am17 破邪大星ダンガイオーについて
正月も開けて通常の生活に戻りつつある今日このごろ。でもスーパーには七草が売られていてもう少しだけ非日常感覚が残っている。これさえ終わればそれこそ本格的に正月気分も終わりで、そうなると後に残るのは寒い冬のみだ。
今日北朝鮮が水爆の実験をしたようだけど、今のところはまだ落ちてこないにせよ余計な警戒をせざるを得ないのは大変遺憾と言える。しかしそれは大人の事情で二人には関係なかった。
「とは言っても、今日なんか比較的寒くないような気がするよね。これぐらいなら全然平気だってレベルで」
「そうでしょうね。冬でも膝が出るズボンで平然としているとみお君にとってはこの程度の寒さなんてへっちゃらなんでしょうね」
「いや、そこはね。寒いは寒いよ。でも寒いからと言って譲れない一線ってあるわけで。そう考えると中学生とか高校生の女の人って大変だと思うよ。僕なんかは自由意志でこういう格好してるのに、まさか皆が皆好き好んで冬でもスカートなわけじゃないよね」
「そうね。将来を考えるとそこは憂鬱よ。ねえ、スカートとか強制着用と考えるとねえ」
「スカートのゆうちゃんか。想像出来ないな。でも似合うんじゃない?」
「また適当な事を」
「本心だよ。ゆうちゃんなら何を着ても大丈夫だから。ところで最近GYAO! 見てて気付いたけど破邪大星ダンガイオーが配信されてたんだね」
「へえ、何それは」
「これはね、八十年代に作られたロボットアニメで、スパロボにもインパクトなんかでは参戦した事があるんだよ」
「ふうん」
「OVAって、つまりテレビで放送されるのではなくそれを収録された記録媒体を売り出す方式で作られたんだ。スパロボ参戦作で言うと他には冥王計画ゼオライマーとかメガゾーン23なんてものもあって、その利点としては制作における制約が少ないからやりたいようにやれるという点があるんだ。それで従来の子供向けというラインを超えてもっと大きな人向けの過激な描写を入れたり出来る。それと可愛い女の子をいっぱい出してやろう、なんかもね。ダンガイオーもチーム四人中三人が女だったりしてその傾向はあるけどグロ系描写は例えばメガゾーンなんかと比べると控え目。それよりも基本的には八十年代当時からしても昔の、具体的に言うと七十年代の今だとスーパーロボットと呼ばれるようなロボットアニメをリスペクトするような作りが本作最大の特徴となっているんだ」
「例えばどんな風な?」
「それは後で話すとして、まずストーリーから言うね。そもそも全三話だから一話ごとある程度詳細に語ったらそれが全てになるわけだからそうするよ。まず第一話『クロス・ファイト!!』。始まりは結構唐突で、何かよく分からないけどいきなり敵が襲ってくるというもの。その中で四人の少女と少年が出会う。それぞれ戦いを好まないミア、男ロール、子供っぽいランバ、一番人気なさそう、じゃなくて凛々しい女子プロレスラータイプで褐色のパイ。それぞれ超能力を持つ四人が宇宙を股にかける海賊であるバンカーという組織に売られそうになるから脱出するんだ」
「それで?」
「でね、色々あってギルという男を倒して一話終わり。決戦の舞台はミアの故郷である地球で、でもこれが終わった後もミアは地球に残らず皆と戦い抜く事を誓うんだ。仲間たちは『なんで?』と言うけど、それに対してミアが述べた理由がやけに多いのがちょっと印象的だったね。なおバトル自体は動きが割ともっさりとしていて、BGMとメインパイロットとなるロールの演技にかなり救われているね。音楽は渡辺宙明という、それこそマジンガーZの主題歌を皮切りに多くのロボットアニメ主題歌を作ってきたまさに大御所中の大御所。そもそもこの作品自体、元々はマジンガーZを当時の若手スタッフによってリメイクという企画がポシャって生まれたものというから渡辺の起用はまさしく既定路線だったんだろうね。それにロールの声優はゲッターロボや勇者ライディーン、その他色々ロボット物の主人公を演じてきた神谷明で、これもやっぱり『あの頃』を意識したキャスティングに他ならず、実際盤石の働きを見せているんだから見事だよね」
「主題歌は、OPが『CROSS FIGHT!』、EDは『心のオネスティー』。ともに作詞大津あきら作曲編曲渡辺宙明。歌うのはOPが水木一郎と堀江美都子のデュエットでEDは堀江単独」
「この世界における大物が勢揃いだよね。渡辺によるメリハリの付いたメロディーと八十年代当時における新しいサウンドが融合しており、それにアニメソング界の大物二人である水木と堀江による熱量のこもったボーカルが絡むというスタイル。新しさと懐かしさの両立を狙った作品を象徴する楽曲と言えるね。個人的にはEDのほうが好み。メロディー自体は当時からしてもレトロだったんじゃないかって思うけど、時代を超越した普遍性を獲得しているとも言えるわけで。さすがにこの理論は苦しいか。まあ傑出した歌唱力の持ち主である堀江にかかればどんな曲も聴けるものだけどね。美しさと壮絶な決意ってところかな。非常にスケール感があって良好」
