表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/396

rm21 優勝目前記念 今年の投手陣について

 喜ぶより先に、戸惑っていた。マジックってこんなに早く減っていくものだっけ?


 二十五年ぶりの優勝に向かって驀進しているカープだが、マジック二十が点灯してからまだ二週間も経っていないのに既にマジックは四。一日に一つ以上のハイペースでガリガリ減っていって、もはや今週中には胴上げが拝めそうな情勢となっている。


 さすがに早すぎるので逆に怖いが、優勝出来るならそれに越したことはないというもの。悠宇も渡海雄も人生で初めてとなるその瞬間を今か今かと待ちわびていた。


「マジックの減り方がまさしくマジックだね」


「本当にね。ここまで順調過ぎるのはちょっと異常よ」


「でもいい事だよね。もう優勝は確実で後はそれがいつになるかってところだから」


「巨人がちょっと信じられないペースで負け続けているからね。終わってみるとやはり八月七日の逆転勝利がまさに決定打となったみたいね」


「うん。あれで三連敗してたら絶対こうはなってなかった」


「そして次の直接対決だった二十三日からの三連戦が最後のピースだったわね。初日は惜しくも敗れたけど、二戦目は菅野を打ち崩してマジック点灯。翌日もまた澤村攻略で、完全に巨人追撃の希望を断ち切ったわ」


「そこからはもうこんな感じで。強かったね」


「うん、強かった。でも勝てる時って案外こんなものなのかもね。サンフレッチェも割とそうだったけど、勝てない時は『ここで勝てれば』ってところで足踏みしまくるのに一度それを超えたらまさに次元を飛び越えたかのように加速していくという」


「去年も一昨年もシーズン最終戦に敗れて順位を落としてたもんね。あの体たらくを思うと、まさに力強さが違うってところ。でもこれでめでたしめでたしと言えれば良かったけど、まだCSもあるんだね」


「そこよね。まあ、負けても優勝を果たしたという事実さえ残れば上等上等。いざ実際負けてみるとそんな鷹揚に構えてられないでしょうけど、その時はその時って事で」


「ふふっ、そうだね。ドラフトなんかもあるし、まだまだシーズンは終わらないね」


「まさにまだ道半ば。だからシーズン成績もこれで決定じゃないんだけど、ここらで今シーズンを戦ってきた選手たちについて色々見ていこうと思うの。選手の奮闘なくして栄冠はなかったから」


「栄光の紳士録だね」


「そうね。まずは投手から。どういう順番で言えばいいかと考えたけど、ここはイニング数の多い順からにするわ。やはりより多く投げてくれたって事はそれだけ貢献したと言えるから」


「投手陣で言うと前田が抜けてどうするのかってのはあったよね」


「それで最下位予想をした解説者なんかもいたわね。去年四位からエース前田が抜けて戦力ダウン間違いなしとか、プロのくせにそんな安直な発想もどうよって話もあるけど、ただ去年の前田は二百イニング以上投げて防御率は大体二点。これを一人で担ってきたんだからそう思われるのも致し方ないのかもね」


「いやあ、改めて見てみるとエースとしか言い様がないよね。やっぱり凄い。そりゃあアメリカでも活躍するよね」


「前田の所属するドジャースもいい順位らしいしね。まあカープに関しては確かに前田はいなくなったけど、大事なのはそれ以外の選手だって最初から分かっていたわ。去年だってね、選手全員がその持てるスペックを全開にしていたわけじゃなかったから、それがある程度開花してくれればどうにかなるとは思っていたわ。そしてそれは概ね果たされた。つまり前田の穴を埋めたのは英雄的な活躍を果たした特定の個人ではなく、チーム全体だったって事よ」


「それはまさに層が厚くなったって言葉に集約されるよね」


「ええ。そしてそんな今年のカープにおいてもっともマウンドに立っている時間が長かった男は……」


「男は?」


「もちろんエースのクリス・ジョンソンよ」


「ああ、やっぱりそうか」


「新外国人だった去年からしていきなり防御率一点台でタイトルを取った強者だけど、やはり安定感が違うわ。今年は開幕投手も務めて名実ともにエースとしての活躍が求められていたけど、まさしくその期待に対してパーフェクトに応えたと言えるわ。でも思い出そうとすると負けた試合の印象が強かったりする。でもこれはエースゆえの事と思うわ。つまり勝つのが普通だからこそ負けるシーンが印象的になるというね。これがしょぼい選手なら逆に珍しく活躍したシーンをすぐに思い出すものだけど」


