am18 閏日記念 爆球連発!!スーパービーダマンについて
今年は四年に一度の閏年。そして今日は閏年の閏年たる閏日である二月二十九日。だからいつもより少しだけテンションが高い。
「ふふふっ、おはようゆうちゃん! 閏年だね!」
「そうね、とみお君! 意味もなく嬉しくなるわ」
「本当にねえ。それに閏年って事はオリンピックの年でもあるわけで、実際一月にはサッカーがオリンピック出場決めたし、女子マラソンでも福士がオリンピック内定してるしてないで大会に出る出ないとかもめてるけど、まさにそういう時期なのよね」
「Jリーグも開幕したもんね。で、今日はサッカーと同じ球技という繋がりで……。ごめん、さすがにこじつけが過ぎるね。Kindleで『爆球連発!! スーパービーダマン』が安かったから反射神経的に手を出したんだ」
「何それは?」
「昔のいわゆるホビー漫画だよ。ビーダマンって、人型をしたプラスチックの人形の大抵腹部に詰められたビー玉を飛ばして遊ぶおもちゃがあって、九十年代にはスーパービーダマンという威力や競技性に重点を置いたとされるシリーズが展開され、大いに盛り上がっていたんだ。それとタイアップした漫画がこれ。月刊コロコロコミックに連載で、作者は今賀俊先生」
「と言われても世代と違うからピンと来ないんだけど」
「う、うん、まあね。でも世代が違うって話なら今までの話のほとんどがそうなんだし。七十年代の日本リーグとか光GENJIと比べると全然新しいほうだよ。光GENJIのしっぽ辺りと漫画のスタートがギリギリ被ってるかなってぐらいで連載開始は一九九五年、連載終了が二〇〇一年となっているんだ。タイアップありきのこのジャンルにしてはかなりの長寿作品と言えるね」
「大体六年。小学生が入学から卒業するまでの期間だから確かになかなかのものじゃない」
「同時期のコロコロコミックは一つのピークを迎えていて、例えばミニ四駆とかブームだったし、それとポケモンの一作目が発売されてこれも決定的な流行となったりね。ビーダマンもその一角として存在していて、ホビー自体は結構最近まで形を変えつつも生き続けていたから漫画もタフに続いたとも言えるけど、ただ漫画自体もなかなかのクオリティだからね。そこは相乗効果だよ」
「漫画の面白さがコンテンツの需要を促進させ、それによって漫画もまだまだ続くって事ね」
「うん。で、そんな面白い漫画が今Amazonがやってる電子書籍Kindleにおいて全十五巻百六五円でセールされているんだ」
「百六五円。結構安いわね。十五巻って事は百六五に十五を掛けて……」
「違う違う。十五巻全部合わせて百六五円なんだ。一巻で換算すると十一円」
「じゅ、十一円!? それはまた!!」
「ねえ。安すぎるよね。これは作者の意図ではなくAmazonのほうで突如始められたセールで、いつ終わるとも知れないらしいんだ。たまにそういうセールが開催されたりするらしいよ。後はKindleについてだけど、一見やたらと高い専用の端末がないと利用出来ないかのような雰囲気を醸し出しつつ実際は専用のアプリを無料ダウンロードすれば読めるようになるので、本当に百六十五円でかなり楽しめるよ」
「それは凄いわね」
「これを機に手を出した人は多く、それで初めて仕組みを知った人もまた多いみたい。それと、ビーダマンはボンバーマンというゲームのキャラクターを模したものがよく知られていたんだ。だからこの漫画も当初はボンバーマン型のビーダマンが用いられていたんだけど、そこには元ネタの版権ってのもあるからね。だからその対策として電子版発行の際ボンバーマン型が出ていた箇所にはいちいちV字のアンテナみたいなのを書き足して別物にしているんだ」
