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ca01 チャゲ&飛鳥について

 研究所で行われた訓練も終わり、渡海雄と悠宇はクーラーの効いた室内でくつろぎながら何の気なしにテレビを見ていた。特殊なチューナーにつながれて未だに生き長らえているブラウン管から流れたのは一九九三年に日本で最も売れた曲であった。


「この曲がテレビで聴けるのはいつまでだろうね」


「そう言えば今世間を賑わせてるけど、大丈夫なのかしらね」


「まあ今回の問題に関してははっきりと二者択一だからね。薬をやっていたかなんて話はYESじゃなければNOだし、NOじゃなかったらYES以外の答えはないんだから。で、YESなら逮捕される前に潔く自首してほしいしNOなら潔白を証明、例えば警察に行って検査をして『薬を使っていませんでした』とでも発表したら一発でしょ。とにかく実際のところどっちか分からない生殺しの状態が一番きついよ。いっそ逮捕が発表されたならそっちのほうが気が楽になる。というかもうこんな噂になった時点で有罪判決を受けたのと同じようなものなんだから」


「そうよね。憶測ならばどこまででも悪意は混じりこむし、純粋に信じているファンこそ大変だものね」


「僕もまたファンだからね。そもそもここ数年は時々新曲を出してある程度たまったらアルバムを出すってサイクルだったから待ち続ける事には慣れているし、それにもし逮捕されたとしてもそれで嫌いになるって事はありえないと僕自身に関しては確信しているから、そこは問題じゃないんだ」


「ええ、そこが問題なんじゃないの? さすがに犯罪者となってしまったら」


「だってミュージシャンだよ? それで選り好みしてたら聴ける曲相当少なくなるよ。例えばメンバーはやってなくても参加ミュージシャンやらプロデューサーが実は前科ありって場合とか、それもやっぱり聴かなくなるかい?」


「ううむ……」


「とにかく、報道が真実だと仮定すると極めて危険な状態にあると言えるし、膿やしがらみを断ち切るには多少荒々しい方法を使わざるを得ないとなるのも致し方ないでしょ。薬以上に暴力団員との関係こそね。もちろん報道がまったくの嘘って可能性はあるにせよ、一社だけが突っ走ってる報道じゃないからね。これで全部嘘でしたってなったらそれこそ大変だから、認めがたい事ではあるけど一定以上の真実は含まれていると見たほうがよさそうだね、現実的に考えて」


「ファンとしては考えたくない事でしょうけどね」


「まあ、ね。きっかけは親がファンで自分もってルートだけどね。ちなみに好きなのは飛鳥曲なら『真夏の国境』でチャゲ曲なら『マリア(Back To The City)』、共作なら『break an egg』かな。なぜかカップリング曲ばっかりになったけどこれは偶然。つまりシングル以外にもいい曲はいっぱいあるって事だけは言えるね。売り上げ的には九十年代がピークだけどなんのなんの、クオリティに関しては八十年代からすでに素晴らしいものを作り続けていたわけだし、実力に関しては元々高いものを持っていたんだ」


「ふうん。生まれる前からの歴史にも詳しいのね」


「本とか読んだからね。デビューは一九七九年の『ひとり咲き』で、翌年に出した『万里の河』がヒット。この頃は長い髪でアコースティックギターをかき鳴らしながらオリエンタルな楽曲にパワフルな歌唱を爆発させるスタイルで、フォーク演歌なんてけったいな言い方もあったらしいんだ。特に『万里の河』なんてのは売れる事を重視した楽曲で、特にサビは早口のメロディに二人の力強いボーカルが怒涛のように迫ってくるというインパクト大な代物だよ。『真夏の国境』はこの時期の楽曲で、物語のような歌詞に熱いメロディーと歌唱が合わさったヒロイックな楽曲。歌詞が気になったら目の前にあるもので調べてね」


「確かに結構熱いと言うか、ハードボイルドな感じね」


「初期は歌詞が物語っぽいものが多いね。『万里の河』なんかももろにそう。歌詞の主役も本人と違って女の人だったりしてね。飛鳥は粘りの強い歌唱とか、チャゲは金属的な高音みたいに言われるけどこの頃はそういう特徴よりも若い二人が直線的に突っ込んでくるようなパワフルさが売り。もちろんそれはただがむしゃらなだけじゃなくて歌唱力の高さや作曲のセンスあっての事だよ。特にチャゲは添え物みたいに見る人もいるけど実際は名曲もいっぱい作ってるんだ。アルバムでは、例えば全十曲の場合チャゲと飛鳥で五曲ずつだったりするけど、チャゲもアルバムに一曲ぐらいはびっくりするほどの名曲が入ってるよ。まあアベレージでは飛鳥だけどね。初期のチャゲ曲で有名なのは『終章』とか『嘘』みたいなバラードだけど、アップテンポな『幻夜』なんて曲もあるよ」


