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■09 魔貨■


ジェリカはしばらくの間、ダークエルフの洞穴に待機し、

いろいろ教えるように言い、王の側近として働いてもらうことにした。

ダークエルフの街からも何人かそちらへ行ってもらっている。


ゴーレムの砦へは、近衛の部下の外交担当を送っておいた。

彼らは直に日本語を覚えてくれるから、これまでよりも楽だろう。


間もなく列車に乗ったダークエルフやゴーレムを見かけるようになった。

マテリアル種は大きすぎる為に貨物列車に揺られてやってくる。

時折仕事で得た銅貨を齧るゴーレムを見かける。


第二草原の市場はいよいよ賑やかになってきた。

ゴーレムの労働力は凄まじく、遠方で建設ラッシュが始まった。


正平が街を離れるとその加護が消えて、狂暴な野獣が襲ってくるために

守備兵が組織されて、街の外周部を守っている。

しかし、守り切れるものでは無い為に、溝や壁を徐々に構築しているという。

それが一気に進んだと喜んでいた。

ゴーレム自身も守備兵として活躍する。


草原の駅で開拓中の畑でもその労働力を遺憾なく発揮している。

ゴーレム達もその働きの対価に満足していた。

いくら消耗してもそれを上回る魔力を得ることができる。


人間そっくりのフィギュア種はどうも内に秘める魔力と容姿がある程度比例関係にあるらしく、

初めて見た時とは比べ物にならないほど男女ともに美しく輝いていた。

正平は実際に髪の毛が暗闇でも輝いているところを目撃した。


ゴーレムは魔力を自分で回復出来ない代わりにほとんど無限に魔力を貯める事ができるという。

魔力が直接生命の維持につながるためか本能的に魔力が増える感覚に心地よさを感じるらしい。


それを聞いた正平は、片っ端から得られたMP通貨を食べないで、

それを利用してさらに儲ける方法もあると正平は彼らに助言しておいた。


各駅に設置した<造幣機械>によってMP通貨がじゃんじゃん増えるだろうと思っていたが、

逆に減っていくかもしれないなあとも思った。

ただ、ゴーレムはこれ以上増えないから、問題無いだろうとも思った。


<造幣機械>を利用する人の列が消えることは無いほどの利用率である。

まだまだ大して使い道のないMPをそのままお金に変えることができるのだから当然と言えば当然である。


第二草原エリアだけ新たに2機を追加で置くことにした。

商業地は駅から東西に広がっている。

駅から延びる大きな道の中ほどにそれぞれ<造幣機械>を設置する為だけの目的で建物をたて、そこに配置する。


これで少しは緩和するだろうと思っていたら、

活動拠点から遠いあるいは列が長すぎて並ばなかった層が新たに利用するようになった。


設置した近辺は賑わいを増し、製造した銅貨でそのまま近くで買い物をする人もよく見かける。

近くで店舗を構える商人は売り上げが増えたとひそかに喜んでいた。


洞穴を支配していたダークエルフの王族は、さっそく秘伝の魔法で魔法屋を出している。

<冷気>MP4

かなりの冷気を出せる。小さな箱なら冷凍庫と同じ役割を持たせることもできそうだ。

重ねがけすることで密閉空間に大量の食糧を保存できるだろう。


利用料は他の魔法屋と同じぐらいに設定している。

店が開かれるや否や、ものすごい人が詰めかけ我先に<冷気>MP4を習得しようと躍起になっているようだ。

食料品を扱う人々、特に海の駅を拠点にしている人たちに大人気となった。


氷自体これまで一つも手に入ら無かった為に、水を張ったバケツを持ってくるものも結構いた。

ただ、習得するだけというのも勿体ないし、氷は貴重だから当然だろう。

製造した氷をそのまま飲食店に持っていく姿を見かける。


最近分かった事だが、魔法石があればMPが足りる限り誰でも魔法が使えるのだが、

