sk04 2016年参議院選挙について
梅雨もそろそろ終わりだろうかという七月、二度目の日曜日は蝉の声で目が覚めた。これを聞いたのは今年初めてではないか。ああ、夏が来たんだ!
今はそんな爽やかな気持ちでいるが、これが連日続くといい加減うざったくなったりするのだろう。さて渡海雄と悠宇は日に日に近づきつつある夏休みを心待ちにしていた。
「しかしまあ、浅野がアーセナルに移籍決定なんてねえ」
「ドイツのどこやらとかスイスのグラスホッパーとかって話はあったけどある日急によく分からない情報筋からアーセナルの話が出て、最初はさすがに吹かしすぎと思ったらNHKのニュースでもさらっと触れられて、それで本当に本当なんだって悟ったよ」
「サンフレッチェの歴史においてもこんな大きな話はそうなかったでしょ。まあ創設期はマンチェスター・ユナイテッドに留学とか行われてたりするんだけどね。これはビル・フォルケスという人物がマツダ晩期に事実上の監督となった歴史から来るものだけど。前にマット・バスビーって触れたでしょう。このバスビー監督時代の選手はバスビー・ベイブスと呼ばれてマンチェスター・ユナイテッドの黄金時代を築き上げたけど、フォルケスはその一員よ。それで『佐藤康之はバクスター監督からあまり期待されていなかったのでマンチェスター・ユナイテッドに留学していた』とか意味不明な世界が広がっているのは初期Jリーグの魅力よ」
「ふうむ、色々歴史ってあるものだね」
「本当にね。そして浅野はいなくなるけど早速アンデルソン・ロペスというブラジル人を獲得したりと相変わらず素早く手を打っててさすがよね。使えるかはともかく、こういうふうにアグレッシブに動くのはいいわね」
「それよりディフェンスはどうするのって感じはあるけど」
「怪我人に塩谷もオリンピックで離脱だから正念場よね。まあサンフレッチェの話はそこそこにするとして、昨日あったでしょう、例のイベントが」
「ああ、あったねえ。大相撲名古屋場所」
「いえ、まあ確かにあったけど。とりあえず今場所の見どころは稀勢の里の綱取りって事になってるけどいまいち興が乗らないのは、先場所結局白鵬に屈したからってのはあるわね。連続優勝か、鶴竜だって一応は白鵬に勝った上での決定戦まで行けたわけだから」
「とは言っても、稀勢の里もよくやってるじゃない。何だかんだで連勝だよ」
「まあこんな序盤でポロポロ取りこぼすようじゃお話にならないし、これからに注目よね。と言うかそういう話じゃなくてねえ、選挙よ選挙、参議院選挙!」
「あはは、分かってる分かってる。あったねえ」
「お陰で真田丸も七時十分からスタートだったし。去年なんかはどうでも良かった大河ドラマを今年はよく見てるけど、これもなかなか面白いものよね」
「そうだね。今回は秀次がだんだん精神的に追い詰められていって痛々しかったねえ。それ以上に秀吉が切れるタイミングがいつでそうじゃないのがいつかってのがいまいちよく分からなくなりつつあるのがまた恐ろしいもので、それがまた秀次の心をすり減らしていって」
「ベースとしては秀次が関白って偉い地位にいるのは不相応で自分はそんな器じゃないって自覚してるのがあって、それでも秀吉のために頑張ろうとあがいた結果逆に秀吉の不興を買ってたりね」
「作中でも秀次が秀吉に食ってかかった時は『よう言うた』って態度だったように、秀吉が秀次に求めていたのはもっと己の役割を堂々と果たす姿だったという。秀吉からすると自分の目ばかりを気にしている秀次の姿は弱々しく映っていたのは間違いないでしょうね」
「ただ作中でも落書きの件で門番処刑とか意味不明な激高してるし、秀次は何が秀吉にとって正解なのか分からなくなっていたと。どうやら来週にはお亡くなりになるみたいで」
「これは史実でも非常に残酷な事になっていたようで、どこまで描かれるのか。さて、そんな真田丸が終わった後に各局で選挙特番やってたわね、という事でようやく本編に入れたわ」
「投票締め切りの八時になった瞬間から大勢は判明してて、それで与党が圧勝だったね」
「まあ、見えていたけどね。今の安倍政権が負ける要素ってないでしょ。ましてや民進党ごときに」
「民進党ねえ。民主党のイメージが悪くなったから名前変えたんだっけ」
「でもまだ名前が浸透しきっていない感じはあったわね。一応全国的な選挙としては初めてだから。北海道と京都だと四月に補欠選挙があって、そこですでに民進党を経験していたけどそれ以外の四十五都府県においてはまるで新参者とも言える名前なわけで」
