第七章 速戦即決(6)
土方と沖田との間に挟まれる形で腰をおろしていた伊織は、ぐるりと集合した面々を見渡した。
(やっぱり、馬詰さん父子は来てないか……)
平隊士、馬詰神威斎、信十郎の父子の姿が、未だ見えなかった。
この父子、緊急出動のこの日に、脱走を試みる。
予めそのことを知っていた伊織は、一応までに二人の名を井上隊に記していたが、元より頭数には考えていない。
実際、現時点でその二人だけが会所に到着していないのだ。
これはまず、間違いなく脱走したのであろう。
「編成を発表する!」
土方が声を張り上げた。
ざわめいていた隊士たちが、瞬時にシンと静まり、土方に注目した。
「まずは近藤隊! 局長以下、沖田総司、永倉新八、藤堂平助、武田観柳斎、浅野薫、安藤早太郎、新田革左衛門、谷万太郎、奥沢栄助」
名を呼ばれた隊士は、それぞれ短く返事をする。
「次に土方隊。原田左之助、斎藤一、島田魁、林信太郎、川島勝司、谷三十郎、伊木八郎、尾関弥四郎、松原忠司、酒井兵庫、近藤周平、そして高宮伊織」
土方隊として名を呼ばれた伊織も、皆に倣って返事をした。
「これ以外の者は皆、井上隊に配属する」
土方の声が一括りしたとき、伊織はふと、隣の沖田の様子を伺った。
「沖田さん?」
「! あ、はい? 何です?」
声をかけると、沖田は少し慌てたように伊織に顔を向けた。
心なしか、いつもよりぼうっとしている気がする。
「沖田さん、何かちょっといつもと違いません?」
気遣って尋ねると、沖田はすぐに普段の表情に戻った。
「何言ってるんですか、高宮さん。別に変わらないですよ? 高宮さんこそ、今日は様子がおかしかったじゃないですか。左頬も腫れてるし」
逆に沖田から指摘され、伊織は反射的に頬を押さえた。
「土方さんに怒られましたね? まったくー、一人で暴走するからですよ?」
「……すみません」
「あはは。いいですよ。土方隊で頑張ってくださいね」
沖田は以後も変わった様子は見せず、伊織はそれ以上の詮索はしないことにした。
会津藩の兵を待って、新選組は会所に留まる。
祇園祭りの囃子も、徐々に盛大さを増してきていた。
【第七章 速戦即決】終
第八章へ続く