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夜明けの鯨は夢を見ない
夜の深みに微睡む鯨は
星の海に漂う
その体は闇の繭に包まれ
音もなく波間を滑る
彼の瞳には夢の影は映らない
ただ夜明けの息吹が
遠くで囁くのを聞くばかり
深海の静寂が破れるとき
光はそっと忍び寄る
鯨の背をなで
世界の縁を溶かし始める
夢は消え──
過去の残響だけが
波間に揺れる
彼の胸には重い石が沈み
言葉にならない痛みが波紋を描く
だが鯨は沈まない
沈むことを許さない
夜明けがそこにあるのだから
海は呼吸を繰り返す
闇は揺蕩う水にほどけてゆく
鯨の鼓動が静かに戻り
かすかな光の粒がその身体を照らす
それは再生の歌
静謐な希望の音色
夢を見なくてもいい
ただ────
夜明けの静けさのなかで
新しい波を
待つことができたなら
夜明けの鯨は
瞳を閉じてただ揺蕩う
そしていつか
光と闇の狭間で
再び泳ぎ出すだろう────




