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新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
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第六章 乾坤一擲(1)




 四条河原町。

 まだ昼前だが、壬生村とはまるきり違う賑わいを見せる往来を、伊織は尾形と二人で歩いていた。

 背丈も違えば当然歩幅も違うのに、尾形はまるで伊織に合わせてくれようとしない。

「尾形さんっ、少し速くありませんかっ?」

 時折駆け足で尾形の後を追いかけながら、伊織は溜まりかねて訴えかける。

「お前が遅いだけじゃないのか?」

 立ち止まるでもなく歩調を緩めるでもなく、その上振り返りもせずに尾形は言い返した。

 壬生の屯所を出てから、ずっとこの調子なのだ。

 おまけに今日、伊織の腰には脇差だけでなく太刀も携えられている。

 昨夜のうちに土方から借り受けた代物で、大分重い。

 見習いとは言っても、やはり新選組の一員ならば二本差し。

 と、土方は伊織にも大小の差し料を与えることにしたのだった。

 伊織用に誂えた刀が手元に届くまで、とりあえずは間に合わせで適当な物を貸してくれたのだ。

 もちろん大層な業物を預けてもらえるはずはなく、無銘の一品だったが。

 太刀は二尺三寸。

 こんな長い刀を、今の伊織に満足に扱えるはずもない。

 監察という役目柄、抜刀する機会もそうないだろうが、まず鞘から抜くだけで一苦労だ。

 万が一にも何かあったら、刀を抜いている間に敵に斬られてしまう。

 脇差だけで充分事は足りるのだ。

 重くて歩行の邪魔になるだけで、太刀の存在は実に鬱陶しい。

「少し、そこの茶屋で休んでいこう」

 伊織が愚痴を声に出しそうになった時、ちょうど尾形がこちらを向いて足を止めた。

「お茶、ですか?」

 仕事で四条に出てきたはずなのに、何もしないうちから茶屋で休むのかと、伊織は疑問に思う。

 だが、足の速い尾形に必死でついて来たため、休みたいと思うのも正直なところ。

「そうですね! 寄っていきましょう!」

 伊織は尾形の提案に二つ返事で快く同意した。

「……行くぞ」

「? ……はい」

 一瞬、尾形が呆れ顔になったのが気になったが、これといって何を言われるでもなかったため、伊織は深く追求するのをやめた。

「いらっしゃい」

「茶を二つ」

 尾形は店先の腰掛けに落ち着くと、奥から出てきた店の女にそう注文した。

「あっ! あと、お団子も二人分、お願いします」

 茶だけで済まそうという尾形の横合いから、伊織が追加注文する。

 店の女は気っ風良く笑うと"へぇ"と返事をして奥へと下がった。

 伊織も腰の二本を外し、尾形の隣に座り込む。

「折角ですから、お団子くらい良いでしょう?」

「お前な……」

 要領の良さに、先よりも尾形の呆れ顔に拍車がかかる。

 だが、尾形は不意に表情を改めた。

「高宮。俺はお前に仕事を教えるつもりはない」

「……は?」

 何の前触れもなく紡ぎ出された言葉に、伊織はあんぐりと口を開いた。

 それは副長から頼まれた事なのだろうに、今更何を言うのか。

(勝手に団子を追加したこと、怒ってんのかな……)

 そんな風にも思ったが、すぐにそれとは関係ないのだとわかる。

「俺は動く。だからお前はそれを目で見て覚えるんだ」

 成る程な、と伊織は思う。

 あれこれと言葉で教えるのではなく、見て仕事を盗めということだ。

「いちいち説明もしないから、そのつもりでな」

「わかりました」

 伊織が返事をした時、ちょうど茶と団子が運ばれてきた。

 尾形はその茶を一口啜ると、おもむろに伊織を見る。

「時に、ここの勘定はお前持ちだぞ」

「はい!? どうして私が……っ」

「財布を忘れてきた」

「………」

 頼りになるのかならないのか、微妙に不安にはなったが、とりあえず伊織は自分の財布を覗いてみる。


 

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