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fh06 日本サッカーミュージアムについて

 クラブワールドカップでサンフレッチェはまずオセアニア代表のオークランドを撃破。続いてアフリカ代表のマゼンベにも三得点を決めて勝利した。前半は危なっかしかったが後半は身体能力抜群な相手を上手く翻弄していた。


 そして準決勝のリーベル戦は、きつかった。あれはきつい。まずあらゆるスピードが違う。足が速いとかだけじゃなくてパスのスピードや判断力、ボールを貰ってから行動を起こすテンポなどまったく違う。そんな相手によく頑張ってチャンスもそれなりにあったが、得点ゼロでは勝てないものだ。


 三位決定戦の広州戦は四分で先制されるという危険な展開だったが後半、コーナーキックからドウグラスが決めて追いつくと更に柏のクロスから浅野のヘッド、これはポストだったがこぼれ球をまたもドウグラスが頭で押し込み逆転。優秀なブラジル人を交代させた広州のパワープレイを乗り切り無事勝利した。


「いやあ、終わってみるとクラブワールドカップも楽しかったわね!」


「そうだね! 意外と勝てたし。選手たちは本当にお疲れ様でした」


「まだ天皇杯もあるんだけどね。二十六日に準々決勝よ」


「試合また試合でタフな歳末となっているね。昨日はリーグの表彰もあって、青山選手がMVPとなったりとか」


「いつかこんな忙しかったあの頃を懐かしむ、そんな日が来るのかもね。マゼンベはさすがアフリカ代表という爆発的な身体能力と、気持ちが切れた時のグダグダっぷりをともに見せてくれたり、広州はブラジル人は凄かったけどいなくなるとスタミナ切れもあって急に弱くなったり、各国色々な事情があるものよね」


「そして決勝のリバー・プレート対バルセロナのレベルがとんでもないって事もよく分かるというね」


「パスも早いしそれを受けてからの動きも異様。早送りでやってるみたいなものだったわ。しかも最終的にはリーベルを子供扱いのバルセロナはまさに圧倒的。それはともかく、今回は日本サッカーミュージアムよ」


「んっ?」


「そんな場所があるわけよ、東京にね。最寄り駅は御茶ノ水駅。そもそもこの辺りは東京の中でも屈指のパワースポットで、一駅東には秋葉原、西には水道橋駅があるの。水道橋と言えば東京ドームが近くにあるわけだし、その内部には野球殿堂博物館がある。さらに線路を横切って南へ歩くと神田神保町もあって、これらの施設が全部歩いて回れる距離にあるんだから」


「へえ、それは凄いね」


「まあ物理的にはともかく実際には全部を回る事は不可能なんだけどね。居座ってしまうから。特に野球とサッカー、それぞれのミュージアムにあるレファレンスルームはまさに時間がどれだけあっても足りないパラダイスよ」


「本の話か。確かにああいうのって熱中してるとあっという間だもんね」


「今回は野球殿堂博物館とかは泣く泣く割愛するけど、ここから日本サッカーミュージアムに行くには基本東へと歩いて行って、意外とアップダウンがあるのが面倒だけどしばらく進むと日本代表ののぼりが張られてある道があるからそれを北上するの。幼稚園だか保育所があって、その先にやたらと馬鹿でかい、いかにも金かかってますって巨大なビルがあるから、それがまさに日本サッカー協会のビルよ。これの地下にあるの」


「ああ、写真で見る限り本当に立派そうな建物だね」


「二〇〇二年のワールドカップで大儲けした勢いで建てたそうね。地下一階までは無料で入れて、各クラブのマッチデープログラムなんかを見られるわ。それと殿堂入りした人を表彰するプレートが並ぶ空間もあるわ。そして地下二階には有料フロアがあるの。入場券はワールドカップのチケットを模しているんだけど、印刷の具合のせいかまじまじと見ていると目がくらくらするのが玉に瑕。で、その地下二階には大きな大会で実際に使われていたユニフォームやボール、直筆の手紙など貴重な資料がいっぱい。編み込まれた繊維の肌触りまで分かりそうなユニフォーム、茶色くていかにも重たそうな昔のボールとか、やはり生で見ると違ってくるものよ」


「よく残ってるものだよね」


「物持ちのいい人はいるものよ。そして大本命のレファレンスルームは二日より前からの事前予約が必要な上に有料だから、先に有料フロアを巡ってから乗り込むのが合理的ね。係の人に声をかけると内部で電話かけてくれて、しばらく待つとレファレンスルームの係の人が呼びに来るってシステムになってるわ。ルーム自体は殿堂入りした人を表彰してる場所の奥にあるけど鍵がかかっていて用のない人は入れないようになっているという慎重な構造よ。野球殿堂博物館みたいにふらっと入れれば楽なんだけどね」


