■07 途中下車ぶらり旅■
しばらくは途中下車ぶらり旅を美女近衛と満喫して、
新しいアイデアでも考える事にした。
駅から離れた場所に拠点がぽつぽつ出来始めているらしい。
たまにはそう言うのを見に行くのも悪くないと思い視察に出掛けることにした。
美しい湖の駅は湖の反対側から結構離れた地点で、果物の木が林立する場所が発見され
いくつかは、草原の駅の畑に植えられた。
その地点をそのまま果樹園として整備し、そこに家をたてて管理しているらしい。
駅からその地点までの道は木を切り根っこを掘り、
岩をどけるなどして徐々に整備されてきているようだ。
徒歩では結構な距離があるらしいから、貸し馬車にのってそちらへ向かうことにした。
完璧に整備されているわけではなく、途中大きく迂回して目的地についた。
そこは余計な木は伐採され、程良く策で囲った見事な果樹園が広がっていた。
そこかしこから甘いにおいが漂っている。
エルフと人間が共同で管理しているらしい。
人間の方がくだものを市場へ売りに行き必要なものを買って帰るという。
エルフなのだから<造幣機械>で銅貨を製造しないのか聞いてみたら
果樹園の運営や水の調達などに魔法を使用しているとのこと。
販売する果物で十分MP通貨が稼げるのでその必要もないという。
なるほどなーと感心していたら、好きにもいで食べて欲しいと言われる。
正平も近衛も思い思いに果物を選び食べた。
現生種だから酸っぱいく薄い味かと思ったが、濃厚で甘い果物だった。
なんでもエルフ秘伝の魔法によって品質を上手く管理しているらしい。
感心したので、MP通貨を払った。
正平達は満足したので駅まで戻った。
路線により行動範囲が広がり市場により必要なものが調達しやすくなる事で
こういった僻地の管理も容易になってくる。
市場と電車が好効果を発揮しているのを実感した。
次に久しぶりに温泉へ行く事にした。
草原の駅で降り、海の逆側へ行く。
利用者が多いので、馬車や人力車がわりと頻繁に出ている。
ちなみにこの車輪の構造もエルフ、ドワーフ、人間の協力により実現したものだ。
すでに概念として持っている人間の知恵に、ドワーフやエルフの技術が注がれることで出来たもの。
利用者が多いので道はほぼ整備が終わっているといえる。
ほとんど温泉地へ一直線で進み、偶に茶屋のような店が出ている。
遠方ではあるが、歩いて通う人もちらほら見かけた。
しばらくして温泉地に着いた。
なかなか奇麗に整備されており、土産物屋まで存在する。
オークションで鶏を購入したオーナーがここで育て増やしているらしく、
それらの産んだ卵を温泉卵にして売り出していた。
なんとも日本人らしい発想である。
将来的に温泉まんじゅうも売り出したいらしい。
近くに清水が流れているらしく、飲み水や小魚を調達することができる。
自給自足とまではいかないが、かなりの物が現地で調達できるようになってきているらしい。
遠隔地だからなるべく補給が少なく済むように整備を進めているとのことだった。
数日かに一回、第二草原に大量に買い付けに行くらしい。
温泉地らしい風景に郷愁の念を感じた。
もちろん温泉にも入ることにした。
オーナーはVIP用の個室温泉も用意してあるから、皆さんと一緒にどうと聞いてきた。
さすがに余計なお世話だったので、丁重にお断りして、それぞれの性別の風呂場に入って行った。
風呂屋もいいがやはり温泉は格別だった。
見える景色も美しく、魔法を使って擦り切れた精神を癒すには持ってこいだと思った。
どうやったのか冷たい果汁を絞った飲み物が売られており、
近衛と合流したあとにみんなの分を購入して一緒に飲んだ。
名物の温泉卵も購入しみんなで味わった。
夕闇に包まれていたので、駅まで戻らずに泊って行くことにした。
宿泊施設もしっかりしており、ちゃんとした食事を出してくれる。
すでに完璧な温泉宿を実現している。
建物はまだまだ簡素な作りだが、それをチープと感じさせないセンスがある。
今回に限ったことではなく部屋は近衛達といっしょである。
わいわい騒ぎ疲れてみんな眠った。
翌朝霧靄がつつむなか、もう一度温泉に入り、朝食をとって駅まで戻った。
宿にしてもそうだが、どこの店でも正平とその一行に対しては
無料で何でも提供しようとする。
その心遣いは嬉しいのだが、正平は規格外の魔力を所持しており、いくらでもMP通貨が払えるし
素晴らしい商品、サービスに対してむしろ余計に払いたい気持ちなのだ。
結局一般的な値段をしっかり払うということに落ち着く。
少なくとも正平が関わった人々はおおむねこの世界を気にいってくれているようだ。
正平自身も幾分不便になったとは思うが、それでもかつての地球よりもいい感じではないかと思っていた。
何気にそう思い始めている地球出身の人間も少なくは無いようだった。
駅までついたら、その反対側へ行き、徐々に規模が拡大されつつある河岸へ行き、その後塩田を視察した。
石造りの簡易な港と、小舟が並び、エルフ製の投網が配備されている。
まだまだ近場での漁になるのだろうが、釣り竿に銛に仕掛け網と多岐にわたっている。
養殖する計画なんていうのもあるらしい。
5人は船を借りて少し沖まで漕いでみた。
海水は暖かく、心地いい風が肌をくすぐる。
そして、黒塗りの専用車両に戻ってきた。
正平の家族には既に屋敷が用意されてメイドが雇われている。
しかし、正平にとっては、こっちが家であり拠点であった。
この車両の内装はいまだ全て建築物の中で最も高級感溢れている。
たまに一般車両に乗ってみる。
乗車率は40~90%ぐらいだろうか。
正平に気付くとだれもがほほ笑みかけてくれる。
枯れた植物で編まれた手提げ袋を持っている人をちらほら見かける。
最近の人気商品らしい。
購入したであろういろんな小物や食糧が詰め込まれている。
なんとなくエルフが作ったものかと思ったら人間が作っているらしかった。
目を輝かせて外の景色を眺めるダークエルフの兄妹がいる。
なんでもずっと乗りっぱなしで折り返してきたらしい。
キセルっぽかったけど今の乗車賃は距離に関わらず一律なので不問にした。
列車に関していろいろ質問された。
ずっと尊敬のまなざしを向けられていたが、
まだまだ路線を伸ばしていくと言った時のまなざしは、強すぎて思わず苦笑いする程。