「この『幻夜』はちょっと雰囲気が『真夏の国境』みたいね」


「これがプログレ風って言うのかな。ただフォーク的な楽曲って時代でもなくなったし、次第にもっとポップス的な曲にも挑戦するようになったんだ。そしてその頃発達してきたコンピュータを使ったサウンド、いわゆる打ち込みを導入し始めたり飛鳥がギターではなくピアノで作曲したりとイメージを変えるべく本人たちも変わっていったのが一九八三年から八四年あたり」


「今からちょうど三十年も前ね」


「でもそこはイメージチェンジの難しさで、楽曲のクオリティとは別に『彼らはフォークの人』ってイメージがある中で売り上げはそれほどでもなかったんだ。ただ飛鳥が作曲した葛城ユキの『ボヘミアン』って曲がヒットしたり、チャゲは『ふたりの愛ランド』って曲を石川優子って人とデュエットしてヒットしたりで、自分自身の楽曲とは別のやり方で存在アピールはできてたみたい。それと『マリア(Back To The City)』はこの頃の曲ね。これに限らずチャゲ曲だと飛鳥がコーラスに回ったりするけど、これがまた良いんだ」


「確かにかなり高音のコーラスね。しかもパワフルで」


「他にも今ぱっと思いついたのが『RAINBOW』とか『あきらめのBLUE DAY』とかかな。飛鳥のコーラスに関しては聞けばその素晴らしさはすぐに分かるけどそもそも聞く人があんまり多くないような気がするし。まあそういう楽しみ方もあるって感じ」


「いかにもファンっぽい楽しみ方ね」


「話を戻すと、打ち込みを導入してからもやっぱり特有の泥臭さと言うのかな、ありあまるパワーが減退したわけじゃないからその二つの線をうまく交わらせるための過渡期という印象だね。そしてここでレコード会社を移籍するんだ。それと前後してTHE ALPHAという人たちがバックバンドになって、それまでよりコンピュータを駆使した楽曲が増えたりしてとにかくサウンドがダイナミックに変化しまくったのがこの時期だよ。いきなりアルバムを一年に二枚出したりね」


「環境も変わっていく中で本人たちも色々なものに触発された感じなのかしらね」


「打ち込みサウンドも板について久々にヒットしたのが『モーニングムーン』って曲。ここからはもうフォークなんて言わせないぞとばかりにロック調のパワフルな曲を多くリリースするけど歌い方がまだ追いついてない雰囲気はある。これが変わるのが大体一九八八年付近。シングルで言うと『ロマンシングヤード』はかなり力強い曲だけど次の『恋人はワイン色』では軽やかで、それまでよりハーモニーもメロディもぐっと洗練されて、おしゃれな感じになったんだ。これ以降は九十年代に売れまくる前兆のような楽曲が続くんだ。それと光GENJIってアイドルグループに曲を提供して、これも売れまくったね。密かに彼らについても詳しいから後で語るよ」


「ああそう。それは楽しみね」


「『break an egg』はこの時期の曲だよ。最初はうにゃうにゃしたメロディだけどサビでは殻を破って解放されたかのように伸びやかな曲になるという展開もダイナミックで、それと最後のサビの歌詞なんかも結構好き。今これを言うとちょっとまずいかも知れないけど。そしてこの後に渡英。そしてブレイクの時を迎えるんだ」


「九十年代は凄かったらしいわね」


「九十一年にまずは飛鳥がソロで『はじまりはいつも雨』って曲をヒットさせて、次に二人で『SAY YES』って曲がドラマの主題歌にもなってこれがまた売れたんだ。そしてアルバムも売れて、過去の曲さえも売れて、後はもう嵐のような人気を得たんだ。九十三年には今もかかった『YAH YAH YAH』で年間売り上げ一位だし、アジアでコンサート行ったり海外の有名な番組に出たりね。一般的にもよく知られているのがこの頃の曲だよ。でも一度活動を休止したんだ」