「まあ、あんまりうるさくても困るような場所だから仕方ないんじゃない?」


「そうかもね。事前予約はいくつかのやり方があるけど、私の場合は電話で済ませたわ。内線取り次ぎ時に選手入場とかで流れる例のアンセムが流れた時はちょっと笑ったけど、それが繋がった先で来館予定日や時刻、電話番号に加えて何について調べるかも言う必要があるの。『JSLについて、年鑑とかで』みたいなざっくりした説明でも問題なかったから楽勝かと思いきや、レファレンスルームでも改めて用紙に色々記入しないといけなかったのはちょっと効率悪いんじゃないのって思ったわ」


「でも別に冷やかしじゃなくてちゃんとした理由あるんでしょ? やましい事がないんならいいじゃない」


「そうだけど、単純に面倒なのがね。ただそこまでして侵入しただけあってそこに広がるのはまさしく宝の山。しかし宝の山すぎて一日じゃ全然足りなかったわ。結局本当に年鑑ぐらいしか見られなかったし」


「ふうん。でもそれで収穫はあったんでしょ?」


「まあ、ね。まず六十年代なんだけど、まだデータが未整備で例えば生年月日とか書かれてないのよね。そこで残念だったのが豊田自動織機の、ああ、ここは今後話題になる可能性が低いから今のうちに説明しておくわね。JSL開幕時に参加した八チームの一つよ。元々トヨタ自動車もこの豊田自動織機の自動車部門が独立して生まれたものだから、まさにトヨタの源流、本家本元と呼べる会社よ。だから今の名古屋グランパスの母体となったトヨタとは別チームなの。本拠地は刈谷市だったようだけど、実力はそれほどでもなく三年で降格となったの。その後一九七二年、二部リーグ発足にも参加したけどこれまた二年で降格して、でも今でも生き残ってて東海リーグに参加しているわ」


「それは凄いねえ。やっぱり安直に潰すものじゃないよね」


「本当にねえ。で、その豊田自動織機に柴田沢男という選手がいたの。ポジションはゴールキーパー。そして十六歳にして試合出場を果たしたらしいの」


「おお、若いねえ。高校生Jリーガー的な?」


「高校生Jリーガーって言うと高校に通いながらだけど、柴田の場合は実業団のチームに所属しているわけだから学校に通っていたかは微妙じゃない。出身校の欄を見ると高岡中としか書かれておらず、つまりは中学校を卒業してすぐ就職したものと推察されるわ。現在JSLにおける最年少出場記録は読売の菊原志郎の十六歳七ヶ月となってて、それはいいとして稀にそれ以前の記録が戸塚哲也だったみたいに言われてるけど少なくとも戸塚よりは若くして出場していたはずの柴田は忘れ去られてるわけよ。せめて生年月日が判明すれば菊原とどっちが先かも分かったんだけど、残念ながら当時の年鑑には年齢ぐらいしか書かれてなくてね」


「あらまあ」


「なお一九七二年の二部リーグ参加した時、名簿には既に柴田沢男の名はなくなっていたわ。年齢的には当時まだ二十代前半だったはずなんだけど、一体どこへ行ったのかは分からないわ。そのまま豊田自動織機で働いているのか、故郷に帰ったのか。JSLは大卒選手のパラダイスで高卒ですら扱い悪かったともっぱらなのにいわんや中卒をや。他にヤンマーの牛尾寛武や熊本一郎って選手も登録された最終学歴が中学校なんだけど、やっぱり入団は六十年代なのよね。そういう時代もあったって事よ」


「でもまあ実際十六歳とかそこらの選手が大卒と並んで試合出場って大変だったろうね」


「そうね。大会で結果を出すには未熟な選手を育てるよりベテランに頼った方がいいって、これは今の社会人野球も割とそういうところあるじゃない。それにサラリーマンとしての今後を考えるとやっぱり大学を出るってのは必須だったから」


「サッカー選手としてどうかって以上にサラリーマンとしてどうかってほうが大事だったんだね」


「レベルに関してはJSLのほうが上だったから、大学進学によってサッカー選手として大事な時期を弱体リーグで過ごすのは選手としては損失だったけど、現役期間よりそれ以降のほうが長いんだからどっちが大事って言うと難しい問題だったのよね。プロでもないんだし、選手個人の考えがどうと言うより構造的な問題よね。ただまあそれはまた後の話で、七十年代に入ると人気的に苦しい時代に突入していくわ。七十年代まではそれでもどうにかJSLを盛り上げようとあがいてた形跡があるけど八十年代はそれもくじけたのか、だんだん年鑑の内容がおざなりになっていったのは少し寂しかったわ」


「くじけたって、どんな風に?」


「監督へのインタビューが消えたり、二部リーグのチーム紹介文がなくなったり。他に七十年代の途中には巻末に一部所属チームのユニフォームを着た人形などJSLグッズのカラー広告が出てたり、選手名鑑部分でいきなり選手のニックネームの欄が出来たり、色々動いていたの。ニックネームは『選手に親しみを持ってもらうため』みたいな理由だったのにほとんどの選手がニックネームなしの横線で本懐を遂げられたとは思えないのが残念だけど。渡辺選手がナベとかその程度で」


