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■08 ゴーレムの街■

ダークエルフも馴染んできたと判断した正平は、さらに路線を伸ばすことにした。

専用列車に乗り換え、ダークエルフ街まで向かう。

ジェシーと新たに加わった近衛も既に乗りこんでいる。


4人の女性近衛もこの専用列車を拠点に活動している。

と言っても、正平に侍っているだけで、たまに正平のお使いをこなすぐらいである。

その他の9人の近衛達は、みんな街の発展や維持に自ら取り組んでいる。


ダークエルフ街の駅までしか列車は走らせていないが、その先もまだ線路が続いていた。

以前<レール・顕現>MP25を使った時点でこれよりも先まで延ばしていたのだ。


正平と近衛以外が載る事のないこの黒塗りの車両を見かけたダークエルフ達は、

こちらに手を振ってくれる。

それを嬉しそうに返すダークエルフの近衛ジェリカ。


ダークエルフ街の駅を越えてすぐに草地は無くなり、乾いた土に岩盤という緑の少ない景色に変わった。

真っ平らだった大地も徐々に隆起した岩が目立ち始める。

忽然と現れた大きな岩の前で線路は終わっていた。


正平は一度列車からおり、そこから<レール・顕現>MP25を発動した。

線路の前方の岩は消滅し、線路の続きが伸び始めた。

<レール・顕現>MP25は、岩盤だろうと何もない空間だろうと水や溶岩の中だろうと、

問題なく列車を運ぶことを可能とする線路が出現する。


この魔法が発動しているところを初めて見る新参の近衛は、

この異常な光景に正平の魔法に底知れなさを感じた。


延長された線路を進むと、人型の岩をちらほら見かけるようになった。

大きな洞穴の入り口にそれがたくさんたむろしているのを見かけた。


しばらく進むと、人工物らしき砦のような建物を発見する。

そして周りで人間が農作業をしている姿が見受けられる。

早速その場所に駅を作り、人間に話かける。


彼らは人間ではなく何者かに作られたゴーレムだという。

ゴーレムを統括する者もまたゴーレムで、人間の若い男の姿をしていた。


ゴーレムは絶滅の危機に瀕しているらしく、保持するMPが消えると元の素材に戻り

二度とゴーレムとして活動できなくなるらしい。

男はゴーレムを作ったという者の命令でゴーレム達を維持することを命じられていた。


ゴーレム達は自ら唯一使える魔法、<人造生命延長>MP1でその仮初の生命を維持している。

しかし、仮初の生命である為かMPが自動回復するようなことはない。

そのため魔力を外部から摂取する必要があるという。


育てているものはカミキリ草という植物で、

育てたその草を直接生物に植え込むことで魔力の塊でできた実をつけるという。


これを聞いた一行は非常に嫌な予感がした。


その現場では予想通り、体からカミソリ草が直接生えた人型が捕らえられていた。

ほとんどがダークエルフで、初めて見る獣人種という種族もいた。

みな服を纏っておらず、うつろな瞳でこちらに視線を向ける。


近衛達は蒼白になる。

ダークエルフのジェリカは悲鳴をあげた。

ダークエルフの街で聞いた紛争とはこの事かもしれない。


案内するゴーレムは、カミソリ草に実る<魔力丸>は魔力の結晶だと言う。

回復量は、MP1~5程度。

苗床にする生物の魔力が高いほど実りやすく魔力の値も大きいらしい。


獣人種は3日に1粒で回復量はMP1~3程度、

ダークエルフは毎日2~5粒つけ、回復量はMP2~5程度だという。


<人造生命延長>MP1で1週間ぐらい延命し重ねがけもできる魔法であるが、

それが維持出来ずにゴーレムの人口はかなり減っているらしい。

苗床にするダークエルフ達もねぐらから外へ出なくなり、捕らえ辛くなってきているという。


他の生物でも試しているらしいが、魔力丸の質も収穫量も良くなく直に死んでしまうという。

ダークエルフは比較的長持ちするようで、

死ぬ前に逃がして個体数が減らないようにしているらしい。


正平は隣をみると、ダークエルフのジェリカが訴えるような瞳をこちらに向けてくる。

ジェリカは正平に眷族を助けて欲しいと願う。


ふと思いついた正平は、ズボンから金貨(500MP通貨)を取り出す。

それを案内のゴーレムに突き出し食べるように促す。


突き出されたゴーレムは、それを受け取る。

それが何で出来ているのかすぐに理解した。魔力である。

極上の芳香を放っているかのように感じた。

ゴーレムは、まどろんだような表情を見せ、それを口に入れる。


カサカサだった肌は淡い光を放ち瑞々しくそして美しく変化する。

枝毛の目立つ髪の毛もいつの間にか艶やかになっていた。

無生物という感じが強かったが、今は完全に生物と見分けがつかない。


ゴーレムはかつてこれほどの魔力を得た事は無かった。

そのゴーレムは正平に新しい主になって欲しいと懇願する。

