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fh08 トヨタ自工とフジタ工業について

 二月に入っても様々なニュースが日本には溢れている。本編に関係しそうな話で言うと、まずは二月一日のキャンプインと、翌日の夜に発覚した清原逮捕となるだろう。何より悲しいのは「ああ、やっぱり」と思ってしまった事だ。あまりにも変わりすぎてしまった。


 それとサッカーのオリンピック予選。いや、これは一月の話だけど弱い弱いと言われていたものが終わってみれば優勝。勝負どころでよく頑張っていた。終了直前に飛び出した原川のミドルシュートとか。そして決勝の韓国戦での浅野。リーグで見せていたものをあそこで出してくれたのが何より喜ばしいものだった。


「まあ色々あったけどまずは浅野よね。途中までは韓国の流れだと思ってたけど、よくやったわ」


「本当にね、前半全然駄目で後半フォーメーション変更したけどすぐ二点目取られたからもうきついなって思ったよ」


「でも浅野。矢島のスルーパスによく反応しての一点目から次の瞬間には左サイドの山中から矢島がヘディング。あっという間に追いつけた事で一気に潮流が変わったわね」


「韓国は対応出来てなかったね。そして三点目。相手のシュートをブロックしてこぼれたボールを素早く縦に入れて、一度は弾かれたけど中島がノートラップでパスをして、浅野が体を入れ替えて、ああっ!」


「シュートがまた絶妙だったわね。力みすぎて大外れとかしそうにない落ち着き。やはり去年の経験が生きたんでしょうね。最後の最後でああいう仕事出来るというストライカーの鑑。さて、ここらで本番と行きましょう。前回予告した通りだけど、いい方と悪い方どっちからにする?」


「ううん、まあ最終的には両方になるんだし先に悪い方で」


「はい。という訳で七十年代JSLにおけるトヨタ自工の戦いっぷりについて」


「トヨタって悪いんだ」


「成績がね。まず元々トヨタはJSL参加こそしていなかったものの六十年代からかなりの強豪で、社会人の大会では好成績を収めて入れ替え戦にも度々出場する東海の雄と称される存在だったの。そして一九七二年、第一回のJSL二部リーグではわずか一敗という独走優勝を果たし、翌年からチーム数増加したJSL一部昇格を決めたの。七十三年の名鑑に掲載されているのはそういうメンバーよ」


「あっ、この頃はちゃんと専任の監督もいるんだね」


「志治達朗。スーツ姿なので現役感は皆無だけど地元愛知県出身で元日本代表のウイングだった人なんだって。そして選手は、小沢政宏や泉政伸に加えてその後監督としても活躍する曽我見健二なんてのもいて、彼は植木等みたいな顔」


「七十五年では爆発した髪型を披露した内生蔵もいるけど地味な短髪だね」


「それとGKの望月博志の目つきがやけに綺麗で気になるわ。なお肝心の成績はと言うと五勝八敗五分で入れ替え戦回避の七位と、昇格一年目のチームとしては十分以上の健闘を見せたわ。今もグランパスの練習場として使用されているトヨタスポーツセンターの完成もこの年よ。それも含めてやる気はあったみたいね。この年は」


「成績見ると翌年から最下位街道驀進か」


「永大の本によるとトヨタは真のアマチュアと呼ばれていたそうで、つまり他と違って昼は真面目に仕事して夜からってなるから練習時間が短かったみたいね。成績を見ると七十四年は得点力不足で、七十五年以降は守備も崩壊してるわね。しかし入れ替え戦では意地を見せて残留を続けるの。そして運命の年となった七十七年、凄まじい成績を残したの」


「むう、確かに凄いなあ。十八試合で一勝十七敗、八十一失点の得失点差マイナス七十一って……」


「もう勝負になってないわね。石にかじりついてでも一部残留を続けたところでチーム力強化どころか差が広がる一方よ。当時の試合寸評を見ると〇対三でトヨタが負けてるのに相手側、つまり三点取ってる側の攻めがまずかった、普通にやってたらもっと点を取れたみたいに書かれる程度の存在だったみたい」


「それって逆にトヨタどんだけ弱いのって話だよね」


「挙句の果てにはGKの望月博志を『パワーがあるから』などという理由でフィールドプレーヤーとして起用する始末。しかもその試合では代わりに出場した若いGKが大量失点を喫して惨敗という救われなさ。そして入れ替え戦でも読売クラブに連敗してようやく降格となるの」


「それから十年ぐらい二部か。と言うか翌年は二部ですら九位なんだね。これは酷いなあ」


「本当にズタボロよ。さて、選手はと言うと、この年にかぎらず全体的に高卒選手が多いのがトヨタの特徴よね。当時のエリートたる大卒選手はあまり獲得出来なかったのか、やる気の問題か。七十三年当時の主力だったベテランが退く一方で後継者はおらず、高卒選手を無理に使うも実力差があるからこんな成績になったってところでしょうけど背番号16佐藤辰男はルーキーで最も期待された選手で、九十年代までプレーを続ける事となるわ。他は……。ああそうだ、今更だけどGKの望月博志とFWとトヨタのスポーツカーという異名があったという望月静夫は兄弟だったみたいね」


