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救国の勇者様は売れ残り花嫁を溺愛する  作者: 藤乃 早雪
第一章 売れ残りの花嫁
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第5話 粛清

(い、今何て???)


 ローリエの脳内は大混乱を起こしていた。


 愛の告白のような台詞が聞こえたが、自分に向けられた言葉だとは思えず、きょろきょろ周囲を見回してしまう。


「君を幸せにしたいんだ」


 クレイユは長めの前髪を風に靡かせ、慌てふためくローリエにもう一度告げる。


 彼が他の誰でもなく、ローリエに言っていることは分かったが、それでも理解が追いつかない。


「あの、私、全然話が見えなくて……」

「そうか。ごめん、急な話で混乱したよね」


 クレイユは申し訳なさそうに眉尻を下げ、ローリエの腰から手を離してくれる。


 モントレイ伯の屋敷では、ローリエがおどおど返事をするとまず叱られたので、何故クレイユが謝るのか分からなかった。


「君は覚えていないだろうけど、昔、僕たちは会ったことがあるんだよ」

「モントレイ伯のお屋敷でですか?」


 ローリエは首を捻って記憶を辿る。

 これほど美しい人を見かけたのなら覚えていると思うが、五歳頃から始まる記憶のどこにも彼の姿はない。


「君が屋敷に行く前のことだ。僕はその頃からずっと、君のことが好きだった」


 クレイユは、呆然とするローリエの髪を指で梳き、目を細めてくすりと笑う。


(す、すき? 好きってどういうこと?)


 記憶にある限り、生まれて初めて向けられた言葉に、ローリエは目をしばたたかせた。


 彼の言葉、反応、一つ一つがローリエにとっては不可解で、そのうち傾げた首が一回転してしまいそうだ。


「すみません。私、あのお屋敷に預けられる前の記憶がなくて……」

「謝らないで。幼くて頼りなかった僕よりも、今の前の僕を見てほしいから好都合だ」


 クレイユは片目をパチリとつぶって言う。


 町の女性なら、きっと黄色い歓声を上げただろう。キザな動作なのに様になっていて、ローリエはぎゅっと胸を掴まれたような心地になる。


 やはり、彼が昔会ったのは、ローリエではない別の誰かではないだろうか。

 国中の女性を虜にするような好青年が、ローリエなんかを好きになるわけがない。

 

「申し上げにくいのですが、昔会ったことがあるという女性は、きっと別人だと思います」

「間違いなく君だよ」


 クレイユの返事は素早く、力強かった。


「ずっと行方を探していたんだけど、最近になってようやく居どころが分かったんだ。もっと早く迎えに来れれば、君が苦しむこともなかったのにごめんね」

「いえ……。こうして助けていただいただけでも恐縮です」


 あの場所に留まっていたら、心が完全に壊れてしまうのが先か、自ら命を断つのが先か―― 待ち受けていたのは地獄のような日々だろう。


 彼はやはり、ローリエを他の女性と勘違いしているようだが、助けてもらえて幸運だった。


「さて、そろそろ帰ろうか。でも、その前に」


 クレイユは天に向かって右手を突き上げ、ぼそぼそと何かを口ずさむ。

 

 それが魔法の詠唱だと気づいたのは、クレイユを囲むように金の魔法陣が浮かび上がってからのことだ。


「クレイユ様……一体何を……?」


 魔法の適性を持つ者は多くないうえ、習得までには厳しい修行が必要だと聞く。

 これほどまでに大きく、派手な魔法を見るのは初めてだ。


「君を長年虐げていたあの家の人たちを、どうも赦せなくて」

「もしかして、お屋敷を攻撃するつもりですか?」


 ローリエは不安げに尋ねる。

 あの家では散々酷い目にあったが、それでも屋敷の人々を傷つけたいとは思わなかった。


「大丈夫。ちょっと驚かせるくらいだよ。国の目が届かないところで、好き勝手やってることへの制裁は追々、ね」


 クレイユが優しげに微笑んだ直後、屋敷の上空で黄色い閃光がパリパリと音を立て始める。


 次の瞬間――。


 ピカっと辺り一面が光に包まれたかと思ったら、ドンッという地響きのような音がして、ローリエの心臓はびくりと震えた。


(わ、わぁ……)


 ローリエはポカンと口を開け、煙が立ち上るモントレイ伯の屋敷を凝視する。


 外観は見事に黒焦げになっている。屋敷の中は無事なのだろうか。そうだとしたら今頃、大騒ぎになっていることだろう。


「これで良し」


 クレイユは満足げに呟き、ローリエに手を差し出した。


「あの……私は……」

「どうか手をとって、お姫様」


 この手をとっても良いのだろうか。

 ローリエは微笑むクレイユの顔と、彼の手を交互に見つめる。


(私はきっと、思い出の女の子ではないけれど、今は彼の言葉に甘えて頼るしかない)


 恐る恐る手を重ねると、クレイユはローリエをぐっと引き寄せ、抱き上げた。


「城に帰る前に寄りたいところがあるんだ。疲れているだろうけど、付き合ってほしい」


 彼は目を細め、少年のように無邪気に笑う。


 満天の星の下、煙の立ち上る屋敷を背にして、二人はモントレイ伯領を後にした。


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