hg26 SMAP解散報道について
一月十三日の朝、目覚めてみるとSMAP解散の文字が世間を覆っていた。突き刺すように冷たい冬の空気が肉体に緊張感を走らせる。渡海雄は朝の挨拶もそこそこに、単刀直入に切り込んでいった。
「ねえねえゆうちゃん聞いた? SMAP解散って!?」
「そうらしいわねえ。びっくりしたわ」
「でもどうやら本当らしいね。育ての親として慕われているマネージャーの人がジャニーズを退社して、その人に従う形で木村拓哉以外独立なんて」
「それぞれ考えるところはあったんでしょうけど、こういう形になってしまうとはね」
「メンバーに関してはもはやね、説明する必要もないってところだからね。司会者として手広く活動している中居正広、俳優として数多くのドラマに出演している木村拓哉、当初はメンバー一の硬派とか紹介されてたけどいつの間にか普通のいい人っぽいキャラを確立した草彅剛、漫画を実写化した時によく使われて痛々しい演技を繰り返す空虚なおじさん香取慎吾、それに稲垣吾郎」
「それぞれが特徴的よね」
「長い間第一線で戦い続けたメンバーだからね。そもそもSMAPの歴史ってのはまずご存知光GENJIのバックでスケートボードに乗ってフラフラと進んでいた人達、スケートボイーズって名前があったんだけどその中から選抜される形で結成されたんだ。でもメンバーはあんまり固定されていなくて、中には今TOKIOにいる国分太一がいた事もある。その後メンバーは固定され、三年ほど活動して一九九一年にデビューしたんだ。森且行含めた六人でね」
「その森ってのが今バイク乗りなんでしょ。昔どこかで聞いた事あるわ」
「詳しいねえ。肌の色が黒くていかにも華やかなルックス。ともかく、そうしてデビューを果たしたSMAPだけど、当初は苦戦したんだ」
「デビュー曲は『Can't Stop!! -LOVING-』ってものだったのね。作詞森浩美、作曲Jimmy Johnson、編曲船山基紀」
「まるで外国人のような名前の作曲者の正体は馬飼野康二で、光GENJIで言うと『CO CO RO』と同じメンバーによる楽曲だね。だからこれもああいう雰囲気で、からりと明るいけど格好良くはない。途中できらきら星のメロディーが挟み込まれる豪快な構成はいいけど、勢い余って滑ってる部分もある。歌唱含めてかなり荒削りな楽曲なので売れないのも仕方ないかなって。ましてやその次の『正義の味方はあてにならない』は全編滑り倒していてきつい」
「作詞小倉めぐみ、作曲馬飼野康二、編曲新川博。確かに歌詞を見ただけでもかなりギャグな感じね」
「アイドルとして基本的なところは光GENJIに抑えられていたから別の道を模索したはいいけどはまりきらなかったって事かな。ただ次からは軌道修正してもっと普通の曲になってくる。特に『はじめての夏』辺りね。九十年代当時における普通の中高生が普通に体験してそうなシチュエーションや何気ない心の動きと言うのかな。曲は大した事ないしアレンジもポコポコ言ってて軽いけどそれがマイナスにならず、むしろ爽やかさを醸し出してて、いいよ。『ずっと忘れない』なんかも、曲自体はシブがき隊の『君を忘れない』を引き伸ばしたようなどうって事ないものだけど歌詞のさりげなさに救われている」
「その二曲はどっちも作詞森浩美、作曲馬飼野康二、編曲長岡成貢なのね」
「この長岡や船山によるアレンジは打ち込みを活用した結果大抵軽くて、『笑顔のゲンキ』とか曲自体は正統派なのにアレンジのペラさで損をしていると思うな。ああ、そうだ。この『笑顔のゲンキ』は姫ちゃんのリボンというアニメの主題歌となったけど、これもまた人気低迷していたSMAPが打った新機軸だね。主人公あこがれの先輩の声優が草彅だったり」
「そういう活動もしてたんだ」
「歌番組が減ってそれまでのアイドルのフィールドが減少したから、それ以外に活路を求めたんだ。バラエティ進出もやっぱりこの頃。それにドラマ出演もね。こうした活動を繰り返す中で各メンバーの認知度も高まっていき、そして楽曲の売上もまた上昇していったんだ。この上昇気流を逃すまいと『$10』『君色思い』と続いたシングルでは林田健司というシンガーソングライターに提供してもらったんだ。特に前者はハードでファンキーな、それまでのアイドル的ではない格好良さがあって、それは時代の要求にもマッチしていた。この辺りになると同時期に発売されたシングルの売上では光GENJIを上回るようになった。もはや世代交代はほぼ完了して、間もなく光GENJIは脱退からの解散で第一線から退く事になる。逆にSMAPはずっと登り調子で『Hey Hey おおきに毎度あり』という曲でようやくシングル一位になれたんだ」
「妙なタイトルね。作詞は庄野賢一・えのきみちこ、作曲編曲庄野賢一」
「歌詞がなぜか関西弁だったり、曲自体も結構脱力系と言うか、ふざけたような曲だったけどヒットした。ここで一つの事を掴んだんだと思う。つまり格好付けない事が格好良いんだって」
「えっ、何それは」
