Wish
現実はクソだ。俺はいつもそう思う。
学校でもいつも単独行動をし、父親の転勤に母親がついていき、1人になった。中学の時の親友も高校の部活などで忙しいらしい。つまり俺は誰とも関わらなくなった。
俺の唯一の救いはゲームだった。マルチプレイでボスを倒したりする今人気のやつだ。それを知ってからというもの学校が終わり次第家に帰ってきてからずっとしている。
マルチゲームはいい。現実みたいな人と人でのいざこざがなく楽しく人と関われ、チームを組むことによって仲良くなることができる。
そんなある日Rupinasという人から一緒のチームを組まないかというお誘いが来た。このゲームは野良でたまたまマッチングして仲良くなりチームを組むパターンとゲーム内のプロフィールを見て気が合いそうな人とチームを組む2パターンがある。今回の場合は以前にマッチングしたことのない人からのお誘いだったので、恐らくは後者だろう。
ちなみに現実の友達とチームを組むパターンもあるが(それが一番オーソドックス)俺に限っていえばありえない話なので除外する。
申請を通してチームを組む。
「こんにちは〜。」
挨拶をしてみる。しばらくするとチャットから
こんばんは\(^▽^)/!
とかえってくる。レベルを見る限り、マルチが解放された直後のようだ。たぶんこのゲームのシステムをあまりよくわかっていないようだ。とりあえず、
「このゲーム敵と戦っている時にチャット打つのは難しいので通話しませんか?」
と誘ってみる。
分かりました(`・ω・´)ゞ
少し待っててくださいm(*_ _)m
とかえってくる。
「あ〜、あ〜。聞こえていますか?」
装備を整えて待っているとボイチェンした声が届けられる。このゲームでボイチェンしてる人初めて見たな……。
「バッチリ聞こえていますよ。」
「良かったです!上手くいくか不安だったので。」
「どのクエストします?」
「えっとじゃあこのクエストしたいです。私ずっと勝てなくて……。」
と言ってピンを立てられたクエストを見てみると、序盤では厳しいアイテムがほぼ必須の面倒くさいクエストだった。幸いにも俺はそのアイテムがいくらでも手に入るところまで進めていたので、そのクエストに苦労はしなくなっていた。
「じゃあそのクエストやりますか。そのクエストのドロップアイテム色々なところで必要なのにクエスト難易度高いですよね〜。」
「そうなんですよ!だからマルチの人に手伝ってもらおうって思って〜。」
「やっぱりそうですよね〜。」
そんなことを話しながらクエストをこなしていく。
「ナイス〜。」
「ナイスです!本当にありがとうございました!助かりました!」
「いえいえ〜、こちらこそ楽しかったですよ〜。」
「良ければなんですけどまた明日とかも一緒にやりませんか?」
一瞬悩んだが、特に予定がある訳でもないからいいか。
「いいですよ〜。やりましょう!」
「やった!じゃあまた明日!おやすみなさい。」
「おやすみ〜。」
通話を切り、パソコンの電源も落とす。
やっぱりゲームはいい。知り合いでもない人だとうちの学校の人みたいにいじめてくることもない。
うちの学校の人達は学校だと集団でいじめてくる癖に個人チャットだと謝って優しく話してくる。
俺はそのせいでどっちが本当に思っていることなのかが分からなくなってしまい、人間関係に疲れてしまったのだ。その点においてゲームはそんな雑事を考えなくていいので気楽に楽しむことができる。
明日も学校か、面倒くさい……。
――――――――――――――――――――――――
「お姉ちゃん!調子はどう?」
といつもの調子で話しかけてみる。
「ちょっと!もう夜遅くだから静かにしてよ。」
「ごめん、ごめん!で調子はどうなの?」
「すっっっごく快適。見つけてくれてありがとう。」
「いいってことよ〜!ここはすごく退屈だからね。」
「それには同感するわ。」
「それでなんでちょっと顔赤いの?」
「えっ?そんな赤い?」
「うん赤いよ〜、ほら!」
と言ってスマホの自撮りモードを渡す。
「何があったの〜?」
「何もないからッ!!気にしなくていいのッ!!」
絶対に何かあったようだがお姉ちゃんが可愛いのでもえそれでいいや。
「ホンマに〜?まあいいや、もうそろそろ終電なくなっちゃうから帰るね〜。」
「夜遅いんだから、気をつけてね。今日もありがと。」
「あいよ〜、じゃあまた明日ね〜。」
そういってそっと扉を閉める。
終電が中々危ないので駆け足になりながら思う。
お姉ちゃん顔赤くしちゃって何があったんだろう、と。
それでもそれ以上にお姉ちゃんが明るくなったことに嬉しくなる。
「お姉ちゃんと一緒にまた色々なことしたいな……。」
その声は街の喧騒にかき消された。
―――――――――――――――――――――――――
今までと変わらない辛い学校を終え、ゲームを開く。
するともうRupiさんはオンラインになっていた。
一緒にやりませんか•́ω•̀)?