「よくもまあそんな細かい作業をしたものね」
「これもまた誠意の一つだよ。途中からはボンバーマンとは離れたビーダマンが続々登場して、こっちは版権持ってる会社に許していただいたらしくそのまんま。それは現実における商品展開の歴史でもあるんだ。新型が出るとそれを作品にも反映させて格好良い見せ場を作りつつ、バトル漫画としての熱さも両立させる。本当に大変なジャンルだと思うよ」
「それで六年も続けたとなるとひとしおよね」
「まったくもってそうだね。で、ようやく漫画の説明に入れるね。主人公は戸坂玉悟という赤い髪の毛をなびかせる少年。真面目で明るく人の言う事も聞くしいつでもにこにこしていて顔も可愛らしいんだけど、バトルが好きで凄まじいパワーショットを打てるんだ」
「パワーショットってのはビーダマンにおいてどういうメリットがあるの?」
「強くて格好良い。ビーダマンを用いた競技として現実では的を倒すとかそのぐらいのもので、この作品も最初はそういう形式のバトルが多かったけど、段々バトルフィールドが広くなってほとんどサバイバルゲームの様相を呈していったんだ。だからもうビーダマンすなわち銃とかそれぐらいの扱いで、それでパワーのある一撃を放てるのがタマゴ。第一話ではそのタマゴがスナイパーガンマの異名を持つ西部丸馬と出会い、友情を結ぶんだ。このガンマが第二の主人公と言えるほどに重要な存在で、タマゴとは異なり連射やコントロールに長けていて、全体を見た作戦立案も得意なタイプ」
「冷静沈着な司令塔タイプね」
「いや、それが意外と頭に血が上るタイプだったり。しかも関西弁だし。それとビーダマン開発能力の高さも特徴だね。基本的にビーダマンは作中の登場人物が自分達で考えたアイデアに基づいてラボを使って開発されるんだ」
「自分で作るって大変よね」
「だから彼らは凄いんだよ。現実の大会でも勝つような人はかなり独自の改造を施してたって話だし。それともう一人、曲がるボールを操るトリッキーなテクニシャンであるサラー。石油王の息子なのにいじめられて性格歪んだけどタマゴとのバトルを経て改心した彼を加えてチームガッツを結成。大会に突入するんだ」
「やっぱり大会とかするのね」
「そりゃあね。そしてこの大会がやっぱり面白い。本作の特徴としてはステージの岩や溶岩は全部作り物だよってエクスキューズをあらかじめ提示する事によってビー玉で岩を爆砕するといった非現実的な描写に一定の説得力を与えようとしている部分と、敵キャラであってもそれぞれ真面目に競技をやってるって部分があるんだ。まあ前者はそれにしても絵に迫力ありすぎてさすがに誇大広告だけど、格好良いよ。後者に関しては、例えば一回戦で当たったシャドウズや二回戦で対戦したパーフェクトハンターズあたりでもやたらと主人公チームを馬鹿にしたり反則連発みたいなキャラ付けにならず、ルールをしっかり守った上で勝利を目指している姿勢は非常に好印象。敵に回ってはいるけど悪ではなく、彼らもビーダマンが好きで実力もあるんだって事だね」
「確かにそこは大事よね」
「シャドウズ戦だと新型ビーダマン作成中のタマゴを欠いたまま戦ったガンマとサラーが高性能なビーダマンを使う相手に対して脅威的な技量で持ちこたえつつ、ようやく登場したタマゴの一発で勝負を決めるという展開は非常に良いし、ハンターズだとその特徴であるロングバレルと散弾の脅威をしっかり描写しつつ、チームガッツの逆襲を受けた際にはその特性ゆえに敗北を喫するって構成も巧み。ここでサラーが持ってるビーダマンは金ピカなんだけど、そのせいで隠していたターゲットの位置がバレてピンチって描写から新型誕生って流れも納得感ある」
「有機的な繋がりがあるわけね」
