rm22 優勝記念 今年の野手陣について
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
はい、優勝です。九月十日、土曜日、東京ドーム。巨人戦に勝利して広島東洋カープ二十五年ぶり七度目のシーズン優勝が決定した。世の若者にとっては事実上初めての優勝となるのではないか。渡海雄と悠宇もこの初体験の感激に打ち震えていた。
「優勝!」
「優勝!!」
「やったね!」
「本当にね! 素晴らしいわ。心の中、体の中が温かいもので満ち溢れている感覚がずっと続いているみたい」
「二十五年ぶりなんて、本当に遠い昔の話だよね」
「でももはや歴史は塗り替えられたわ。まだシーズンは続くしパリーグとか今日本ハムが逆転してどうなるかってところだけど、とりあえず今日はカープでいきましょう」
「そうだね。まずこの一週間をおさらいしようか。そもそもマジックが残り四という段階で中日と三連戦。場合によっては地元胴上げの可能性もあったけど」
「カープは三連勝したけどさすがに巨人が意地を見せたわね。まあ最初から無理筋だったし、仕方ないわ。しかし三戦目ねえ、終盤までは阪神リードだったけど、それまで好投してきた頭髪の危うさに定評あるルーキー青柳が連続デッドボール与えて不穏な空気が漂ったかと思うと……」
「藤川が……。シナリオでもあったかのように綺麗にレフトスタンドまで吸い込まれていったね」
「行くな! 行くな! 超えるな! ってところだったけど、まあ現実なんてそんなもの。そして翌日、カープは移動日だったけど巨人はヤクルト戦。この結果によっては移動日優勝決定もあったけど、無事巨人が頑張ってくれたわ。変な言い方だけどね」
「そうなったら興醒めの極致だったろうね。これでやはり優勝は授けられるものではなく勝ち取るものなんだとはっきりしたし結果オーライだよ」
「うん、そこね。そして運命の九月十日を迎えたわ。先発は黒田。地獄の時代を生き残ったただ一人の投手。いきなり坂本にホームラン打たれたけど、この程度のビハインドでくじけるカープじゃなかったわ」
「逆転多かったもんね。そしてまず三回、相手のエラー絡みから一点取ると、次の四回には鈴木と松山の連続ホームランで一気に逆転。五回にはまたも鈴木が、今度はツーランで一気に差を広げた」
「一点目は一塁ランナー田中が一気にホームまで帰るスピード、走塁意識の高さを示したものだしホームランは言うまでもなし。走塁と打撃の両輪が噛み合っていた今シーズンのオフェンスを象徴していたわね」
「結局黒田は六回三失点で降板。今村、ジャクソン、中崎のリリーフも巨人の反撃を一点に抑える。ついでにまたも相手のエラーによる一点を加えて、最終的な点差は六対四」
「そしてラストバッター亀井を遊ゴロに打ち取って試合終了となったわ。七回宙に舞った緒方監督に続いて、黒田と新井も胴上げ」
「胴上げの前の、二人が抱き合ったシーン、良かったね」
「うん、良かった。長かったもんね。色々あったよね。でも全てはこの時のためと思うと苦しくなんて……、というわけでやっと本題に入るけど、野手に関してはやはり打席の多さで見ていきましょう。試合数とかも考えたんだけどね、やはり打席に立つってのは大事だから。無論、成績は今日九月十二日時点で」
「そうだね。それでいくと、一番多かったのは田中広輔だね」
「一番打者として固定されてたし必然よね。田中のいいところとして打率は二割七分とかだけど、四死球が多いので出塁率は一割ほど上がっている点よね。一番打者にとって大事なのはいかに出塁するか。それにはヒットも四球も同じという考えよね。実は去年まではそこまで出塁率が高くなかったけど、石井コーチはそういうとにかく出塁しろって考え方だそうで、これが上手くはまった一例ね」
「しかもホームランも二桁打ててるもんね。盗塁も三十行くかってところだし、バランスいいよね。次に多いのは丸でその次が菊池」
