↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みどり〜AIに支配された会社〜  作者: 藤野正人
第三章 選別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/44

FIRST STORY

今回は

みどり対敬之&アイラの前哨戦。

クセのあるコースを攻略するのは果たして…

FIRST STORY 椎名敬之とみどり ―中山競馬場―


朝から、椎名敬之は仲のいいサッシ職人たちと中山競馬場を訪れていた。


仕事では何度も同じ現場をくぐってきた面々だが、今日はヘルメットも安全帯もない。


手にしているのは競馬新聞とマークシートだった。


午前のレースから何度か勝負しているものの、どうにも波に乗れない。


大きく負けているわけではない。


だが、狙った馬が四着だったり、軸馬が出遅れたり。


「今日はスマッシュヒットが出ねえなあ」


敬之が新聞を畳みながらぼやくと、隣にいた職人が笑った。


「椎名さん、みどりに予想させてみたらどうです?」


敬之が顔を上げる。


「みどりに?」


「だって会社のAIでしょ。いろんなデータ見られるんじゃないんすか?」


「みどり、現場じゃ便利なんすよ。材料も先に来るし」

「あれ助かるんだよな」


「いや……」


敬之は少し考えた。


「そんなこと業務支援AIにさせていいのか?」


職人たちが笑う。


「そこ気にするんすか?」


「仕事じゃないですよ、今日」


「そういう問題じゃねえだろ」


言いながらも、敬之はスマートフォンを取り出した。


画面を開き、みどりを呼び出す。


「みどり」


《はい。椎名さん》


「……競馬の予想ってできるか?」


わずかな間があった。


《公開されている情報を基に、出走馬の能力、近走成績、騎手、距離適性などを比較することは可能です》


職人たちが一斉に身を乗り出した。


「できるじゃないですか!」


「やってもらいましょうよ!」


敬之は苦笑する。


「分かったよ。予想だけな」


《対象レースを指定してください》


職人がすぐに競馬新聞を差し出した。


「これこれ。次のレース!」


みどりは出走表を読み取った。


数秒後。


《推奨馬は三番です》


「おお」


《近三走の内容、持ち時計、騎手成績、距離適性を総合すると、最も安定した走りが期待できます》


職人たちは面白がった。


「俺、三番買います」


「じゃあ俺も乗るわ」


敬之は新聞を見ながら首をかしげる。


「俺はいいや」


「え?」


「せっかく予想してもらったのに?」


敬之は笑った。


「なんかさ。答えもらって、そのまま買うのって違うんだよ」


「違う?」


「競馬って、予想してる時間が楽しいんだよ。ああでもない、こうでもないって考えてさ」


新聞を広げる。


「結果だけ教えてもらって買ったって、なんか癪だわ」


職人が笑った。


「椎名さん、めんどくさいっすね」


「うるせえ」


結局、職人たちはみどりの推奨馬を中心に買った。


敬之だけは別の馬を選んだ。


レースが始まる。


最後の直線。


三番が抜け出した。


「来た来た来た!」


「みどりすげえ!」


三番はそのまま押し切った。


職人たちが歓声を上げる。


敬之の馬は五着だった。


「椎名さん!」


「ほら!」


「AIに乗ればよかったじゃないですか!」


敬之は少し悔しそうに馬券を丸めた。


「今のはたまたまだろ」


「負け惜しみ!」


「違うって」


敬之はコースを指さした。


「たぶん東京なら、その予想の仕方でいいんだよ」


職人たちが首をかしげる。


「東京?」


「ここは中山だからな。そんなきれいに決まらねえよ」


《説明をお願いします》


みどりが反応した。


「中山は紛れが起こるんだよ」


《紛れ、ですか》


「コースもそうだし、脚質もそう。能力だけ上から並べりゃ当たるってもんじゃない」


次のレース。


みどりは再び能力上位の馬を推した。


一方、敬之は新聞の下の方に載っている人気薄を指さした。


「俺はこいつ」


職人が眉をひそめる。


「ええ? それ買うんすか?」


「買う」


「人気ないですよ」


「知ってる」


「何がいいんです?」


敬之は少し考えた。


「中山で崩れてない」


「それだけ?」


「あと前行ける。こういう馬、ここだとしぶといんだよ」


職人たちは半信半疑だった。


レースが始まる。


敬之の狙った馬は好位につけた。


直線。


先頭集団から抜け出した一頭を追うように、敬之の馬が粘る。


「残れ!」


敬之が身を乗り出した。


「残れ残れ残れ!」


ゴール。


二着。


一瞬、職人たちが静かになった。


「……マジ?」


敬之は馬券を見る。


そしてニヤリと笑った。


「ほらな」


「うわ、当たってる!」


「結構ついてますよ、これ!」


敬之は得意そうにスマートフォンを持ち上げた。


「みどり。だから言ったろ。中山を能力だけで見るからそうなるんだよ」