「でも顔はそこまで似てないね」


「よく見たらかくかくした輪郭のアゴ周りとか共通してはいるけど。広告は、七十三年はまず丸の中に片仮名でスピード感あるトヨタって字の古いロゴがいい味。七十七年はシートベルトを締めましょうって内容だけどダミー人形のイラストが不気味。当時日本のシートベルト着用率は『高速道路で11.5%、一般道路では6.0%』だそうで、昔の人は危なっかしい生き方してたのね」


「今はシートベルトなんて当たり前なのに、昔はそうじゃなかったんだな」


「『創立40周年TOYOTA』とか書かれてるけどこんな大事故のような降格劇を披露して本当に良かったのかしら。まあ、トヨタはとりあえずここまで。グランパスがトヨタの子会社になったらしいけどこの頃みたいにならないといいわね」


「小倉監督だっけ。頑張るといいよね」


「さて、次はいい方こと藤和不動産からフジタ工業に名前を変えたこのチーム。前にも言った通り一九六八年創部というまったくの新興チームで、一九七二年には昇格を決めているの。そこでは最下位に終わるも名鑑の寸評では『けれん味のない試合を展開、リーグにさわやかな新風を吹き込んだ』となかなかの高評価。しかもこの年、ワールドカップ予選の合間に開かれたスペシャルカップなる大会で優勝しているんだからまさに期待の新鋭ってところよね」


「出来たばかりなのによくそこまで強くなれたねえ」


「その原動力となったのが六十年代に黄金時代を築いた東洋工業OBの力を借りるというもので、実際七十三年の名鑑を見ると下村幸男監督っているでしょう」


「うん、いるね。おでこが広くて薄い顔してる」


「そうだけど、この彼こそが東洋黄金時代を率いていた男よ。身長171cmと低いけど元代表GKでもあり、去年殿堂入りもしたの。思えば下村に鬼武健二、二宮寛とこの時代を代表する指導者がごっそり殿堂入りしたわけよね、去年って。それと背番号11中村勤も元東洋よ。高卒で東洋入部し、大学に通うため辞めたけどちょうどその頃出来た藤和にお手伝いとして加入してたらこうなったって事らしいわ。今は府中町で議員やってるみたい」


「ふうむ、そう考えると栃木県にありながら広島色の強いチームでもあったんだなあ」


「当初はそうだったけどこの頃に鳴門意外と栃木県出身の地元選手も多かったり。そしてこの頃の藤和で一番有力かつ有名なのは背番号8のこの男よ」


「おお、セルジオ越後!」


「筑紫哲也の若い頃って言われても納得するような渋い目つきで写ってるこの人が若き日のセルジオ越後よ。正直顔的には横のカルロス松田とかいう、情熱的なラテンダンス踊りそうなペルー人のインパクトに食われ気味かなって。また、後に大きく伸びる今井敬三や古前田充もそれぞれ背番号17と18でルーキー。新進気鋭の若手エコノミストみたいな、かっちりとしてるけどそこはかとなく胡散臭い今井の顔はインパクトあるわ。背番号27の渡辺三男はまだ高卒二年目と若いのに老けて写ってるのが不思議」


「それが七十五年には越後や中村といったベテランが消えて、今井や古前田、渡辺なんかが主力になっていくのか」


「監督も石井義信に交代してるしね。彼もやっぱり東洋OB。選手だと童顔だけど年齢を見ると今井や古前田より上な背番号11のサイドバック原正弾らが加わっているわ」


「渡辺もだけど、前髪下ろしてると若く見えるものだね」


「そして七十七年にはフジタ工業と名前が変わってて、と言うか七十五年の途中から変更されたんだけどね。またユニフォームも臙脂色から黄色と緑のブラジルっぽい色合いのものになって住所も栃木から渋谷区千駄ヶ谷に変更。それと選手たちの写真写りが異常にシャープなのが変に印象的」


「皆やけにすっきりしてるね。GKの栗本直とかエスパー使いみたいになってるし」


「チームとともに成長していく渡辺三男はまさかのパーマで色気づいているわ。まあルックスは全体的にかなり垢抜けたわね。もちろんチーム力も大きく向上しており前年は三位でチーム寸評でも『今季は初優勝のチャンス』と書かれているわ。そしてその下馬評通り見事に初優勝を果たしたの!」


「おお! おめでとう!」


「選手としてはブラジル人の大爆発が大きかったみたい。シーズン十八試合で六十四得点だからまさに圧倒的よ。無論、トヨタを大いにいじめてて得点王となったカルバリオと彼と争った背番号28のマリーニョ、巻き毛の長髪をなびかせる札幌大学出身のブラジル人が四点ずつ取り合って九対〇とかやりたい放題。翌年は得点がほぼ半減して連覇に失敗も七十九年には奪還。ただ得点力は戻らず、それゆえに守備的な優勝だったみたいに言われる事もあるけどそもそも七十七年が異常すぎただけじゃないかなって」