「世知辛い世の中で大変だったり面倒臭い事も色々あるけどそこそこ自分なりにやってますよという現実的なバランス感覚とでも言うべきかな。とにかく光GENJIに代表される従来のアイドル像が時代遅れになった中で、彼らは九十年代という時代に適応したナチュラルな格好良さを会得したんだ。サウンドも含めてね。作詞小倉めぐみ、作曲編曲庄野賢一の『がんばりましょう』なんかがその典型。個人的な好みだと『オリジナルスマイル』のほうが上なんだけどね」
「ええと、これは作詞森浩美、作曲MARK DAVIS、編曲CHOKKAKUね」
「作曲はやっぱり馬飼野康二だ。編曲のCHOKKAKUはそういう名前で活動している日本人男性で、きめ細かい打ち込みによるサウンド構築が得意で、その後の多くのジャニーズ系グループで起用されている。個人的には同じくCHOKKAKUが担当した『君色思い』なんかにも共通する縦より横を意識したようなチョムチョムしたアレンジが楽曲の力感を削いでいる印象であんまり好みじゃないんだけど、まあ楽曲がいいからね。CHOKKAKU編曲シングルでは、時代が前後するけど『負けるなBaby! 〜Never give up』が一番好みかも」
「これは作詞相田毅、作曲筒美京平、編曲CHOKKAKUね」
「これは作曲の筒美京平、六十年代から長らく活躍を続けて特に八十年代は数多くのアイドルに楽曲を提供してこの世界における第一人者と言えるような大物だけど、さすがなものだよ。褒め殺し的な歌詞にCHOKKAKUのデジタルなアレンジが絡まって、なかなか高揚感のある曲。その前に出した『心の鏡』もそう。これは作詞が当時公募で選ばれた中学生の人らしいけどそれはどうでもいい。編曲はギタリストの土方隆行で、彼によるしっかりとした力強いアレンジが好印象。こういう路線がもう一歩に終わったから路線変更したんだろうけど」
「なかなか難しいものね」
「話が前後しすぎたね。整理しておくとデビューは九一年、『心の鏡』が九二年、『$10』が九三年で『がんばりましょう』は九四年という順番だよ。それとこの頃、アルバムに海外の有名ミュージシャンを大量に起用しまくって音楽通の人達から注目を集めるという作戦も始めたんだ。演奏が凄いんだって。もうこの時点で既にSMAPは時代のアイコンとなってたけど、九六年には前述の通り森が脱退してしまう」
「それって場合によっては致命傷になりかねない事態よね」
「でもこれが時代を掴んだ者の強さか、逆境さえも力にしたかのように五人となった彼らはさらに飛躍していくんだ。勢いのある曲を連発する一方で当時実力が評価されていた若手シンガーソングライターの山崎まさよしが作った『セロリ』という軽やかな曲をヒットさせるなど、非常に力強い活動を続けていく。そして一九九八年、『夜空ノムコウ』でついにミリオン突破」
「これが作詞スガシカオ、作曲川村結花、編曲CHOKKAKUか」
「改めてCD音源で聴くとアレンジが想像以上に跳ねててあれれって思ったな。もっとしっとりとした名曲の印象あったのに、記憶なんてあてにならないものだよね。それに『らいおんハート』という曲もやっぱりバラードでミリオンに到達したんだ。これは草彅主演のフードファイトってドラマの主題歌でもあり、そういう観点から言うと俳優路線のエースである木村についてちょっと語ってなさすぎるな。個人的には芸能人としてより歌手としての活動に重点を置いているから、でもそれはSMAPを語る中においては片手落ちもいいところなんだけどね」
「まあ語れる事を語ってくれればいいんじゃない?」
「うん、そうだね。さて、この『らいおんハート』が二〇〇〇年の曲で、以降は稲垣メンバーの一件もあり活動が停滞した時期もあったけど二〇〇三年、歴史を塗り替えるようなヒット曲が生まれるんだ」
「それが『世界に一つだけの花』ね。これは知ってるわ。作詞作曲編曲槇原敬之」
「うん。これもやっぱりテンポは抑えてて、それと歌詞が注目されたね。当時アメリカがイラクを攻めてて、それに反対する曲だなんて変な持ち上げられ方をされたりして、とにかく一種の社会現象さえ巻き起こしたんだ。楽曲そのもののパワーと時代とSMAPという存在の相乗効果だね。ただこれが当たりすぎたのが悪いのか以降は動きが鈍くなって、しかも楽曲自体もしょぼくなってしまい決定的に興味を惹かなくなったから以降はあまり語れない」
「一九九一年デビューで二〇〇三年にそれ。今は二〇一六年だから活動期間の半分はもうどうでもいいって事?」
「もっと言うと最初の数年ぐらいしか好みではない。ただこれは僕が光GENJIのような曲が好きだからという嗜好の問題だからね。世間一般だとその時期は低迷していて、そういう古いアイドル像から脱皮して格好良い曲を連発するようになったってものだし、僕みたいなのは少数派だよ。でもまあ、今の惰性のようなどうでもいい、心に残らないシングルを出し続けるよりはこれはこれで一つの偉大なる決断だと思うな。解散、残念だけど決めたのは他でもない彼らなんだから。今までお疲れ様でした。そしてこれからはタレントとしてそれぞれが活動するであろう中で音楽活動は、まあ多分ほとんどしないと思うし、それもまた時の流れだよ」
