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■01 おわり■

あと数日で隕石群が地球に衝突することが分かり、

すでにいくつかの小規模隕石が世界中に降り注いでいた。


世界中で暴動が発生する中、ある夜眠っている人たちの夢に天啓が下った。

それは、「選ばれし12人がそれぞれ別世界を創造し、そこへ行けば人間は助かる」というもの。


それを知らせてくれたのは、人によって姿が全然違い

あるいは声だけの場合もあったが、総じて事実だと直感した。

目覚める直前その12名の顔が浮かび上がった。


翌朝、世界はこの事で更なる混乱に陥った。

昨晩眠った人は全てこの夢を見たからだ。

人類存亡の危機なのだから必死だった。

ほどなく世界各地から12人全員見つかった。


選ばれし12名はこの別世界に関して心当たりがあった。

彼らは、この啓示がなければ身近な人だけをつれて旅立つ予定だったのだ。


なぜなら、彼らはこの世界へ何度か行き来し、

選ばれし12名の内何人かは少人数が生活する程度には整えて自らの別荘のように扱っていたのだ。

しかし、大勢が暮らせるほど整えられていなかった。


それならば、これから整えればいいと考えられるかもしれないが、

選ばれし12名が創りし世界へはゲートを通らねばならない。

そして非常に厄介な事に動物以外が通過することができないのだ。


何一つ持ち込めない。

食糧どころか、服すら不可能で、

通過するには裸で通らなければならなかった。


さらに厄介なことに、本人以外の一度通過した生物は二度と出る事ができなかった。


その為、それまで軽々しく他人を呼ぶ事はできなく、

創造者が個人的に楽しむに留まっていた。


12人は新しい世界の創造者であり、わたる先の世界はもともと存在する別の何処かでは無かった。

その為、それぞれ全く違う風土、地形、さらには支配する法則が違っている。

なぜならそれらの世界は創造者の知識と夢と無意識が創りだしたモノだからである。

人類が積み重ねてきた英知が通用しない可能性が大きい。

元始的なものなら幾らか通用するであろうが。




当然、創造者と同じ言語を扱える人が殺到する。

しかし、人種の保存のため、

多様な人種を幾らか分散させようという知識階級者達の勝手な取り決めもあった。


全世界放送により、創造者達がテレビで自分たちの創りだした世界についての解説を懇願された。

解説した内容は驚くぐらい全く違う地形、世界を示していた。

みんなゲート付近の地形しか知らない為、実際の所、同じような場所があるのかもしれないが。


ある者は、見渡す限り砂漠で、ゲートから1km圏内に巨大なオアシスがある。

ある者は、熱帯雨林で、無数の大河が確認され、地球に存在しない生物がいる。

ある者は、空に浮かんだいくつもの島の一つにゲートが現れた。

ある者は、サバンナのような平原が広がっていた。

などである。


そして共通するのがどの世界でも彼ら創造者は絶対者と呼んで差し支えない存在になっている事である。

その世界における彼らは、怪我することも飢えることも老いる事もないという。


日本の創造者の1人である小森正平こもり しょうへいの世界は、ゲートから出ると林程度のあまり深くない森が続いていた。

少し行くと美しい清水の湧く岩場がある。さらに先にはなんと、

ファンタジーで有名なエルフの集落があった。


正平は、彼らの言葉が分かり、彼らも正平が世界の創造者と気付いたらしかった。

すぐに打ち解け、自分で創ったはずなのにどういう世界なのか分からない正平に、

世界について彼らが知っている事を教えてくれた。


そして驚くべきことに、魔法が存在したのだった。

エルフは歓迎の証に貴重な魔石を分けてくれた。これは魔法を習得するための希少な鉱石だった。

これにより、正平は3つの魔法が使えるようになった。


創造者たちの解説はどれも驚くべきものだったが、

正平の創造した世界の解説がもっとも世界を驚かせたであろうことは疑いなかった。


他の世界ももっと調べる事ができるなら、それ以上に不思議な可能性は当然あるが、

分かっている段階でここまで突拍子もないのは正平の世界だけだった為である。


数百本のマイクとカメラ、それに大量の同時通訳。

それぞれの創造者の活動拠点近くに急遽作られたスタジオ。