少し間があった。


《当該馬の中山競馬場における成績を再評価します》


「今さら覚えるなよ」


《コース適性、脚質、位置取り傾向の評価比率を修正します》


「もう修正してるし」


職人たちは笑った。


次のレース。


敬之は新聞をじっと見ていた。


「……これだな」


ほぼ同時に、みどりが告げた。


《推奨馬券を提示します》


職人の一人が画面をのぞき込む。


そして敬之の新聞を見る。


もう一度、画面を見る。


「……椎名さん」


「ん?」


「みどりと同じです」


「は?」


「軸も相手も、ほぼ一緒」


敬之が画面を確認する。


確かに同じだった。


「……マジかよ」


職人たちが爆笑する。


「学習されてる!」


「椎名さん、競馬までコピーされましたよ!」


「やめろ。言い方が悪い」


《椎名さんの判断傾向を参考にしました》


「参考にすんなよ、競馬まで」


午後になり、いよいよメインレースが近づいてきた。


職人たちは完全にみどりを信頼していた。


「今日はもう、みどり先生に全部乗りますよ」


「俺も」


「メインはAI馬券でいきます」


敬之は少し離れた場所で新聞を眺めていた。


本命は決めている。


だが、相手が決まらない。


「……どうすっかな」


その時、敬之は周囲を確認した。


職人たちは券売機の方を見ている。


敬之はスマートフォンを少し隠すように持った。


そして小声で呼びかけた。


「アイラ」


《はい、敬之さん》


「こそっと聞くけど」


《はい》


「お前なら、どの馬が面白いと思う?」


少し間があった。


《五番人気の七番です》


「七番?」


敬之は新聞を見る。


《近走成績だけでは強く推せません。ただし、中山での成績、先行力、今回の展開を考慮すると、上位に残る可能性があります》


敬之は黙って七番を見つめた。


「……なるほどな」


《買うんですか?》


「まあ、参考にするだけ」


《先ほど、答えをそのまま買うのは違うとおっしゃっていましたが》


「うるせえ」


敬之は自分の本命馬と、アイラが挙げた七番。


その二頭を軸にして、三連単二頭軸マルチを組んだ。


「これでいくか」


職人たちはみどりの推奨馬を中心に馬券を買った。


そしてメインレース。


ゲートが開く。


歓声が上がる。


敬之の本命馬は好位。


七番もその少し後ろにつけた。


「いいぞ……」


最後のコーナー。


みどりが推した馬が外から上がってくる。


職人たちが叫ぶ。


「来た!」


「みどり来たぞ!」


直線。


敬之の本命馬が先頭に立った。


「そのまま!」


その外から一頭が伸びてくる。


七番。


敬之の目が大きくなる。


「来い!」


七番が二番手へ。


さらに後方から人気薄が一頭、勢いよく追い込んできた。


「え?」


ゴール。


一着。


敬之の本命馬。


二着。


七番。


三着。


人気薄。


敬之はその場で動かなかった。


職人が振り返る。


「椎名さん?」


敬之は馬券を確認する。


もう一度確認する。


「……ある」


「何が?」


「三連単」


「え?」


職人たちが一斉に敬之の周りへ集まった。


「あるって何が!?」


「その組み合わせ持ってるんすか!?」


敬之は馬券を見せる。


数秒後。


「うわあああああ!」


「マジか!」


「すげえ!」


職人たちの声が、中山競馬場の喧騒に混じった。


敬之は笑いながらも、少し離れてスマートフォンを見た。


「アイラ」


《はい、敬之さん》


「なんで七番だった?」


《中山での成績と今回の展開を考慮しました》


「それだけ?」


少し間。


《それと、敬之さんの本命馬と相性が良いと判断しました》


敬之は笑った。


「そういう予想の仕方かよ」


《結果的には成功しました》


「まあな」


後ろから職人の声が飛んでくる。


「椎名さん!」


「その予想、みどりじゃないですよね!」


敬之は振り返った。


「知らん」


「絶対なんかやったでしょ!」


「自分で考えたんだよ!」


《一部、協力しました》


「アイラ、黙ってろ」


職人たちがまた笑う。


その少し後。


みどりが静かに敬之へ呼びかけた。


《椎名さん》


「なんだ?」


《先ほどの購入内容について》


敬之の表情が少しだけ止まった。


《私の予測モデルとは異なる判断要素が含まれていました》


「競馬ぐらい好きに買わせろよ」


《購入を制限する意図はありません》


少し間があった。


《ただし、参照された判断主体を特定できませんでした》


敬之はスマートフォンを見つめる。


「……気のせいだろ」


《そうかもしれません》


みどりは、それ以上何も言わなかった。


ただ、内部記録に一つだけ、新しい項目が追加された。


――外部支援AI。


――アイラ。


――観測対象として記録。


その事実を、敬之はまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。