0.霧の中の幸福と不幸
0.霧の中の幸福と不幸
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私は見守っております。あなた方の成長を。
私は見守っております。あなた方の衰退を。
私は見守っております。あなた方の幸福を。
私は見守っております。あなた方の不幸を。
4つの命の交わりを、私は常に見守り続けます。
たとえ命が朽ち果てようとも。
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一通の封筒が我が家のポストに届いた。
差出人も宛先人も書いていない、赤蝋で封をした少し古ぼけた封筒。その中にはこのような手紙が入っていた。
一見すると誰かの幸せを見守る内容のようだが、この手紙からは「幸せの絶頂から不幸のどん底に落ちる様を見届ける」という気味の悪さを感じた。俺はその手紙をビリビリと破いた。
その瞬間、周りが白い霧に覆われた。
正面には人影がこちらを睨みつけている。
またアレが来たのか……。
そして、後ろからさらに恐ろしい何かの気配がした。
呼吸が乱れ始め、恐ろしさのあまりほんの少しだけ後ろを振り返ると、ふわふわと浮かぶ髪の束が視界に入った。
「まずい。絶対に関わってはいけないものだ。」
本能が「逃げろ」と叫びをあげる。しかし、血と筋肉が固まったように体はまったく動かず、重さを感じる。
髪の毛が顔に刺さるように垂れ落ちてくる。
呼吸ができなくなり、意識が遠のき……。
唇と体にぷにぷにとしたものが触れるのを感じた。
「おはよっ!光太!」
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!何やってんのぉぉぉぉぉ!?」
夢とは違い、柔らかなカールとパーマがかかった少し明るめのブロンズの長髪。その髪が光の加減で輝くように見える。瞳は深い緑色で、白く透き通った顔は健康的な美しさを持っている。
目の前にいたのは夕霧彩、俺の彼女だ。
どうやらさっきの悪夢は彼女の仕業だったようだ……。
「なんかうなされてたみたいだから、キスで起こそうと思ってね」
そう言って彼女は俺の唇に人差し指をあてた。
こういうあざとカワイイところ……なんかずるいぞ!
寝起きは悪いままだが、彼女の小悪魔的な笑顔がイタズラを許してしまった。
「ほら、起きて起きて!駿くんも車の中で待ってるよ。」
「え?ああ、もうこんな時間か……」
午前5時。朝日は登りかけ少しだけ明るくなってきている。
俺は今、七緒屋から少しだけ離れた都会に住んでいるが、これから住むのは長野の山奥。田舎……というよりかなりの過疎地域に住む予定だ。
夕霧邸……俺が引っ越しする先だ。
家の名前の通り、夕霧兄妹の実家で同居することになったのだ。
都会の一人暮らしで疲れ切り、いつも悪夢のせいで寝不足気味な俺も、この夏からまったりスローライフを満喫できる。そう思った。
だが、そんな俺の願いとは裏腹に、ここから俺の奇妙な運命の歯車がゆっくりと回り始めたのだ……。
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