表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/396

fh07 1970年代の日本サッカーについて

 ボロボロと雪が降りしきりテンションマックス。とてつもなく寒いのだがそんなものは心に灯る情熱の前には意味を成さない。特にそれまでは雪が殆ど降らない土地に住んでいた渡海雄は犬のようにはしゃいだが今回はそういう話ではないので割愛。二人の話題は冬の移籍市場の話に移った。


「でも実際ウタカってどうだと思う? 今日入団会見あったけど」


「サンフレッチェのアフリカ人はビロング以来でその時は降格したって言うけど、まあそんな昔話はどうでもいいとして。去年の清水はチームとして一貫したものがなかった中で、ウタカ個人としては頑張ってたと思うわ。身体能力はもちろんテクニックもあるし、個人の技量は間違いないでしょうね。もちろんドウグラスとは異なるタイプだけど、大事なのはきちんとフィットさせられるかよ」


「それにしてもドウグラスも出世したもんだよね。いなくなるのは残念だけど、まあ仕方ないね」


「本当に金の問題はねえ。スタジアム問題もつまる所はそこだもんね。ところで今回はかねてから用意していたお話をじっくりと解決させようって事だけど、まずはこれを見て」


「むうっ、これは……! 選手名鑑だね」


「そう。日本リーグのね。それぞれ一九七一年、一九七三年、一九七五年、一九七七年、そして一九七九年のものよ」


「狙ったように飛び飛びだ」


「わざとじゃないわ。一年ぐらいかけて集まったのが偶然こうなっただけであってね。まあこれぐらいあれば七十年代をざっくり見渡すには十分でしょう。まず七十一年が日本サッカー界にとってどんな年だったかと言うと、大きなトピックスとしてはまずミュンヘンオリンピック予選敗退が挙げられるわ」


「予選敗退かあ。ううむ」


「この前のオリンピックがあの銅メダルを獲得したメキシコだったのに早くもこの凋落。今ドーハで頑張ってる皆様もこうならなきゃいいけど。選手に関してはメキシコ組が十人ほど残ってるけど、つまりはあの時から三歳年を取ったって事だから。この敗退で岡野俊一郎監督は退任し、でもまた長沼監督に戻っただけであんまり代わり映えはせず。続いて七十三年は西ドイツワールドカップ予選に敗退したわ」


「また敗退?」


「気が滅入るような歴史だけどそれが事実よ。この大会では国自体が消滅寸前だった南ベトナムに大勝したもののイスラエルや香港には及ばず。それと男前な松村雄志がこの大会の代表に選出されていたけど残念ながら、誠に残念ながら試合出場はなかったみたい。メキシコ組は五人まで減っているわ」


「なかなか上手く行かないものだね」


「七十五年は、まあいいか。モントリオールオリンピックの予選があったのは翌年だけど、これも言うまでもなく敗退なわけだし。メキシコ組は釜本、森、小城の三人のみとなり、その代わりに大学生が複数選出されるなど若返りを図ったのはよく分かるんだけどね。そして七十七年にはアルゼンチンワールドカップの予選があって」


「やっぱり敗退なんでしょ?」


「無論。そしてこの年、メキシコ組最後の生き残りだった釜本が代表引退。これで本格的に新時代に突入、なんて景気のいい事言えたら良かったんだけど結局後続がそんなに育ってないわけで。この時代が日本代表でも一番苦しい時代だったとはよく言われる事で、実際メンバー見ても主軸となるであろう年齢の選手の中に今でも知られているようなビッグネームが少なくて確かに厳しそうって感じられるわ」


「ああ、でも奥寺康彦なんて名前が」


「奥寺はこの年ドイツへ移籍し、大いに活躍するわ。でも当時は海外移籍した選手は代表に呼ばなかったから日本代表としてはようやく台頭してきたエースを失ったの。それで無理に無理を重ねて若い選手をいっぱい選出して、その中から後に日本代表の主軸として活躍した選手もいるにはいるけど、あてのない未来志向にすがるしかなかったという印象。それとこの年にはよみうりランドを舞台に第一回全日本少年サッカー大会が開かれたの。キャプテン翼の最初のほうでやってたあの大会ね。決勝は清水FCと埼玉の下落合が引き分けで両者優勝となったけど、清水に長谷川、大榎、堀池といった選手がいたの」


「長谷川って言うともしや今ガンバ監督の?」


「そう、長谷川健太。その後彼ら三人は揃って清水東高校へ進学し、三羽烏と呼ばれたわ。それから名門大学を経て強豪チームに入団、全員が日本代表に選ばれるような優秀なサッカー選手に成長したの。そして一九九一年、清水にプロサッカークラブが出来ると決まった時真っ先に入団を決意したのが三羽烏の一人である大榎克己よ。その後長谷川と堀池も清水入団を決めたけど、清水で一番長く現役を続けたのもまた大榎なの。とまあこういう前振りの上で『しかし大榎は監督としては無能で清水エスパルスを史上初の降格に導いた』というオチが付いたのが去年の話」


