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fh20 70年代の富士通サッカー部について

 前回の通りの話となる。稀勢の里は案の定横綱に推薦され、土俵入りも披露した。お膳立ては整ったが、後は土俵の上でどうかとなる。


「稀勢の里も優勝したし、次はフロンターレもね。というわけで富士通サッカー部の活躍を見てみるわ」


「富士通から川崎フロンターレになったんだよね」


「初期なんてエンブレムにFUJITSUって書かれてたぐらいだしね。さて、まずは富士通という会社についてなんだけど、元々は古河電工から枝分かれして生まれた会社なの」


「へえ、そうなんだ」


「戦前の話なんだけどね。まず古河とドイツのシーメンス社が組んで、発電機と電動機を開発する会社を設立したの。それが今の富士電機。富士ってのは古河とシーメンス、よりドイツ語的な発音で言うとジーメンスの頭文字を取ったんだって」


「富士電機って言うと今のジェフ千葉の胸スポンサーだね」


「まさに古河グループの中核の一つだからね。で、その富士電機から電話とかの通信部門が分離して富士通信機器製造株式会社が設立されたの。これを略して富士通」


「そんな歴史があったんだね」


「現在はコンピュータなどエレクトロニクス全般の会社として大いに発展しているのはもはや言わずもがなでしょう。今回の広告にあるFACOMってのは企業向けの大型コンピュータだけど、こういう分野も強いし。とにかく、そういう歴史的経緯から古河とは親子対決みたいなところがあったわけよ。今のフロンターレとジェフでそこを気にしてる人はいないと思うけど」


「でもそもそもリーグ違って対戦機会がねえ」


「いつか再び相まみえる時は来るのかしらね。さて、そんな富士通のサッカー部だけど、創部は一九五五年。本拠地は工場のある川崎市で、それは現在まで引き継がれているわ。そこから着実に実力をつけて、一九七二年に発足した日本リーグ二部においてもオリジナルメンバーに選出されたの。翌七十三年には元日本代表のキャプテンで古河電工黄金時代を創出した八重樫茂生を総監督に招聘」


「なるほど。ここで古河グループの絆が生きてくるのか」


「当時の古河は川淵監督だしね。そして八重樫の指導のもと、七十四年には二位に入り入れ替え戦に臨むも、相手が悪かったわね。前期の成績が尾を引いて入れ替え戦に回ったけどブラジルトリオ加入でチーム力大幅アップして直前には天皇杯準優勝に輝いた永大相手に連敗したの」


「ううん、それはしょうがないね」


「八重樫も『歯が立たない』とだけ言い残して去っていったわ。しかし臥薪嘗胆、七十六年には二部優勝を果たし、また入れ替え戦に臨むんだけどね」


「何か事情があったの?」


「この年はねえ、ちょっとややこしい事になってたのよね。つまり永大サッカー部解散騒動と入れ替え戦が大体同時進行してて、とりあえず永大は潰れるしそれによって枠が一つ空くんだけど、それとは関係なくまず入れ替え戦を通常通りに行ったの。富士通の相手はトヨタだったけど、ここでは昇格に失敗」


「あらまあ」


「でも前述の通り永大がなくなるので、それで空いた枠に滑り込んで昇格決定したの」


「負けたのに? それはまた運がいいねえ」


「幸運を掴めたのは二部リーグ優勝を勝ち取ったからだし、最後は実力よ。で、七十七年はそうやって初昇格を果たしたばかりのメンバーが揃っているの」


「エンブレムの亀が可愛いね。甲羅の模様がサッカーボールで、この温泉にでも入ってご満悦って感じの笑顔が」


「現在のJリーグで亀がマスコットと言えば大分トリニータだけど、ちょっと発想が似ていると言えるわね。そして亀と言えば硬い甲羅だけど、それを象徴するかのように成績を見ると十八試合で六失点という守備陣が凄いわ」


「とんでもない安定感だね」


「じゃあここらで選手紹介といきましょう。まず全体的な傾向としては、若い。チーム最年長が二十七歳で、それでいて大卒選手が多いので特にここ三年ぐらいで積極的に補強してるなって分かるわ。昭和二十年代後半生まれでひしめいているもの。それと出身地だけどね」


「富士通は川崎市本拠地だから、やっぱり関東が多いのかな?」


「それが案外そうでもなくて、そりゃあ確かに関東出身もいるんだけどね、非常に分散されているのよ。特定の傾向がないのが傾向と言うか。北は北海道から帯広北高の背番号15来海章と駒大苫小牧の背番号22日光智。どっちも格好良い名前よね。それと札幌大学を経ているのも共通。来海はネルソン来海と呼ばれるほどの技巧派だったらしいわ」