習得は人によって出来ないことが判明した。

習得するまでの回数に個人差があるのは分かっていたが、不可能な人がいるのは最近判明した。


最初に公開した魔法は単に人間と相性が良かったのか、習得難度が低かっただけらしい。

大凡(おおよそ)20回越えて習得できない場合はほぼ不可能っぽかった。


後で分かることだが、<冷気>MP4はかなり人を選ぶ難易度が高めの魔法だった。

ちなみに正平は3回で習得してしまった。


その日たまたま自ら出店した魔法屋を見に来たダークエルフの王と会った正平に

やっと王らしい生活が出来そうだと笑いながら話しかけてきた。

王はこの街に別荘を建てる予定だと言う。


他にも紙の製造が始まっているという。市場で必要な道具は直に揃える事が出来た。

これはかなりすごいことだとダークエルフの王は言う。

間もなく出来あがった紙の束がオークションに出品される。


それまで羊皮紙しかなく、それに比べて厚みがほとんど無い見た目も美しい紙は

かつて出品され最高額をつけた<微消毒>MP1に次いで2番目の値段が付けられた。

おおよそ相場を理解してきたダークエルフ達はこれには大変驚いた。


紙を早く利用したい商人はたくさんいた。この世界にやってきた人間の技術者や知識層も

この世界に持ち込む事が出来た唯一のモノである知識を書物に残したくてうずうずしていた。

正平もかつての世界で読書が好きだったので、紙を大量生産させて図書館でも作りたいなと思っていた。


その様子を見ていた聡いドワーフの商人は、仲間に文房具の製作を依頼した。

これまで羊皮紙や木版を利用していた為にそれなりに売れていたが、

紙の普及で一気に需要が高まると読んだのだ。


他にも重要な商品を市場に齎していた。

それは綿である。アオイ科の多年草から取れることが知られているが、

この世界でも似たような植物があるらしい。


エルフやドワーフや野生の動物の毛や皮で衣類を製作しており、

ダークエルフは闇蚕を飼い闇絹で服を作っていた。

そのどれとも素材の違う服をゴーレム達は着ていた。

その事を肩に座っているマルチに聞いてみたところ、

この綿から作ったものを纏っていたらしい。


カミキリ草と同じようにゴーレム達は育てていたとの事。

正平は、これは大きな商売になるからと商品にするように言った。


まだまだ1人何着も服を持てない状態である。

その理由は、羊の毛以外服の材料がそうそう手に入らない為である。

近衛達は着る物には困っていないがそれでもいろんな服が出るのは大歓迎であった。


今回の路線延長で新たにふえたモノは、ゴーレムから綿と重機の様な労働力。

洞窟のダークエルフからは、冷気に紙。

線路を延ばしていけばどんどん技術やモノが増えていくのだろうかと正平は考えた。

秩序が破綻しない程度の速度でこれからも徐々に伸ばしていく予定である。


銀行で預かり証書の需要が増えてきている。

これは、500MP通貨の金貨でもかなり嵩張ってしまい

たとえ手数料を取られてもいつでも銀行で下ろせる証書は便利だからだという。


しかし、証書を乱発して管理が大変そうなので、それを軽減することも必要だと感じた。

そして正平はとうとう5000MP通貨を製作しようと考える。


今現在ある特別性の<造幣機械>でも500MP通貨が限界である。

さっそくドワーフの街を尋ねてみた。

<造幣機械>作ったドワーフは流石に同じ大きさでその魔力を詰め込むのは無理だと言った。


しかし、正平としては銅貨から金貨まで大きさを統一していたので、

5000MP通貨も同じ大きさにすることは譲れない一線だった。

あと、どんな見た目の材質になるのかも興味があった。


それを聞いていたドワーフの長は、最近発見された魔石を持ってきた。

これを材料にすれば作れるかもしれないと。

なにやら金属関係の魔法を生み出すのに非常に良さそうな波動を感じるとのこと。