と誘いが来る。チャットで
いいですよ〜。一緒にやりましょう。
と返すと通話がかかってくる。
そして他愛もない雑談をしながらクエストをこなしていく。
そんな日々が1ヶ月続いたかどうかの時にルピさんから普段とは違うお誘いが来た。
よければなんですけど、1度会いませんか•́ω•̀)?
俺はどうするべきか悩んだ。なぜなら現実での他人との付き合いはあまり得意ではないのだ。しかし断って雰囲気が悪くなるのも嫌なので了承する。
分かりました。じゃあ日程はおいおい決めましょう。
予定を決めてその当日となる。
待ち合わせ場所にいたのは女子高生ぐらいの女の子だった。
「あっいた!今日はよろしくお願いします〜!」
「こちらこそよろしくね〜。」
そのようにして始まったオフ会は何事もなく進んでいき、解散の流れとなる。
「今日はありがとうございました〜!楽しかったです!」
「こちらこそありがとうね。またゲーム内でもよろしくね〜。」
そう言って別れる。正直学校の人達のように人を馬鹿にしてこないし、話を聞いてくれて心がなんだかスッキリした。またいつか会いたいな……。
―――――――――――――――――――――――――
(メッセージチャット内)
「どう?お姉ちゃん?」
「本当に楽しかった!ありがとう!」
「本当に?一肌脱いで良かったわ〜!」
お姉ちゃんは本当に楽しかったようだ。メッセージがここまで明るいのは珍しいのですぐに分かった。
「お姉ちゃんにまた今度一緒にゲームしよだって。」
「もう早速連絡しちゃうわ!ありがとう!」
そのメッセージを見てスマホを閉じる。
画面が暗くなると嬉しいようで悲しいような表情をしている自分がいた。お姉ちゃんが元気になってくれたのになんでって言おうかとも思ったが、理由は明白だった。
私はずっとお姉ちゃんに元気になってもらいたくていろんなことをしたのにまだ知り合って1ヶ月のゲーム友達によってあっさり願望を叶えられて嫉妬してしまったのだ。
「ごめんね…。お姉ちゃん思いの妹じゃなくてごめんね。お姉ちゃんが元気になって素直に喜べない妹でごめんね……。」
家に帰ってきて自分の部屋のベットの上で1人泣き続けた。
―――――――――――――――――――――――――
今日もつまらない学校から速攻帰ってきてゲームを開く。ルピさんと知り合ってからほぼ毎日のようにこのゲームをしている。しかしここ最近は前までは話しかけたらすぐ返って来たのに、話しかけても帰ってくるのに間が結構ある。どうしたのかと聞いてもなんでもないよと誤魔化されてしまう。
そしてある日を境にゲームに誘われることはぱったりと無くなってしまった。現実の方が忙しいのかともあったが3日も連絡がないとさすがに心配になってくる。なので俺は、前オフ会をした時に貰った連絡先に連絡をとってみることにした。
(メッセージチャット内)
「最近ゲームで会えないけど何かあった?大丈夫?」
しばらく待っていると返信があった。
「すいません。話したいことがあるので今からここに来てくれませんか?」
そういってメッセージに添付されたリンクを開くと、前オフ会に使った喫茶店だった。
「わかりました。直ぐに行きます。」
そう返信して準備し、出かける。
喫茶店につくとお店の奥の席で悲しそうな表情のルピさんがいた。
「こんにちは。」
とりあえず挨拶をしてみる。
「こんにちは…。」
と返ってくる。この元気のなさは初めて見た。明らかに普通では無い空気の中問いかける。
「何かあったんですか?」
その言葉を聞いてからルピさんが話し始める。
その内容はものすごく衝撃的だった。まず自分はルピではないということ。そのルピとは自分の姉であるということ。姉はずっと病に臥せていて、首から下が動かない状況だということ。喫茶店で話すにはあまりに重すぎる話だった。そして自分がずっと本人だと騙していたことを謝ってきた。
「本当にすいませんでした。」
そういってほろぽろと泣き出す。
「驚きはしましたが、気にしなくて大丈夫ですよ。」
そのように伝えて、泣き止むのを待ってから気になっていたことを聞く。
「その最近ゲームにルピさんが顔を出さないのは何かあったんですか?」
その言葉を聞いてまた泣き出しそうになる。しかし、なんとか涙を堪えたようだ。その内容はさっきまでの驚きをゆうに越した内容だった。