「ネルソン来海ねえ。一体誰が呼び始めるものなのか」


「次は東北だけど、八重樫監督が東北の人だからか他より気持ち多いかも。しかも東北と言っても一時期の日立に秋田商出身が多かったみたいな偏りはなく、石巻、会津、新庄北、米谷工とバラけてるのが面白いところ」


「それで会津の背番号16谷井正と新庄の背番号19海谷輝雄は福島大卒か。海谷輝雄って名前も強そうだ」


「関東は最年長の背番号21福家三男や早大から来た期待のルーキー背番号9今井敏明ら埼玉県から三人いて、それと山梨もちょくちょくいるわ。エースストライカーでパンチパーマっぽい髪型が印象的な背番号11大神田仁は都留高出身だし、そして韮崎高出身の背番号7河込久。この名前に覚えがあるでしょう?」


「あったっけ?」


「あるの。この男は、かつて名相銀に所属していたんだから」


「ええっ! 本当に?」


「嘘つくわけないでしょ。名相銀が休部した時はまだ高卒二年目だったけど、六年ぶりのカムバックを果たしたの。移籍選手ではあるけどチームではこっちは高卒から直接富士通入りした韮崎の後輩でもある背番号2金丸不二雄と並んで最古参だし、そう思うと苦労人っぽい風格漂わせてるように見えるでしょ?」


「それでも二十六歳とかなんだね。当時からするとかなり懐かしい名前って感覚だったのかな」


「中部地方からは岐阜県の大垣工から大商大の背番号10辻一二郎と、長野県の丸子実業から背番号24松浦文哉。それに清水出身の背番号9望月長治と背番号14望月豊仁、高校は別だけどともに東農大出身の二人がいるわ。関西からは京都の紫野高から同大を経て加入した背番号5長谷川修二。中国地方からは広島皆実出身の背番号1守護神小浜誠二や尾道工の背番号13国丸寿」


「尾道工業か。向島にあって、今は学校としては周辺の工業高校と統合して総合技術になったけど敷地は私立の尾道高校のものになったんだよね」


 個人的な話になるが、尾道工業には子供の頃行ったことがある。帰りに缶のジャワティを飲んだけどそれが確か生まれてはじめて触れた紅茶で、香りと言うか独特な香ばしさみたいなのがあって、あれはおいしかった。閑話休題。


「そんなローカルトークされてもどこまで分かる人がいるのか。四国からは苗字だけで徳島県出身かと分かる背番号12板東直彦。九州からも大分工出身の背番号20畑中浩二がいるわ」


「本当に色々いるんだねえ」


「川崎市って東京に隣接した都市だし、そういう意味では地縁に頼らず全国から選手を獲得出来たのかもね。結構当時大学で有力とされていた選手を上手く獲得してたみたいだから。それに加えてブラジルから日系人三人もいるわ。それが背番号3のP・カズオ横山、背番号17のトシオ大木、背番号18のR・ヨシハル新垣」


「横山はやばいね。二十五歳なのにこのえぐれたおでこ。将来ハゲるとかじゃなくてすでに現在進行形だよ」


「まあ、髪の毛はいいじゃない。この中で新垣は清水エスパルス創設時のコーチを務めるなど、長らくサッカー界に携わっていた模様」


「それはここから十五年も先の話なんだね」


「そうね。じゃあこのチームがそこまでどう戦ってきたかって話に移りましょう。まずこの七十七年は、もはや死に体となっていたトヨタに連勝するなど九位で、入れ替え戦も制す。ただあんなに強力だった守備陣も一部リーグでは同じ試合数で三十八失点と崩れているのはまさにレベルの違いよね。次の七十八年もまた九位。しかも十位は古河」


「親子でこけたのか」


「しかしこれが貫禄の違いなのか、順位が下の古河は意地を見せて残留を果たしたのに富士通は降格し、戻ってこなかったわ」


「ああ無情。九位だったのに」


「まあ、そういうルールだからね。その後は八十年こそ二位に入ったものの次第に弱体化して、気付いたら中位をフラフラする平凡なチームに。そんな時期にプロ化が具体化したけど当初はこれに参加せず、企業チームとして生きる事にしたの。でも事情が変わって川崎フロンターレとなり、その当初はここで出てきたような人達の一部がクラブの幹部として重要な役割を担っていたわ」


「おお、まさに歴史の継承だね」


「ただ初期フロンターレはフロントがまずいクラブとして有名で、特に叩かれていたのが当時強化本部長だった小浜よ。例えばJ2初年度の九十九年、優勝と昇格に導いた松本育夫監督を翌年は実権のない社長に祭り上げたりとか」