正平はその魔石を見た瞬間なにかインスピレーションが湧いた。

正平はそれを買い取りたいと長に申し出た。

超貴重品である魔法石の原料である魔石は、

同種族以外に譲渡するのはそうそう出来る事ではないのだが、正平の頼みならと快く承諾してくれる。


正平自身もそれを理解しているため、普段はそういった頼みごとは控えるようにしている。

しかし、今回はこれですぐ解決するような気がした。


魔石を受け取り、魔力を手に込める。

暗い坑道内が太陽に照らされるかのような光で溢れる。

魔石は膨大な魔力を浴びて、やがて魔法石へとその姿を変える。


正平の掌に残ったモノは青白く透き通るタカラガイの形をした宝石だった。

<魔貨製造>MP5500

魔法石はどれも例外なく美しい宝石だが、正平が作ったモノは格が違った。


さっそく正平はそれを媒介に新たな魔法<魔貨製造>MP5500を発動する。

目の前に魔力が放出されそして集約していく。

光が収まり現れたのは見事な貨幣である。


表には正平が乗る特別車両の図柄、裏にはMP5000の文字。

これまでの貨幣と同じ大きさだが、不思議な存在感があり青白い輝きを放っている。


見事な造形でたとえ魔力を有していなく、又通貨と定めていなかったとしても普通に金貨の10倍以上の価値はありそうだった。

このMP5000通貨を魔法名からそのままとって魔貨と名付けた。


この初めて造られたMP5000通貨をドワーフの長へ渡す。

魔石の代金の一部として渡し、あといくら欲しいか聞いてみた。


しかし、ドワーフの長はこれが単純な貨幣としての価値以上の効果に気付いた。

その凝縮された魔力の塊は所持する者の身体能力の全てを僅かに引き上げ、

野獣に畏怖を与えるというマジックアイテムのような効果が宿っていたのだ。


長はもうこれで十分とあわてて断り、MP5000通貨をドワーフの宝にすると言った。

もっと作って市場に流通させるつもりだった正平は流石に大げさだと思った。

しかし、周りのみんなもその貨幣を羨ましそうに眺めていた。


ドワーフの長がその魔貨の秘めた恐るべき効果を指摘した。

それを聞いて驚いた正平はそれならば、と近衛全員に渡すことに決めた。


正平は調子にのって<魔貨製造>MP5500で70枚の魔貨を造り出した。

使った魔力が膨大すぎて流石の正平も強烈な精神の苦しみを味わった。


まずはいつも付き従う近衛達に、

次いで街のあちこちで働いている人間の近衛達へ魔貨を1枚ずつ渡していった。


女の子の近衛達は、指輪をプレゼントされるかのように恭しくそれを受け取ると、

恍惚とした表情でそれを眺めている。

ゴーレムのマルチはそれを食べて己の魔力としようか大切に持っておこうかものすごく悩んでいた。


街で活動している近衛の場所を聞き、いちいちそこへ足を運ぶ。

持っているだけで効果があると教えて、ボーナスだと適当な理由で渡した。

受け取った近衛達は感激し、中にはうれし涙を流す者もいた。


近衛達は謙虚にも街の維持に必要な資金と給料は分けているらしい。

給料は常識的なもので自らの浪費を経費のように扱ったりはしないそうだ。


残りは全て銀行へ持っていき、資金の預け証書を発行する前にこちらを進めるように指示した。

次の日、結構な量が魔貨に換金されて受け取った商人はそのあまりの出来に感心しきりだったという。


すぐに銀行のストックが無くなり、魔貨はMP5000以上のレートで取引され始めた。

それは正平の本来の意図と違うものである。

なぜか意地になった正平は、精神の疲労に苦しみながらも何度も大量のMPを消費して魔貨を補充し続けた。


商人の間で魔貨を所持するのが一つのステータスとなった。



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