「何で?」


「ソロとかやりたかったからじゃないの。九十九年に再始動して、しれからはシングルを出したり出さなかったりしつつある程度たまったらアルバムにまとめる感じになったんだ。元々ソロでもいけたであろうそれぞれ異なる個性を持った二人がそれぞれやりたいように活動して、その成果として組む事もあるってぐらいのスタンスになっていったんだよね。売り上げに関してももうそれは求めないと宣言するような曲を出したりしてね」


「それで今に至るってわけ?」


「まあ、飛鳥寄りの見方だし詳しく見るともっと色々あるけどざっくりとはね。とにかく言えるのは色々なタイプの楽曲を出しているって事だね。最初はアコースティックかつ和風だったりするけど、それからだんだん洗練されていってポップで売れないはずがないような曲を連発して実際に売れて、九十年代なんかは長くて壮大な曲を作ったりしてたけどそれにも飽きたかのような活動スタイルとなって。まあその時その時で多く楽しませてきた人たちだって事は言えるよ」


「それがまさかあんな事になるなんてねえ」


「本当にねえ……。いやまだまだ、両手に手錠がはめられない限りはやったかどうかは分からないと言い張るよ。信じてはいる。でも僕やファンが信じたところで本人がやってたらそれまでだから。実際やってるなら逮捕だし潔白ならそれを証明するしかない。まあ場合によっては使ってはいるけど治療なんかして逃げ切りに成功というオルタナティブスリーもないでもないけど、それじゃ潔白とは言えないからね。それと自殺、失踪、高飛びみたいな選択肢は絶対に使わないでね」


 ここでグラゲ軍襲来を知らせるサイレンが研究所内に鳴り響いた。湿っぽい表情から一転、戦う顔になった渡海雄と悠宇は仮面を手に取り、変身して敵の現れた山中に急いだ。


「ふはは、この私こそがグラゲ軍攻撃部隊のシマウマ女よ。この星の全てを燃やし尽くしてやるわ!」


 白と黒のツートンカラーはどこか機械的な印象さえ受けるが、その内面は極めて高い攻撃性を有しているとその甲高い声からも容易に想像できる敵司令官に二人は相対した。


「そうはさせないぞグラゲ軍!」


「相変わらず出てきたわね。少しは加減を覚えなさい!」


「ふっ、貴様らを殺すことになぜ加減が必要なのか、理解に苦しむな。さあ行け雑兵ども! 奴らを打ち倒せ!!」


 シマウマ女の甲高い声がエコーする中、木々の後ろから雑兵たちが大量に出現した。しかし二人は臆することなく敵の群れに向かっていった。もとより殴り合いではこちらに分がある。敵の攻撃に対してうまく身を翻してかわしつつ、確実に一体ずつ倒していった。蝉の声が響く中、ついにただ一人を除いて排除に成功した。


「雑兵は片付いたな。あとはお前だけだシマウマ女!」


「白か黒かここらではっきりさせましょうよ!」


「ふふ、ふはははは。私たちの戦いはこれからが本番だとお前たちもよく理解しているだろう!」


 そう言うとシマウマ女は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。負けじと悠宇も渡海雄の肩に飛び乗って合体した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 山中を二分する戦いはまず殴り合いで幕を開けた。シマウマロボットの俊敏な攻撃を何発か受けたがさすがの装甲、ダメージは小さかった。


「なかなかやるわね。でも、これなら!!」


 ファイトに燃える悠宇は敵の連続パンチをうまく受け止めつつ接近して、胸部にストレートパンチを打ち込んだ。その威力にシマウマロボットはバランスを崩し、ついに隙が生まれた。


「今だ! 当たれ! ランサーニードル!!」


 渡海雄はすかさず黒いスイッチを押した。胸部から放たれた数十のニードルはシマウマロボット全体を穴だらけにした。


「くおお、何だこのパワーは!? この私を退かせるとは!!」


 大破する直前に脱出装置が作動してシマウマ女は宇宙のどこかへと去っていった。この世界も単純に白と黒で色分けすることができない部分は多くある。しかしそれを常態化して、慣れきってはいけないものだ。

今回のまとめ

・報道だけ見ていると完全にアレだったしまあそういう事なんだろう

・罪なら償い反省すべき

・CHAGEだって優秀な時は優秀だ

・八十年代からいい曲作ってきたし今更離れられるものでもない

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