第二十六章 知己朋友(1)
局長・近藤勇が新たな隊士を伴って京へ戻ったのは、元治元年十月二十七日のことであった。
伊東甲子太郎の幹部参画は、この時から始まる。
近藤が帰着と同時にまず詰め寄った相手は、土方であった。
二月ぶりの再会のわりに、近藤は端から仏頂面で土方の正面にどっかりと腰を下ろした。
物腰には些か憤りが滲み、粗暴さの目立つ所作である。
「葛山を切腹させた、というのはどういうわけなんだ。納得のいく説明が聞けるんだろうな、トシ」
「どうもこうもねぇ。あれだけの大事にしておいて、処分が謹慎のみたぁ示しがつかねぇだろう」
「だからと言って、首謀者でもない者に腹を切らせて良いことにはならん」
「あんたがそう言うだろうってことたぁ、俺にだって分かってら。だがな、俺たちゃ言ってみれば寄せ集めに過ぎねぇ。見せしめを作っておかなけりゃ、こういう例は後を絶たなくなっちまう。先だっての池田屋、禁門の戦で功績を認められたって言ってもな、そいつは揺るがぬ信頼ってわけじゃあねえんだ」
遡って考えてもみれば、上洛以後、新選組が起こした騒動は数知れず、その都度会津の役人からお小言を頂戴している。
商家への押し借りや脅迫と言った類は、いちいち数えるのも馬鹿らしくなる回数だ。
しかしそれらも度が過ぎればその度に粛清を加え、何とか体裁を保ってきた。
たとえそれが、局中のどんな者であれ。
「しかし、永倉や原田が謹慎で済んだものを、他の者にだけ切腹させれば、それこそ内部に示しがつかないだろう。おまえに不満を持つ者が増えるだろうし、無用な派閥を作る原因にもなりかねんぞ」
今し方の簡潔な説明にも、恐らく腹の底からの納得は出来ていないのだろう。近藤はその大きな口を引き結び、への字に曲げる。
「俺の留守中、高宮君が黒谷へ出仕していたらしいじゃないか。山崎君から聞いたぞ、高宮君はお前の独断に不信を抱いていたようだ、と」
「山崎? ……あいつ、余計なことを」
帰着早々に山崎から報告が上がっているらしいが、葛山の一件に留まらず、伊織の黒谷出仕についても漏らさず報告しているあたりが、どうにも山崎らしい。
山崎が伊織に対してあまり良い印象を抱いていないらしいことは、土方も気付いていた。
「余計なことではないだろう。俺にも許せることと許せないことがある。俺の預り知らんところで同志を処断されるのは納得がいかん」
「まあ、そいつに関しちゃあ、説明しなくもねぇぜ。ついでに、斎藤が報告があるとかなんとか言っていやがった」
「この他、まだ何かあるのか」
「悪い報告じゃあないだろうが……。わざわざ招聘したんだ、伊東殿にも同席願っちゃあどうだ?」
怪訝に眉宇を顰める近藤に対し、土方もまた、やや辟易した風を匂わせた。
***
「――と、まあ斯様な不祥事もありはしましたが、本陣出向中の働きを認められたこともまた一つの事実でしょう。それが証拠に、会津藩大目付、梶原平馬殿より高宮に名賀姫様付相談役の任が下されました」