すでに、かれら創造者と懇意になろうと王族や、各国首脳が近くに陣取っている。


あの天啓の下った次の朝は、家の前に大勢の人だかりがあったのを今でも鮮明に覚えている。

どれもこれも必死に押しかけ、創造者達は自らの命の危機を感じ取るほどだ。

だが、すぐに警察、そして自衛隊が駆け付け、正平の守備にあたった。


ほどなく、世界各国は創造者達から世界の特徴、一度はいれば二度と出れない事、

裸一貫でしか入れないこと、さらに創造者ごとに世界が違う事などを聞いた。


人々はどの世界に行くべきか、それを創造者に創った世界を紹介してもらい、

人々に選ばせるという方策をとった。


創造者が世界各国奇麗にばらけた為に、悩むまでもなく自らの近くに住んでいた創造者のところを

選ぶのがほとんどであった。


世界滅亡までもう僅かな時間しか存在せず、小規模の隕石が絶え間なく降り注いでおり、

ところどころ交通も麻痺しているため、選択の余地もあまりなかった。

それに、恐らくは創造者が使う言語が新天地での標準語になるのはほぼ確実である。


しかし、それでも偏りは存在した。

ゲート付近が砂漠や、寒冷地の世界は不安であったため、人気が少なく、

逆に正平の世界は、すでに飲み水が確保でき、

さらに先住民が居ると言う事が分かっていたためにずば抜けた人気があった。


もう一人の日本出身の創造者である佐々木玲子(ささき れいこ)も自分の世界より正平の世界へ行きたがっていた。

彼女の世界は、美しいが、険しい山の頂にゲートが出来た為、探索した範囲で生活するには

とても厳しいことが確定していた。


正平の世界はほとんどの人がファンタジーの世界を想像した。

その為、発展すれば今の世界よりも良くなるのでは?という予想を立てる人も少なくなかった。

実際、一番夢のある世界と言えた。

他の世界ももう少し探索すれば、そういうものを発見できたかもしれないが、

現状それを確認できたのは正平だけであった。


12人の放送が終わった後も、チャンネルごとに創造者のインタビューがループして流れており、

時折その世界の解説が挟まれた。


放送終了後から、正平の家、街、には大勢の日本人、いや世界から来た人でひしめき合った。


ゲートは何度も開閉することはできない。

一度開くと次に開く事が出来るのは数日後だという。


創造者の1人がいろいろ実験して詳しくわかった一つの事実がある。

ゲートは、一度に最大5時間程度しか出現させられず、連続で5時間開けた場合およそ2週間の

インターバルが必要だということである。

2週間後では、地球からほとんどの生物が絶滅しているのは疑いなかった。


ゲートの大きさは、精々家の扉程度の大きさ。同時に通過するにも2人が限度。

それが、絶え間なく5時間開けっぱなしでも通過できる人数に限りがあるのは明白であった。

そのため分散することを呼びかけた。


ゲートのオープンは、世界同時に行われることとなった。

正平の周りには、家族、親戚、同級生、親の会社の同僚。そしてそれらの知り合いと

正平の知り合いの知り合いで溢れかえった。


正平に限らず世界中の創造者の周りはそうなっているであろう。

さらには、正平には世界の富豪や王族がたくさん押し詰めていた。


彼らは、既に日本語の勉強を必死ではじめている。

生物なら通れるということで、次の世界で食糧となるべく家畜の手配もしていた。


わざわざ自分の文化圏を選ばずに正平を選んだ辺りは、彼らの勘がそうさせたのだろう。

選ぶ基準は世界だけではない。創造者の人格もまた基準であった。

なぜなら、創造者達は彼らの創った世界においては、

夢の内容から不老不死など特別な力を有しているらしい。

それはつまり彼らがそれぞれの世界で頂点に立つことを意味している。

ならば、この最初で最後の君主を選ぶ機会に妥協は許されなかった。


ゲート作成予定地の広場には、動く歩道が設置され、馬、牛、羊、鶏と

最も人類のノウハウが蓄積された家畜が揃えられた。

植物の類がゲートを通過できない為に、当面の食糧としても非常に重要であった。


もちろん、世界12か所のゲート予定地にも同じように家畜がスタンバイしている。

食糧は現地で調達する物以外は生きた家畜のみである。

現地で個々人が探索した範囲ですぐに食糧を調達できそうなのは、正平を入れて6人だけであった。

