rm03 後半戦の広島の戦いについて
八月八日、夏の甲子園を舞台にした戦いの火蓋が切られた。昨日も今日も、そしてきっと明日もまた暑い日々が続くだろう。健康には気をつけながらも頑張って下さい。そしてそんな戦いを渡海雄と悠宇はクーラーの効いた室内に置いてあるテレビで見ていた。
「いやあ、いい試合だったねえ。途中まではなかなかヒットすら出なくてリードされてたのに七回からいきなり繋がりだしてついには逆転したんだから凄いや」
「でもその後にミスから反撃を許して、でも最終的には一点差で逃げ切ったという最後までどうなるか分からないギリギリの戦いだったわね。これぞ甲子園というか、お互いよくやったわ」
「そうだね。もう負けてこの舞台から去っていく高校もあるけど、ここまで勝ち進んだだけでももう十分立派なんだよね。僕も将来はああいう舞台に立ちたいって思ったこともあったよ」
「今はそんな余裕ないものね。まあ私なんかは最初から対象外だけど」
「ははっ、まったく。そう言えばさ、今日もこれからプロ注目の選手が登場するけど他の試合からも何人もプロ入りする人が出るんだろうなあ」
「そりゃあそうよ。まあ今年に関しては高校生で一番期待された松井というピッチャーが早くも予選敗退の憂き目にあって、そう言う意味では多少テンションが高くない部分がないでもないけど。まあそんな一番評価が高い選手をカープはまずドラフトで指名しないから敗退したところでそういう意味での感慨はあまりないわね」
「ふうん。でも今のところカープはそれなりに頑張ってるよね」
「そうね。巨人と阪神を除いた四球団の争いと言いつつもここ一ヶ月で多少格差が出てきたような気がするし、その中でとりあえず上の方につけてはいるから。早々と脱落しなくて良かったわ」
「まずヤクルトが下に行っちゃったね」
「やはり怪我人や不調な選手が多くて、特に先発ローテーションはかなり苦労しているわ。ルーキーの小川がエースとして大活躍してるけどそれ以外がなかなかね。一人だけでローテーションは回らないし、そんなに無理もさせられないわ。打撃は、バレンティンだけは凄まじいペースでホームランを量産してるわ。彼に関してはホームランでもソロなら儲けものって感じね。でも他はね。ミレッジが怪我で二軍に落ちたし、ここで踏ん張らないといけないけどどこまで頑張れるか」
「あと五十試合ぐらいだっけ。やっぱり厳しそう?」
「でも一つや二つ、例えばこれから広島を抜けないかと聞かれると『そうとは限らない』ってなるわ。でもCSの出場権を得られる三位に入れるかとなるとね。そう都合よく広島、中日、DeNAが不調になってヤクルトが好調になるものでもないし、今はそこを考えずに一つ一つ戦っていくしかないでしょうね」
「そうだね。それとDeNAも今調子良くないよね」
「ここはもう、一にも二にも投手よ。特に八月に入ってからは毎日のように投手陣が炎上して二桁失点も珍しくないもの。打線はいいんだけど、取る以上に取られている現状はかなり厳しいわ。例えば前回も名前を出した加賀美投手が一軍で投げたけど、残念ながら無残に打ち込まれて二軍に舞い戻ったわ。昨日もまた酷い戦いで、まず先制して、その後逆転されたものを打撃陣の力で再びリードを奪ったのに結局ソーサが打たれて敗北というあんまりな展開だったわ。まあ投手陣に関してはカープも他を笑えないんだけどね」
「だよね。ここ数試合先発が燃える試合が増えてきた感じだから」
「総じて言うと、やっぱりエースは前田健太なのよね。安定感が違うわ。でも大竹、バリントン、野村は明確に数字を落としているし、特に大竹はもう二ヶ月ほど勝ち星から遠ざかっているわ。先発は紛れもなくカープの強みだったけど内実は厳しい部分もあるわ。まあ前田がいるからまだましと考えたほうが正しそうだけど」
「なかなか難しそうだね」
「ほんとうに難しいのはその四人以外よ。中村恭平が好投したと言っても次の試合もそれを継続する力はないでしょうし、ましてやリリーフに至ってはまさか永川や横山が再び軸になる時代が来るなんて思ってなかったわ。それと今村は本格的に厳しいわ。当然のようにノーアウトから複数のランナーを出すピッチングは危険な香りしかしないわ。案の定、昨日はやってはいけないピッチングで失点を喫したし。ミコライオ登録抹消もかなりピンチね。正直立て直すのは簡単じゃなさそう」
「でも今は打撃がいい感じじゃない。逆に打ち勝つチームになってるみたい」
「打撃は確かにいいわね。一般論として夏場になれば大抵打撃が上向くものなんだけど、キラを四番に固定できるようになったのが好調の要因かしら。ホームランも打てるし、それに四球を選ぶ選球眼があるのもいいわ。守備はまあ多少目を瞑る必要がある部分もあるけど、それ以上に打撃で貢献してくれているから問題ないわ。それに松山の好調が意外と続いているのもいいわね。そろそろガタ落ちするかと思ったけど」