「菊池は少し欠場があったので減ってるけど、ほぼフルシーズンで一番田中二番菊池三番丸の上位打線が固定されていたのはカープの強みだったわ。しかもポジションも二遊間にセンターというチームの背骨となるセンターラインで、ここを固定出来たのは本当に大きかった」
「打撃だけでなく守備もさすがだったよね」
「特に菊池はね、野村やヘーゲンズは相当助けられたでしょう。守備に関しては菊池が基準になって、そうじゃないと見てても物足りない体になってしまったわ。丸もセンターとして盤石だし、四球を選ぶ選球眼に関してもリーグ屈指。無論、パワーもあるし足も使える。それは単に盗塁ってだけじゃなくて走塁の面でもね。例えばランナー一塁からヒットが出て、毎度二塁ストップか三塁も陥れるかでは相手に対するプレッシャーも全然違うわけでね」
「ああ、確かにそういう走塁多かったよね。攻撃のスピード感というのか、緒方監督が本来やりたかったのがこういうのなんだなというそつのなさ、良かったよね」
「この三人に、更に加わってきたのが鈴木誠也よ。ああ、鈴木誠也。優勝決定戦という最大限にプレッシャーの掛かる試合で最高の活躍を見せた男。まさにスターとなる男の輝きよね。シーズン前の怪我が改めてもったいなかったわ」
「あれがなけりゃもうちょっと成績も伸びてたろうにね」
「そんな仮定がなくても素晴らしい数字だけどね。ただ鈴木は明らかに才能あったし、いずれこれぐらいやるだろうと思ってた人は私含めて多かったでしょう。それと比べると一つ飛んだけど新井の成績はサプライズだったわ」
「現在三割に打点リーグトップ。去年の時点でもまさかここまでやるとはという成績だったのに、一歳年齢を加えた今年は落ち着くどころかもっと伸ばしてきた」
「ホームランの数も回復してるし安定感抜群の中距離打者として、でも案外不動の存在ではなかったのが今年のカープのうまいところよね。そうは言ってもやはり年齢が年齢だからという事でしょうけど、ちょくちょくスタメンから外れる試合もあった。つまり休養よね。安定した成績の裏には無理をさせすぎない、首脳陣の大局を見た采配のお陰もあるでしょうね」
「だから試合数がトップの田中や丸と比べると十試合ほど少なくなってるんだね」
「田中、菊池、丸の三人が六百打席前後で、新井、鈴木は五百前後と多少差があるけど、でもちゃんと規定には到達してるからね。しかもいずれも好成績。唯一のヒーローがいるわけではないから、MVP投票は大変そうよね」
「確かに。投手も含めた中であえて誰か一人を選ぶ作業は難航しそうだ」
「ジョンソンも良かったしね。守備も考えると菊池の貢献は大きいし、新井もドラマがある。一気に台頭して打撃成績抜群な鈴木もいる。さすがに黒田はないよね。一時期ヤクルトの山田が全冠王の勢いだった時はそっち行っちゃうかもと思ったけど怪我もあって落ち着いたしね」
実際本当に難しい。個人的な好みとかも含めると、菊池。ルーキーイヤー、何でもないゴロを異様にアクロバティックに処理していた時のスピード感が忘れられない。はっきり言ってわけが分からなかった。粗っぽくて山猿のようだった男がよくぞここまで。新井は逆に大ベテランでも全然洗練されてないのが凄いところだけど。
「さすがに広島から選ばれるよね。まあ先の話だけど。そして規定未到達選手で一番打席が多いのはエルドレッド」
「打席数は三百を越した程度で、レギュラーと準レギュラーの中間って感じの数字よね。それでもチーム二位タイとなる十九本塁打を放ってるし上にいればレギュラー枠だったけど、怪我もあったし外国人枠もあったからね。ルナも五十試合以上出てるわけだし」
「当初はエルドレッドとルナが両立してたけど、ルナ負傷で上がってきたヘーゲンズが抜群に良かったから野手に割ける枠が一つ減ったもんね。両者にとってはシビアな枠争いとなってたね」
「そしてそのルナだけど、まあ打撃に関しては概ね期待通りだったと思うわ。それと走塁意識の高さや他の外国人選手に声を掛けたりとかのベテランらしさも好感度大。ただ加齢もあってサード守備は厳しかったわね」
「エラー無茶苦茶多かったよね」
