三話
4月12日
鞄が重い。
やはり授業が始まると荷物が多くなる。
重いのは教科書以外にも色々入れていたり持ってたりするからだけど。
心配性な性格を直したいものだ。
***
その次の日から蒼凪が学校に来なくなった。
一日くらいなら風邪かなにかだろうと思っていたのだが、今日でもう一週間だ。
手紙を書いても返事が返って来なくて、何か事件にでも巻き込まれたのではないかと心配になる。
あの女に聞けばわかりそうだが、あまり気が進まない。
何故ならあいつに嫌われている気がするのだ。
こっちが嫌っているからそう思うだけなのかもしれないけれど。
しかし背に腹は代えられず、自分の席で本を読んでいるそいつに話しかける。
「なあ、彼女ってどうして休んでるんだ?」
「………………」
そう聞くとそいつは怪訝気にこちらを見たが、すぐに無視をして手にもっているやたらと分厚い本を読み続けた。
「おい、無視すんなよ」
「…………さあ、私も知らないので」
何だよ、手間をかけさせておいて役立たずか。
思わず舌打ちをすると、顔に平たいものがぶつかった。
「っでえ!」
とたんに教室がしん、と静まり、俺たちに注目が集まる。
床に落ちている分厚い本を見て、思井未結が本を投げつけたのがわかった。
クラスメイト全員の視線を感じ、被害者なのに居心地が悪かった。
しかし思井はクラスメイトの視線など気にせずに、投げつけたやたらと分厚い本を拾い上げ、中身をめくって破れていたりしないかを確認したあとにやっと口を開いた。
「てがすべりました」
棒読みで有り得ない言い訳をした。
「有り得ねーだろう! 何するんだ」
「貴方の態度が悪かったのでつい、手がすべりました」
「…………」
舌打ちしただけで本を投げつけるのか。
こういうのがキレやすい若者ってやつなのか、違うと思うけど。
「申し訳ないですね。それでは」
そう言って思井は自分の席に戻り、何事もなかったかのように本を読みはじめた。
俺はその態度に腹が立ったが、おかしい奴に何を言っても無駄だと知っているので席に戻った。
すぐにクラスにざわめきが戻る。
いつもと違う出来事が起きたのだ。それを話さない奴はいないだろう。
思井の異常性、今の事件の原因、話すネタは多岐に渡る。
そして数日のうちに思井は『キチガイ』という評価になり、思井は一層孤立するだろう。
それなら蒼凪はこいつと縁切った方がいいんじゃないだろうか。
蒼凪までもキチガイの仲間にされてしまうかもしれない。
蒼凪が学校に来なくなったのはもしかしたらこいつと縁を切りたいからかもしれない。
そういえば俺がこいつへの扱いに注意した手紙を送った翌日からきていないじゃないか。
俺はこんな簡単なことにも気付かなかったのか。自分の間抜けさに呆れる。
きっと蒼凪は俺の書いた通りにこいつへの扱い方を変えるようにしたんだろう。
けれど思井はキチガイだし、優しい彼女にとって面と向かって言う事なんて出来ないから休んで顔を合わせないようにしているのだ。
きっとそうだ。
けれどもこれはただの推測だ。
今日彼女の家に行こう。そして尋ねよう。
俺の思ってた通りなら、俺が思井に言ってやろう。
そうすればきっと安心して学校にきてくれるはずだ。
国語辞書とかって武器になりますよね、多分
ありがとうございました