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新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
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第十九章 契合一致(2)



「でも」

 と、伊織は話を遮った。

「それと時尾さんの平成行きと、どんな関係が……?」

「まぁまぁ、そう焦らない、焦らない」

 結構重大な話をしているはずなのに、時尾はけらけらと軽く笑う。

 その砕けた雰囲気を目の当たりにしていると、時代を越えて迷い込んでしまった事も、それほど大変な事だと思えなくなってくるから不思議だ。

「容保様の忠誠心は大前提、よ」

「大前提!? 今までの話だけで大前提? ちょ……っと時尾さん、お願いしますからもうちょっと巻いてお話し頂けませんかね」

「あらまー、意外とせっかちね?」

「私の性分は、ほっといて下さい」

「そう、じゃあ飛ばして言うけど……」

「でも要点は省かないで下さいよ」

「……注文多いわね」

 少々口を尖らせる時尾を、伊織はじろりとねめつけた。

「やーねぇ、冗談よ」

 あくまでも平然と笑いながら、時尾は言う。

「私が京に上ったのは、今年四月」

「四月……!」

 伊織はハッと気付いた。

 今年四月といえば、伊織がこの幕末の京へと迷い込んだ時期と同じ頃だ。

 が、時尾が京に上っただけでは何の原因にもなり得ないだろう。

 恐らく上京後の時尾の身に、何かが起こったと考えられる。

「京に来て、それで……」

 と伊織が先を急かした矢先。

 本堂の影から微かに何者かの足音が近付くのが分かった。

「!」

 咄嗟に本堂の死角へと目を向ける。

 じゃり、じゃり、という音が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 それは時尾の耳にも聞こえるらしく、やはり伊織同様に本堂の縁側の角を凝視した。

「誰か来ますね。場所を移りますか」

 のんびりと散策するような足音と、次第に音の主のものであろう衣擦れの音も重なり始める。

 今も必死にピヨ丸捜索にあたっているはずの梶原や佐々木ならば、もっと急ぎ足か、寧ろ駆け足になっているはず。

 少なくとも二人のどちらかではないらしい。

「もし広沢さんだったら、まずいですよ」

「あら、なんで?」

 徐々に焦りの濃くなる伊織を他所に、時尾はけろりと聞き返す。

「本当なら私、今頃は手習い中のはずなんですから。時尾さんは誰にも姿見えないから良いかもしれませんけどね、私は見つかったら大目玉ですよ!」

「アハハハ! 何よ、広沢様と上手くいってないみたいね?」

「上手くも何も、あの人妙に怖いんですってば!」

 思わず、仏頂面の広沢の顔が瞼に浮かぶ。

 どうせ見つかるならば、思いっきり佐々木のせいにしてやろう。

 と、これを好機に普段の迷惑千万を佐々木へ報復するつもりで振り向いた。

「……」

 その視線の先には。

「あれ……?」

 伊織の背後、数間のところまで来ていた足音の主は、そこで小首を傾げて立ち尽くしていた。

 広沢の姿かたちとは明らかに違う。

 女性だった。

 それも、結構なご身分にあるらしい上品な刺繍の施された打ち掛けを纏っていた。

 武家のお姫様、とはこんな人のことを言うのだろう。

 伊織は咄嗟に照姫か、とも思ったが、よくよく窺えば目の前の女性と照姫とでは年の頃が合わない。

 そもそも照姫は今、この黒谷にはいないはずだった。

「あ、えーと、こんにちは」

 目を合わせたまま無言でいるのも気まずく思え、伊織は適当に挨拶をした。

 すると、女性は不思議そうに伊織を凝視したままで鸚鵡返しに挨拶を返す。

「あなた、見かけないお顔ね?」

 お国はどちら? とでも問いたげな雰囲気に、伊織は黒谷出仕の顛末と共に出自を名乗った。

「私は新選組の者ですが……故あって、広沢様のお世話になっております」

 新選組、という言葉を聞いた直後、女性の目がやや警戒を解いた風に見えた。

 ほっそりとした小柄な女性だが、どちらかと言えばやや勝気そうな印象のある顔立ちだ。


 

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