「すでにシーズン規定投球回数を突破してるし、現在勝利数はリーグトップタイ。しかも既に来シーズン以降の契約にも合意している。こんないい外国人、そういないよね。しかも左腕」


「外国人はシュールストロムという敏腕駐米スカウトがいて、彼の確かな目利きは他球団に対するアドバンテージとなっているわ。ルイスとかバリントンとか優秀な投手を次々と送り込んできて、そしてジョンソンも決定的な投手で」


「まさしくシュールストロムさまさまだね」


「性格なども含めた様々な視点から選手を見て長期的に追いかけるのがそのスカウト術の肝らしいけど、データだけでは見えない部分をも見抜けるのは本当に見事よね」


「そしてそんなエースジョンソンの次に投球回数が多いのは黒田で、その次が野村。いずれも規定到達まであと僅かな数字。怪我とかなければシーズン終了までには達成するでしょう」


「黒田は大ベテランなのに、本当によくぞここまでという働きよね。割とランナーは出すけど、そこから簡単には崩れない辺りに経験を感じさせるわ。そして野村。申し訳ないけどここまでやるとは思わなかったわ」


「開幕前はそんなに期待されてなかったよね。一応ローテ守ってくれればって程度で」


「ルーキーイヤーは防御率一点台を記録したものの、それ以降は内容が悪化する一方だったしね。球威はそれほどないタイプで、このままズルズル落ちていくのかと思ってたけど、持ち直したわね。六回を二失点までに抑えて後は打線の援護とリリーフ陣にお任せってスタイルだったけど、これがはまった。打てるし守れるしリリーフ陣も強いという恩恵にあずかって負けが少ないまま勝ち星が貯まる貯まる」


「勝利数はジョンソンと同じか。でもジョンソンほどの信頼感はなかったよね。確かに安定感抜群だったけど」


「絶対的二番手とでも言うべきか、まずエースがいて、そして野村もいるというバランスよね。もしジョンソンがいなくなって『エース野村だ』ってなるといささか頼りないけど、今の立ち位置だと最高の存在。とにかくこの三人がシーズン全体においてローテを守ってきた人達。黒田は引退するとかよく言われてるけど、とりあえず花道は出来たから良かったわ。せっかく復帰したものの優勝出来ず引退を余儀なくされた、みたいな結末を迎えたら最悪だったから」


「確かにそこは良かったね。この三人の次にイニング数が多いのは、岡田か」


「百イニングはいってないけど、新人としては十分すぎるイニング数と内容よね」


「四月にはとんでもない乱調があってどうしたものかと思ったけどその後は持ち直した」


「ボールにも威力があるし、フォームが打者にとってやっかいとかそういうのもあるみたい。交流戦辺りから完全にローテに組み込まれたものの内容の割に勝ち星には恵まれず、ようやく勝ててきたと思ったらまた離脱したり。でもポテンシャルは見せたわね」


「まだ荒削りな部分も残ってるけど、このまま順調に成長すると最高だよね。次に多いのがヘーゲンズ、九里、福井辺り。先発こなした人達だね」


「やはり先発はイニングを食ってこそだから。で、この中で最も活躍したのは言うまでもなくヘーゲンズ。と言うか彼がいなかったらこの順位にはならなかっただろうと断言出来るぐらいに貢献は大きかったわ。外国人枠の関係から最初の一ヶ月ぐらいはファーム暮らしを余儀なくされたけど、ルナの怪我で昇格してから早速野村とかが作ったピンチの尻拭いという難しいミッションを次々成功させて、まもなくセットアッパーとして七回を担う存在となって」


「先発に怪我人が続いて足りなくなると今度は前に転向して、しかもしっかり仕事をこなすという。まさに八面六臂の大活躍」


「先発としては案外イニング数稼げないけど、無事にリリーフ陣が整備された今ならヘーゲンズの代わりに七回を投げる人材もいるし、これもいい循環となっているわね。先発もリリーフもこなすって触れ込みの外国人は大抵中途半端なものだけど、本当に両方こなしたんだから大したものよ」


