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rm25 投手陣の苦境について

 夏の到来も近いと思わせるこの暑さ。今日は分厚い雲が空を覆っていたので比較的ましだったが、これも梅雨の予行演習と思えばやはり夏が迫っている事を如実に示しているようだった。黄色いナイロンの傘を小脇に抱えた悠宇がビニール傘を腕にぶら下げた渡海雄の背中に立った。


「おはよっ、とみお君」


「ああ、おはよう、ゆうちゃん。昨日はどうにか勝ったねえ」


「そうね、でもあまり喜ばしい結果ではないわ。野村があんなに早く降板してしまって、しかもどうやら登録抹消らしいなんてね」


「厳しいねえ。本当に厳しい。去年のローテーションを支えた三人から黒田は引退、ジョンソンは離脱と来てついに野村までもいなくなるとなると」


「まあジョンソンはそろそろ戻ってくるらしいけどね。もう二軍では復帰登板を済ませたみたいだから」


「でも物理的に足りない。福井なんかもパッとしないし」


「中村祐太はそこそこのピッチングを見せたけど、まあこれからよね」


「岡田なんか本来なら安定戦力に数えたいけど、ゴールデンウィークにとても残念なピッチングを披露してくれたものだからあんまり信用出来ないよね正直」


「あれはねえ、最悪だったわ。信頼を取り戻すのに一年はかかるような大失態。普通にやってたら普通に勝てたものをあえて自分の足で敗北に向かって爆走したような愚かな投球内容で、でもまあそれでも岡田に頑張ってもらわない事にはもう話にならないからね」


「それと大瀬良もね」


「大瀬良も数字の割に信頼感に乏しい投手。もう一段階、いえ、二段階ぐらいは化けられそうなんだけどね。しかし今こそ男を見せてつまらない評判を払拭する時とも言えるわ。ここでエースとして期待されるようなピッチングを見せてくれれば、相当ありがたいんだけどね。九里はまああんなものでしょう」


「一方で昨日は中崎がようやく復帰したね。これでリリーフがどうなるか」


「今村はやはり抑えとしては暫定的なポジションと言うか、安定してランナー出してたからリードしてても不安要素がいっぱいだったわね。とにかく中崎がさっさと本来のポジションに戻ってくれればいいわ。そうすれば今村も負担の少ない本来のポジションに戻る事になるし、これでようやく後ろに三枚置けるようになる」


「中崎離脱後は色々試されたけど、結局のところ去年のメンバーに敵うセットアッパーは現れなかったね」


「まあ仕方ないわ。薮田とか中田はそれぞれよく奮起してくれたとは思うけどね。薮田は昨日も野村緊急降板の穴を埋めるロングリリーフで勝利投手となったけど、役回りとしてはこういうのが適任かなと思うわ」


「元々先発として期待されてたしね。そう言えば今回の件もあって先発陣に穴が生まれたけど、ここに薮田が一時的であれ入り込むって可能性はないかな?」


「ううん、どうかしらね。ある程度イニング数を稼げるリリーフはありがたいものだからね。ただ現状全然まとまっていないからローテーションに関しては薮田に限らず、広くチャンスという門戸は開かれているのは確かよ。いっそ外国人獲得するとか?」


「外国人ねえ。現状はまずセットアッパーのジャクソン、そしてエルドレッドは盤石だけど他は……」


「大差が付いた状況じゃないと使えないブレイシアや、それなりに悪くない程度の非力な選手で外国人ならではという感じではないペーニャ。ここはいくらでも替えがきくし、実際ジョンソン復帰となったらどっちかが消えるわけだし」


「ヘーゲンズが去年ぐらいやってくれたら良かったのにね」


「去年のヘーゲンズは幻だったとでも思っておきましょう。本当に得難い戦力だったんだけどね、まああれが続いたら苦労はしないわ。シーズン途中に外国人を補強するとしたらまず投手よね」


「打者は現状でも十分揃ってるもんね」


「田中、菊池、丸は言うまでもないとして、鈴木誠也はもう四番として十分に定着したと言えそう。それに安部も意外とアベレージを維持してるわね。まあそのうち人間的な数字に落ち着くものと思うけど」


「サードで言うと西川も打撃はいいよね」


「その辺で使い方どうしようって事になって、どうも怪我を抱えているらしい菊池の代わりにセカンドの予備として使ってみたところあんな感じだったりして、ポジションがないのはやや面倒ではあるけどね。せめてサードをきちんと守れてたら」


