゃ、そろそろ朝の会も始まるし、じゃあね」


 こうして二人はそれぞれの教室へと別れた。こんな日を何度も何度も繰り返せばその日は来る。後は平和を取り戻すだけだ。

今回のまとめ

・東京オリンピック決定おめでとうございます

・さすがに半世紀もあれば世界は色々変わっている

・今回はおまけみたいなものなのでバトルはなし

・七年後も生きてるといいな

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