「それにこのボーカル二人がアニメ本編でも出てるらしいじゃない」
「堀江は声優としての実績も結構多いからね。一方水木はそこまででもないから新鮮に響くよ。印象としては高木渉あたりがやってそうなチンピラキャラをさらに粗野にしたような声質。さて、第二話は『涙のスパイラルナックル』。第一話は好評だったのか、余裕のある作りになっているね。例えばデフォルメされたランバが描かれたタイトルロールとか。それと次回予告も加わったんだ」
「えっ、第一話は次回予告なかったの?」
「OVAは売れなかったので一話で打ち切りってケースも結構あるから。だからダンガイオーもそれを想定して一話完結でも物語としてはすっきり、って程でもないか。でもまあここで終わってもそんなもんかなって思える程度のラストではあった。一方で第二話はランバ慟哭で終わりだから、ここで作品終了はないよねって形。そして次回予告では次回で第一部完結編などと明言してて、逆に言うと次話は出ますと宣言してるわけ。まあそれ以上に引っかかったのは前回のあらすじを十分以上かけて長々とやってた事なんだけど」
「十分以上ってそんなにもねえ」
「一話発売が一九八七年で二話は一九八八年と一年開いてるから、連続して視聴出来る今となっては冗長に思えるけどリアルタイムで追ってると重要な部分だったはず。なお二話のストーリーは、まずランバの過去が判明するんだ。元々王家の一族でバンカーに攻められた時ランバだけは脱出したんだけど、その後徹底抗戦するはずだった王様が日和ってあっさり服従。でも結局星を滅ぼされたという非常にがっかりな展開で王家は恨みを買う存在となっていたんだ」
「あらまあ」
「でもランバ個人にそんな大きな話の総括とか出来るはずもなく、恨みを持っていたシャザーラという元王家の侍女だった女戦士を倒して終了。ちょうど雪の惑星で、寒そうだったね」
「服装が大概寒そうだもんね」
「こういう格好なんていかにも当時のターゲットであるマニアック層が喜びそうじゃない。そして第三話『復讐鬼ギル・バーグ』。一話で倒されたギルがさらにサイボーグ化されて復讐戦を挑むというお話。ただ雰囲気が異なっていて、まずメンバーの服装が変わったんだ。以前よりまともに、と言いたいところだけど当時ならともかく今の目で見るとどっちもどっちだったり。それと主題歌も変更。OPが『Cheap Thrills』、EDが『Who's Gonna Win?』。作詞榊原武作曲大原辰之で歌うのは中井秀美。ロック調の、EDに至っては無駄に英語歌詞だったりするけど特に感じることもないどうって事のない曲。BGMも渡辺作曲じゃないのが流れたりするけど、やっぱり滾るものが少ないよね。でもまあそれらは枝葉であって受け流そうと思えば出来ない事もない。それよりストーリーがねえ……」
「ストーリーは、そんな良くないの?」
「まず序盤はロールの過去に関する話で、トラウマと決別する。そして敵の四天王みたいなのの一人をどさくさに紛れて倒しつつタイトルにもあるギルとの決戦。まずこの時点で木に竹を接いだような詰め込みすぎ感あるんだけどね。顔がいいだけのフラッシュとバーストは何か適当に処理されたみたいにやられるし。それからダンガイオーは最強ロボのギル・ギアに圧倒されるも最後の力を振り絞り勝利、したのはいいけど爆散したのは機体だけでギルは平気な顔して生存。しかも功績が認められて四天王の一人に任命されるんだ」
「あれ、敵のバンカーは滅んでない?」
「うん、全然。ボスであるガリモス大船長も余裕で健在、敵幹部もほとんど生存。そんな中で味方は博士が死亡してミア達四人も宇宙のどこかで気絶している姿が映されたところで終了。はあ」
「打ち切り……、なの?」
「次回予告やってた通りの内容だからこれでも予定通りだったんだと思うよ。見事に未完だけど。何が第一部完だよ。あっ、調べると一応続きの予定もあったらしいね。でも世に出たのは三話までだからこれで評価されるのも致し方なく、それで言うと非常に残念な終わり方だよ」
「うーん。でもやっぱり三話しかないんだからそういう尺の限界もあった?」
「確かに尺の短さは感じられたね。一話でパイが実はバンカーのボスの娘だと思い出して帰参するんだけど最終的に決別するエピソードとか、パイは特に思い入れなさそうだったのに唐突に仲間意識に目覚めたなって印象だったり。それと過去のロボットアニメへのオマージュという路線も一話がピークで段々薄れていった感あり、と言うか一話でやりたい事は大体やって以降は好評につき続いたけど既に出涸らしだったのかもね。そもそも味方が四人なのに三話しかない時点で個々の掘り下げにも限界があったかな。一話が出会いからミアとパイの過去、二話がランバ、三話がロールに加えてギルとの最終決戦も入れる必要があって、二話以外はきつきつだったね」