「補欠選挙は衆議院のほうだよね」
「そうよ。北海道は自民党の町村という大物議員が亡くなった事に伴う選挙で、京都はこれまた自民党の宮崎というしょうもない馬鹿が自滅的辞任をした事に伴う選挙」
「宮崎って、あの冬頃に出てた育休不倫男だっけ」
「物覚えいいわね。まさにそれよ。まあとにかくそれぞれ事情はあれど、結果的には北海道では自民党が勝って、京都では元々宮崎と接戦を繰り広げていた民進党の候補が勝ったわ」
「しかし今となっては宮崎ごときに競り負けてたって凄い屈辱だね」
「ふふっ、確かにね。そう言えばその頃は衆参ダブル選挙なんて話も囁かれていたわ。その場合四月に受かったのに七月にまた選挙なんてげんなりする展開になってたけど、色々な事情が絡んで無事衆議院の解散はなかったわ。あの熊本で起こった大地震に配慮して見送りなんて話もあったけど」
「ただでさえ地震で生活がめちゃくちゃになった中で選挙とか、余裕ないもんね」
「そんな熊本ではバシッと自民現職が勝利。まあ東日本大震災の時みたいに政府の対応がグダグダだったって事もなかったし、それはそうなるでしょって結果よね」
「新聞なんかじゃ与党勝利と言うより改憲勢力が三分の二を確保したって言い回しがよく使われてるよね」
「改憲勢力は単なる与党ってだけじゃないから。自民党に公明党という与党に加えておおさか維新の会も憲法改正はやぶさかではないって姿勢だから、憲法の問題でいうとこれも加わるわ」
「ふうん。じゃあこれから憲法って変わっていくの?」
「もちろん大きな問題だけに明日からヒョイッと変わっていくものでもないけど、今後はそういった流れが加速する可能性もあるわね。そもそも今の日本国憲法が出来たのは一九四七年って、これは以前どこかで聞いた気もするけど、それからもう七十年近く改正されていないわけよ。でも社会情勢や国際情勢は当時と全然変わってきてるのにずっと変わらないのはおかしくない? って意見がある」
「確かにそれはそうだね。法律なんかも変わってきているだろうし。逆に反対派は何で反対なの?」
「そこはまあ色々な事情があれど、基本的に憲法というのは日本国の進むべき道筋を定めているものと言えるもので、これを変えると今とは全く異なる何かになってしまうかも知れないという不安よね。特に言われるのは例の憲法九条という奴よ」
「ああ、戦争しない奴でしょ。よく聞くよね、九条を守れって」
「まず日本にはそれまで大日本帝国憲法というものがあって、この頃は当然のように軍隊を持っていたけど戦争に負けたからアメリカなど戦勝国に占領された。それが一九四五年の事で、現行の憲法は占領の影響下で生まれたのは間違いないわ。安倍総理の支持団体として知られる日本会議なんかは今の憲法は占領軍に押し付けられたもので、だから日本は自分たちが独自に憲法を作らなければならないと考えているの」
「へえ。でも言われてみるとその通りじゃない?」
「日本会議なんかは特にこの九条を変えたいと願っているわ。まず今までの流れとして、第二次世界大戦における敗戦以降日本は戦火に見舞われる事なくここまで来ているわ。その理由は戦争放棄を謳った憲法九条のお陰、なのかは様々な議論がなされているけどとりあえず九条のお陰と考えている人もいる。日本会議はそうは考えていない。むしろアメリカなんかの占領国に牙を抜かれたぐらいに思っている。その辺は認識からして全然違うのよ」
「難しいものだねえ」
「それと自衛隊はどうなのって話もあるし、条文と現実の矛盾がいくつかあるのよ。今は『侵略のための軍隊は駄目だけど自衛隊は守るための力だからセーフ』みたいな解釈でごまかしてるけど、いい加減条文のほうを改正して現実を認めようという考えもある。個人的には戦前みたいに軍人が偉くなりすぎるのも困るし、ちゃんと押さえつけられる体制にはしておいたほうがいいとは思うけど」
「まあ勝手にクーデターとか起こされると困るよね」
「自民党の草案だと自衛隊は晴れて国防軍になるらしいけどね。今回の野党で憲法改正に反対の立場を取る民進党や共産党なんてそうはさせじと徒党を組んだようなものよ。それで今回は野党が統一候補を立てたりしたんだからよっぽどよね」
「統一候補ってつまりどういう事?」
「例えば当選者数は一人の選挙区に同じ憲法改正反対の民進党と共産党の候補が出た場合、お互い得票数を分け合って憲法改正賛成の自民に勝たれたらもったいない話でしょう。だからそういう選挙区は共産党の候補者出しませんよとか、そんな感じ」
「ふうん、それで効果あったの?」