「悲しい話だね」


「一部報道などでやたらとゴトビが悪かったみたいに言って大榎の責任をあまり認めない人もいたけど、そんなに長く関係が続くと厳しい現実を受け入れがたい感情が生まれるのも致し方のない事なのかもね。七十九年は下村幸男監督にバトンタッチしてるけどこれまたメンバーが苦しくて、当然翌年のモスクワオリンピック予選も敗退となったわ。ただこの辺りになるとJリーグに間に合った選手や、指導者や解説者として広く活躍している名前がちらほら出始めるからそういう意味での安心感はちょっとあるわね」


「でもそういう選手は軒並み大学生とか日本リーグに入ったばかりなんだな。若すぎる」


「若い選手をいっぱい抜擢しているから活躍した選手もいれば期待に応えられずすぐ消えた選手もいて、それに七十年代を支えてきた選手達が混ざって一種異様な過渡期的カオス感漂うのがこの時代の特徴よ。次の渡辺正監督時代になると七十年代選手はほとんど切り捨てられ、急に知ってる名前が増えるわ。もっとも彼らがピークを迎える八十年代もまた苦難の歴史が続くわけだけどそれはそれとして、とにかく七十年代は日本サッカーにおけるトピックスに乏しいって事は分かったと思うわ」


「ずっと負けてばっかりだもんねえ」


「六十年代のメキシコオリンピックがまず一つのピークとなったけど、以降は苦難の日々が続いて、九十年代に入ってJリーグ開幕頃になると日本代表も勝てるようになってきてってのがおおまかなタイムラインになるじゃない。でも七十年代に活躍した人達ってメキシコには乗り遅れてJリーグにも間に合わなかった世代と言える訳で、彼らが活躍していた日本リーグの事なんて、あまり語られるものじゃないでしょ」


「確かに」


「だからこそ調べてみようって事よ。観客が少なくてもレベルが低くても、そこにサッカーがあったのならばってね。まず当時の環境として、七十一年の日本リーグはまだ八チームだったの。それが七二年に二部リーグが創設され七十三年には一部リーグが十チームに拡大された。そういった歴史も一応は頭に入れつつ実物を見てみましょう。まずは七十一年から。サッカーマガジンが別冊付録として選手名鑑を作るようになったのが実はこの年からなのよ」


「へえ。それまではこういうのなかったの?」


「然るべき月に出た号の巻末に名鑑があったの。だから図書館に行ってその巻があれば楽に見られるって事。ともかく、初めての試みって事でやけに分厚く、巻頭には小城や釜本、宮本ら有名選手のカラーグラビアがあり、真ん中には期待の新人として高田一美や日高憲敬らのモノクログラビアやユニフォームカラーについて書かれた図も掲載。そして巻末には『日本リーグの歩みと記録』としてそれまでの六シーズンの成績や講評、珍しい記録についてのコラムが収録されているの。通算得点はこの時点で早くも釜本がトップだけど二位の宮本とは二点差しかないとか、色々気付きを与えてくれたわ」


「至れり尽くせりだね」


「それと広告も、ちあきなおみが妖しげな笑みを浮かべるヤクルトジョアの広告とかあって楽しませてくれるわ。プレーン、マンダリン、ブラックカーラントというバリエーションも怪しい。七十三年も巻頭のカラーグラビアや途中のモノクロ若手紹介があり、最後のページには二部リーグの成績も掲載されているわ」


「永大産業とかあの辺り?」


「一九七二年の成績だから永大はまだ。気になったのは富士通。四勝五敗九分とやたら引き分けが多くて、逆に読売クラブは七勝十敗一分と出入りの激しい戦いを繰り広げていたわ。今の勝ち点換算なら読売のほうが上位だけど当時は勝っても勝ち点二だから富士通は四位、読売は七位となっているの」


「結構そういうルールって変わってるものなんだね」


「実際勝利で勝ち点三って九十年代の途中から一般化したものだから。どうせなら引き分けで粘るより勝つか負けるかのほうが面白いって事でしょうけど。さて、ここまでは良かったんだけどこう見ると七十五年は薄いわね。全編モノクロだし、表紙に使われた選手が誰かって説明もないし。その傾向はずっと続くわ」