「次のバーグラーズ戦でも、ここのリーダーである風のビリーと称する西部のガンマン風のクールな男風間美利は後で仲間になるんだけど、仲間にならない井出と大倉の二人も結構個性的で、一番地味かなって井出がその後タマゴの新型ビーダマンを本人に届けるという大仕事に抜擢されて存在感を発揮したり。使い捨てのキャラが少なくて一度出たキャラがちょくちょく再登場するのも大事にしている、限られた枠を有効活用しているという印象でこれも本作のいいところだね。ビーダマンにしても、販促を伴うホビー漫画だから次々と新型が出てくるんだけど新型だから無条件に最強って事もなく旧型は旧型で見せ場を披露するのも良いね」
「ああ、そういうケアを上手くやってるのはいいわね」
「また、ストーリーにおいてボンバーマン型のビーダマンが出るのはこの辺りまでで、決勝戦のキングビーダーズ戦からは敵もそれぞれ商品化されるような専用のビーダマンを使ってくるようになるんだ。作中において最も印象的な悪役である伊集院をリーダーに、小柄でちょっと生意気な少年と思いきや実は女の子だったというどんでん返しをかましてくれた北条明、ほとんど台詞のない眼鏡早乙女基夫。この決勝戦はバトル以上にドラマ重視で、決着シーンはまさに作中におけるクライマックス。これが七巻で、ちょうど半分ぐらい」
「ふうん。それで残り半分はどうなの?」
「今までの戦いは地区予選で、これ以降は全国大会が始まるんだ。これでチームガッツも五人に増量。前述のビリーに加えてマスコット枠の飛田猫丸を加えて瀬戸内バイキングと戦うんだけど、個人的にはこれが本作のベストバウト。チームガッツの超人的なプレー連発に対して相手もかなり無茶してくるのがいい。その上で実力は論外の猫丸にもちゃんと見せ場を用意してたりケアも万全。バトルは海を模したステージなんだけど、試合前はしゃぐ猫丸を軽くどつきつつ『舟はゆれるぞ。泳げるのか?』とクールにたしなめるビリーという描写から水に落ちなかった猫丸と実は泳げないビリーってオチに繋げたりとかね。実際は月刊連載だったからそういう部分はコミックスでまとめて見る事で初めて気付いたりするけど、荒唐無稽とも言えるバトルの中でも構成がしっかりしているから素直に楽しめるんだなって思うよ」
「それが全国大会の一回戦?」
「うん。次はガンマの弟分みたいなのと対戦。まあここまではいいんだけど決勝戦はちょっとねえ。メンバーが小学生離れしたムキムキ男三人と結局最後まで実力見せてくれなかった二人で、バトル自体も勝負と言うか試してやるみたいなスタンスでいまいち燃えない。そこからダークマターと呼ばれる邪悪なビーダマン使いとの対決になって作品は終局を迎えるんだけど、このダークマターも実は性根がまともだと判明するんだ」
「いかにも悪役みたいなネーミングだけどやっぱり善性が残っているのね」
「と言うか初登場の時点でかなり人間的な感情を露わにしてるし、まあこれは改心するなって。他に悪役で言うと札月兄弟ってのがいて、当初はその名の通りのゴロツキだったけど次第に浄化されていくし。ただそうなると勢いビー玉じゃなくて鉛球を用いるなど反則連発したり勝負に負けた奴が持ってるビーダマンを強制的に取り上げたりしてるガーディアン、決勝で戦ったムキムキ男がそれでダークマターに対抗する一応善玉のはずの人達が一番悪辣というちょっと嫌な結論が導かれちゃうんだけど、まあそれはそれ。やっぱり決勝戦がどこか盛り上がらないのは決着がつく前にダークマター乱入ってグダグダもあれど、相手がいまいち態度が悪く本気出してくれないって点にあるんだろうね」
「終盤はバランスが崩れていった感じではあるの?」
