第44話 伝わるまで何度でも
(お、お仕置きって何ですか!?)
ローリエは思わず心の中で叫んだ。
「あ、あの……クレイユ様……?」
恐る恐るクレイユの顔色を窺うと、答えの代わりに、額にキスが降ってくる。
「君がどれだけ素敵で、愛されるべき存在か、僕が教えてあげないと」
クレイユは目を細め、蕩けそうなほど優しい目でローリエを見つめていた。
売られそうになったローリエを助けてくれた時と同じ目だ。
あの時は、クレイユが何故自分を助け、優しくしてくれるのか分からなかった。
甘い言葉に高揚するのと同時に、彼が愛しているのは自分ではないと、胸がずきりと痛んで涙が出そうだった。
でも、今は違う。
「好きだよ、ローリエ」
クレイユの甘い言葉は、紛れもなくローリエに向けられたものだ。
(こんな夢のようなこと、あって良いのかな)
人は幸せで胸がいっぱいになった時にも、泣きそうになるらしい。
目から溢れた雫に気づいたクレイユは、指の腹でそっと拭ってくれる。
それから、頰や首筋、鎖骨にお腹、恥ずかしくて口にできないところまで、彼は丁寧に口づけていった。
「クレイユ様……、もう……」
そのくらいにしてほしいと伝えたかったが、クレイユは悪戯っ子のように笑って言う。
「恥ずかしいの? 可愛いね」
キスの雨は止むことなく、むしろ優しく食んだり、舐めたりして、ローリエを翻弄する。
どうやらこれが、お仕置きらしい。
ローリエは赤くなって震えた。
「そんなところ、駄目です」
「どうして?」
汚いからだ。そう言おうとして口を噤む。
お仕置きの効果は抜群だ。
今ここで、自分を卑下するようなことを言ったら、今よりも恥ずかしいことをされるかもしれない。
ローリエは今後、発言に気をつけることを心に誓う。
「ごめん。意地悪をしすぎたかな」
答えに迷っていると、クレイユはローリエの上から退いて、隣に転がる。
優しい彼のことだ。ローリエが本気で嫌がっていると思って、止めてくれたのだろう。
ほっとしたようで、少し残念な気もして、自分はなんて我儘なのだろうとびっくりする。
「先に進むのは怖い?」
「いえ……。今までこんな風に触れ合うことがなかったので、少し戸惑いました。心の準備をしておくと言ったのに、すみません」
初めて寝所を共にした時は、口から心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしたが、他愛のない会話をして並んで眠ることに、いつの間にか慣れていた。
互いの好意を伝え合った以上、これまで通りとはいかないだろうと思っていたが、いざその時が来ると取り乱してしまう。
「君の記憶が戻るまでは……と思って我慢していたけど、そろそろ限界かも」
どこか苦しそうな声で言うので、ローリエはしばらく悩んだ後、「毎晩、少しずつ進めていくのでは駄目ですか?」と提案する。
それを聞いたクレイユは苦笑した。
「焦らすね」
「そんなつもりは……」
「いいよ。少しずつ、でも、毎晩たくさん甘やかすつもりだから、覚悟して」
クレイユはローリエの唇に何度も軽く口づけてから、次第に深度を上げていく。
呼吸の仕方が分からない。
熱くて、混ざり合って溶けるようだ。
しばらく繋がって離れた後、息を荒らげるローリエに、クレイユは熱に浮かされた顔で請う。
「ねぇ、早く僕を欲しくなって」
口づけの間、上手く息を吸えなかったせいか、くらっとした。
(私は何か間違えたのかもしれない……)
不安を覚えつつも、どこか駄々っ子のようにも見えるクレイユの背に手を回し、あやすように抱き締めた。