「ファースト専任だとこの成績じゃちょっと力不足かなってところ。ただ今年はサードの新外国人の失敗が多かったわ。ヘイグ、ロマック、モレル。特にヘイグの評判は高かったのに既に帰国したと言うし、難しいものよね」
「ただサードは安部もかなりやってくれたよね。もう百試合も突破してるしホームランも六本打ってる」
「安部ねえ、確かにここまでやれるとは思わなかったわ。打率もやけにいいしね。もっと鈍くて弱々しい印象だったけど、やるものよね」
「そしてそんな安部と現在打席数が同じなのが石原」
「終わってみると石原だったわね。首脳陣としても若くてパワーもある會澤に期待してるはずで、実際會澤も二百打席は突破してるんだけど、シーズンが進むに連れて石原と組む投手が増えていくのよね」
「打撃は弱いのに、まさに欠かせない存在だったね。バレンティンにバットぶつけられて登録抹消になった時に連敗して、あれはきつかった」
「私はプロレベルのリードなんて語れないし結果論になるけど、石原がここまで使われてるって事は會澤と比較してキャッチャーとしての力量が優れているんでしょうね。まあ弱い打撃と言ってもいつの間にか打率二割台にまでこぎつけてるんだけどね」
「ずっと一割台で打撃の期待値はほとんどなかったけど、夏場に入ってから何気に打つようになってるもんね。一方で會澤はホームランこそ打ててるものの案外打率は低くて、まだまだ精進が必要って事かな」
「石原だって若いころはリードを叩かれたと言うわ。一方で打撃に関しては三年目に二割八分八厘で、二桁ホームランの経験もあるんだから打てる捕手ではあったのよ。打撃はレギュラーを掴むきっかけになるし、會澤も使われるうちに覚えていくものがあるでしょう。石原は今三十七歳。會澤もまだこれからよ」
「今出た石原、安部、ルナ、會澤に加えて松山も同じぐらいの打席数となってるね。つまりは二百台という」
「松山も、良かったわね。優勝決定戦で二桁ホームランに乗せたほどにパワーがあるし、アベレージもなかなか。左右で差があるしポジション的にもレギュラーに固定するほどじゃないけど使い方によっては相当戦力になる、まさに準レギュラーの典型のような選手よ」
「外国人と争うポジションだから大変だよね。そんな準レギュラー組の下は一気に減って百九打席の下水流や百二打席の小窪」
「下水流は交流戦の終わり頃からの活躍が印象深いわ。開幕戦で抜擢されたもののさっぱりだったのもあり基本的に期待値はゼロに近かったので、想定外の活躍だったわ。いかにも飛ばしそうなフォームから結構な長打力を披露して、まあ最後までは持たなかったけど必要なタイミングで必要な戦力になってくれたんだから十分十分」
「小窪は、去年までは代打の切り札的な存在だったけど今年はいまいちだったね」
「ただキャプテンとしての貢献はあったみたい。アマチュア時代からずっとキャプテンを務めてきた選手らしく、まさに適任だったと言えそうね。それともう少しで百というところで二軍に落ちた天谷もいるけど」
「打率一割台。終わってみるとあんまりだね」
「春先は割と頑張ってたけどね。ここからまた打席数半減して西川や堂林といった内野手。西川はルーキーながらナチュラルにヒット打てる選手で、センスを感じるわ。パワーという点では物足りない部分はあれど、将来どう伸びてくるか楽しみよね。二遊間だと菊池や田中を押しのける必要があるので大変そうだけど」
「堂林はどうも存在感が薄れてるみたいで」
「サードはまだ塞がっていないからチャンスは十分にあるわ。それを掴めるかはもう実力の世界よ」
「そこからまた半分ぐらい減って磯村、岩本、赤松が二十打席到達者で、野間や梵も二桁到達してる」
「この中だと赤松は別格よね。何ってったって、試合数が段違いだもの。代走からの守備固めとしては絶対に欠かせない存在として十二盗塁決めてるし、それと打数は少ないものの謎のハイアベレージを記録してるのも地味に特筆もの。その使われ方からして当然だけど打席に立つのは主に試合終盤なので、西武戦のサヨナラコリジョンを誘発するヒットとか印象的な一撃も多かったわ」