「最初は頑張ったけどあんまり反響なくて手抜きに走ったみたいな?」


「ただ七十三年にはなぜかオミットされていたコーチやスタッフの名前が戻ったのはいい事よ。七十一年はチーム寸評とコーチスタッフ陣とオーソドックスだけど、下側は広告スペースなので横に長い印象。七十三年は広告の位置を横に変更したから七十五年以降と同じデザインになったけど、ひたすら長くチーム寸評が書かれているのが印象的。七十五年にはコーチスタッフ欄が復活し予想スタメンが掲載されたけど七十七年には予想スタメンは消えて、代わりに前年度の得点者と歴代得点数ベストファイブが掲載。これは七十九年も継続よ」


「ふうむ、こう見ると手抜きとかじゃなくてスペースの中で色々変えてはいるんだね」


「プロならやすやすと手抜きなんてしないはずよ、多分。そして肝心の所属チームなんだけどね、まず大きく三つのグループに分けられると思うの。まず一つ目が全てに参加しているグループ。具体的に言うと東洋工業、ヤンマーディーゼル、三菱重工、古河電工、日立、新日鉄、そして日本鋼管よ」


「多いねえ!」


「十チーム中七つがこれ。しかも初期は八チームだったから、この入れ替わりの少なさは一つの特徴よね。なお鋼管以外は一九六五年にリーグが発足した当時から所属し続けるチームでもあるわ。当時は最下位になっても入れ替え戦に勝てば残留だったから、実際この中にはリーグ戦最下位に落ちたところもあるわ。そのルールが消えたのは八十年からで、以降老舗チームが相次いで降格する事になるけどそれはまた別の話。そして第二のグループは、それぞれにおいて一度しか掲載されていないチーム達よ」


「ああ、タイミング良く上がったもののすぐ落ちた、みたいな?」


「一概には言えないわ。一年おきだし七十年代だけの話だから。具体的に言うと七十一年は名古屋相互銀行、七十三年は田辺製薬、七十五年は永大産業、七十七年は富士通、そして七十九年は読売クラブと日産自動車よ。名前を見ただけでもケースバイケースだって分かるでしょう。今まで頑張ってきたところ、八十年代以降頑張るところ、本当に一瞬上がっただけのところとね」


「定義としては七十年代において一部在籍が少なくとも四年未満だったチームってところか」


「回りくどいけど、まあそうなるわね。そして最後のグループはその中間。つまり手持ちの名鑑に複数年度掲載されてるけど全部ではないというもの。具体的に言うとトヨタ自工と藤和不動産/フジタ工業の二つよ。まずはここから説明しようと思ってるわ。だって数少ないから」


「そりゃあまた、端的な」


「じゃあ早速いくけどね……」


 しかし言葉は続かなかった。敵襲を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いたからだ。二人は素早く戦闘態勢に移行すると、アスファルトにうっすらと残った白雪を蹴散らして敵の出現したポイントへ走った。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のキタキツネ男だ! この星に正しき物語を継がせよう」


 山の中腹、白い草原に降り立ったキタキツネ男。しかしその存在は人類にとってエキノコックスのようなものであり素早く排除しなければならない。


「出たなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「こんな寒い日によくもまあ余計な事してくれるわね。成敗してくれるわ」


「出たな逆臣ネイの手下どもめ。貴様達に与えるのは死のみだ。行け、雑兵ども!」


 雪原に大量発生した雑兵を破壊した時の火花がダイヤモンドダストのようにきらめいた。それにつけてもハイテクなバトルスーツのお陰で渡海雄や悠宇は今の寒さをまるで感じていない。そんな服があれば確実に売れるだろうに。それはともかく雑兵は全滅した。


「よし、これで厄介なのはいなくなったな。後はお前だけだキタキツネ男!」


「あんまり手前勝手な物語を作られても困るしそろそろ退場願おうかしら」


「ふん、生意気な。退場するのはこの星に巣食う下等な生物よ」


 そう言うとキタキツネ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦いは避けられない。二人は覚悟を決めて合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 敵の素早い動きを悠宇が上手く牽制してダメージを抑えると、一転して懐まで入り込み格闘戦を仕掛けキタキツネロボットのバランスを狂わせた。


「よし、今よとみお君!」


「うん。レインボービームを使う」


 一瞬のチャンスを逃さない。渡海雄はすかさず白色のボタンを押した。胸部から放たれし波長の違う七本のビームがキタキツネロボットの胴体を捉えた。


「ふおお! ここまでか。撤退する!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によりキタキツネ男は宇宙へと帰っていった。戦い終えて見上げた空はすっかり黒くなっていた。寒空の下にそれでも君がいる。街は凍えても心の暖かささえあればきっとやっていける。二人はお互いの目をまじまじと見つめ合い、くすりと笑いあった。

今回のまとめ

・テンション上がるぐらい寒すぎる

・七十年代の日本サッカーは本当に負けっぱなしで苦労が偲ばれる

・その中でも栄枯盛衰があって様々な動きがあった

・そして影に日向に今に繋がる要素が脈打っている

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