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oi05 鶴竜三度目の優勝について

 一年の締めくくりとなる大相撲九州場所は、十四日目に鶴竜が豪栄道を破り、三回目の幕内優勝を決めた。今日はあいにくの空模様だが、これも祝福の涙雨だと受け取れば良いのだろう。


「鶴竜優勝、やったね!」


「昨日の取組、一度豪栄道に攻められたかと思ったけど上手く動いて、見事だったね。これがいつ以来の優勝だっけ」


「もう去年の秋場所以来だから、思えば久々よね。前回は日馬富士と白鵬が早々と離脱して事実上一人横綱状態ながらも稀勢の里戦では変化したり、千秋楽は怪我を抱えていた照ノ富士に屈して優勝決定戦までもつれ込んだりだったし。当時はどんな形であれ優勝してくれたから良かったって気持ちだったけど正直かなりグダグダというか、スムーズな優勝ではなかったのは事実よね」


「それで言うと今回は横綱もちゃんと揃ってた中で好成績だから、文句のつけようがないよね」


「それに内容もなかなかのものだったからしっかりとした優勝という印象が前回よりは強いわね。散々弱い横綱みたいに言われてて、そりゃあ強い横綱とはさすがに言えないけど、これで『弱い横綱』から『弱いほうの横綱』ぐらいまではランクアップ出来たんじゃないかしら」


「そんなまた微妙なアップを」


「一回だけ、しかも際どい勝利だけだとまぐれっぽさあるけど、二度優勝ならまぐれで済ませるには厳しくなるし、後もう一回ぐらい優勝してくれればもう弱いとは言えなくなるでしょう。実際のところ横綱として優勝出来なかった短命横綱とか数名いるわけだし、それと比べると二度優勝してる時点で着実に実績を積み重ねていると言っても差し支えないでしょう。ましてや同時代に強力な大横綱がいる状況においては」


「白鵬ねえ。今場所は分の悪い白鵬にも見事な勝利だったし、かなり調子良いのかなと思ったよ」


「そこは両方よね。悪い時の鶴竜は立ち会いから相手の勢いに気圧されて安易な引き技を繰り出すみたいなイメージだけど、今場所は最終的に引き技で勝つにしてもちゃんと主導権を握った上で引き技をしていたように見えたわ。玉鷲戦とか、一見勢いある相手に押されてるようにも見えたけど実際は土俵内を上手く動いて好調な相手にも対応していたから勝てたわけだし。ただ今場所の白鵬が不調なのもまた事実ではあるけど」


「確かに白鵬は良くなかったね。成績もそうだけど内容も」


「勝った時でも妙にバタバタしてたり、ちょっとおかしかったわね。何度も言われるように衰えが来たのか、あるいは休場明けだから心技体のバランスが崩れているだけなのか。でも昨日の日馬富士戦の逆転とか、鋭い時は鋭いしまだまだ角界の第一人者である事に変わりはないわ」


「今年でも複数回優勝したのは白鵬だけだもんね。それにしても今年の大相撲は、それまではあんまり期待されてなかった人達が優勝を果たしたよね」


「そうね。白鵬最強で優勝はとりあえず白鵬って時代はもう終焉を迎えて、白鵬が軸になるのはそうだけど他の力士にもチャンスが広がっている戦国時代に突入したと言えそうね。まず一発目となる初場所からして琴奨菊が優勝だったしね」


「あれが日本出身力士としては久々の優勝だったよね」


「この持って回ったような言い回しもどうかと思うけどね。まあ単純に日本人力士って言うとモンゴル出身ながらも日本に帰化して日本人となった旭天鵬が二〇一二年の夏場所に優勝ってケースに引っかかるからだけど」


「でもその優勝、本当は期待されてたのは稀勢の里だったのにあれよあれよと琴奨菊」


「稀勢の里ねえ。ここまで優勝と無縁でいられるのはある意味凄いわ。今場所も三横綱を相次いで撃破したと思ったらその翌日は栃ノ心にころっと負ける辺りのダイナミックさはまさに大関の真骨頂。そう言えば旭天鵬優勝の二〇一二年夏場所でも、十一日目終了時点で二差をつける独走状態だったのに終盤四日間で一勝しか出来ず決定戦にすら出場出来なかったという伝説的なV逸を見せたし。オカルトになるけどそういう星の下に生まれたのかと思わざるを得ないわ」


「それはそれで凄いよね。で、琴奨菊に続いて秋場所では豪栄道までが優勝を果たしてしまう」


「しかも全勝優勝。まさか最後まで突っ走るとは思わなかったわ。でもあの首投げで逆転勝ちした日馬富士戦は凄かったわ。基本的に悪癖とされている首投げでも、あのシチュエーションで成功したらさすがに褒めるしかなくなるというね」