「姉は今危篤状態でして、お医者さんがいうにはここ2、3日が峠だそうです。」
信じられないし、信じたくもなかった。しかし、目の前にいる女の子の顔が事実だと伝わるほどの悲しい顔だ。いやでもわかる。
「貴方が他人と関わるのが苦手ということを承知の上でのお願いなんですが、姉に会ってくれませんか?」
学校の人からのお願いだったらまず断っただろう。しかしゲームで愚痴などを聞いて、支えてくれたルピさんはいつの間にか俺の大切な人になっていた。なので断るといった選択肢は無くなっていた。
「いきます!どこにいるのか教えてください!」
あまりの即答でびっくりしたのだろう。目がまんまるになっている。そして、涙を一筋流していった。
「ありがとうございます……。」
彼女はすごく自然に笑った。
とても綺麗だった。
急いで病院に向かった。
病院の中に入り、病室の前に立つ。
息を整えて病室の扉に手をかける。
病室の中には4台のベットが置かれていた。しかし、そのうちの3台は使われていなかった。ルピさんがいるであろう窓側の右のベットを見る。
「今日も…来てくれたの?」
窓に目を向けたまま話しかけてくる。
「うん。」
寝返りを打ってこちらを見てくる。
びっくりしたのか、少しの間固まった。
「こんにちは。」
とりあえず挨拶をしてみる。すると今度はなんとも言えない表情をしてから、目から涙をこぼす。
「急に泣いてしまってすいません……。」
そういいながらも涙は止まりそうにない。
ふと妹さんのほうをみると、そっちも泣いている。
「ちょっ…、ふたりとも大丈夫ですか!?」
落ち着くとわけを話してくれた。
ずっと病気に侵されていてとこに伏せており退屈だったところに妹さんがゲームを持ってきてくれたこと、それをやっていくうちに俺に出会ったことなど。
「もはやゲームしかできることがなくて、その中で支えてくれたのが貴方だったんです。」
俺とルピさんは同じ思いだったのか……。
「病状が悪くなってきて、ゲームができなくなってからは気持ちが沈むばかりでずっと怯えていました。でも、その中でも貴方の言葉のお陰でなんとか生きてこれたんです。」
自分の言葉が他人を支えることができていたことに目頭が熱くなる。
「そして貴方に会えなくなってからずっと思っていたんです。1回だけでいいから会いたいって。」
周りの風景が滲んでいく。
これ以上堪えきれなかったようだ。
滲んだ世界でルピさんを見るとルピさんもはにかみながら泣いていた。
「ずっと願っていたんですけど……いざ叶うと嬉しくって……」
長い間ずっと泣いていたように感じた。
ルピさんが目の周りをしながらじっと見てくる。
「最後のお願いを聞いてくれませんか?」
「…………はい。」
「私が居なくなっても前を見ていてください。それで時々私をふとした時に思い出してください。」
「やめてください!!まだ生きてください!!そのお願いは聞きたくないです!」
それを聞くとルピさんは今日1番の笑顔をこちらに向ける。
「……はいっ!」
ずっとそばにいたいがそうすることはできないので家に帰る。
なんだか胸騒ぎがする。
気を紛らわそうとシャワーを浴び、料理をする。
カレーを煮込んでいるとスマホが揺れる。
画面を見るとルピさんの妹さんからだった。さらに嫌な予感がした。
悪い予感は的中した。
電話に出ると、妹さんが涙声で言ってくる。
「姉がッ……お姉ちゃんがッ…………。」
いわれずとも分かってしまった。
「姉が……死にました。」
目の前が真っ暗になる。
自分でも知らない声が喉の奥からでる。
なんで!あんな優しい人が死ななくちゃいけないんだ!!そう叫びたかった。でも出来なかった。
やっぱり現実はクソだ。
その後落ち着いてから話を聞くと、俺が帰ったあとから病状がさらに悪化して急死しまったらしい。
妹さんは優しいから言わないがルピさんが俺に会うことを最後の生きがいにしてたんじゃないかと考えずにはいられない。
あのゲームも1回開こうとしたが出来なかった。
ルピさんの葬式は参列してくれないかと誘われたが、断った。
しばらくは現実とは向き合いたくなかった。
これ以上ルピさんの顔を見たら耐えられる自信がなかったから。
俺は前を向いて歩かなくちゃいけない。
たとえ現実がいくらクソだとしても。
それがあの人からの最後のお願いだったから。