正平はそれを承諾し、まずはとらわれている亜人種を開放させることにする。


正平は<治療>MP50を発動させる。

カミキリ草はそのまま枯れ捕らえられたダークエルフのうつろな瞳に光が戻る。

そしてゴーレムに鎖をはずさせる。


その場の全員を開放させ、<治療>MP50を施す。

みな一様に感謝し、正平が何者か知り崇拝した。

ジェリカも同じような気持ちを正平に持った。


ゴーレムは2種類存在し、見た目がほとんど人間と変わらないフィギュア種と

3mぐらいの巨体を持ち岩でできたマテリアル種がいる。


どちらも自身を維持するのに魔力の塊が必要だという。

姿は変わらず、MPの回復はしない半面ほとんど無限にMPをストックできるという。

使える魔法は、<人造生命延長>MP1のみで、

フィギュア種の一部が<魔力譲渡>MP1を使えるらしい。


まだ生命を持っている全てのゴーレムを集めた。

すべてぎりぎりの魔力しか持っていない。

マテリアル種は今にも崩れそうで、フィギュア種は、使い古された人形のようだ。


専用列車に積まれた大量の銀貨(50MP通貨)を持って来させた。

ゴーレム達を一列に並ばせ1枚ずつ渡す。

全員に渡った後、それを食べるように指示をだす。


途端にゴーレム達を淡い輝きが包む。

ぎちぎちしていたマテリアル種は油を差したかのように滑らかな動きになり、

岩を適当に削って人型に近づけたような外見も、体の大きな人間に岩の鎧を貼り付けたような姿に変わっていた。

声を発することはできないらしいが、感謝の念は伝わってくる。


フィギュア種もみんな瑞々しさを取り戻し、生命力を主張するかのようなオーラが漂っている。

こちらはちゃんと喋れる事ができ、正平にはその意味ははっきり理解できる。

総じて感謝と尊敬、そしてその膨大な魔力に対する敬意である。


ゴーレム達は正平を新しい盟主と仰いだが、正平はふと思いつき首を振る。


正平は、商業とゴーレムの強力な労働力でMP通貨を得る事が出来ると言う。

そして、これまでにやってきたことをゴーレム達に教える。


ゴーレム達はもちろん、隣で聞いていた開放された者達もそれを聞いて、

正平の英知に驚く。


開放されたダークエルフの1人が、自分の眷族にもこの事を伝え、

洞窟で隠れているダークエルフ達を正平の庇護に加えてほしいと懇願する。

正平は快諾し、そのダークエルフ達が住む洞窟の近くにも駅を作る事にした。


近衛の経緯を聞き終えたゴーレムは、案の定ゴーレムからも近衛を付けさせて欲しいと言った。

そして、フィギュア種で見た目が可愛い女の子が選ばれた。


マルチと名乗ったそのゴーレムはフィギュア種でも特異で、身長が60cmぐらいしかない。

他のゴーレムが人間と大差ない大きさなのにマルチは明らかに人形のようなのだ。

<魔力譲渡>MP1という魔法が使え、魔力が尽きて絶命寸前のゴーレムを見つけては魔力を渡していたという。


次にゴーレムに怯えるダークエルフが隠れている洞穴前まで専用車を走らせる。

マルチと開放されたダークエルフがここだと指し示す。

専用車をとめ正平は徐に<駅・顕現>MP9000を発動する。


ゴーレムのマルチはその膨大な魔力の奔流に目を細め、うっとりする。

やがて現れた駅。予め聞かされていたダークエルフ達も初めて見る大魔法に目をむき、

いったいどれだけの魔力を使ったら発動できるのか想像できなかった。


9  洞穴前     ダークエルフの隠れ家  人口  600人程度

10 ゴーレムの砦  ゴーレムの集落     人口  400人程度


ダークエルフに案内され洞穴へ入って行く。

門番にマルチを頭に載せる正平に驚き警戒したが、開放されたダークエルフが正平を説明する。

門番は恭しく礼を取り、奥へと促す。


内部では傷ついた個体や餓死寸前の個体も散見された。

墓標が数えきれないくらい立ち並ぶ広大な一室もあった。


見かけるダークエルフのほとんどが疲れ切った表情をしており、美しい外見を損なわせていた。


かなり奥まで歩くと何処となく高級感の漂う一室に通された。

身なりのいいダークエルフがいた。ダークエルフ達の王らしい。

王は、囚われていたはずのダークエルフ達が健康な状態で戻ってきた事に驚きつつ喜んで迎えた。


そして戻ってきたダークエルフ達は臣下の礼をとり次に王に正平を紹介する。

正平が何者であるか知った王は、自ら座っていた席を立ちそこへ座るように正平を促す。

正平は苦笑しながら遠慮し、ゴーレムがもうダークエルフの敵で無くなった事を伝える。


ダークエルフの王も、にわかに信じがたいと言った風だったが、

戻ってきたダークエルフ達が、経緯を王に説明した。

王は自ら膝をついて正平の手を取り見上げるようにして感謝を述べた。


それを聞いていた王を守る者達や王族も涙を流して喜んだ。

ダークエルフのジェリカも釣られて涙を流している。