「当時大阪出身力士は久々みたいな報道もあったよね」


「前回はなんと一九三〇年らしいから、随分よね。まだ今のプロ野球も発足してない時代なんだから。で、前回優勝した山錦善治郎さんはその二年後に起こった春秋園事件という、相撲協会の体質改善を求めてのストライキから大勢の幕内力士が相撲協会を離脱したという争議の際に、相撲協会を脱退したの」


「そんな事件があったんだね」


「しかも単に巻き込まれただけじゃなくて、主導者だった天竜や大ノ里の参謀役として主導的な役割も果たしていたらしくてね、一度脱退しても元に戻った力士は結構いる中でも山錦が戻る事はなかったわ。それで天竜や山錦らは関西で別の大相撲を立ち上げたけど、結局元の相撲協会の巻き返しにあってこれはジリ貧で潰れたの」


「独立リーグみたいなものか。やっぱりなかなかうまく行かないものなんだね」


「歴史や伝統をかなぐり捨てて一から始めるのは本当に大変な事よ。とにかく、結果的に天竜達は負けたから、歴史は勝者が作ると言わんばかりに『事件は天竜の私怨で起こったものだ』みたいな言い分がまかり通ってたけど、今となっては天竜の主張はかなりまっとうなので、実際に相撲界を憂いての行動だったと評価されているとか。で、山錦だけど、何か調べると山口組とかに行き着くのがちょっとアレだったり」


「ううむ、それはまた」


「そっち系の繋がりはねえ、現在では決定的にNGなわけだしねえ。野球界においても巨人の選手が質の悪いのと繋がってたり、芸能界でも昔は当たり前だった事が当たり前じゃなくなってるのは、まさに倫理観の変化よね」


「まあ暴力団が平気でのさばる世界になっちゃまずいよね。それで話を元に戻すけど、先場所の優勝によって今場所は豪栄道の綱取り場所なんて言われてたけど、やっぱり駄目だったね」


「まあ、そんなもんよ。元々豪栄道は何度も負け越して、勝ち越した時も八勝とか九勝がせいぜいの弱い大関と見られていた力士。むしろそんな豪栄道が綱取りに挑戦出来たという事実だけでも驚嘆すべきと言えるわ」


「大関としては基本的に稀勢の里よりは下の印象あるよね」


「それでも優勝したかしなかったかではかなり変わってくるでしょうけど。とにかく琴奨菊や豪栄道に出来て稀勢の里に出来ないはずがないんだし、さっさとシャキッとした場所を作ってしまえばいいのよ」


「どうも爆発力がないと言うか、安定してはいるけど肝心なところで必ずこけちゃうみたいな印象だよね」


「琴奨菊は十四勝、豪栄道は全勝優勝だったけど、稀勢の里はそういう大勝ちする場所がないのは苦しいところよね。それでもいつかは、とか言ってるうちに三十歳突破しててもう若くはない、つまり残された時間は短い存在となっている。現役を終えた時に『強かったけど優勝はなかった』で終わるか『あの優勝した場所は素晴らしかった』と讃えられるかよ」


「前者だとイメージが曖昧になってしまうよね」


「もうこれから何を残せるかってフェーズだからね。待ったなしよ」


「これから数場所が大事になるね。優勝はしなかったけど有望な力士という話だと、石浦って出てきたね」


「白鵬の内弟子だったらしくて体格は大きくないけど鍛え抜かれてて、さすがに終盤だと疲れが出たのか連敗で終わったけどまずは石浦ここにありとアピール出来たわね。今後はどれだけ上に行けるか分からないけど、より個性を磨いていけば面白い関取になるかもね」


「それにしてもこの石浦もそうだし遠藤に正代と、本名そのまんまの力士がやけに多い気がするな。高安もか。十両でも宇良、佐藤、小柳、里山、山口ともはや一大勢力を形成している」


「山口なんて一度大喜鵬という名前を得たのに、病気のせいで一度十両の下の幕下のまた下の三段目まで落ちた事もあって本名に戻したみたいね」


「ああ、そういう事もあるんだね」


「ゲン担ぎよね。人智を超えた部分にすがるというね。たまに変な登録名に変更する野球選手とかいるけど、根本はそれと同じでしょう。今江年晶って何よ。それはともかく力士の四股名は、入門当初は本名であっても途中でより力士らしい名前に変わるものよ。分かりやすいタイミングとしては関取となる十両昇進時とか」


「そういう意味だと本名だとまだ仮免許みたいなもので、本格的に相撲だけで生きていく証としての四股名みたいなニュアンスもあるのかな」


「でも彼らは変わらなかった。まあたまには素質抜群でより上を目指してほしいという事かなかなか名前変わらない人もいるけどね。それで言うと佐藤は幕内昇進で改名してもう師匠は名前も考えているらしいし、遠藤は三役に入ったら部屋伝統の名前である清水川に変更するって話だけど、他はどうか。まさか名前付けるのが面倒だったって訳じゃないでしょうし、なら外国人力士が増えた中で俺は日本人なんだというアイデンティティを主張しているのかも、とか無責任な事を言ってみるわ」