「そう言えばたまに安部がファーストで出たりするけど、あれも結構苦しい起用だよね」


「新井は数字が落ち着いたみたいだし、それなら基本ファーストにエルドレッドでいいかなとは思うけど、でも打撃好調な選手が多いからそれを一人でも多く使いたいってなるとどうしても守備が苦しくなったりするものよね」


「松山も一時期は見るに堪えないものだったけど一回離脱して、復帰してからは打てるようになってきたよね」


「松山に関しては良くも悪くもこれぐらいはやれるだろうってラインが定まっている選手だから、ようやく彼本来のラインに戻ってきたって程度よ。守備のまずさなんかはもう一生あのままなんでしょうね」


「とにかくここまでチーム内に大きな穴がボコボコ空いてるけどそれでも四月の貯金もあって現在二位。この順位はどうかな?」


「良すぎるくらいよ。ずっと負け越しまくってる印象しかないわけだし。現在首位の阪神も実力が安定しているわけじゃない。結構若い選手も多いしね。だからこのまま走る可能性もあればへたれる可能性もある。大事なのはあまり大きく離されすぎない事よ。一定の距離を保っていればチャンスが来た時に強襲も出来るし」


「二位と三位以下には多少差があるようだけど」


「現時点で何ゲーム差とか、誤差みたいなものだからあまり考慮はしないわ。そろそろ交流戦も始まるし、ここをどの程度で乗り切るかで変わってくるのはここ数年の成績が示している通りよ」


「パリーグは楽天が首位かあ。そしてロッテが未だにチーム打率一割台で相当苦労してるみたいだね」


「本来一割台なんてありえない事だから、そのうち揺り戻しが来るはず。だから現在下位に沈んでいるチームこそ要警戒よ。はっきり言って現在のズタボロなローテーションでどれだけやれるかは未知数なだけに、どんな試合であれ勝てそうな試合はとにかく勝っていく事よ」


「それとサンフレッチェだけどね、先週はとっても久しぶりに勝てたね」


「遅まきながら反撃となるか無駄なあがきか。ただいずれにせよ、負けるよりは勝つ姿を見られたのは喜ばしいものよ。まだまだ問題点は星の数だけど、今はそういう事も言ってられないから」


「それにしてもどうしてこんな無残な結果になったんだろうね」


「そこは内部の問題なのではっきりと『これが原因だ』と言えたら苦労しないんだけど、とりあえず外から見るだけで言うと新しい波があまり来なかったのがまずかったかなと思うわ。ディフェンスラインにおける塩谷、千葉、水本の三人なんて連覇時のメンバーだし、先週は千葉を外して野上を入れたところ勝った。これが一つのヒントになるのかもね」


「でも変えればいいってものでもないからね。前線の工藤やブラジル人ももう一歩フィットしていないみたいだし」


「それで皆川をスタメンで使ったところなかなか面白い動きをしたみたいだし、何が正解かは分からなくても何かそれを探すためにあがいた先にしか正解はないものと信じて戦い抜く以外に道はないでしょうね。これは千葉と工藤は間違いで野上と皆川が正解とかそういう安直な話じゃなくてね。ボランチなんかもまだまだ問題あるし」


「こうなると期限付き移籍でほいほいよそのクラブに放出した若手が惜しくなるよね。宮原とか吉野とか今からでも引っ剥がせないものかな?」


「契約の問題もあるしね、さすがにそれはねえ。ウタカも守備をしないとか言ってたけど今はそんな次元じゃないもんね。まあとにかく、今必要なのは内容ではなく結果よ。札幌、清水、セレッソの昇格組に三戦全敗するようなチームなんだって現状を鑑みて、地に足をつけて一歩ずつ前進出来れば残留の可能性も見えてくるわ」


「しかしこう見るとカープとサンフレッチェ、順位によってかなりニュアンスが違っているね」


「そりゃあ、そうよ。カープは勝ち越してるし、実力的にも普通にやれたら勝てるから慌てず、いかに普通の戦いを増やせるかが重要になる。それで言うとゴールデンウィークの阪神戦とか先日の中日戦とか、普通にやればいいのにわざとやってるかのように不甲斐ない内容の野球を展開して負けたけど、ああいうのは良くないわ」


「とは言っても相手もいるものだし、普通ってそんな簡単なものじゃないよね」


「それもそうなんだけどね。サンフレッチェなんかもはや普通が普通じゃなくなってるから。だから普通にやるだけじゃ普通に負けて普通に降格するのみ。どうにかあがかなきゃならない。それで同じく低迷している新潟は監督を交代させたでしょう」


