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vm14 2016年Jリーグ最終節について

 秋は深まり、日差しも時に冬の眼差しを帯びるようになった。幸い今日は秋色の濃い、穏やかな光に包まれていたので渡海雄と悠宇は公園で遊んでいた。


「ねえねえ聞いた? 二〇一九年の大河ドラマはオリンピックがテーマになるって」


「らしいわね。時期的にはこれ以上ないタイミングだけど、どういう感じになるのか」


「一応日本が初出場となった一九一二年のストックホルム大会から一九六四年の東京までって事らしいけどね。大河ドラマはもっと古い話を取り上げるものと思っていたよ。戦国幕末時々源平みたいな。今年が真田で来年は井伊直虎という女性ながら城主となった戦国時代の人物、そして再来年が西郷隆盛だっけ」


「でもまあ、八十年代には近現代史がテーマの大河ドラマが連発されていたと言うし、そういう前例があるんなら今回のもありって事なんでしょう。しかしあんまりまとまりのないオムニバスになると面白さがかえって削がれそうだし、ある程度中心人物を決めてからってなるのかしらね」


「今のところはそういうのも未定みたいだけどね」


「まあ仮にって話よ。そうなるとやはり初出場となったストックホルム大会の関係者からってなるでしょうね。まず本命としては嘉納治五郎。元々日本各地に様々な流儀があった柔道とか柔術と呼ばれる一連の武術をまとめて、現在の柔道の総本山と言える講道館を創始した人よ」


「へえ、そんな人がいるのか」


「まずね、やはり元々は実戦で使われてたものだからかなり危険な技があったり、武器を使う流派も多かったけど、嘉納はそういうのは排して、そして単に実力を競うだけでなく精神面の鍛錬も重視したの。東京高等師範学校の校長を務めるなど教育者でもあったしね。で、IOCの委員でもあったので、ストックホルム大会では日本選手団の団長となったの」


「何か色々と凄まじいねえ」


「実際実績はドラマの主役にもなれるんじゃないかってものだし。その後、一九四〇年の大会を東京に招致する事に成功したの。しかしその二年後、IOCの総会から帰国途中の船の上で亡くなり、その時の東京オリンピックも戦争に突き進む国内情勢のせいで返上となってしまったの。ドラマ的にはここで第一部完って感じじゃない?」


「うーん。でもやっぱり戦争とスポーツって相容れないものだね」


「まったくね。プロ野球選手なんかも沢山亡くなってしまったし、生きてても変な形でキャリアの中断を余儀なくされたり、戦傷や精神的な傷によってピークを縮めてしまったり、ろくな事はないわ。そもそも古代のオリンピックは戦争中であっても開催時は一時休戦するようなお祭りだったと言うけど、近現代の世知辛さよね」


「今もパッと戦争やめればいいのにね」


「昔よりも世界は広がったからね、そう簡単には行かないでしょう。ちょっと前もアメリカ大統領選挙でトランプが勝ったでしょう。ニュースとかだとさもトランプが出てきてあまつさえ勝ってしまったからアメリカの分断が深まったみたいに言ってるけど、むしろアメリカの分断が深かったからこそトランプみたいなのが存在感を持ってきて選挙でも支持を集めたんじゃないのって思うけど」


「トランプねえ。どうなるんだろうねえ。極端な意見が多いって言うけど、選挙に勝ってからはそれなりに現実路線に舵を切ったとも聞くし」


「やっぱり駄目だったってなるかも知れないし、案外うまくいくかも知れない。ただ来年からしばらくはトランプが世界の中心となる事だけは確実よ」


「外からの敵にやられる前に内側から食いつくされるとか、そんなだと困るけどなあ」


「地球はそんなに弱くないと信じたいものだけどね。さて話は戻るけど、ストックホルム大会の日本選手団は総勢二名で、ともに陸上競技で短距離の三島弥彦とマラソンの金栗四三って言うんだけどね。この二人も面白いエピソードが色々あるから、そういうのを上手く使うんじゃないかしら」


「オリンピック出場が当たり前じゃなかった時代にあえて出場を決めた人達だから、そりゃあ色々あったんだろうね」


「戦後、東京オリンピックに関しては以前色々言ってきた人達がごっそり出るものと思うけど、ただアスリートのみならず政治的に活躍した人達も出番が多くあるでしょうし。でも実際はね、まだ出演者もタイトルも未定なんだからあれこれ推察したところで終わってみると全然的外れでしたってなるかも知れないし、脚本の宮藤官九郎がどう考えているかよね」


「もうしらばらくは死ねないねえ」


「うん。それとね、今日はJ2やJ3の最終節が行われるんだけど、J1はとっくに終わってるという何とも微妙な時期でもあるわ」


「その代わりにワールドカップのアジア予選があったって感じなのかな」


「サウジアラビア戦ねえ。毎試合のように『絶対に負けられない戦い』と言われる中で今回は本格的に負けられない戦いだったけど、結果を残せたのが幸いよ」


「しかもスタメンから本田と岡崎、香川を外しつつ」


「特に香川とか代表でもクラブチームでも活躍出来てないし、外れるのはまったく不思議ではないわ。実際後半出場してからも大した働きじゃなかったし。これから香川を実力で押し出すような選手が次々出てくるようなら日本サッカーも明るいんだけど」