「対して九里と福井は、正直期待外れに近いような」


「特に福井はね。でも菅野に投げ勝ったり、全然仕事しなかったわけじゃないわ。来年こそ本来期待された姿になるといいわ。九里は、球威が足りないのかしらね。先発として好投してるように見えても急に連打を浴びたり。敗戦処理としてはそこそこだったけど、そこで留まるようじゃつまらないわ」


「この三人が七十イニングぐらいで、次は六十前後の今村やジャクソン、そして中崎」


「ここでリリーフ専任の人達が現れるのね。まず今村は、当初はビハインドや同点の局面がメインだったけどだんだん勝ちゲームでも使われるようになって、ヘーゲンズ先発転向以降はセットアッパーに定着したわ」


「元々実績があったけど、近年はもうひとつだったよね」


「ようやく疲れが癒えたのか、今は球威もあるのが良いわ。一時期は勝っても負けても出てきてて大変だったと思うけど、来年以降も大いに期待したいところ」


「ジャクソンもVの使者だったよね」


「去年のヒースは僅差では危なっかしかったけど、ジャクソンは違うわ。安定感が違う。開幕当初からすんなり八回を任せる人材を得られたのは大きかったわ。ジャクソンはやってくれなきゃ困る人が期待通りにやってくれた、ヘーゲンズはそれほど期待してなかった人が想像以上にやってくれた。いずれにしても嬉しい話よ。そしてクローザー中崎も、今年は一年を通じて頑張ってくれたわ」


「去年抑えに抜擢された時はもっと他にいないのかと思ったけど、まさかここまではまるとはね」


「ワイルドな体格に汚いヒゲ、案外ランナーは出すけどそこから抑えてくれるし、こんな逸材が民主党の失政のお陰でドラフト六位なんだから運命って分からないものよね」


「えっ、民主党が何か関係あるの? 今は民進党だけど」


「中崎が高校三年生の時に与党だったけど、その時宮崎県で口蹄疫という家畜に感染する病気が広まったの。それで宮崎県立入禁止みたいになって、それで甲子園の予選にスカウトが近寄れない中で予選敗退となったけど、それまでにしっかりと見ていた田村スカウトの推薦があったからこそ指名出来たのよ。この口蹄疫は適切な措置を取っていれば本来あそこまで広がらなかったようで、揶揄的なニュアンスで当時の農林水産大臣から取った赤松口蹄疫なんて呼称を用いる人もいるくらいよ」


「まあ政治的な話はともかく、中崎は本当にここまで大きくなったものだね。次に多いのは戸田」


「戸田、もったいない男。ついに日本人左腕先発定着かと思われた矢先に謎の離脱。なぜあんなタイミングで」


「結局何だったんだろうね。そしてこの戸田の次が一気に二十イニングほど減って中村恭平か」


「岡田に戸田、そして中村恭平。交流戦はこんなローテでよく頑張ったものよね。中村のハイライトはやはりソフトバンク戦でしょ。交流戦後半からは崩れていったけどそれは織り込み済み。あの試合だけでもう仕事したと言えるわ」


「それでまた十イニングほど減って横山弘樹。ドラフト二位のルーキーだね」


「開幕当初だけだったわね。でもまあさらりと二勝してるのはなかなかのもの。来期以降に期待かしらね。あまりパワーがある投手じゃなさそうだし、さしあたっては九里のポジションを狙えるか」


「目標九里ってのも志が低い感じだね」


「現実的にはって話だから。さて、次は二十イニングに到達してない人達だけど、ここに一岡、薮田、オスカル、大瀬良と案外印象的なメンバーが並んでいたりするから面白いものよね。単純に今現在一軍でやってるってのが大きそうだけど、でも確かにシーズンの序盤でちょろっと先発したまま上がってくる気配がない横山なんかよりは印象強いわね。例えばオスカルなんかもシーズン序盤の炎上っぷりとか、それなのに七回に使ってしまう危険な采配は忘れられないわ」


