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新選組秘録―水鏡―  作者: 紫乃森統子
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第十五章 萎靡沈滞(4)



 幾度かそんな考えを往復した末に、伊織は箒を放り出した。

 そうして、庭からちらちらと窺っていた、謹慎部屋に向けて駆け出したのだった。

「原田さーーん! 私もそこに入っていいですかー?」

 縁側から呼びかけてみれば、中の隊士たちも相当に暇なのだろう。

 すぐに障子は開け放された。

「おっ、何だよ、ちょうど暇してたんだよ~! 良いとこに来たじゃねーか!」

 ひょっこりと顔を出すなり、原田は満面の笑顔で、いそいそと伊織を出迎える。

 何度も繰り返し思うが、本当に手持ち無沙汰らしい。

「私も暇持て余してるんですよ、土方さんが何にも仕事言いつけてくれないから……」

「っだよ、じゃあ高宮さぁ、俺と代わってくんねぇかあ?」

「は? 代わる?」

 縁側から上がり込む伊織の肩をがっしりと組み、原田は多少声を潜める。

 勿論それは代わって謹慎を受けてくれ、という意味であることはすぐに察しがついた。

 部屋を覗けば、何ともむさ苦しい空気が満ち満ちている。

 大の男が何人も狭い部屋でごろごろしているのだから、それも当然と思えたが。

「身代わりは御免ですよ、それじゃあ原田さんばかりか私まで切腹させられるじゃないですか!」

 肩に乗せられた原田の手をぱしりと払い除け、伊織はそこで軽く諌める。

「今回謹慎だけで済んだことに感謝して、罰は甘んじて受けてください?」

 ぴしりと人差し指を向け、縁側のすのこの上に座り込むと、原田はむっすりと頬を膨らませてみせる。

「ちぇー、何でぇ何でぇ、お前だけは俺の味方だと思ってたのによ~」

「そういう心にもないことを言わないでくださいったら。私はどっちかって言うと土方さんの味方ですよ?」

「…だろうよなぁ」

 膨れっ面で肩を竦める原田は、さも見越しているかのようにおざなりに言い返す。

 縁に留まって、それ以上中へ踏み入ろうとしない伊織だが、原田はその隣にまで出て来て、再び胡坐を掻いた。

「しかしよ、近藤さんはこれ以上の沙汰なんぞねぇように言ってたが……」

 原田が、俄かに声に深刻な色を交えた。

「土方さんもちゃんとそれに同意してんだろうな?」

「え?」

 原田の疑問がすぐには飲み込めず、伊織は思わず聞き返した。

「今回だって、結構な事しでかしたと思うんだけどよ? 会津の殿様のお陰で丸く収まったって言っても、土方さんはこんな処罰で納得してんのかねぇ?」

「局長が許したんですから、土方さんだって文句は言えないんじゃないですか?」

 局長の下した決断に、副長である土方が勝手に罰を増すことなど有り得るのだろうか。

 原田のように単純そうな男がこうまで考える様子を目の当たりにすると、何となくではあるが妙に心に引っ掛かりが出来る気がした。

「そんなの考えすぎじゃないんですか? 原田さんらしくもない!」

 いくら土方でも、古参の同志を局長の不在中に勝手に処断するような事はあるまい。

 そう軽く笑って原田の肩を小突くのだが、どうにもその顔は晴れなかった。

「まあ、それもそうだな。んじゃまあ、謹慎が解けるのをじっと待つしかねえか~」

「そうそう、こんなとこに籠もってるから変なこと考えちゃうだけですよ!」

「だぁからおめぇよ、俺とちょっと入れ替われって!」

「それは出来ませんけどね!」

 笑い飛ばしながら、伊織の視線は室内を窺う。

 そこにいるはずの斎藤の姿を探してみたのだが。

「……あ、れ? 斎藤さんは?」

「は? 斎藤? ……って、あれぇ!? 何だよあの野郎! さっきまでそこの隅に座禅組んでたんだぜ!?」

「え、座禅!? なんで!?」

「俺に聞くなよ! 知らねぇよ!」

 確かに部屋の隅で座禅を組んでいたらしい事実にも疑問が湧いたが、それ以上に。

 斎藤と会津との繋がりを鑑みると、また何かあったのではないかと、咄嗟に勘繰ってしまう。

「一人で抜け出しやがったな、あの野郎!」

「ま、まさか! きっと厠にでも……!」

「おい、葛山。斎藤の奴ぁいつからいなくなったか分かるか?」

 詰まらなさそうな声で室内の仲間に問う原田だが、ごろりと横になったままの葛山は、知らないと言うかのように首を横に振るばかり。


 

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