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新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
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第二十六章 知己朋友(6)

 ***

 

 その夜、伊織は副長室で土方の戻りを待っていた。

 伊織が黒谷から壬生の屯所へ帰り着いたのは、今朝早くのことだった。その後間もなくして近藤一行の帰京が重なったのである。

 そうなると、やれ荷解きだ、報告だ、新規参入した伊東らとの面会だ、と、屯所内の空気も一変して気忙しくなっていた。

 今宵は沖田の隊が巡察に出かけて行ったが、それを見送ってしまうと特にすることもない。

 夜は一層冷え込む季節だ。燭台の灯りを整え、火鉢の炭も入替えておく。

 ふるりと一つ身震いすると、伊織は自ら整えた火鉢の前で背を丸めた。

(早く来ないかなー……)

 そわそわしながら、じんわり熱を受ける掌を時折擦り合わせる。

 寒い季節になってくると、どうしても現代に居た当時の暮らしが脳裏を過った。

 何にせよ、暖房器具や家屋の断熱性に於いては相当な差がある。

 その点に限っては、この時代の誰よりも、それこそ徳川将軍や天皇陛下よりも快適な暮らしをしていただろうと自負している。

(軟弱者とか罵られたらどうしよう)

 これから真冬となっていく。

 夜は勿論、朝の厳寒に耐え得るだろうか。

「……雪、降るのかなぁ」

 故郷会津は雪深い土地であった。

 それは恐らく、今も未来も変わらないだろう。

 きっとこの冬も、会津の地では雪化粧の若松城が見られるのに違いない。

 故郷の銀世界を想像したせいか、伊織は火鉢に当たりながらぶるぶると震える。

 思わず小袖一枚の自分の両腕を摩った。

「ああ寒ィな、くそ」

 障子戸の外で床板を軋ませる足音が聞こえ、土方の声がした。

 と同時に、すっと障子戸が滑る。

「あ、お帰りなさい。火鉢どうぞ?」

 大袈裟なまでに身を縮こまらせる土方の姿に、伊織は暖を勧めた。

 が、勿論我が身も寒いので、身を退いたりはしない。

「火鉢か、有難てぇ。おめぇにしちゃ気が利くな、褒めてやる」

「わーい褒められた」

「…………」

 ぴしゃりと戸を閉めると、土方は火鉢の前に直行し早速その両手を翳す。

 火鉢を挟んで、至極近い距離で向き合う形となった。

「……」

「……」

 この副長室で過ごすのも、二月ぶりだ。

 そこはかとなく、ぎこちない雰囲気を漂わせる土方に、伊織も僅かに気まずさを覚える。

「……土方さん」

「なんだ」

「黒谷への出仕、許可してくれてありがとうございました」

「ああ、感謝しろィ」

「色々と勉強になりました。何となく見えてきたことも多くて、得たものは少なくありません」


 

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