「なかなかうまくいかないものだね」


「それでもとにかく動いてみるって大事でしょ。それすら出来なくなった八十年代の重苦しさたるや。格闘技宣言とか派手にやってたけど内心アマチュアじゃ無理、JSLは限界って悟ってたんでしょうね。そしてなし崩し的に事実上のプロ化が進むのに呼応したかのように最後の三年は日本サッカーリーグイヤーブックとして新たに生まれ変わったの。まず版が大きくなって、カラー写真をふんだんに使った豪華版に。もちろん監督インタビューなども復活。二部所属のチームにもモノクロながら写真が使われるようになったし。それまでの資料集的重厚な雰囲気からパンフレットみたいになった感じはあるにせよ、この鮮やかなる衣替えによって活力が戻ったようで、良かったわ。実際観客動員数もかなり増えてたみたいだし」


「その勢いでJリーグに雪崩れ込むと」


「そうね。もうこのイヤーブックの時代になると選手や監督指導者も馴染みのある名前が連発して『ああ、やっとここまで辿り着いたんだな』って感慨深くなる事必至。最後には新日鉄が二部からも消えたりしんみりするところはあれどね。他に七十年代当時のプログラムも見たけど、これも主に広告方面で面白いところがあったわ。特に二部リーグの」


「へえ、例えばどんな?」


「例えばね、甲府クラブとか。実業団チームなら親会社の宣伝してればいいけどこういうクラブチームの場合はどうするのかと思ったら歴史を秘めた静かな山の湯、山梨積翠寺温泉古湯坊ってあるわけよ。これは元々古河所属の代表GKだったけど家業を継ぐため故郷山梨に戻った保坂司という選手が経営する温泉旅館よ。それと川手良万という、私財を投じて甲府クラブを支援した男の川手工業所、山梨化石工業株式会社とかね、関係者の会社をアピールするローカル路線で胸が熱くなったわ。大資本が望めないチームがずっと二部リーグ所属を守り通したわけだから立派よね」


「やっぱり財政的には当時から大変だったんだね」


「今年も残留を果たしたものの次々と選手が抜けて、どうなるのか。それと永大産業も企業そのものではなくサッカー部名義だったので、そこにも情熱が見えたわ。情熱と言えば読売クラブも、洗練はされていないけど自分達はまさに今新しいスタイルを手作りで築き上げているんだという若く燃えるプライドが……」


 このような事を話していると敵襲を告げるサイレンが鳴り響いたので二人は素早く戦闘モードに着替えて夕暮れの街へと繰り出した。


「ふはははは! 俺はグラゲ軍攻撃部隊のアカゲザル男だ! この星の下等生物どもを排除してくれるわ」


 来年は申年だから出てきたのかも知れないが、まさか宇宙でも十二支が知られているとは思えないので偶然なのだろう。光の速さで沈んでいく太陽が描く影法師二つがアカゲザル男の左右にかかった。


「出たなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


「今日は冬至で日が暮れるのが早いから、暗くならないうちにさっさとケリを付けてやるわ」


「ほう、上等だ! むしろこの俺こそ貴様らを瞬殺してくれるわ。行け、雑兵ども!」


 草原から次々と出現した雑兵たちを渡海雄と悠宇は全部片付けた。太陽は沈み、薄暗い青色が地球を包んでいる。


「よし、雑兵は始末したぞ。後はお前だけだアカゲザル男!」


「猿なら素直に去ってくれるとありがたいんだけどな」


「馬鹿めが。お前たち如きを倒さずして去られるものかよ。まだ戦いは終わっていないのだからな!」


 アカゲザル男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり簡単には終わらないか。二人は覚悟を決めて合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 巨体と巨体の素早いぶつかり合い。しかしやはり相手は猿真似に過ぎなかったのか、悠宇持ち前の反射神経で次第に制圧していった。


「よし、今こそチャンスよ!」


「うん。ここはメガロソードで勝負するよ!」


 渡海雄はすかさず赤いボタンを押した。左腕から出現したソードをためらいなく投げつけ、アカゲザルロボットの胴体を貫いた。


「ぬおおおお! ここまでか!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置によってアカゲザル男は宇宙へと帰っていった。今年の戦いはかくして終わった。なお今回で百話に到達した模様で、そういう意味でもちょうどいい区切りとなったのではないか。


 来年は、とりあえずは名鑑であれこれ言うのと現実の野球やサッカーが両輪となって、他に何かもう一本ラインがあればってところだが単独のネタでどうにかするしかないか。音楽系とか構想倒れしそうなのもあるけど、ネタが尽きる事は当分ないだろう。私の知らない事が尽きない限りは。

今回のまとめ

・まとまりなくとも百話到達よくもまあやれたものだ

・サンフレッチェは本当によく戦ったし今年は強かった

・レファレンスルームはもう少し計画的に使うべきだったと反省

・まだまだ知らない事ばかりだからやりがいがある

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