「まあいいじゃない。好調が続くなら」
「最後まで保てたらいいけど。丸も大体期待通りの数字で、石原や菊池も一時期と比べて打率を上げてきたし。菊池なんかは.250付近なら守備分のアドバンテージもあるしかなりプラスになる選手よ。ただね、チーム全体として勝利のために戦えていない部分がまだまだ残っているわ。これは選手というより例えば首脳陣とかそっちの責任もあるんだけど、試合を見ていても勝ちたいならそれをしてはいけないというプレーをしたり。単純にエラーするとかそういうのじゃなくてね」
「エラーと言えば堂林は相変わらず低空飛行が続いてるね」
「堂林に関してはもう腹をくくるしかないわ。開き直って、一本でも多くのホームランを叩き込んでくれたらどんなに三振してもエラーしても大目に見たいと思うから、もう頑張って! 少なくとも今シーズンは補強はないんだし、他に使えそうな選手もいないんだから。でもこんないびつな状況を放っておくようなフロントじゃないとさすがにまだ信じてはいるから、シーズン終了後に手は打つはずよ。いえ、打たないといけないわ」
「まあ、そうだよね。将来性とは言っても今のままじゃあね、誰にとっても辛いよ」
「将来の事もね、どうなるかまるで分からないわ。今年のドラフトでは打力があってサードを競える大学生ぐらいの内野手がいたら指名してほしいなって思うわ。もちろん投手が最優先になるでしょうけど。それに捕手も一人ぐらいは入れていいでしょうし。例えば五人指名の場合は投手三人、捕手と内野手が一人ずつってぐらいがいいと考えているわ。上位二人は投手、出来れば先発とリリーフでそれぞれ即戦力になるようなね。捕手石原がいるから将来期待の高校生って考えもあるけど、サブの強化を考えると大学生や社会人もあるわ。素材みたいなのは最下位指名で十分。他にも指名したいポイントはないでもないけど、やっぱりまずは投手よね。単純に使えるレベルの選手が少ないから」
「ふうん。ところで具体的に誰を指名できればとかそういうのはあるの?」
「そこよね、問題は。まあ、ないでもないわ。今さっきのも一応顔を浮かべながらの言葉ではあるの。でも私はその道においても素人だから。私でさえ知っているような選手は全球団のスカウトはもっと詳しく知っているからそういう選手はあっという間に指名されるものよ。ましてや現在は『中央球界から遠く離れた地方だから情報が伝わらない』なんて時代じゃないし。有力な選手は九州沖縄にいようが北海道にいようがすぐに名を知られるようになるものよ。その中で正しく目利きできるか、適切な指導で潜在能力を高めることができるかが重要なのに変に気を回して本来のポイントからずれた選手を指名するようだと連続でBクラスが続くようになるのよ」
「ははは、言うねえ」
「ええ言いますとも。生まれてこのかた応援するチームがAクラスにすら入ったことがないなんて異常以外の何者でもないわ。二言目には金がないと言うけど、もうそういう時代でもないでしょうに。去年なんかはその典型で、何を恐れているのかと言いたくなるような指名に終始した結果元々数は十分だった外野にまた二人も加えたり、喫緊の課題である投手の補充は皆無だったり。案の定、今シーズンの戦力には誰もなってないわね。横浜もDeNAもルーキーを戦力にしている中で広島はまったくなっていないという現状はどう言葉で繕っても覆りはしない真実なんだから」
「まあまあ、でもでも高校生って事は将来を見据えた指名なんでしょ。いつか戦力になればいいじゃない」
「先の事ばかりを見据えたところで目先の今掴めそうな勝利を自ら手放して得られるものなんてたかが知れてるわ。まあ二位の鈴木誠也はいいって話だけど。ともかく、問題は一本釣りを狙った事じゃなくて最初から逃げありきの姿勢にしか見えなかった事よ」
「ドラフトにも逃げとかそういうのあるんだなあ」
「まあ戦略の話だけどね。ドラフトにおいて他球団が指名しない選手をあえて一位指名する事を一本釣りと言うけど、例えば前田や今村や野村は元々競合があると言われながら指名を貫いて、結果的に指名は広島だけになったものよ。去年は最初から単独指名の流れだったから楽天に指名されたんだからまったくの戦略ミスよ。今年は今のところは即戦力を指名したいと言ってるからそれを多少は信じてみたいものね」
「そんな不安要素あるのかなあ」
