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ある夜、ある朝、あるいは水音

作者: 豆野間信願

人によっては下ネタと捉えられる表現が含まれております。お気をつけください。

 私は薄暗い道を歩いていた。視線を忙しなく動かし、少し内股でせかせかと歩いていた。というのも強い尿意に襲われていたのだ。しかし歩けど歩けどトイレは見つからない。


 この辺はポツポツと建っている一軒家とその家主達が管理しているであろう畑が続くばかりで、コンビニや飲食チェーン店等の気の利いた建物はまるでないようだ。


 なぜ私はこんな辺鄙なところにいるのだ……少し違和感をおぼえたが、尿意の波に押し流されていった。 


 尿意はとどまることを知らず私を責め立て続けた。あまりの苦しさに中世には尿意を我慢する拷問があったかもしれない、とまで思った程だ。

 

 考え事をしよう。気をそらせば、まだ少しは耐えられる筈だ。たしか、大便を貯め、我慢する際には2つの筋肉が使われていると聞いたことがある。不随意筋と随意筋、自動で締めてくれる筋肉と自分で締める筋肉だ。我々が肛門と呼ぶ部位にこの筋肉達は備え付けられているという。不随意筋がなければ我々は常に肛門を締め続けなければならず、随意筋がなければブツは垂れ流しになるらしい。これらの筋肉がなければ人類はオムツを生涯の友としていたことだろう。そう思うと偉大な筋肉である。

 

 しかしここで私の頭に疑問がよぎる。尿器にこの機能は備え付けられているのだろうか。私は男だ。つまり尿器は海綿体で構成されている。よって筋肉が入り込む余地などないはずである。ならば私は今まさに、どのようにして尿意を我慢しているのであろうか?


 そこまで考えたところで私の尿意は限界を迎え始め、目前に迫り来る決壊をひしひしと感じとっていた。


 もう立ちションをしてしまおうか……いやこれは悪魔の甘言だ。そんなことをしてしまっては知性を持つ人間とは言えない。今は踏ん張るしかないのだ。


私は失禁の恐怖と立ちションの誘惑に抗い、最後の矜持でなんとか持ち堪えていた。


 しかし悪魔の甘言はそんな矜持をいとも容易く貫いた。小さな草むらがあった。街灯の死角。人の気配はない。思考は霧散し、本能だけが私を動かす。


 チャックを下ろし──開放した。情けなさと快感が一挙に押し寄せてくる。


 その時、合点がいった。あぁ根本か。筋肉は根本にあるんだ。より詳細に示すと膀胱らへんにあるということか。そして彼らは激戦の末に今、敗北したのだ。

そう思い至った。


 違和感が走った。


冷たい。風が、やけに冷たい。


いや、違う。風など吹いていない。


何かやけに生ぬるい感覚がある。



 背筋に悪寒が走る。



 振り返る。誰もいない。



 ハッと、目を覚ます。

 

見慣れた自室の天井。

ベッドの上に横たわっていた。


私は23歳である。


今日は洗濯機を何度か回すことになるだろう。

身近に潜む恐怖。もしかしたら貴方も今夜出会うかもしれません。怖いですね。

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