■10 議会■
正平が見ている限りは、みんなとても仲良くやっているようなのだが、
多種族でしかもそれぞれ違う言語を使っているために、何気にトラブルが結構あるらしかった。
正平の威光と隠れた能力により付近一帯のそういった諍いは抑えられていたという。
しかし、常にその近くに正平がいるわけでもないし、各々で解決して貰いたかった。
そこで、種族間を調整し、街の統治を円滑に行う為の議会を制定することにした。
好きに部下を使えるとはいえ、種族も案件も増えて、近衛の負担が増えてきたためでもある。
人間ばかりの頃は、常識の範囲で最大限全体の利益になるよう個々の判断で対処していたが、
4種族も増え文化も常識も生態さえも違う為に、
他の種族にも意見を聞かないと一部が大きく不利益を被ることになりかねない為だ。
それは、人間と他の種族が手を取り合って街を発展させる様を見続け、
それを支え続ける事に誇りを感じている近衛達にとって耐えがたいものだった。
それで各種族から常に意見が聞け、またその長に承諾を得る機会を欲していたのだ。
正平もそれについてはどちらかというと大賛成で、思いついた案を述べた。
各集落から、2名の議員を選出し、1名は常駐して貰う。
そしてもう1名は集落の長にやってもらい定期的な議会に参加してもらう。
近衛も全員議員とする。さらに議会には他に10名分の議員枠を用意し、
毎回オークションで議員として議会に参加できる権利を出品する。
常駐する議員を置くのは常に近衛が意見を求められるようにする為に。
オークションによる議員枠は、商業を営む一般人の意見を取り入れる為に。
とりあえず2週間に1回ぐらい議会を開き、重要な事案の採決をとる。
その際にはそれぞれの長に参加してもらう。
言い終えた正平は周りを見渡すと、何でいきなりそこまで考えているのという目を皆から向けられる。
しかし、正平も一応考えていたのだ。
近衛達は結構頻繁に正平に可否を求めてくるのだが、種族が増えるにつれてその頻度も多くなってきていた。
正平も彼らが優秀だと知っていたので毎回好きにしていいと言っているのだが、
正平が許可を出したなら誰一人文句もないし、なんだかんだで、他種族について一番詳しいのも正平だった。
さらに正平は常に全種族侍らせており、すぐに確認を取ることもできる。
新たに加わった近衛達はそもそも集落でもかなり偉い位置にあるし例外なくそのグループの知識階層なのだ。
つまり、正平に聞くのが確実で一番正しいという。
ただ、基本的にマッタリしたい正平としては突然決断を迫られるのは心地いいものではない。
そこで、物事が勝手に決定される機関が欲しいと思っていたのだ。
正平の提案は地味にクオリティが高かったので、特に改良されることもなくそのまま決定した。
議事堂を建てるスペースはすでに用意されており、大通りに面した一等地に広々と確保されていた。
それどころか、既に建設が始まっていた。
そこには大勢のゴーレムが切り出された石材や加工された木材を運びこんでいた。
早速各集落へこの件について通達し、議員を選出してもらった。
この際、近衛から一つお願いが出された。それは、各種族の長に専用の車両を用意して欲しいとのこと。
たしかに、ダークエルフの王などが狭い車両に詰め込まれるのはどうかと思うし、
同乗する人も遠慮するかもしれない。
それは良い案だと思い、直にVIP車両を作り運用するようにした。
新たに加わった重機の様な労働力、マテリアル種のゴーレムの御蔭で議事堂建設はかなりのペースで進み、重厚感のある立派な建物が完成した。
かなり広めの会議室に、普段常駐する議員の為のスペース。
多目的室をいくつかもった今のところ駅に次いで大きな建物になっていた。
調度品も現在揃えられる最高級のものが使われている。
そして記念すべき第一回目の会議が開かれる。
正平は、基本的に参加するつもりはないが、第一回なので記念に参加してみた。
参加者は、正平に15人の近衛、
エルフの集落、ドワーフの集落、ダークエルフの集落、ゴーレムの砦からそれぞれの長が、
ダークエルフの隠れ家からは王が参加。加えて予めこちらに常駐してもらう各議員5名。
そして、議員枠をオークション落札した10名。彼らは、そのまま稼ぎランキング上位10名らしい。
合計36名。事実上の権力者全てが集まったと言っても良かった。
ちなみに、正平の家族は住むところは立派だが特に権力を行使することもなく