「やはりある程度絞るのは必要だった?」
「やろうと思えばうまく処理出来たのかもね。でも本作においては出来てなかった。まとめると、例えば昔のアニメとか特撮って結構粗が多かったりするよね。それに気付いた時『まあ作り物なんてそんなもの』とそういう番組から離れる人もいる。でも離れない人もいる。その人達は『粗が目立つ? むしろそこが味』ぐらいに考える。粗を許せるようになるんだ。ダンガイオーはそうやって育った人によって作られたそうやって育った人のためのアニメ。一話でロケットパンチ、じゃなくて本作だとブーストナックルか。とにかく腕を飛ばす攻撃をしたけど敵に跳ね返されたシーンがあった。それ以降腕は使えなくなるのかと思えばさにあらず、次のシーンでは何事もなかったかのように腕は戻っている。そういういわゆるスーパーロボット系のアニメでありがちだった荒唐無稽とも言えるご都合主義的描写をご丁寧に再現しているのはその現れだね。ただ当時のスタッフだって好きで粗を作ってたわけじゃないでしょ。ダンガイオーが各要素の割にあれれってなるのは結局のところ仏作って魂入れずの言葉に尽きるんじゃないかな」
「何かここまで言ってる事をまとめるとあんまり面白くない作品みたいに聞こえるけど」
「真実は君自身の目で確かめてほしい、とか昔の攻略本みたいな締め方にならざるを得ないけど、でも僕にとって大切な事は他の人にはそうじゃなかったりその逆だったりって事はよくあるからね。自分で見てみない事には何も分からないよ。前述の通り今GYAO!で絶賛配信中だから、真実を確かめる術は今君の目の前に広がっているって事。なお一話と三話は十八日まで配信だけど二話は十一日までとなってるから見るなら早めにね。大丈夫、そんなに時間取らないから。それとね、さすらいの太陽、面白いよ」
このような事を話していると敵襲を告げるサイレンが室内に鳴り響いた。ああ、また来るのかと観念して二人は素早く変身し、戦闘態勢に移行した。
「ぐわははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のターキン男だ! 噂に聞く二人組を蹴散らしてくれるわ」
反り上がった立派な角を揺らしならが、冬の山道でターキン男は叫んだ。ターキンとはチベットとかブータン辺りに住んでいる牛の仲間で、ブータンの国獣とされているらしい。首都ティンプーにはターキンを保護する牧場があるのだが、このターキン男はむしろそれを破壊せんとここに立ちはだかっている。
「そうはさせないぞグラゲ軍め!」
「残念だけどあなた達の邪悪なる計画は永久に成就しないわ」
「出たな。こいつらこそが噂に聞く例の二人組か。猪口才な。雑兵ども、やってしまえ!」
間もなく到着した渡海雄と悠宇に向けてターキン男は雑兵を差し向けた。二人は次々と襲い来る雑兵をその腕で薙ぎ払っていった。
「よし、雑兵は全部倒れたみたいだな。後はお前だけだターキン男!」
「あんまり暴れられても困るしここらでお引き取り願いたいものだけど」
「馬鹿め。ようやく本番となったのだ。楽しませてくれないと、この星を破壊してしまうぞ」
そう言うとターキン男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。渡海雄と悠宇も合体して、これに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
ターキン男の鋭い突進にもひるまず、悠宇は持ち前の運動神経をフルに駆使して迎え撃った。そして一瞬のタイミングを利用してターキンロボットを投げ飛ばしたのだ。
「よし、今よとみお君!」
「うん。エメラルドビームを使う!」
ターキンロボットの挙動が静止した一瞬、渡海雄はすかさず緑色のボタンを押した。瞳が輝き、エネルギーがターキンロボットの胴体を撃つ。その熱によって敵の巨体は大破するに至った。
「くっ、これまでか! 無念だが脱出しよう」
機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってターキン男は宇宙の彼方へと帰っていった。第一部完、でも何でもないけどとりあえず今日の戦いはこれで終わった。それだけは二人にとって間違いのない真実であった。
今回のまとめ
・やりたい事を突っ込んだ結果整合性は二の次となった印象
・渡辺宙明のBGMがなければどれだけ貧相な事になっていたか
・ロボットは格好良いしキャラクターのルックスもいいが服装寒そう
・終わらせ方はもうちょっと頑張ってくれても良かった