そして正平は南へ逃げだしたダークエルフも正平の連れてきた人間や他の種族たちと上手くやっていると言った。

ダークエルフの王も正平の築いた支配圏で商業活動をしたいと述べる。

正平は当たり前だというように承諾する。


広大な鍾乳洞の洞穴に住むエルフ達はなんと600人近くいるらしい。

食糧は蝙蝠や巨大モグラなどろくなものを食べていないようで、外ではゴーレムが待ち構えていた為

洞穴内で取れる僅かな生き物が彼らの生命を繋いでいた。


人数が多すぎる為に全員にいきわたることは無いが、

それでもまずは食事を施したいと思った正平は皆を外に出し、専用車に積んであった食糧を全て開放して

料理を作る指示を出した。


ゴーレムの包囲網の為に外に出るのが初めてという者がほとんどだった。

その為、あまりに巨大で力強い太陽という光源に驚き、目を瞬かせた。

徐々に慣れてくると、外の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い気持ちよさそうにしている。


近衛達はさっそく料理に取りかかる。エルフのニエルは正平も知らない魔法を使い、

岩場を整えテーブルのような形に変えていく。

そこへ、最初にできたサラダの山を置いていく。


ダークエルフ達は初めて食べるそれを大変気に行った。

その後もどんどんいろんな食べ物が運ばれてくる。

運ばれたそばから山盛りに盛られた食べ物は消えていく。


その間、正平は瀕死のダークエルフの治療に回っていた。

生きているダークエルフを全て外へ連れてくるように言っておいたのだ。


食事に夢中になるダークエルフ達をよそに王や王女のダークエルフは、

瀕死の者達が<治療>MP50でみるみる回復する様子を見ていた。


全ての治療を終えた正平は、側で様子をみていたダークエルフの王族達に話しかける。

ここに住むダークエルフはどのような事が出来るのか。

彼らもまた魔力の多い種族だからそれだけでも十分関わって行ける事は予想できたが、

正平は少しでも生活レベルが向上すればいいなと思っていた。


いろいろ話して分かったことは、冷凍系の魔法が得意ということ。

遥か昔、ゴーレムと事を構えるようになるよりも前から伝わっているいくつかの技術。

そのうちの一つに紙の製法があった。


それを聞いた時、正平は生活レベルが一気に上がる予感がした。

冷気によって、食糧の長期保存、紙によって知識の共有、技術の保存、新たな娯楽の創出。


現在かなり優先的して紙作りを進めているのだが、なぜか元の世界と同じ方法が通じない。

木や水の性質が根本的に違うらしい。直に酸化してばらばらになるという。


ダークエルフの技術によると工程の途中で冷気系の魔法が使われている。


材料は当然木が使われており、長らく洞窟で暮らしていた為に、紙が作られる事は無かったが、

貴重な技術であるという事は彼らも認識しており、作る事が可能であるという。


正平は、それを量産し市場に流して欲しいと願う。ついでに冷気系の魔法屋を開いて欲しいとも。

どちらも非常に貴重で有用性の高い技術だが、

王達は正平への恩が少しでも返せ、尚且つ直にでも正平の支配する商業圏に加われることに大きな喜びを感じた。


果物のデザートを運んで近衛の1人をこちらにも持ってこさせるように言った。

それを、王夫婦と王女に勧める。王族なのに生まれて初めて果物の甘さを味わう。

彼らも知識としては、洞窟の外の食べ物を知っていた。


ゴーレム達に対する怨嗟を漏らすが、正平は首を振る。

正平の肩の上で座っているゴーレムのマルチは、申し訳ないと言うように顔を伏せている。

ゴーレム達は二度と襲わないから仲良くして欲しいと正平は言う。

一族の大恩人たる正平の言葉に従うと言った。


ふと、ゴーレムのマルチに聞いてみる。

魔力を抽出固形化する<造幣機械>のようなものは作る事はできなかったのかと。

ゴーレムに限らず恐らくは誰にも作れないと言う。

ドワーフだけがたまたま編み出したドワーフの技術だけが可能とする機械だと言う。


食糧を全てはたいてもまだまだ食べ足りないといった風だ。

列車を大量に作りダイヤも変更し、ここから通えるようにすると皆に告げる。

それに乗って商業地へくると良い。あとの説明はダークエルフの近衛、ジェリカに任せた。


王は、ジェリカがどういう者か聞いてきた。

正平は、自らの側近であらゆることの手助けをする者達であり、

全体の事を優先し常に考えられる者達だと説明した。


王は、自らの娘である王女を正平の近衛に入れて欲しいと言った。

正平はいつもの事なので承諾した。

王女の名前は、人間でも発音できるように聞き取れる部分を拾って、アルマーゼと名乗るようにいった。

王女は優しく微笑み了解の意を告げた。


アルマーゼとマルチは握手を交わした。


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