「本名のままだとちょっと力士っぽくないと言うか、やっぱり何かそれっぽい名前にならないとって感じはあるよね」


「昔の力士みたいにとりあえず山って付けるとか? 石浦山とか遠藤山みたいな」


「それはそれで取ってつけたみたいだなあ。ああそうだ、今日はJ2のプレーオフもあるね」


「これもまた大事な試合よね。三位の松本と六位の岡山、四位のセレッソと五位の京都が対戦となるわ。まず今日の時点でこの中から半分が脱落となる」


「厳しい戦いだね。それで結果はどうなると見る?」


「それが分かったら苦労しないわ。この戦い、結構番狂わせも多いしね。もう一昨年だっけ、山岸のゴールとか誰も想像しなかったでしょう。未来を変える真剣勝負だからこそ、信じられない事だって起こるものよ。それと水曜日の勤労感謝の日にはJ1のチャンピオンシップもやってて、川崎が負けてたわね。稀勢の里みたいだったわ」


「相手が鹿島だもんね。何となくそんな気がしてた事が実際に起こってしまったというか」


「まあ、強いところが勝つんじゃなくて勝ったところが強いというベッケンバウアー理論で行きましょう。実際ここで絶対に勝たなければならないって試合にちゃんと勝つには相当な強さが必要なんだからね」


 このような事を語っていると、敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので二人は素早く着替えて雨の街へと飛び出した。


「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のカワラヒワ女だ! この汚い星を潰してくれるわ」


 スズメと同じくらいか、むしろ小さいという黄褐色の野鳥の姿を模した戦闘員が雨の道路に出現した。もっと天気が良ければ翼の黄色が映えるのだろうが、くすんだ空ではその姿もいまいち風采が上がらない。しかし放っておけば危険なのは間違いないところだ。


「出たなグラゲ軍。お前達の企みはここまでだ」


「今日みたいな日を地球最後の日にしたくないからね、本気で戦うわ」


「むう、出たなエメラルド・アイズ。邪魔者どもめ。誅してくれるわ。行け、雑兵ども!」


 ぞろぞろと出てきたマシンの雑兵たちを、渡海雄と悠宇は降りしきる雨のように次々と倒していった。そして残る敵はただ一人だけとなった。


「よし、これで雑兵は片付いたか。後はお前だけだなカワラヒワ女!」


「こんな天気だし、すぐに帰ってくれてもいいんだけどな」


「ふん、このような汚らわしい天気をなくすためのグラゲ化だ。それを分からぬ愚か者は、死ぬしかなかろうよ」


 そう言うとカワラヒワ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦うしかないようだ。覚悟を決めた渡海雄と悠宇は合体してそれに対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 くすんだ雲を吹き飛ばすような激戦を繰り広げる巨体二つ。しかしメガロボットのほうがパワーに優っていたので、次第に優位な体勢を作っていった。


「よし、今よとみお君!」


「うん。ここはエンジェルブーメランで勝負だ」


 一瞬のタイミングを見計らって、渡海雄は桃色のボタンを押した。肩から射出されたブレードを組み合わせてカワラヒワロボットに向けて投げると、ブレードは不規則な変化の後に確実に巨体をえぐっていった。


「くっ、ここまでか。仕方ない、脱出する」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってカワラヒワ女は宇宙へと戻っていった。なお鶴竜は千秋楽でも日馬富士に勝った。最初は日馬富士に勢いがあったように見えたがそこで慌てずしっかり受け止め、冷静に逆襲して寄り切った。この落ち着きが今場所は違ったように思えた。


 そしてJ2プレーオフの結果として、まず松本対岡山は岡山が先制するも後半に松本が追いつく。引き分けのままなら松本昇格だったが、そろそろ試合終了かという後半アディショナルタイムに赤嶺が決めた。劇的なゴールで岡山が勝ち抜いた。


 そしてセレッソと京都。前半にセレッソが先制も後半に京都が追いつく。京都としてはもう一点必要だった。終盤は攻めにも勢いがあったが及ばず、セレッソが引き分けを勝ち取った。


 これで松本と京都はJ2残留確定で、岡山かセレッソが昇格となる。初挑戦か復帰か。いずれにせよ熱戦となるのは間違いないだろう。

今回のまとめ

・今場所の鶴竜は内容が良かったので安心して見られた

・朝青龍から白鵬と一強時代が続いたので混戦状態は歓迎

・本名系力士はやっぱり何か変えてもらったほうがいい

・この結果で運命が変わるという試合に勝てるのは強い

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