「うん、そうかな。そうかも。終盤は新ビーダマン投入とストーリー進行のペースが噛み合わず見せ場なかった新型もあるし。最終巻もかなり展開を巻いてると言うか、もっとじっくりやれるものならやりたかったと思うよ」
「そこはまさにこのジャンルの宿命って事ね」
「うん。実際一度スーパービーダマンというシリーズを整理して代替わりしようという流れがあったから、作品もそれに殉じたんだ。実際この後バトルビーダマンという新シリーズが展開され、別の作者による漫画も掲載された。まあ宿命と言えばその通りだよね。ただバトル自体は見応えあるし、今まで激戦を繰り返してきたタマゴが言うからこそ説得力の生まれるバトルについての台詞とかまさに集大成って感じ。ラストも結構大団円で綺麗にまとめてる。なおリアルタイムにおいてはこの最終巻なんてほとんど刷られておらず、電子版が出来るまではかなりのレア物だったみたいだね」
「それが今や十一円か」
「やはり作品は広く行き渡ってこそ。手の届かない価格になるよりこっちのほうが健全だよ。そして、今まで語ってきたような大まかなストーリーの合間に別冊コロコロコミックに掲載されてたような読み切りが挟まれているんだ。宇宙人に連れられて悪いエイリアンを退治するとかビーダマンのテーマパークとか悪霊に取り憑かれたガンマと対決とか無理がある、じゃなくて夢がある設定が続出」
「読み切りとして本編ではやれない事をって人気作特有のありがたいサービスね」
「他にもビーダマンの本に書き下ろされたコミックス未収録の作品なんかもあるけど、そのうちまとめられて電子化されるかもね。とにかくもう一度言うけど全巻合わせて百六十五円だからね。リアルタイムで触れた人でなくても楽しめるはずという観点から今まで意図的にファイティングフェニックスやワイルドワイバーンと言った作中で活躍したビーダマンの固有名詞は省いたけど、でもまあ、やっぱり世代の人が読むとより楽しめるんだろうね。後追いでは見えてこない世界は、確かに存在するものだから」
「本当にそうよね」
「今を生きる僕達は今作れる思い出を作るのが本当は正しい生き方なんだよね。明日からは春が来るよ」
「うん。それじゃまた」
まとめると十五巻、大体以下の様な内容となっている。
01 タマゴガンマサラー登場。テンポ速い
02 反則王円大作とバトル。大会参加へ。猫丸も出る
03 予選とシャドウズ戦。ファイティングフェニックス登場
04 ゴールデンビーダマンやらかす。ガンマとサラーの新型登場
05 バーグラーズ戦途中までとSFCゲームと連動した読み切り
06 バーグラーズ戦決着と決勝戦でチームガッツ押され気味
07 最終決着。北条カミングアウトと伊集院骨折
08 全国大会までの繋ぎと読み切り。札月兄弟や小野寺マリ登場
09 瀬戸内バイキング戦とかける主演の読み切り一話
10 ガンマの弟分と対決。バーニングアトラス八点射
11 決着そして決勝へ。ビー玉番長とか札月姉が出てくる読み切り
12 決勝戦。敵が真面目に戦ってくれない
13 ダークマター編突入。ガンマ負傷しビリーの存在感が高まってくる
14 ビリー大活躍もはや主人公
15 大団円の最終巻。男気あるモヒカン
いつまで続くか誰も知らないしもしかすると今日にも終わってしまうかもしれないセール。今日限りで冬も終わるし、早く手を出したほうがいい。ついでにビーダマン本体を、と行きたいがすでに過去のおもちゃとなっているだけあってオークションなんかでも結構な値段だった。
今回のまとめ
・四年に一度の閏年だから奮発した間に合って良かった
・ありえない価格だったので思わず手が伸びた
・Kindle初めて使ったけどあの端末は別に不要だったんだな
・無茶に至るまでの理論的な積み重ねが上手いので面白い