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新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
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第二十五章 天真流露(3)



「え、じゃあどちらへ?」

「うむ、まぁそうだなぁ……廓と言えば廓のようなものだが、むさ苦しい廓だな」

 より一層同行を拒絶したくなるような説明だ。

「はっはっは。では参ろうか」

 やっぱ遠慮します、と伊織が答えるよりも早く、梶原はむんずと伊織の腕を取った。

 そうしてそのまま梶原の散歩とやらに連行される羽目となったのである。


     ***


 あまり気の進まないままに連れられて行くと、そこは梶原の言葉通り、むさ苦しい場所であった。

「……って、新選組の屯所じゃないですか」

「な? むさ苦しいだろう」

「あー、まあ……むさ苦しいっちゃあ、むさ苦しいですが」

 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす梶原は、特に新選組の屯所を悪し様に言う意図はなく、どちらかと言えば「うまいことを言った」つもりでいる様子に見える。

 年の割に妙な無邪気さがある為か、多少の失礼な発言があっても聞く者の腹を立たせない。

 が、しかし。

 今二人の正面に座する男の腹を煮えさせるには充分だったようだ。

「梶原殿。来て早々むさ苦しいたぁ、どういう了見ですか」

 大いに眉を顰めた土方に睨まれ、梶原はやれやれと肩を竦める。

「やれやれ、怖い顔をするなぁ。勿体ぶらずに花を見せてくれ、ということだよ」

 花? と首を傾げる伊織に、梶原は含み笑った。

「ここにはそぐわない花を、早く引き取って欲しいとせがまれてなぁ。一足先に私が見分に参じたんだ。活きも良いらしいから、二、三問答することで真偽も明らかになるだろうしな」

「それは願ってもない。だが、梶原殿。何故、差控中であるはずのこいつを連れて来られた」

「うん? 会いたくなかったか? お主、薄情にも詮議の場にも来なかっただろう? 折角気を利かせて連れて来てやったというのになぁ」

 のらりくらりと土方をかわす梶原を他所に、伊織は内心でぎくりとする。確か、広沢あたりが此度の顛末を新選組に報せていたはずで、時実が見つかるまで本陣詰を命ぜられていることについても土方は知っているはずだ。

「あのう、土方さん。それなんですけど……」

「で、鳥は見つかったのか、ああ?」

「いやその、まだ……」

「だろうな。山野に紛れちまえば、鷹一頭見つけ出すなんざ到底無理な話だ」

 返す言葉もない。伊織が土方の正論に圧されて黙ると、土方はやおら梶原に視線を戻した。

「梶原殿。先日はうちの隊士が大変ご迷惑をお掛けした。留守中の近藤に代わってお詫び申し上げる」

「え? あぁ、堅苦しいことは良い良い。まあ差控という処分ではあるが、蟄居というわけではないからな。外出すること自体に問題はない」

「左様で」

「……あ、あの、土方さん。先日の一件では、本当に申し訳ありませんでしたっ!」

 新選組隊士として出向中の不祥事だ。土方が一報を受けた時にどう思ったかは知る由もないが、迷惑をかけたことだけは確実だ。

 我儘を押し通して会津本陣へ出向した上、その本陣での失態だ。土方がそう易々と許すとは思えないが、伊織は畳に額を打ちつけて平伏した。

 すると土方はどっと溜め息を吐く。

「それで、おめぇはこのまま帰参するつもりなのか」

「いえっ、戻ると約束した以上、私は新選組へ戻る心積もりです!」

「そうか。なら、総司の拾いモノはおめぇにとっても朗報かもしれねぇな」


     ***


「どういうことですか、これは」

 土方に連れられて向かった中庭の光景に、伊織は唖然とした。

「どうもこうもねぇ。おめぇと瓜二つの妙な女がきゃっきゃうふふと遊んでる光景以外、何に見えるってんだ」

「ええ、まぁ……そうですが」

 見間違おうはずもない、高木時尾と沖田の姿がそこにあった。

 ついでに言うならば、彼らは一頭の鷹を羽ばたかせては楽しそうに声を上げて笑っている。

「いやいやいや、本当にどういうことですか、これ」


 

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