fh22 70年代の日産自動車サッカー部について
ぼやぼやしているうちに三月、春が来た。春だからスポーツ界も盛況で、野球はWBCが行われているし大相撲の春場所も始まった。そしてJリーグだが、既に開幕して第三節まで終了した。
「サンフレッチェねえ、どうなの、これ?」
「芳しくはないわね、そりゃあ。何と言うか、全体的に推進力が足りていないのか、前へ向かおうとする力がないから相手からしてもまるで怖くないって印象を持たれているでしょうね。開幕から、こういう言い方するのはどうかとも思うけど比較的楽な相手と戦う中でこの結果ってのはいささかねえ。まあ降格さえしなきゃいいわ。で、今回は日産自動車サッカー部」
「日産って言うとマリノスだよね」
「その通りよ。日本リーグ末期からJリーグ開幕の頃は読売と日産、そしてそれぞれ名前を変えたヴェルディとマリノスが日本における強豪チームとして広く認知されていたわ。Jリーグの開幕戦がまさにこの二チームによる対戦だったんだから」
「マリノスは、ヴェルディほど落ちぶれたわけじゃないけど最近は第一線の強豪ってほどではなくなっているよね。降格するほど弱ってはないけど優勝出来る程でもないと言うか」
「二〇一三年は優勝すると思ったのに自滅的に逃して、それ以降はどうにも平凡よね。今年は中村俊輔らベテランを放出してチーム刷新を図ったけど、このカンフル剤がどう効いてくるか」
「開幕から連勝したし、前評判の割にはしっかりやれてるように思うけど」
「齋藤学は良いわね。でも継続するには彼以外の奮闘も絶対必要だから、全てはこれからよ。さてそんなマリノスの母体となったチームについてだけど、創立は一九七二年とちょっと遅目。でもやる気はあったようで七十四年には日本初とされるプロの監督としてヤンマーのコーチを務めていた加茂周を招聘したの」
「この時代からプロとして指導者を招くって発想が凄いね」
「自動車メーカーの日産はテストドライバーなんかを一年など期間を設けて雇う、プロの概念が元々社内にもあったからこそってのはよく言われているわ」
「なるほどねえ。でも同じ自動車メーカーのトヨタとか東洋はそういうのなかったのかな」
「トヨタなんかアマチュアリズムが強かったみたいだし、東洋も社員育成のためと明言するぐらいだからね。実力あるプロを雇って強くなるって発想とは別の世界に生きていたんでしょ。あるいは日産は新興だからこそ今までのサッカー界の常識とは異なる判断を柔軟にこなせたとか。とにかくこの加茂監督に率いられた日産は順調に成績を伸ばして七十七年には日本リーグ二部昇格。いきなり二位に入るもこの年は入れ替え戦で富士通に敗退。翌年も二位ながら今度もまた戦う事になった富士通を破って一部入りを実現させたの」
「藤和や永大ほど無茶苦茶じゃないけど、かなりのペースだね」
「うん。実際この七十九年の名鑑では『予想外の一部入りとみる人もいる』とか書かれてるぐらいのスピード昇格だったみたいだしね。チームのスタイルとしては『まじめで忠実なサッカー』だったらしいけど『総合力は他チームより落ちる』『苦しいリーグになりそう』と書かれてて、その辺はまだまだ道半ばだったみたい。実際日産としても加茂監督としても短期間での強化ではなくじっくりと戦力を増強させていって将来的には日本一のチームを、という広い視点でチーム作りをしていたから、それも仕方ない事でしょうけど」
「それでも選手の名前見ると今でも知られている人がちらほらいるものだね」
「そこはやっぱり今も続いてるだけの事はあるわね。そもそも加茂監督からして後の日本代表だしね。でもあのふわっとしたソフトな髪型じゃなくて短髪だから不動産会社の営業マンみたい。非常にエネルギッシュなルックス」
「後は背番号8早野宏史と背番号9清水秀彦も解説者としてお馴染みだよね」
「その人達は元々は指導者としても知られてて、清水なんかマリノスの初代監督だし、早野は清水の次に監督になったソラリという外国人が退団した後に監督になって、棚ぼた的にチャンピオンになった幸運の人よ。まあ今となっては、特に早野はネタキャラみたいになってるけど」
「ダジャレの人って感じだね」
「まあ何であれキャラ立ちしてるのはアドバンテージよ。で、当時のルックスだと早野は巻き毛が際立ってて今の印象とは結構異なっているし、清水は野球部引退してしばらく経って坊主からちょっとだけ髪の毛が伸びてきた高校球児みたいな髪型が印象的。他に長らくマリノスのフロントとしてチーム強化に携わり、今は名古屋にいる下條佳明も背番号14としているわ。後は背番号11の高間武も京都なんかで指導者やってたり」
「真面目な中国人みたいな顔してる高間は京都商出身か。地元に戻ったケースなんだね」
「そうね。ああ、京都と言えばこの時の日産は京都を中心とした関西圏出身者が比較的多いのも特徴の一つよ。これはやはり加茂監督のコネクションがそっちにあったからなんでしょうけど。まあ早野清水下條なんかは関西とは関係ないんだけど」