「そもそもこと投手に関しては夢だのロマンだの御宅を並べたところでそういう選手はろくに結果を残せてないのが現状なんだから、そんな危なっかしい方針ではなく『力のある選手を指名する』というシンプルな道を歩んでほしいのよ。特に二位以降はね、いい選手が余っていても当初のコンセプトに固執した結果なのか他球団から警戒されない選手を獲得する率が高くなっているわ。裏金飛び交う逆指名時代じゃないんだから、確かな誠意があれば一部の非常識な人間を除いて獲得できるものを」
「でもドラフトで誰が結果を残すなんて結果を残してからじゃないと分からないでしょ?」
「そこも確率よ。今力がある選手と今は無力だけど多分伸びてくれるだろうって選手、どっちが戦力になる確率が高いかなんて一目瞭然でしょう。もちろん金はかかるけどFAで選手獲得するよりは安価よ。そりゃあ巨人みたいなみっともない囲い込みはもっと白眼視されてしかるべきよ。でもプロで活躍すればそんな事忘れられるものだから。澤村がドラフト前に『巨人以外ならアメリカに行く』とか匂わせてた事を今更取り上げる人なんてそういないようにね。巨人だってそれを知っているから有力な選手を金で縛り付けて自前の戦力にする作業を繰り返しているわ」
「ううん、でもそれはそれでちょっと見るに堪えないじゃない?」
「でもどんなに汚くても勝てるならまだましよ。愛したチームが負け続けても愛する事はやめられないけど、負けの込んだ生き方に慣れたらそれこそ終わりよ。大体カープが強かった頃は今みたいな生え抜き至上主義でもなかったし、金も相対的によく払っていたわ。だから強かったし、金を払わなくなったから弱い。結局はそこに落ち着いてしまうものよ。ただ金を出せと言えばザクザク出てくるものでもないし、最大の問題点はやっぱりそこになるのよね」
不穏な空気が漂ってきたのに呼応するようにグラゲ軍襲来を知らせる警報が室内に鳴り響いた。テレビは甲子園での次なる戦いを映していたが視聴もそこそこに電源のスイッチを押し、二人は燦々と太陽が照りつける決戦の大地へと駆け出した。
「ぐわははははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のホヤ男だ! さあ行け雑兵ども! 地ならしだ!」
海岸に現れた敵のトップは相変わらず体の部分は普通だが、今回に関しては赤くてぶよぶよして、しかもいぼいぼな顔面はどこかグロテスクな佇まいを持っている。
「待て、グラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」
「夏の午後に甲子園を見る楽しみを邪魔する外道! 絶対に退治してやるわ!」
「ぬかしたな小童どもめ! 偉大なる覇道のためにはまず貴様らを倒す必要があるな! 行けい!」
ホヤ男の指示に従って大量の雑兵が二人を取り囲み、向かっていったが誰一人として対等に戦える者はいなかった。他に人のいない海岸にはひたすら残骸だけがたまっていった。
「あとはお前だけだなホヤ男!」
「できればあまり触りたくないタイプだし、このまま触れずに退散してもいいのよ!」
「馬鹿にするな! 戦いはむしろこれからが本番よ!」
そう言うとホヤ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。渡海雄と悠宇もそれに対抗すべく合体の準備を始めた。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
世界の半分を旅した波が巨体の足にぶつかるが揺らめきもしない。間合いを図る睨み合いの後で、一瞬早くアクションを起こしたのはメガロボットであった。
「これでも食らえ! エメラルドビーム!!」
渡海雄は緑色のスイッチを素早く叩いた。すると目の部分からその色の光線が発射されてホヤロボットの肉体を貫いた。
「くっ、俺としたことが! 機体を廃棄して脱出するしかない!!」
ロボットが大破する寸前に作動した脱出装置によってホヤ男は宇宙に帰った。任務を終えた渡海雄と悠宇は帰還してすぐ元の部屋に向かい、テレビを付けた。すでに試合は中盤、しかも前年度優勝校が大きくリードしていた。
「やっぱり強いチームは強いものね」
「それこそプロ注目の選手がいっぱいいるからね、ここは。この試合終わったらお風呂入ろっか」
たった今までは気にならなかったが、思えば汗をかいていたと気づいた悠宇は渡海雄の提案に対して首を縦に振った。多少は傾いた太陽だがまだまだその力を失っていない午後の事だった。
今回のまとめ
・ヤクルトとDeNAが少し遅れ気味だがまだまだ分からない
・打撃が妙に好調だが肝心の投手は危うい広島
・誠意は言葉ではなく金額ってやっぱり割かし真理
・甲子園では先制された方を応援したくなる




