二話
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4月11日
課題テストが全て返ってきた。
彼女は予想通りの90点台、悪くて80点台だったが、自分はあまりよくなかった。
英語なんて50だ。
半分はとってはいるし、ほぼ平均点と同じだから普通とも言えるが、胸を張って答えられる点数ではない。
一度くらい彼女に全ての点数で勝ってみたいものだ。
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また今日の帰りも思井がついてきた。
ただただ無言で彼女と並んで歩いている。
蒼凪を楽しませる能力すらないんだったらさっさとどこかに行けば良いのに。
そう思いながら彼女の後ろを歩く。三人で並べる程この歩道は広くはないからしょうがないとはいえ、納得ができない。
何で思井は蒼凪の隣を譲らないのだろう。
「…………ごめんね、一緒に帰ってもらって」
いつも一緒に帰ってるのだから別に謝らなくてもいいよ。
「別にいいよ。部活より如月さんの方が大事だもん」
「でも、未結は大会近いんじゃないの?」
「弱小だもの。運が良くて私が県大会行くくらいだから問題ないよ」
「尚更休んだら良くないような気もするけど……でもありがとう」
「たいしたことは出来ないけどね……でも家も近いから何かあったらすぐに呼んでね」
蒼凪は何かトラブルに巻き込まれてるのか?
俺も何かあったらとんでくるから呼んでくれ。
「ありがとう。…………それじゃあまた明日」
そういって蒼凪は手を振る。
いつの間にか蒼凪の家に着いていたみたいだ。
彼女と歩いているとすぐに時間が経ってしまう。こういうのを相対性理論っていうんだっけ? よくわからないけれど。
ほぼ毎日見ている家だが、やっぱりいい家だな。蒼凪の清楚なイメージに合う、白い壁に薄い青色の屋根。白っていい色だ。うちの制服も白くてフィクションにありがちなワンピースみたいなものなら良いのに。そうしたら蒼凪にさらに似合う。
「ごめん、やっぱり待って」
蒼凪の声が聞こえて空想から現実に戻る。
彼女はまだ玄関の前で立ち止まっていた。
彼女は俯き、何かを考え込むように指先をいじっている。
思井と俺は何も言わず、ただじっと蒼凪の次の言葉を待っていた。
「…………ねえ未結、怖いからさ、上がってくれる?」
ようやく開いた口から出る言葉は彼氏である俺ではなく、思井に向けてのものだった。
「…………わかった」
「あ、ちょっとだけ待ってね? 片付けるから」
「おかまいなく。……使い方合ってたかな?」
そう言った思井の言葉に苦笑して蒼凪は家に入って行った。
家の前に残ったのは俺と思井だけだ。俺も入って良いのだろうか、彼氏だし。
そうしたらついに彼女の家に入るという素敵なイベントをクリアだ。でもその場合思井は帰ってくれると助かります。
けれど蒼凪は『未結』と名指ししたからいけないのかもしれない。
どちらだろうか、別に変な事はするつもりはないけれど彼女の家には入りたい。彼女の部屋とか見てみたいし。
でも付き合ってまだ短いし、もしかしたらまだ早いのかもしれない。初めての彼女だからよくわからない。蒼凪が戻ってきたら聞いてみよう。
そう結論づけて蒼凪を待っていると、突然思井がくるりと振り返った。
何かあったのだろうかと不思議に思っているとこちらを睨んできた。
睨まれる覚えはないが、なんだかこちらが悪い事をしているような気分になったので今日のところは彼女の家は諦めて、自分の家に帰ることにした。
いつまでも思井が睨んできている気がして、嫌な気分だった。
やっぱりあの女は性格が悪い。地味で性格も悪いとなると何にも良い所がないぞ。
家に帰っていつものように便せんを取り出し、蒼凪への手紙を書き綴る。
便せんは可愛らしいものではなく、普通の白いものだ。
前に蒼凪が可愛いと言っていた便せんを使おうかとも思ったけれど、流石に男が使うのは気持ち悪いと思ってやめた。
今日は蒼凪への心配と、あの女について少し書いておいた。
そうすれば蒼凪から思井に伝わり、流石に遠慮して彼女と帰らなくなるだろう。
そうすれば俺は蒼凪と二人っきりで帰れてめでたしめでたしというわけだ。
これから始まるであろう甘い恋人生活を想像しながら彼女の家のポストに入れた。
あ、彼女が巻き込まれているであろう厄介ごとも解決しなければめでたしじゃないや。あーあ。
なんかだんだん男が気持ち悪くなっていく
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