一般人に交じって普通に仕事をして生活している。
会議は恙無く進む。
滞っていた問題や、認識に齟齬のある部分が思ったよりも多かった。
それらの解決がなされ予想以上に有意義なものとなった。
通訳はフィギュア種のゴーレムが受け持ってくれた。
彼らには特別報酬として、正平から魔貨が贈呈された。
彼らは以降も会議専属の通訳として常駐することになる。
議題の中に学校の設立が提案された。これは、子供に学習させる為のものではなく、
人間以外の種族が日本語と日本人の考え方を学ぶ為の施設だ。
いままでそれとなく上手くやっているとはいえ、やはり大多数が日本人な為
日本語が使えないのは非常に不便なのだ。又しっかり学ぶまで行かなくても
ちょっと聞ける場所というのを求められていた。
魔力を消費することでずば抜けた語学習得力を見せるゴーレムと日本人に先生をして貰う事にする。
ほかにも何人かのゴーレムに全ての言語を習得させ街の各場所に配置することにした。
彼らは通訳料としてMP通貨を得る事ができる。
言語習得は魔法ではないらしいのだがものすごい魔力を消費する。
最初彼らは渋っていた。そんな事をしたらせっかく稼いだ魔力は全て尽きそれでも足りないからだ。
それを聞いてやってきた正平は鼻歌交じりに魔貨を造り出しゴーレムに提供した。
MP5000という破格の魔力によりたちまち言語をマスターした。
それでも大量の魔力が残る。
彼らはいつかこの分を稼ぎ返すと言ったが正平は別にいいと手を振った。
それでもゴーレム達は引かない為に、それならダークエルフの基金を作って、
そこに資金を提供してみてはと提案してみた。
ダークエルフ達も十分稼げるだろうが、二種族間の溝を埋めるためにもいいのではと思った。
さっそくゴーレムの長にその案を掛けあってくるそうだ。
この会議で何気に重大なことも決まった。
それは、この国の名前だ。
路線によって世界が広がるたびに新しい種族と遭遇する。
この世界は正平という創造神によって作られたから、それら全てが一つで
国として区切る必要性を最初は感じていなかったのだが、
正平含めて誰も世界の全容を把握しておらず、
開拓し認識しているエリアとそうでないエリアという区分けができる。
そこで便宜上開拓したエリア、つまりMP通貨が通用する圏内に
名前を付けようと言うもの。
たしかに話す場合、この一帯を何と呼べばいいのか分からない。
そこで正平は適当にトレイン帝国と名付けてみた。単純に列車の国という意味でつけたのだ。
帝国にしたのはそっちの方が、語呂がいい気がしたからである。
しかしこの案は満場一致で可決した。
ついでにそれぞれの集落は国という扱いになった。
最近トレイン帝国に所属する国以外の種族を見かけることがあるという。
と、議員の1人が切り出した。
彼らの扱いをどうするかという問題である。
そういえば、ゴーレムにとらわれていたのはダークエルフだけでなく
獣人種というのがいたのを正平は思い出した。
トレインでの活動を許可しその説明を引き継いでそのあとどうなったのか知らない。
上手く溶け込んでいればいいなぁと思った。
正平は路線を真っ直ぐ北に進めてそこに接触した集落と交流し取り込んでいるが、
西にも東にも世界は広がっているし、向こうから接触してくることもあるだろう。
今のところ探索隊からそのような報告は聞いていないが単に本当に聞いていないだけで
すでに接触しているのかもしれない。
その場合もなるべく彼らに便宜を図ってやるような仕組みを作るべきであると一応言っておいた。
そして出来あがったしくみはこうである。
違う言語を使う種族に対していきなりうまく意思の疎通ができるとは限らないので、
気づいた人が通訳ゴーレムを連れてくるか通訳ゴーレムがいる場所へ連れて行き、
ゴーレムにその言語を習得させる。
そして、その言語を駆使して街や通貨、列車の利用方法などを教える。
このとき消費した魔力は、案内代金を加えた分を銀行に請求できるものとする。
こうすることで放っておいても勝手に他の種族がトレイン帝国に関われるようになるのである。
接触する場所が第二草原の商業地だけとは限らないので、
何人か通訳するためのゴーレムを列車で巡回させることにした。
この通訳ゴーレムには予め魔貨を渡し、いくらでも言語習得に必要な魔力を使える状態にしておく。
たった1度の会議でいろんな事が決まり、進み始めた。