■06 ダークエルフ■
安定してきたので、そろそろ路線を拡張することに決めた。
ドワーフの街で終わっていた2本の線路をさらに遠方に伸ばし始めた。
いつもどおり膨大な魔力の奔流が渦巻き、そして前方へ濁流のごとく流れて行った。
魔力が引いた後には美しい線路が真っ直ぐ2線伸びていた。
久しぶりに吐き気と死ぬような精神の消耗を覚えつつ、
専用の黒塗りに金の細工が施された2両の列車を走らせた。
この2両に乗るのは、正平にニエル、ケットにジェシーである。
いつもの近衛隊だ。
両親と妹は第二草原にソコソコの屋敷を構えて楽しく暮らしている。
山を越えた先も又ずっと草原が続いていた。
それでも新しい風景に4人はわくわくする心地良いものを感じていた。
正平の膝の上にはケットが居座りマッタリしている。
隣にはジェシーが座り、時折街の発展具合を嬉しそうに報告してくれる。
対面の席ではニエルが草原から吹く風を楽しんでいた。
かなり進んだところで、村らしきものが見えた。
これには、近衛の3人も驚きを隠せない。
もちろん正平だって驚いた。
エルフもドワーフも魔法を門外不出にしていたが、
誰に対して不出なのか分からない。
この世界は創造神が生まれるより後に出来たはずなのだが、
なぜか、それよりもはるか昔から世界は存在しているらしく
どちらの集落も開発した魔法を外へはあまり流出させるべきではないと言い伝えられてきたらしい。
誰に対してか分からないが、自分達以外の人型が存在することは示唆されていたわけだ。
それが、エルフとドワーフをお互いにさしていたものというわけでもなさそうなのだった。
その為に、新たな集落が存在する事は予想されていた事ではあるが、
エルフもドワーフもお互い以外の存在はこれまで知らなかったらしい。
その為に今回の遭遇は大きな驚きを持って迎えられた。
1人のエルフに似た外見の住人を捕まえていろいろ話を聞いた。
どうやら、ダークエルフの集落らしい。
かなり小さな家が並んでいるかと思えば、1階部分はほぼ入口だけで、
地下に家が埋まっているような構造らしかった。
集落といってもそれほど密集しているわけでもなく、かなり疎らに点在している。
地盤は草原から岩肌にかわりつつあった。
線路の左側に多く、右にほんの少しだけ建物が見える。
どうやら集落の東側を貫通したらしかった。
とりあえず、その場所に駅を設置し、第8の駅ダークエルフ街と名付けた。
向こうのホームにわたる手段も今回は上からじゃなく下から通してみた。
ひょっとしたら、ダークエルフのつくる地下の公共スペースとかになるのではと勘案してみたのだ。
徐々にダークエルフが集まってきて、みんな正平と話したがった。
容姿は、エルフ同様美しく、エルフと違い肌の色が濃い。
エルフほどではないにせよ魔力もかなり高かった。
生活の違いは、エルフが森で暮らすのに対して、ダークエルフは洞窟や地下に暮らすらしい。
言語はエルフではなくドワーフにかなり近い感じがした。
正平は何の苦もなく会話できるが、エルフは理解するのが辛そうだった。ドワーフはなんとなく理解できるようだった。
ジェシーは常にニコニコしていたが、言葉はほぼ理解できていなかった。
ダークエルフ達は、かつて遥か北の方からここまで逃げてきたらしい。
何から逃げてきたのかというと、どうも紛争が勃発しているとか。
それもずいぶん昔の話だから、実際のところ不明だという。
ダークエルフ達は普段どうやって暮らしているのかというと、
地下道に生息する巨大ミミズやモグラを捕まえて、それを食べているのだという。
それがおいしいのかと聞けば別においしいわけでなくそれ以外ほとんど食糧が調達できないとか。
<苦み取り>MP3や<栄養強化>MP9を使ってなんとか食べ物の体裁を保っている。