「そして戦力の底上げには国内リーグ、だね」


「そうね。それでJ1から言うけど、まず今決まっているのはファーストステージ優勝かつシーズン勝ち点三位は鹿島、セカンドステージ優勝かつシーズン最多勝ち点なのが浦和、シーズン勝ち点二位が川崎で、これらのチームによってチャンピオンシップが行われるという事よ。浦和はシーズン最多勝ち点を一番多く稼いだけど、まだ優勝ではない」


「ううん、中途半端な立ち位置だねえ」


「去年のサンフレッチェもガンバとの二戦が終わるまではそういう立場だったんだからね。あれでもし負けてたら去年はガンバ優勝サンフレッチェ二位だったわけだし、今思っても本当によく勝ってくれたと安堵する心でいっぱいよ」


「でもこの制度は今年限りなんだってね」


「当初から批判は多くて、それでも私はやるんなら徹底的にやってエンターテインメントを極めればと思ってたんだけどね。ほら、ヨーロッパの主要リーグではこんな事しないって言うけど日本はヨーロッパでもないしJリーグは主要リーグでもないんだから。でもまあ、そう決めたならそれでいいんじゃないかとも思うわ。どっちを選ぶにせよ楽な道ではないんだし」


「そもそもチャンピオンシップはレギュレーションとか分かりにくかったよね」


「うん。でもそこは工夫の一環だしね、あんまり悪く言いたくない気持ちはあるわ。まずJリーグ開幕当初も二ステージ制で、それぞれのステージの覇者が年間王者を懸けて対決というシンプルな形式だったけど、それはそれで欠陥が顕になったから廃止されたの。例えば年間勝ち点はトップだったのにステージ優勝しなかったので優勝資格なしのチームとか、逆に両ステージ優勝したためチャンピオンシップ開催なしとか、ともに実際にあったケースよ」


「前者はシーズン通して頑張ったのに報われず悲惨だし、後者もそれだけ強かったって事だけどせっかくの大会が消滅ってのもねえ」


「確実に盛り上がる試合をみすみす手放すのはもったいないでしょう。まあ来年以降はリーグ全体の方針としてそれをするわけだけど。無駄にややこしかったって印象を残しただけの、徒花だったわね」


「あんな無理やり導入したくせにね」


「例えばプロ野球だと、最初パリーグだけでプレーオフやってた頃なんかはシーズンを首位で終えてもプレーオフ敗退したら優勝じゃなくなってたけど、それじゃああんまりだって事で今はプレーオフ敗退しても優勝に数えられるようになってる。そういう風に微調整しつつより広く受け入れられるような制度を作っていこうって気はJリーグにはなかった。チャンピオンシップの賛否以上に、そういう場当たり的な対応が何だかなって思うわ」


「でもJ1のほうはともかくJ2の昇格プレーオフは案外受け入れられてるよね」


「変な話、それまでも三位昇格チームはあっさり降格してたし、その枠が三位だろうが六位だろうが大して変わらないって部分もあろうかと思うけどね。去年プレーオフ昇格の福岡もやっぱり落ちてしまったし。そして今年のJ2だけど、なかなかの熱戦に終わったわね」


「最終節を残して札幌、清水、松本が競り合い。結局自動昇格に決まったのは札幌と清水で、松本は後一歩届かなかった」


「札幌は当初独走かと思われていたけど終盤に失速して、でも最後の最後で意地を見せたわね。清水も当初はもたついてたけど、逆に後半戦一気に伸ばしてきた。最後は九連勝フィニッシュだからやるものよ。松本はセレッソと京都、そして岡山が出場する入れ替え戦に臨むけど、こうなるともう三位だからどうってのは関係ないわね」


「この中だとセレッソとか選手は揃ってるように見えるけど」


「本来なら自動昇格しないといけないところだけど、不甲斐ないものよね。そして岡山は初出場。毎年失速してたけど、ようやくここまで来たわね。中国地方からトップリーグに複数となるとそれこそ四十年ぶりだし、頑張ってほしいとは願っているわ」


「中国地方はとにかくサンフレッチェ一強ってところあるもんね」


「まあ歴史も伝統も桁違いって事だけどね。まあついに二桁まで落ちたものの別に不思議がられていないまでにすり減った千葉みたいに歴史と伝統があろうが厳しいところもあるんだけど」