「ガンバを降格させたと評判の呂比須ワグナー監督ね。正直な話あれ、どうなの?」


「今回はセホーンはいないし、どうなるかはまだ何とも言えないわ。ともあれ新潟は動いた。じゃあサンフレッチェはどうかなってなるけど、なまじ実績もあるしサンフレッチェのフロントがその決断を下すかどうか。六月や七月にはちょうどリーグ戦の日程が空くタイミングがあるし、入れ替えるとしたらここよ。監督の首をすげ替えないとしたら森保監督が変革する必要があるけどそこまでやれるか。いずれにせよ、難しい舵取りを迫られる事になるわね」


「最後は結果がどうかって部分になるもんね」


「努力や心意気があろうが結果の前ではそんなものは塵芥にも等しいもので、実際結果を残せなきゃサッカーの場合は降格という極めて具体的な不利益を被る事にもなるしね」


「もっと勝てるといいね」


「勝ち点という果実を伴わずして内容は良くなったなどと自己満足されても飢えて死ぬのは誰かって話になるしね。雛鳥のような心境よ」


 このような事を話していると敵襲を告げる光が瞬いたので、二人は周りに人がいない場所に隠れこむとすかさず変身して、地球の破壊を目論む者達が出現したポイントへと走った。


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のジャワアナツバメ女だ! この星をわれらグラゲの巣にしてくれるわ」


 見た目はツバメみたいだが実はツバメとは遠いタイプともっぱらのアマツバメ科に属するアナツバメの一種という事で何が何やらだが、とにかくこのジャワアナツバメはかの有名な高級食材にもなる燕の巣を作る事で知られているが、その姿を模した女が草原に降り立った。


 よくこれを食べ物にしようと思いついたものだと心から感心するうちの一つだが、中国人の食に対する貪欲さと同じぐらいグラゲの領土拡大欲は深い。そしてそれは止めなければならない。


「お前達の思い通りにはさせないぞグラゲ軍!」


「やはり来ると思ったわ。あまり邪魔はしない事ね」


「ふっ、こちらこそお前達を今か今かと待っておったぞ。そして死ぬがよい。行け、雑兵ども!」


 次々と出現してくるメカニカルな雑兵を渡海雄と悠宇は次々と撃破していって、残った敵はボス一人だけとなった。


「よし、雑兵はこれで終わりみたいだな。後はお前だけだジャワアナツバメ女!」


「勝手にこの地球をあなたたちの巣であるかのように扱われても困るわ」


「この宇宙はグラゲに支配されるためにあるのだ。邪魔をするなら容赦はせぬぞ!」


 そう言うとジャワアナツバメ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。こうなったら被害が拡大する前に戦うしかない。渡海雄と悠宇はすぐに合体してこれに対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 元々アマツバメ科は空を飛ぶ能力に長けているので、このジャワアナツバメロボットも驚異的な機動力でメガロボットを駆る二人を困惑させた。しかし攻撃する時は近接してくる。この一瞬のタイミングを逃さず、悠宇は体当たりを受け止めて敵の動きをストップさせた。


「くっ、さすがにあのスピードだけあって衝撃はかなりのものだったけど無事に止まったみたいね」


「うん。後は僕の番だ。レインボービームで一気に勝負をつけるぞ!」


 渡海雄はすかさず白色のボタンを押した。胸部から放たれた波長の異なる七本のビームがジャワアナツバメロボットを貫いた。


「なかなか良い機体だったが、ここまでだな。撤退する」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってジャワアナツバメ女は彼女の生まれ故郷である宇宙の彼方へと戻っていった。


 そして野村はやはり抹消されて、代わりに昇格したのがあの佐藤祥万だと言う。確かに二軍成績は上々だが、そういうランクの選手ではない。佐藤が一軍で通用する未来は存在するのだろうか。ともあれ、どうせすぐ解雇だろうと見られつつも広島で三年目のシーズンを迎えた男だ。何か光るものがあるのかも知れない。現状は厳しいがどこまで歯を食いしばれるかだ。

今回のまとめ

・投手陣は絶望的だが家貧しくして孝子顕ると行くか

・とは言っても佐藤祥万昇格はさすがに顔をしかめたくなる

・セリーグ順位はまだまだ大きな変動があっても不思議じゃない

・サンフレッチェに期待するのはただ一つ勝ち点の積み重ねのみ

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