しかし、異様な匂いや気持ち悪い見た目はどうしようもなかった。
地下の湧水に住む洞窟エビや月見ラビットという夜中に姿を見せる兎が極稀に手に入る最高の御馳走だとか。
どうやらダークエルフも人間や他の亜人と同じようにおいしいものはおいしいと感じる味覚を持っているらしい。
今回は正平が主催し宴会を開くことにした。
このダークエルフの里は僅か50人が暮らす村だったので、列車に常備している食糧だけでも十分御馳走できる量だ。
バラエティに富んだ食材で、近衛達が腕によりをかけて料理した。
普段ひどいものを食べているダークエルフは、魔法も使わずここまでうまい料理をお腹いっぱいに食べた事は無かった
らしく、半分ぐらいが涙を流して喜んだ。
正平がこれまでやってきた事を彼らに分かりやすくゆっくり伝えていき、
ここにつくった駅からも電車を出すから、第二草原の市場で買い物をすればいいと誘ってみた。
他の集落と同じように慣れ親しんだ土地を離れるのに強い抵抗があるようだが、
日帰りでも可能だということを聞いて心が動いたらしい。
<造幣機械>でMP通貨を作ってそれで買い物するのももちろんありだが、
ダークエルフの技術でさらに市場と生活を豊かにしてほしいと考えた正平は
何か売れそうなものは無いか聞いてみた。
そしてなんと絹糸を生産できるらしかった。
暗黒蚕という種類で闇色の絹糸である。
よく見ると、ダークエルフ達の着るものは暗い色でその質が分からなかったが、
触らせてもらうと非常に滑らかで心地よいものだった。
エルフに作ってもらった羊の毛に似た体毛をもつ野獣から採取した毛糸で編んだ服もなかなか着心地がよかったが、
これは別格だと感じた。
早速自分の分を注文した。ついでに家族と近衛の分も注文した。
今回も例によってただでくれると言ってきたのだが、
ちゃんとMP通貨を支払った。価格は適当に予想して支払った。
1着につきさっきみんなと食べた分と同じものが買える代金だと話したらみんな飛びあがった。
つまり、おいしい料理約50食分である。
すでに闇絹の生地はストックがあるらしくすぐに仕立ててくれた為、それを着てみた。
非常に着心地が良かった。
早速彼らの何人かをつれて巨大商業地に発展した第二草原に連れて行った。
もちろん彼らも電車に乗るのは初めてで、それどころかこれほどの距離を
住処から離れたこと無く多少不安に思いつつもそれを上回る興奮が支配しているようだ。
第二草原の駅についた時に外交担当の近衛が部下を付けてくれた。
言語が違う為結局正平がいろいろ説明することになったのだが、近衛の部下もなかなか優秀で
言葉は通じなくてもダークエルフとなんとか疎通に成功していた。
専用車両から出たダークエルフ3人は、最初人の多さに驚いた。
第二草原に居る人々もダークエルフの姿を見て当然驚いた。
しかし、正平と一緒に居る所をみて、なにか納得したらしかった。
闇絹の対価に渡したMP通貨での買い物の仕方を教えてあげた。
又、風呂場や食堂などの利用方法も教えてあげた。
帰りにたくさん買い物をして住処へ帰って行った。
このとき既に新しいダイヤを設定し、車両も魔法で増やしておいた。
近衛に新しい盟友、ダークエルフが加わったことを知らせれば、それぞれが管轄する人へ伝え
すぐに広まるだろう。ダークエルフにもこちらの文化を知ってもらう為に住処に1人常駐させることにした。
言葉は通じないが多分どうにかなるだろう。
後日オークションで出品された闇絹は、やはりすごい値段が付けられた。
これでダークエルフの食卓は改善されるし、この心地よい服の感触を楽しめる人も増えていくだろうと思った。
闇絹だけでも十分通貨は稼げそうだったが、せっかく強い魔力をもった種族だから、
<造幣機械>を設置してあげた。
これにより、運賃程度は楽に稼げるから、気軽に電車を利用できるだろう。
