表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
181/219

第二十四章 千荊万棘【後篇】(10)



 何となく、他人事とは思えない顔をした女人。そうでなくとも、道端で倒れている者を見捨てて帰るわけにもいかない。

 沖田は苦笑しつつ女を抱え上げると、くるりと踵を返した。

「連れて帰りましょうか。一応」

「……それは屯所へか? それとも、黒谷へ、なのか?」

「屯所ですよ。こんな面白いもの、土方さんに見せない手はないじゃないですか」

 沖田は、意識のない人間を抱えているとは思えないほど軽い足取りで、風を切るように来た道を引き返し始める。

(沖田さんの言う『面白い』の基準は、いまいち分からん……)

 きっと、いや絶対に面倒事の種だろうに、と思うと、斎藤の足はずしりと重くなったのであった。


     ***


「わざわざの御足労、痛みいる」

「何、我が愚弟の醜態をお主にとくと聞かせたいと思ったまでよ」

 土方の許に手代木が訪れた頃には、既に日も傾いていた。

「……まあ、我が愚弟の素行は扨置き、報告しておこう」

 手代木の用件が何であるかは、聞かずと知れたことだった。

 障子戸を隔てて虫の声が辺りを包む。

 宵の帳が気配を漂わせるが、室内もまだ薄明るく、火を灯すにはまだ早い時分だろう。

「結論から申せば、五日の出仕差控で事無きを得た」

 手代木の一言一言に、土方は黙って耳を傾ける。土方に口を挟む気がないと知り、手代木も相槌を待たずに言葉を繋いだ。

「だが、御愛鳥の行方は未だ知れず、殿は高宮伊織にその捜索を御命じになられた。故に、高宮の黒谷出仕を少々引き延ばすことになるかも知れぬ」

 そこで初めて、土方の眉が跳ねた。が、すぐに元の沈着な面持ちに返る。

「時に、土方。あの場に出向かずに本当に良かったのか。恐らくあの娘、お主の来ぬ意味を誤解しているものと思うが?」

「いや。お気遣いは有り難いが、今更どう弁解するつもりもない。会津の内部でのことだ、俺が行ってどうなるものでもないからな」

 それに、と土方はほくそ笑む。

「てめぇが裁かれる立場になって、責任の所在ってやつを芯から考えただろう。大なり小なり、責任ってなぁ必ずついて回るもんだ。そいつから逃れることは出来ない。その道を自分で選んだ以上は、な」

 土方の正論に、手代木は苦い笑みを漏らした。

「そうであろうな。己が意思から生じたものからは、何人も逃れ得ぬ」

 それから幾許かの時間が流れた頃、屯所には沖田と斎藤が戻り、新たな珍騒動が起こることになるのであった。




【第二十四章 千荊万棘(後篇)】終

 第二十五章へ続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