「まあ一試合三得点以上が平均なんてそうあるわけないよね」


「トヨタが消えたらそりゃあゴールも減るわ。選手で言うと、七十七年当時にもいた上田栄治、植木繁晴といった人達が主力に加わっているの。この二人はJリーグで監督やってたから知ってる人も多いと思うわ。他にルーキーながらいきなり背番号10をもらった野村貢など。ただ全体的に写真が七十七年からの使い回し多めでちょっと手抜きっぽい」


「当時の日本最強クラスなのにその程度の扱いなのか」


「今だったらありえないわね。さてフジタ、翌年は連覇を逃すも八十一年には中村勤監督に率いられて三度目の優勝を果たすの。五年で三回優勝は、連覇こそないものの黄金時代と言って差し支えないでしょう。つまりフジタの七十年代は黎明から色々形を変えつつ強くなり、まさに黄金時代まっただ中にまで漕ぎ着けたというサクセスストーリーとなっているの」


「うまいもんだね。しかしチーム名変更して良かったよね」


「フジタの一部門ではなく全社を挙げたサポートが得られるようになったってものだし。なお広告はと言うと、七十三年は七十五年と同じく『まだ若い会社です。だから真剣です。』とバイタリティ押しだけど、視線を上に向け意欲にあふれた若い男の顔どアップはかなりのインパクト。それなのにフジタと来たら、『未来をひらくフジタ工業』らしいけど肝心な部分はイメージイラストでお茶を濁してさあ。広告としてはフジタより藤和のほうが上と断言出来るわ。まあ七十七年と七十九年でほぼ同じな中微妙に変わってる部分を見るって楽しみはあるけど。七十七年では書かれてた本社住所の郵便番号が七十九年には消えてたりとか」


「またそんな微妙なところによく気付くものだね」


「なお、そんなフジタも八十年以降低迷して九十年にはついに二部降格。Jリーグ創立メンバーにも漏れているわ。これに関してフジタは元々プロ意識が高く、特に七十年代はかなりアグレッシブに動いてて丸の内御三家を中心とするアマチュア主義の体制から嫌われていた部分もあったみたい。九十三年の二部リーグで首位だったのにどうにかして柏を上げようと変な工作がなされたとか、最初から湘南って名乗りたかったのに却下されたとか。まあ、今はフジタも撤退してあの頃の暴れっぷりもすでに過去となっているわ」


「その代わりに新たな個性を手に入れた。今年も残留出来るといいね」


 このような事を語っていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので二人は素早く戦闘服に着替えて敵が出現したポイントへと走った。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のクロハゲワシ男だ! この星の低級な人類は全滅させねば」


 名前からしてハゲとか入ってるのは気の毒だ。動物に限らずオオイヌノフグリとか一部植物でもかわいそうな名前はあるのだが、こっそりと変更してもいいのではとか思ったりする。しかしオオイヌノフグリの季節はもう少し先だ。それを守るために渡海雄と悠宇はこの山中に来たのだ。


「またも出たなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「寒い季節にわざわざご苦労様ってところだけど、あんまり迷惑かけられても困るのよね」


「ふん、出たなエメラルド・アイズ。今日この地が貴様らの墓場よ。行け、雑兵ども!」


 四方から襲い掛かってくる雑兵を二人は次々と倒していき、ついに残る敵はクロハゲワシ男ただ一人となった。


「よし、雑兵は片付いた。後はお前だけだなクロハゲワシ男!」


「あなたは宇宙の迷鳥みたいなものなんだから、早くこの地球から離れてくれないかしら」


「馬鹿め。戦いはこれからが本番だと言うのになぜ離れられようか」


 そう言いながら懐から取り出したスイッチを押してクロハゲワシ男は巨大化した。それに対抗すべく渡海雄と悠宇もまた合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 スピードとパワーを兼ね備えたクロハゲワシロボットの攻撃にやや手間取ったが、次第にペースを握ると形勢逆転に成功した。


「よし、今よとみお君!」


「うん。メガロソードで一刀両断だ!」


 一瞬のタイミングを逃さず、渡海雄はすかさず赤いボタンを押した。左腕の光とともに呼び出されたソードを握り、翼で飛び立とうとするクロハゲワシロボットを袈裟斬りにした。


「ぐおおお!! これまでか!!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられてクロハゲワシ男は宇宙へと帰っていった。風が寒いなら二人で暖めあえばいい。もう少しで春も見えてくるはずだ。

今回のまとめ

・堕ちるところまで堕ちたなら後は上がっていくしかないだろう

・トヨタの成績を見るとグランパスの凄さが一層浮き彫りになる

・七十七年のトヨタは一部所属した日本のサッカーチームで史上最弱かも

・チームが強くなるとルックスも相応に洗練されるものなのだろうか

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