後日、人間に魔法を普及させるために駅に設置した無料の魔法屋、
<小さな火>MP3の魔法石に並んでいるダークエルフを見かけた。
何の対価もなしに新しい魔法を習得できるなんてすごい!と言っていた。
それから暫らくしてダークエルフの村はどう変化しただろうと、久しぶりに訪れてみたら、
駅の地下道と、もともとあったらしい大きな地下広場が接続されていた。
東側の少ない集落に属する小さな地下広場とも接続されている。
地下街の天井は高く空気はひんやりしている。
ヒカリゴケを上手く張り巡らされており、足元も十分見える明るさを確保していた。
地下の広場からそれぞれダークエルフの家と出入りでき、木製の扉で区切られていた。
もともと地下街はそれほど広くなかったのだが、ドワーフの良質な道具が手に入った為に
拡張工事を行ったらしい。
駅の地下道から地下広場に地下街、そしてひときわ大きな扉の先が、
例のでかいミミズやらが出没する地下洞窟が続いているらしい。
それよりも少し手前の公共スペースらしい扉で区切られていない部屋で、地下水がわき出ている。
腰の高さで水が一端溜まるようになっている。
そして、あふれ出た水が足元の池に流れ込んでいる。
そこに洞窟エビが数匹飼われていた。
食べ物に余裕ができたので、すぐに食べたりせずに増やそうとしているらしい。
洞窟探索の比重を減らし、闇蚕と闇絹の生産の人数を増やしたらしい。
飼育場を拡張したようだ。
いろいろ案内してくれるのはダークエルフの長の美しい女性だった。
彼女は正平に感謝をしてもしきれないといった風である。
正平も闇絹の服がとても気に行ったので、こちらもありがたいということを伝えた。
村の変化をいろいろ聞いた後、ふとダークエルフからも近衛を付けたいという提案が出された。
案の定、正平と見た目が同じような年齢の絶世の美少女ダークエルフが付けられた。
いつの間にか美女の近衛を付けるのがデフォになっていた。
やんわり断ろうとしたのだが非常に悲しい目をしてこっちを見るので、快く受け入れることにした。
別に美少女が嫌いなわけでもない。ちょっと恥ずかしいと思っただけである。
あんまりそればっかり増えるのもどうかなあと考えていただけだ。
新しい近衛の美少女ダークエルフの名前は、ジェリカと名付けた。
エルフ同様発音不可能な名前だった為に、聞き取れた音を拾って再構築した名だ。
元の名前とかなり近い為か、正平が付けた名前だからかすごく気にいってくれた。
ジェリカは妙に人懐っこく、たびたび後ろから抱きついてきた。
エルフのニエルも同じように抱きつくようになってしまった。
いままでそういう行動はとらなかったのに。
ドワーフのケットは相変わらず座っていると膝の上に乗っかってくる。
常に平静なのは人間のジェシーぐらいかもしれない。
ふと、連れてきた人間を取り巻く環境を考えてみる。
家畜の消費をなるべく抑えていたとはいえ、
毎日多くて1食、下手すると食べられないような人もいたのに
いつの間にか、食糧を他の種族に提供できるようになったことに気づいて感慨に浸った。
家畜も消費しつつも頭数はプラスに転じている。
肥やしは近くの畑につかえる。
草原の駅の牧場と畑はかなりの食糧を生み出し始めた。
いい武器が手に入るようになり、探索隊のメンバーもいろんな獣を狩って帰ってくる。
その途中で新しい食物やそのタネも調達してくるという働きっぷり。
稲穂の駅では田んぼを整備し、原生していた稲っぽい植物をどんどん増やしていく予定だ。
並行して、この実を使ったパンや米やビールなんかを作る研究も始めていく。
走り始めるまでは大変だったが、走り出した今、
放っておいても上手く行きそうな感じがする。
最も大事なのは最初なのだろうと思った。
序盤の幸運、能力、出会いに感謝せずにはいられなかった。