他にも、ゲートを出た先では丸裸な為、羊の毛がとても重要な意味を持つ。




有識者の間では、カルネアデスの板計画と呼ばれていた。

なぜなら、結局5時間ではいれる人数は、どう工夫しても全人類には及ばず、

又、丸裸の状態から安定した食糧も無しに全員が生き残れるはずがなかった。


なので、実際にはゲートは数回にわたって、開かれ、

先遣隊は実験的な意味合いで送られると一般的には知らされていた。


しかし、現実には連続5時間の1度こっきりである。

聡い人、創造者に近しい人、ずば抜けて偉い、いや偉かった人たちだけが知っている。

他にも、家畜の世話に長けた人、炭焼きや昔ながらの農業を営んでいる人々、

現代の科学技術に依存しない技術を有するある意味で元始的な生活が幾らか可能そうな人たちが優先されていた。


持っていける物は、生き物と知識だけ。先遣隊に対してサバイバル講習が行われ、

何もない状態でも最低限生きるのに必要な知識が共有されていった。


パソコンどころか本もノートも持ち運べない為に、家畜や人間の体に文字を書く。

しかし、これらはゲートを通ると消えてしまうのだが…。


そんな準備が12か所で行われ。運命の時間がやってきた。

向こうへ行けばしばらく食事が出来ないだろうことから、この世界で最後の食事をお腹いっぱい食べていた。


空は、無数の小さな隕石で昼間だと言うのに彼方此方で大気圏で燃え尽きる光を確認できる。

あるいは燃え尽きず、遠くの方で大爆発を起こした音が耳に届く。

もう一刻の猶予もない。


みな、一斉に服を脱ぎだした。下着も脱ぎ皆すっぽんぽんだ。

秋が過ぎ冬に差し掛かろうとしている為非常に寒い。

老若男女すべて。恥かしいなんて言っていられない。

生死どころか人類存亡の危機なのだから。


虹色の厚さ1ミリにも満たない長方形のゲートが出現した。

同時に歩道は動き出す。

先頭には、正平と、その家族、正平が予め部下として選んだ者達、

学校の友達、近所の人たち、会社の人たち、その知り合い、

家畜と酪農の技術を持つ者達、王族に権力者、サバイバル技能の保持者、そして正平を選んだ世界の人たち。

そのような順番でゲートに入って行った。


元の世界でゲートの外の事について知っているのは当然正平だけである。

なので、一番初めに入り、次々に出てくる者たちを案内する必要があった。


家族が出てきた次に出てくるのは、正平をサポートする者たち。

彼らも初めて世界に踏み込むのだが、いろいろ正平から出た先のことを聞いており、

すぐに正平の手助けが、出来るようになっていた。

彼らはこれ以降も死ぬまで正平の部下として働く事が決定づけられていた。


正平は元より、出てきた家族もみんな素っ裸であった。

しかし、予め正平の服だけは用意されていた。


エルフの編んだ服である。

正平以外の分は無い。頼めばあるが、エルフにとって正平以外はどうでもいいどころか侵略者である。

この世界では、正平とそれ以外は大きな隔絶が存在する。

それには、みなおいおい気づくのだが、このときはまだ誰も知らない。


まず、すぐに家族をゲートから引き離し、少し先にある広場に待機するように言った。

すぐに、正平をサポートする人10名。通称近衛隊が入り、ゲート付近に5名待機し、

誘導場所を確認するために残り5名が走った。


正平の関係者をまず正平の家族を誘導した付近に全員集め、

次に家畜を予め決めておいた低地へ誘導した。

そして次々に侵入してくる人々を各エリアが大体100人超える毎に時計回りに誘導先を変え、

100人集まった集団はその場から離れて次の100人がその場へスムーズに行けるようにする。


これが5時間ぶっ通しで行われた。

続々と裸の人間が詰めかける。


そして5時間後ゲートは閉じる。

予め通過できる人数を計算し余裕を持って選ばれていたために、

ゲートが閉じる数分前に侵入する人間の列は途切れた。


しかし、鋭い勘が働いた数名がゲートの閉じる直前に滑り込んできた。

ただ見物しに来た大勢の人の内数名ががそれをみて、最後のチャンスを逃したことに気付いた。

しかし、もう二度と地球上でゲートが開かれることは無かった。




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