「見たところ新潟とか青森、それに大分なんかでは接戦の末に自民党候補を破っていたり、まったく無意味ではなかったとは思うわ。無論、全体的な流れとしては民進党は議席を減らしていたり苦しい展開だったんだけどね。結局三分の二は行かれたわけだし、共産党も一応倍増はしたものの目標は下回ってるし」
「前回は三人とかだったのか。それが六人って、立派じゃない。それと維新も伸ばしてる」
「維新はね、それなりに国政に定着してきつつあるしいいんじゃないの。社民党なんて悲惨なものよ。比例代表で党首と前の党首が争った結果、今の党首が落選なんてね。人心と乖離した政治的な言葉しか言えなくなっている様を見ると仕方ないかなとは思うけど。ポスターもアジビラみたいだったし。あれでもかつては日本で不動の二番手だったけど、今の姿はまさに成れの果てよね。それと比べると共産党は本当に上手くやってるわ。一時期は埋没しそうだったのに」
「思想の良し悪しはそれぞれあるから、とにかく存在感、認知されるって本当に大事だよね」
「政治家は広くビジョンを共有してこそだから。まあ知名度さえ高ければ何でもありって事なら芸能人にでもやらせればいいってあくどいやり方もあるけど。今回は九十年代後半に有名だったアイドルグループSPEEDのメンバーだった今井絵理子や、そのSPEEDがテーマソング歌ってたバレーボールの大会なんかで活躍していた朝日健太郎などが当選したけど、まあ明らかに政治家としてのビジョンとかないのがお笑い草よね」
「でも無事落ちた人もいるじゃない。堀内恒夫とか」
「あれも前回の選挙じゃ比例の繰り上げとは言え当選したんだから凄い話よね。野球ではセンス抜群だったらしいけど、それゆえに人に頭を下げた事がないとかでこんな政治家に向かないタイプの人間もないわ。でもそんなのがうっかり当選する世の中。恐ろしい話よね」
このような事を話していると敵襲を告げる合図が来たので二人は周囲を見回し、静かに人がいないところへと移動して変身した。そして敵が出現したポイントへと急いだ。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のタマシギ女よ。この汚らわしい星も我らのものにしてやるわ」
鳥類では珍しい、一妻多夫制の逆ハーレムを形成する事で知られる珍しい鳥の姿を模した異星人が川べりに現れた。間もなくこういった侵略に立ち向かう集団的自衛権を地球は行使した。
「出たなグラゲ軍! お前達の思い通りにはさせないぞ」
「これからが本番だというのに、あまり邪魔をされても困るわ」
「何を意味不明な事を。さあ行け雑兵ども。奴らを血祭りにあげるのだ!」
次々と襲いかかる雑兵を二人は葬り、残った敵はついにただ一人だけとなった。
「よし、後はお前だけだなタマシギ女」
「ようやく選挙も終わったっていうのにここで終わりじゃあまりにも無残だし、帰ってもらうわ」
「ええい小癪な。かくなる上は一捻りに叩き潰してくれるわ!」
こう言うとタマシギ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり話し合いだけで戦いを逃れる事は不可能なのか。二人は覚悟を決めて合体してそれに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
大いなる太陽の光を背に受けてキラキラと輝く巨体の瞳はエメラルド色の闘志に燃えていた。赤褐色の優雅なタマシギロボットの動きにいちいち反応して、決定的なダメージを避けた。そして一瞬、体当たりで敵の機動を止めた。そこに隙が生まれた。
「よし、今よとみお君!」
「うん。エメラルドビームで勝負だ!」
渡海雄はすかさず緑色のボタンを押した。輝く瞳の情熱を具現化したような熱量溢れるビームがタマシギロボットの赤褐色を捉えた。間もなく機体は爆散した。
「おのれ生意気な。撤退するしかないとは」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってタマシギ女は宇宙へと帰っていった。今回の選挙で選ばれた人達はこれから六年間、議員として責任ある立場につく。しっかり勉強して世のため人のために尽くしてほしいと心から願っている。
今回のまとめ
・浅野の評価が想像以上に高くて驚いている
・真田丸は毎度色々なドラマが盛り込まれていて良い
・護憲勢力は極めて無力なので改憲自体は時間の問題か
・ただ自民党の草案ベースだと国民投票で否決されると思う