「でもその後の昇格では敗戦処理をそれなりにこなせてたじゃない」


「まあドラフト六位だし、こんなものよ。一岡や大瀬良は怪我のためフルシーズン働けなかったけどスペックに関しては言うまでもない投手。大瀬良なんかこのままなし崩し的にリリーフに定着しないよねって懸念はあれど、やはり来年は先発として活躍してほしいと願うわ。そして薮田。あの砲丸投げみたいなフォームから力のあるストレートを投げ込むスタイルで意外に健闘してるわ」


「勢いに乗ってる時はいいけど駄目な時はさっぱりな感じだよね。でも本来予告されていた福井が急に登板出来なくなったから緊急で代役となったDeNA戦ではかなりの活躍を見せたり、案外力があるのかもねと思わせるピッチングが面白い」


「ドラフトの時はどうしようって思ったけど、想像以上の働きよ。とまあ、この辺までは多少なりとも戦力になったと言えるでしょう」


「それ以下となると、まず永川が十イニング投げてるね」


「節目となる通算五百試合登板も達成したしね。でもどこかもう消耗した雰囲気。何と言うか、最悪引退もあるかもとか勝手に思っているわ。最後は本人の決断になるけど」


「年齢的にもキャリア的にも考えられるけど、どうなんだろうね。そしてイニング数一桁の皆さん。具体的には江草、小野、西原、中田、佐藤、久本」


「ううむ、この辺はねえ。と言うか中田はシーズン序盤にオスカルと組んで炎上しまくってた印象が非常に強いけど案外投げてないのね」


「さすがに酷かったからね。復活するといいんだけど」


「ただこう見ると西原と中田を除いて他球団でプロ生活を始めてからトレードなどでカープに移籍した選手がずらりと並んでて興味深いわね。逆に言うとここまで移籍選手の力を借りずに優勝するチームも珍しいんじゃないかしら。新外国人ありルーキーあり実績組の復調ありと、今年の投手陣は様々な方向からプラス要素が加わったけど移籍選手はFA補償の一岡ぐらいかなって言う」


「FAはないしトレードや戦力外の獲得もあまり機能せず。それはそれで立派じゃない」


「前例はと言うと、ああ、前回の優勝は生え抜きばっかりなのね。佐々岡、川口、北別府、大野と言ったエース級から石貫、足立の一発屋まで。まあそういう意味でもこの時代に戻ったって部分はあるでしょうね。特に逆指名制度の消滅によって優秀な選手が特定の球団に囲い込まれる事なく行き渡るようになった。投手陣はやはり層の厚さが必要になってくるから、これは大きいわ」


「でも素材としては怪しげな人達も今年に関してはそれなりにやってくれたよね。それは育成も機能していたからと言えるんじゃない?」


「そうね。そして登板していない投手はというと、やはり若手中心よね。一瞬一軍昇格した塹江とか、初登板初先発へって記事が出たけどなかった事になった中村祐太とか。と言うか中堅以上で大怪我とかもしてないのに投げられてないようだと相当厳しいんだけどね。一桁イニング組ですら来季あるか怪しい人わんさかなのに」


「今井とか、何やってるんだろうね。それとデラバー。せっかくシーズン途中に獲得したのに出番ないね」


「ジョンソン、ジャクソン、ヘーゲンズと固められてはね。本人もいささかコントロールに難儀しているみたいだけど、ただこの時期の補強は来年に向けてというケースもあるし。これであっさりリリースされたら何だったのかってなるけど。まだどうなるか分からないわ」


「ただ予備の戦力が不要なほど働いてくれたって事なんだから、それはそれでありがたいんじゃない?」


「そうね。他球団では福原戦力外とかサブロー引退って出てるけど、カープでは少なくとも表面に出た話はないから、全てはこれからよ。まずは優勝を確定させる事。焦らず一歩一歩進んでいけばいいのよ」


 野手編は優勝決定後になる。あんまりもたつくようだと別の話を挿入する可能性もあるが、まあ大丈夫だろう。今日も勝ったみたいだ。移動日胴上げだけはやめてくれよ。

今回のまとめ

・いくらなんでもマジック減るの早すぎ

・今日も試合やってるけど投球回数などのデータは九月五日時点のものを使用

・特定の誰かと言うよりチーム全体で底上げがなされた

・十イニングぐらい投げてればある程度活躍したイメージも思い浮かぶ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