表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
202/219

第二十七章 多事多端(2)

 

 

 様々に志を抱き、各々がその思想を掲げて直走る。

 情勢は常に不安定だ。

 詮無い事を考えていることに気付き、伊織は小さく息を吐いた。

 いつか、佐々木に言われた言葉を思い起こす。

 生きるも覚悟、死するも覚悟、と。

 屯所に戻って、少しばかり気が緩んだのだろう。

 伊織は未だ治まりきらぬ震えを振払うように、天を仰いで(かぶり)を振った。

 

 ***

 

 白洲には、佐々木と伊織の二人きりだった。

「どうした、息が上がっておるぞ」

「……まだ大丈夫です!」

 剣術に関しては、真っ当に師事してくれている。

 技術的な事はまだまだだが、当初に比べれば、随分慣れてきたと思う。

 勿論、佐々木のことだから大分加減してくれているのだが。

「もう一本、お願いします」

「良かろう、どこからでも来るがいい」

 互いに正眼に構え直すと、寒風がその間合いを吹き抜けた。

 風は、佐々木の袴の裾を翻し、伊織の髪を不規則に弄ぶ。

 佐々木の表情には何の変化も無い。

 このまま真向から斬り掛かっても、佐々木の隙を衝くことは出来ないだろう。

 かといって下手に動けば、こちらに隙が生まれる。

 そこを衝いて佐々木の剣が風を斬るかもしれない。

 そう危惧しながらも、伊織は体勢を変えることを選んだ。

 息を呑み、じゃり、と一歩左足を前へ踏み出した。

 刀身をゆっくりと引き込み、刀身を右後方へ送る。

 柄の殿を左手で軽く掴むと、相手には刀そのものが全く見えなくなる。

 相手の目から刀身を隠し、こちらの動きを悟らせない狙いだが、果たして、剣豪たる佐々木にそんな思い付きの小細工が通用するのか。

「小野派一刀流の隠剣、か」

「……!?」

「どこでそれを学んだ?」

 佐々木が無表情に問うた。

 小野派一刀流。

 聞いたことはある。しかし、学んだことは当然ない。

 偶然にも既存の技法を用い、更には瞬時にすべてを見破られたらしい。

 剣術の達人を相手に、殆ど素人の伊織が敵うわけはないのだと、改めて痛感せざるを得なかった。

 これ以外、他にどう構え直してよいかも思いつかず、伊織は佐々木をねめつけた。

 このままでは勝負はつかない。

 その手に隠した剣はそのままに、伊織は呼吸を整える。

 次の瞬間、前へ踏み出し、右下から刀身を振り上げた。

 が、佐々木は難なく太刀筋を読み、その刀身を受けて流す。

 刀身を払われた反動で均衡を崩しかけた、その刹那。

 佐々木の剣は、伊織の首筋にその刀身をぴたりと付けた。

「……参りました」

 伊織が敢え無く降参すると、佐々木も構えを解き、正面に居直る。

「佐々木さん、ありがとうございました」

「うむ。ところで、新選組の中に小野派の剣士がいたか」

 誰かに教授されたものと思ったか、佐々木は竹刀を肩に担ぎ直し、手拭いを差し出す。

「あ、ありがとうございます」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