「確かに今までソロでの音楽活動ってほとんどなかった印象」
「ある程度は曲もあるんだけどね。某こち亀とか。でもあれは主演俳優がドラマの主題歌を歌うという形式であって、個々人にそういう意欲があるとは思えない。SMAPはもはやアイドルではなく、しかしそれはアイドルを超えたって事じゃない。これからの活動はSMAPの、という後ろ盾がなくなるしどうなるのかは僕にも分からないけど、全員が今と同じようにとはいかないのは多分そうだろうね。とにかく犯罪だけはもう犯さないようにね」
このような事を話していると敵襲を告げる警告の光が輝いたので、二人はそろそろ朝の会が始まるというタイミングながら教室を抜け出し、平和のために変身した。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のサワラ女! この汚れた星を解放するために来たのだ」
しおれた冬の海岸沿いに奇妙な女戦士が現れた。魚偏に春という漢字を持つサワラだが本当に脂が乗って美味しいのは秋から冬にかけてという話だ。しかしそんな事は関係なく、地球人類にとっては排除せねばならぬ敵である。
「お前たちの思い通りにはさせないぞグラゲ軍!」
「こういう日に限って出てくるんだから迷惑な話よ。早く帰ってくれるといいんだけどな」
「出たなエメラルド・アイズ。この地がお前たちの墓場となるのだ。行け、雑兵ども!」
ぞろぞろと出現して襲い掛かってくるメカニカルな雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と倒していき、ついには全滅させた。
「後はお前だけだなサワラ女!」
「あんまりうろつかれても困るし、そろそろ手を引いてくれると助かるわ」
「ふん、なぜお前達の助けになる行動をする必要があるのだ。まだ戦いは終わっていないというのに!」
そう言うとサワラ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり決戦は避けられないか。観念した二人はすかさず合体してそれに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
サワラロボットとメガロボットの熱戦が繰り広げられた。しかし徐々に悠宇が持ち前のセンスを発揮して相手を追い詰めていった。
「よし、このぐらいで十分でしょう。とみお君、とどめを!」
「うん。エンジェルブーメランで切り刻むぞ」
パンチやキックのラッシュで倒れ伏したサワラロボットに追撃の手を緩めない。渡海雄は桃色のボタンを押した。肩と背中の間から飛び出した二枚のブレードを組み合わせて相手に投げつけると、ブーメランはサワラロボットの胴体をズタズタに切り裂いた。
「くっ、これまでか! 脱出する」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってサワラ女は宇宙の彼方へと帰っていった。とりあえず今の平穏は守られた。
しかし大事なのはこれからだ。そもそもまだSMAP解散の報道があったってだけで正式な発表はまだだし、報道の中でもわずかながら解散しない可能性があるみたいな希望的観測を伝えるものもある。ただこうなるともう流れは止まらないと思うけど。
芸能界においてここまで成功したグループはそう多くない。彼らはどこへ向かうのか、それは未来しか知らない。ただSMAPという存在が永遠となる、その瞬間が確実に近づいているのは間違いないだろう。
と思ったら解散回避? とりあえず一月十八日のスマスマは見た。いきなりファンの声とかどうでもいい演出はともかく、その後の謝罪も非常に言わされているのかなという雰囲気が出ていた。英雄と連れ戻された脱走兵四人という図式。クーデター失敗した時はかくのごとしという。
ひとまず危機は回避されたって事なのだろうか。しかしそれは本人達が心から望んだ結果とは思えず、このままめでたしめでたしで終わるとはとても思えない。それにつけても生放送後のビストロスマップのお寒いこと。久々に見たけど香取が変な格好して出たりとかまだやってるんだなあと奇妙な感動を覚えた。もう四十近いのに未だにやんちゃな末っ子演じさせられてるんだなって。
解散が回避されたのはとりあえず朗報なのかもしれない。でも事実上の活動休止とかそれぐらいで一旦落ち着く時間も必要じゃないかな。
八月十四日、SMAPが年末で解散すると発表された。やはりこうなったか。公開処刑的な謝罪会見とか、あんなやり方で亀裂が修復されるはずもなく、なるようになったという事だろう。お疲れ様でした。
今回のまとめ
・SMAP解散報道は一瞬驚いたが納得は出来た
・楽曲的には初期のほうが好みだけど光GENJIのほうがもっと好み
・タレントとしての彼らについては特に言う必要もないだろう
・圧力がかかってとりあえず沙汰止みらしいが今後どうなるのか