第零項 プロローグ
特にございません
「これが…魔導書っ…」
俺は手にした分厚い書物を見て呟く。
『そうじゃ!それが魔導書じゃ。』
と、俺の頭の中に直接響く声。
「これをどうすりゃいいんだっけか?」
『それくらい覚えておれ!』
うるさいよ。
直接聞こえんだからそんなでかい声出さなくても大丈夫だよ。
『聞こえておるぞ…?』
しまった。
忘れてた。
「で、どうすりゃいいんだっけか?」
『ったく。そいつを魔力で包み込むようにしろ。』
包み込む?
こうか?
俺は膜を張るように包む。
『うむ。上出来じゃ。』
すると魔導書は俺の体に溶け込むようにして消えた。
『1週間程度休んだのち次の目的地へ向かうとする。それまで暫しの休息じゃ。ゆっくり休むがよい。』
あぁ。
ありがとな。
そうさせてもらうよ。
なぜ俺がこんなことをしているかというと、時は一週間前に遡る。
その日も普段と何ら変わらぬよく晴れた日だった。
だが一年に一度しかない日でもあった。
すなわち俺の誕生日。
ちょうどその日で17になった。
が、特に祝ってくれる人もいない。
なぜならば俺の家族、母親と父親、姉と妹はもういない。
それを説明するにはさらに二年ほど遡らなければならない。
悪いがもう少し俺の回想に付き合ってくれ。
あの日は俺の誕生日にしては珍しく雨の日だったか?
その日は平日だったため俺と姉、妹はそれぞれ学校に行っていた。
ちなみに当時、俺は中学三年生。
姉が高校二年生。
妹は小学五年生だった。
俺はその日居残り(補習)があったため、姉と妹のほうが帰りは早かった。
母親はいたが昼間は働きに出ていた。
それでも誕生日には必ず共に祝ってくれた。
母親と父親は三年前に離婚した。
原因は再三にわたる浮気と家庭内暴力であった。
暴力自体は母親にだけだったので母親は我慢していた。
直接的な原因は恐らく父親が姉に乱暴しようとしたことだろう。
まあ家庭裁判所に訴えれば刑務所にブチ込むこともできただろう。
しかし母親は敢えてそれをしなかった。
離婚して親権を母親に譲ることで譲歩したのだ。
そして父親は俺たちの前から去った。
正直こんな話はどうでもいいんだ。
とにかく今日は誕生日。
家ではみんなが待ってるはずだ。
俺は心踊らせ家路を急いだ。
家の近くまで来ると妙に騒がしかった。
俺の誕生日は地域に根付いたイベントではないから関係ないであろう。
しかし自分の家の前に立って異変に気づいた。
「なんで警察がいるんだ?」
すると警察の一人が話しかけてきた。
「君はこの家の関係者かい?」
俺は肯定を表すために頷いた。
「そうか…。」
そういうと警察の人は気まずそうに黙りうつむいてしまった。
俺は落ち着いて問いかける。
「実はな、君には言わなければならないことがあるんだ。」
重そうな口をゆっくり開いた。
……。
キミノカゾクガコロサレタ。
「えっ?」
俺は耳を疑った。
だが警察が嘘をつくはずがない。
俺はその瞬間体の力がすべて抜けてその場にへたり込んでしまった。
「嘘……だ…ろ?」
「犯人はまだ見つかっていない。」
その瞬間俺は犯人を確信した。
親父だ。
あいつは最近何度も家を訪れていた。
しかも特に理由もなく。
殺した理由はどうあれあいつしか心当たりがない。
俺は叫んでいた。
「あのクソヤロォォォオ!!ブッコロシテヤル!!」
その瞬間俺は鞄や荷物をすべて捨てて走り出した。
5分ほど走ると見覚えのある姿が。
「見つけたぞ!このクソやろう!」
やつは俺を視界に捉えるや否やいきなり走り出した。
「待て!」
と、言われて待たないことはわかっていた。
そしてついに追い詰めることに成功した。
「もう逃げらんねぇぞ…」
すると
「フッ…ハッハッハ!!」
突然笑いだし懐から銃を取り出した。
やつは俺に向け一発発砲した。
俺はそれと同時に右斜め前方に受け身をとり一気に距離をつめた。
そしてやつの手から銃を叩き落とした。
さらに顔面を殴り飛ばした。
その勢いでゴロゴロと転がる。
おれはさっきまでやつが持っていた銃を手に取り歩いて間をつめた。
「ま、待ってくれ!」
「…やだね。」
そういうとおれは躊躇いなく引き金を引いた。