「まあ横浜本拠地のチームに関西人ばっかりってのも不自然だしね。なるようになったって事じゃない」
「それはそう。他の選手だと、背番号10松本喜美夫は後ろ髪がなかなか長くてちょっとチャラい雰囲気とか、背番号13杉山嘉明はヒゲを生やしてるとか、その程度かしらね。それとちょっと興味深いのは松本の紹介文でミッドフィルダーという単語が用いられている事。七十九年の段階でもまだポジションではHBと書かれてるけど八十年代以降メジャーとなるMF表記も広まっていたまさに過渡期ならではよね」
「こうして時代が変わっていくものだね。八十年代っぽいと言えば背番号27平野数彦とか髪型だけじゃなく眉毛の形や目つきなんか八十年代の不良みたい。新日鉄の若手よりガチっぽいと言うか、『シャバい』とか言ってそう」
「出身はさすがの山陽高校。とは言え若手にしても全体的には地味でパッとしないと言うか真面目そうと言うか、始まったばかりって感じの顔つきが並んでいるわ。ああそうだ、二部リーグ時代にラモスを一年間の出場停止に追い込んだ坂木嘉和は背番号6よ」
「一年間の出場停止って、何があってそうなったの?」
「まあきっかけはささいな事なんだけどね。まずその試合において坂木はラモスを密着マークしていたの。で、それに苛立っていたラモスが肘打ちをしたところ坂木は、ラモスからすると大袈裟に倒れ込んだの。このプレーでラモスはファールをもらったけどその時に坂木は笑ったらしく、それに切れたラモスは坂木を控室までも追い掛けたの」
「ここまでの経緯を見るとラモスが切れやすいのがまずいみたいだね」
「実際それでラモスは退場したんだけど、問題はその後よ。実際見てもないのに大袈裟に書かれたスポーツ新聞の記事を鵜呑みにした運営委員会の人達が一年出場停止って処分を決めたの」
「随分と雑な処分だねえ」
「その辺も読売クラブに対する嫌がらせの一環として語られるケースが多いわね。まあ結局ラモス抜きでも読売は昇格してセンセーションを巻き起こしたわけだし、日産も翌年に昇格出来たし結果オーライって事で、いいわけないけど。そんな坂木も今では見事に禿げ上がり、マリノスの強化部長なんかを歴任した後に現在では日本工学院Fマリノスという、マリノスと提携した専門学校チームのテクニカルディレクターとして活躍しているわ」
「何だかんだで今もマリノスと関係を保っているのか」
「歴史って積み重ねだしね、そういうのがあるのはやはり強みと言えるわ。で、そんな選手たちによる日産サッカー部だけど、当初の懸念通りに実力は不足していたようで最下位に低迷するの。しかし入れ替え戦に勝ち残って残留。一方で九位だった日本鋼管は降格」
「最下位が残って九位が落ちるってのも制度的には仕方ないとは言えどうも理不尽と言うか、納得し難い感じだね」
「しかもこれが初めてじゃなくて、前年も最下位の古河は残留で九位の富士通が降格だったしね。さすがにこんなのが続くのは酷い、これはルールが悪いからだってなるのも必然で、翌年からは入れ替え戦は九位だけで最下位は強制的に降格と変更されたわ。読売クラブの皆さんは『入れ替え戦は俺達を嫌う日本リーグの嫌がらせで、実際俺達が昇格したらすぐに入れ替え戦がなくなった』みたいに言ってたけど、実際読売クラブは当時の主流派から嫌われていたしこのルールで一番泣きを見たチームだったとは言えこの件に関してはまた別かなって思うわ」
「読売クラブ発足前からそういうルールだったもんね。単にリーグにまずい制度は改革せねばというやる気がなかっただけか」
「それはそれで問題だけどね。まあそうして初年度を無事に乗り切った日産だけど、本格的に開花するのはもうちょっと先の話となるわ。なお広告は『静かなサニー』と言うことで今までより騒音なんかが小さくなったという話が雑誌記事風の文章でまとめられている」
「いちいち『設計者自身が驚いた数値とは』とか大見出しを適宜打ってて、画面にメリハリが利いているのがいいね」
「肝心の記事本文は『そこで技術陣はこの数値を低くすることに取り組んだと言うことです』とか『サニー1台に約1万4千個の部品が使われているそうです』などと伝聞調なのもあって微妙に曖昧なんだけどね。とにかく当社比とは言え今までより静かになったよって事で、広告内に赤ちゃんの写真とか載せてるわ。それとサニーのマスコットとして用いられていたサニーちゃんのイラストと実物のぬいぐるみの写真も」
「サニーちゃん。これは何の動物なの? うさぎ? ねずみ?」
「知らない。でも七十年代に主に活躍してていつの間にか消えたけど、九十年代ぐらいに同じようなのが復活したみたい。まあ今じゃサニーというブランド自体が消えてるんだけどね。そしてこのサニーちゃん、七十年代にはCMなんかでも登場しててそういうのの一部は動画サイトで視聴可能だけど、意外とだみ声だった」
「昭和だもの」
このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので、二人は素早くバトルスーツに着替えて敵が出現した場所へと走った。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のエゾモモンガ女だ! この汚い星を正しい姿に導くのだ」
そろそろ新芽も出てきつつある林に出現したグラゲの刺客。名前にエゾとあるが別に北海道特有の種ではなく、ユーラシア大陸に広く分布しているようだ。もちろんモモンガなので滑空する。地球に悪意をばらまく前に倒さなければならない。
「出たなグラゲ軍! お前達の思い通りにはさせないぞ」
「相変わらず懲りないわね。いい加減諦めてくれるかな」
「ここでこいつらを倒せば私の地位も上がるというものだ。行け、雑兵ども!」
春なので色々なものが出てくる季節だ。大量に出現した雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と撃破していき、残った敵は一人だけとなった。
「よし、これで雑兵はもういないな。後はお前だけだエゾモモンガ女!」
「あんまり迷惑かけられても困るし、帰ってくれるなら帰ってくれるといいんだけど」
「ふふん、お前達を殺さずしてどうして帰られるものか。こうしてくれるわ!」
エゾモモンガ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。この邪悪の塊を放ってはおけない。渡海雄と悠宇は合体してこれに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
空中を舞台に繰り広げられる巨体と巨体の鍔迫り合い。お互いに負けてたまるかという意地のぶつかり合いは、悠宇が一瞬の隙を見計らって懐にまで忍び寄り、体当たりをかます事で決着が付いた。
「よし、今よとみお君!」
「うん。 ランサーニードルでとどめだ!」
そのタイミングを逃すまいと、渡海雄はすかさず黒色のボタンを押した。胴体から発射されたニードルがエゾモモンガロボットの全身を貫き、機能停止に追い込んだ。
「簡単にはいかぬものだな。覚えておれ!」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってエゾモモンガ女は宇宙へと帰っていった。今回で七十年代の日本リーグの話は一区切りとなる。資料が集まれば二部の話とかこれ以前、以降と行きたいがなかなか簡単ではない。
計画を立てた去年の今頃は「名相銀と田辺で一回、富士通読売日産で一回だから今年中に終わるな」とか考えていたけど明らかに無謀だった。しかしもっと調べ足りないところはいっぱいあるし、しれっと内容が変わっているかも知れない。
経営難のため一度はチームを手放したフジタが今年から湘南ベルマーレのスポンサーに復帰したと言う。今後はJリーグ以前の歴史もよりシームレスに扱われるようになるといいなと希望しているが、この件はその第一歩となるかも知れない。
例えばベルマーレの前身はフジタだと知っていても、黄金時代も築いたそのチームの歴史はどれだけ知られているものだろうか。結局セルジオ越後がいたチームって程度で流されたりしていないだろうか。そういう教科書的な記載よりも、あの時代のこの選手はどうだったって話がもっとポンポン出てくれば楽しいんだけど現状はなかなか簡単にはいかない。それも結局「七十年代の日本サッカーは暗黒だった」以上を知りたいと望む人があんまりいないからなんだろう。
この時代のサッカーは人気がなかった、暗黒時代だったとまとめられがちなだけあって、当時を知る人間による主観的な記述があんまりない。とは言っても時代的にも知ってる人は数多く存在しているし、単に需要がないから喋る機会がないだけだろう。そういう人達の昔話を許容出来る優しい世界が訪れるといいなと思う。
それと特にチームのロゴとかユニフォームデザインなんかだと、当時の雑誌とか見ても一番知りたい不人気で実力的にもそれほどではなかったチームに限ってモノクロだったり写真なしだったりしてぐぬぬってなりがちだったり。そういうのも一回まとめられるといいなって考えたりしている。
当時の雑誌なんかをもっとくまなく読んでいけば分かる事はいっぱいあると思うし、そこは継続あるのみだ。プロ野球における竹中半平みたいな人が出て来れば楽なんだけど。
そして来月からはチャゲアスだあ。でもその前に時間があればもうちょっとそれ以外の音楽系もやりたいと思う。人間、最後はファイトだ。やる気があればやれる事も多くなるしなければ何も出来ない。常により良いものを求める心で当たりたいと思う。
今回のまとめ
・サンフレッチェが想像以上にまずくて非常に不安だ
・若かりし日の加茂監督の顔はちょっと怖い
・当時の日産は地味そうな顔が多くて正直パッとしない
・歴史は知らない事ばかりなので謙虚に取り組みたい