「ええ、何それは」


「それで昇格した二〇〇〇年も監督が二度変わるなど迷走の果てに最下位降格。監督の二人目が七十七年当時ルーキーだった今井敏明だったけど、ミーティングで『言いたい事は何でも言ってくれ』と選手に告げたところ、ある選手が本当に忌憚ない意見を述べたのに対して監督が『お前に言われる筋合いはない』と言い放ったなんてとんでもないエピソードも」


「グダグダじゃない」


「まだ続くわ。翌二〇〇一年はヤンマーで活躍した堀井美晴を監督に据えたけど、それとは別にピッタというブラジル人を監督として招いていたの。結局ピッタはヘッドコーチに就任したけど自分が監督であるかのように振る舞うし、堀井もいささか統率力に欠けていたようでチームはバラバラになり、結局両方途中で馘首」


「フロンターレってそんなチームだったんだ」


「でもげんなりする話はここまで。かつて守護神だった小浜の後任として控えGKだった福家が就任してから、ようやくまともになったの。社長も変わったしね。それで〇四年にJ2優勝、昇格してから降格なく今に至る」


「後はタイトルを獲るだけってところまでは大きく育ったね。でも獲れない。天皇杯もやっぱり駄目だった。そして風間監督は辞任した」


「稀勢の里が幕内に上がったのが〇四年の十一月場所。それで今年までかかった。フロンターレもそろそろかもね。風間監督は新たなスタイルのサッカーをチームに注入したけどタイトルには届かなかった。サンフレッチェもペトロヴィッチ監督時代はそんな雰囲気だったけど、森保監督が現実を踏まえたサッカーで優勝した。理想のルートはこれでしょう。まあ、そう簡単にいかないから理想なんだけどね」


「後任者の監督としての力量は未知数だもんね。良ければいいけど悪かったら……」


「鬼木監督にどれだけの胆力があるかになりそうね。選手の力量なんてそう違いはないのだから、後は勝てるように戦えるか。ほら、負けた時に『でも俺達のほうが良いサッカーをしてた』みたいに言うけど、それは本心なのか負け惜しみなのかってのもあるし。やはり勝つにはそのための備えがあって、それが万全なら勝てる可能性は高まるし、ペトロヴィッチや風間はそういう事をしないから肝心なところでなかなか勝てないし。そこは好みの問題にもなるけど、やっぱり勝てるなら勝ったほうが幸せを届けられるじゃない」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが響いたので、二人は素早く戦闘モードに切り替えて外へと繰り出した。


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のヨウスコウカワイルカ女だ! この星の蛮族どもを絶滅させてやるわ!」


 川沿いの誰もいないグラウンドに出現したのは、多分もう絶滅しているイルカの姿を模した女だった。しかしこっちまで絶滅させられたらたまらないので、攻撃に抗う人間代表として少年と少女が送られた。


「出たなグラゲ軍! お前達の思い通りにはさせないぞ!」


「そうやすやすと全滅させられてなるものですか」


「ふっ、定められし運命に抗う事もないだろう。私達が引導を渡してやろうと言うのだ。雑兵ども、行け!」


 そうして次々と出現した雑兵を、渡海雄と悠宇は殲滅させた。こっちはマシンなので壊れてもまた作ればいいが、命はそうはいかないものだ。


「よし、雑兵はもう出ないようだな。後はお前だけだヨウスコウカワイルカ女!」


「お互い傷つけるだけの戦いならばもう止めるべきよ」


「何を。戦いはこれからが本番よ」


 ヨウスコウカワイルカ女はそう言うと、懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。出来るなら戦いたくはない。しかし戦うしかないならその運命に従うのみ。渡海雄と悠宇は合体して巨大な暴力に対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 巨体と巨体の滑るような戦いは、最終的に悠宇が持ち前の動体視力を披露して敵の動きを止めた。そして格闘で地面に叩き落とした。


「よし、今よとみお君!」


「うん。エンジェルブーメランで切り刻む!」


 一瞬の隙を逃さず、渡海雄は桃色のボタンを押した。肩から飛び出たブレードを組み合わせて的に投げつけると、ブレードはその巨体をバラバラに切り刻んだ。


「聞きしに勝る威力! 残念だが撤退するしかあるまい」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置でヨウスコウカワイルカ女は宇宙の海へと帰っていった。戦い終わり、気付いたら夕刻になっていた。太陽が沈む時間は日に日に遅くなっている。


 冬も半分以上が過ぎて、これからは冬が深まるのではなく春に近づいていると言えるだろう。薄紅色した夕焼け雲は、二人の目には夢の色に映った。

今回のまとめ

・今度こそはってのを繰り返しすぎると達成してもどうでも良くなる

・富士通サッカー部自体はいまいちフックがなくて地味

・選手の出身地がここまで綺麗にバラけてるチームはそうない

・フロンターレは富士通色が薄れてからが本番

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