「一方で北九州はJ3に降格して、金沢は栃木との入れ替え戦に臨む事となった。北九州とか去年まで良かったのに、落ちる時はあっさり行ってしまうものだね」


「プレーオフ圏内で終えたシーズンはスタジアムのために昇格の権利なく、ようやく来年新スタジアム完成なのにJ3で迎える。いかにも理不尽だけど、それがルールだから」


「冷たいものだね。北風よりも」


「だからと言って温情を見せるものでもないでしょ。大分は戻ってきたし、北九州も頑張ってそうなればいいのよ。それとJ1から降格したのは福岡、湘南、そして名古屋。福岡と湘南は戦力が足りなかったけど、名古屋はグロテスクな話がボロボロと出てきて顔をしかめるほどだったわ。新人の小倉に監督兼GMを任せるという判断は明らかに間違っていたけど、そういう判断を犯すフロントはやはり大きな問題を抱えていたという事ね」


「でも一方で風間監督就任だの佐藤寿人移籍だの景気いい事言ってるけど」


「佐藤寿人ねえ。今年はあまり良くなかったし出番も減ってたから移籍かなって雰囲気は漂ってたけど、そこはプロフェッショナルとしての判断になるし、残念だけど仕方ないわ。年齢的にもね、自然の摂理とさえ言えそう」


「今の名古屋に移籍とかなかなかチャレンジャーに見えるけど」


「まあ決めたのなら頑張ってくれるといいのよ。前線で言うと、ウタカが得点王になったけど全体的な調和などを考えると宮吉なんかに期待したいところ。それとアンデルソン・ロペスもフィットしつつあるし、もっとはまってくればかなり強力な武器となるはず。他に補強もあるだろうし。しかし森崎浩司も引退で、一つの歴史の終わりをまざまざと見せつけられている気分よね」


「そういえば千葉のドーピング問題も、どうなるんだろうね」


「基本的には不注意なのかなとは思うけど、いないならいないものとしてチームを構成しなきゃいけないものよ。幸いシーズン途中に獲得した野上という選手が一定のパフォーマンスを見せてくれたし、来年は彼が中心になるかもね。でもまだ補強も決まってないし、あんまり先の事は分からないわ。それと大相撲。鶴竜がここまで頑張ってるけど、いつまで持つか」


「豪栄道の綱取りとかやってるけど、今のところ一敗」


「先場所も『やけに好調だけど、そのうち負けるだろう』と思ってたら最後まで行ったし、どうなるのか。ここまで一敗はなかなかの数字だけど、上位戦はこれからだしね。肝心なのは大関や横綱相手にどれだけの戦いを見せられるかよ」


「険しい道だね」


「最高位だもんね。鶴竜がやけにすんなりクリア出来たほうが珍しいぐらい。そう言えば横綱三人がちゃんと揃ってるのも何となく久々な気がするわね」


このような事を語っていると、敵襲を告げるフラッシュが輝いたのでしばし中断して戦闘態勢に移行した。


「しゃあおらあ! ワシはグラゲ軍攻撃部隊のオニカマス男じゃ! バシッと一発かましたらあ!」


 冷たく波打つ海岸に、やけに威勢のいい男が現れた。でかいし歯も鋭く、凶暴な性格で人間を襲う事もあるため、地域によっては鮫より危険ともされているらしい。さすが鬼。そして英語で言うとバラクーダ。


 そんなオニカマスの侵攻に対して、年暦的にも酒が飲めるわけではない二人の少年と少女が立ちはだかった。


「また出たなグラゲ軍! お前達の思い通りにはさせないぞ」


「あんまり迷惑かけると承知しないわよ」


「おう! やってみいや! その前に我らこそ殺したらあ! 雑兵ども!」


 オニカマス男の指示によって次々と出現したマシンの雑兵を二人は撃破していき、ついには全滅させるに至った。


「おう、やるのお」


「雑兵には負けないぞ。まだお前がいるんだからな、オニカマス男」


「こんなところで死んではいられないものね」


「じゃかあしいわい! だったらわしが終わらせたらあ!」


 そう言うとオニカマス男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。明らかに好戦的だったので回避は難しいと思っていたが、やはり戦うしかないようだ。渡海雄と悠宇は覚悟を決めて、合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 オニカマスロボットの突撃は強烈だったが、悠宇はうまくバランスを整えると逆に相手の横腹にカウンターのパンチを炸裂させた。そこで生まれた一瞬の隙を、渡海雄は見逃さなかった。


「よし、ここでフィンガーレーザーカッターだ」


 渡海雄は群青色のボタンを押した。指先から発生した高熱線レーザーが、オニカマスロボットの胴体を細切れに引き裂いた。


「ちい、上等! 今日のところはこのぐらいで見逃してやらあ! 覚えとけよ!」


 捨て台詞を吐くだけ吐いてから、機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってオニカマス男は宇宙へと帰っていった。世界にはまだまだ知らない事は多いので、おちおち死んではいられないものだ。

今回のまとめ

・オリンピックがテーマの大河ドラマとか興味深い

・どうせ徒花に終わるなら何か変な事を起こしてくれるといいのに

・時の流れによる選手の入れ替わりは宿命だしただ従うのみ

・豪栄道綱取りは難しいと思うけど挑戦の資格を得られただけで十分

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