「それと十二打席でヒットゼロの梵も……」
「数字的には後十本で千本安打だから、さしあたってはこれが目標だとは思うけど、優勝体験だけしてあっさりと落ちてしまったわね。ただ実際内容は良くなくて、残念ながら衰えたと言わざるを得ず……」
「時は流れていく。厳しい現実だね」
「その分若い選手が伸びてきている。宿命よね。梵はどこまで抗えるか。それと若手ながら今年はさっぱりな成績に終わった野間だけど、まだこれからだと思っているから」
「来年は期待したいね。さて、打席数一桁のほぼ出番なかった選手としては土生、庄司、船越の三人」
「土生はようやく一軍デビュー出来て、しかもスタメンでヒットも打てて良かったねおめでとうって、そういう使われ方だったわね。庄司や船越は確か日程が開くオールスター前に先発投手を落として余った枠に入り込んだものと記憶しているけど、ルーキーの船越は『以後お見知り置きを』ってヒットだったわね。今後の成長によっては面白い存在よ。庄司は、ギリギリな感じだけどまずどうやって違いを出すかよね。セカンドオンリーじゃあね、菊池はあまりに巨大な存在だから」
「レギュラーが固まってくると、それ以外が大変だね。そして試合出場はしたものの打席に立たなかったのが七試合出場の上本と一試合出場の白濱」
「ううん、この二人はねえ。そもそも打撃が苦しいしね。あんまり語る事もないわね。白濱とか三番手を磯村にも先んじられてるし、でもまあ今年は倉がいるからセーフだとは思うけど」
「倉は今年出番なしか。まあ二軍コーチ兼任だもんね」
「東出も去年二軍コーチ兼任だったけど出番なくて引退後はコーチ専任となったけど、倉もそのルートよね。黒田と新井の中間となる一九九七年のドラフトで指名された選手で、入団一年目から連続Bクラスが始まったから本当に辛かったと思うわ。選手としては一度出番が減ったものの盛り返して、一時期は石原とポジション争いをするなど頑張ってきたし、そういった経験を若手に伝えていってほしいわね」
「後はベテランだと、廣瀬が今年も出番なかったね」
「これで二年連続。引退か、まだやれると思えば退団か。いずれにせよ覚悟を決める時となるでしょうね。それとプライディも出番なかったわね。ルナが負傷した時は成績が良くて、プライディを昇格させるんじゃないかと思ってたけどヘーゲンズだったわ。その後プライディは二軍成績をかなり落として、一方ヘーゲンズはもはや言うに及ばず。この首脳陣の慧眼でシーズンが決まったようなものだけど、同時にプライディの運命も決まっちゃったわね。どうも変化球の対応なんかに難があったらしいわね」
「外野だと鈴木の成長なんかもあったし、結局は予備で終わったね。それと地味に中東も出番なしか」
「引退して球団職員に転身、とかになっても全然不思議じゃなさそう。身長も低いし地味な役回りだったけど、捕手やったり実は欠かせない選手だったわ」
「これからはそういう来シーズンどうかって絡みにもなってくるよね」
「実際ジャクソンや黒田が登録抹消されて昨日は塹江初登板となったしね。見事なまでに打たれたけど、でも実戦経験を積めたのはいい事でしょう。外国人はルナが上がってくるらしいし、そうなるとCSでは野手二人って線もあるのか。これからも注目ね」
ドラフトの志望届も日に日にリストが分厚くなってきている。しかし新しい選手が入るという事は古い選手が去っていくのと同義。それは優勝チームにも例外はない。出会いと別れが交差する季節は近づきつつあるが、今はもう少し先だ。
近所の桜の葉の一部だけが黄色く変色していて、遠目にはたわわに実った果実を思わせる光景を作り出している。収穫の秋と言うが、二十五年もかけて育てた果実が美味しくないはずがないのであった。
今回のまとめ
・優勝おめでとうございますこれは我らの世代の優勝だ
・ヒーローを一人に絞るのは極めて難しい
・首脳陣も的確な采配を行えたからこそここまで勝てた
・ベテランが次第に出番を減らしつつ去っていくのは宿命