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救国の勇者様は売れ残り花嫁を溺愛する  作者: 藤乃 早雪
第五章 魔王の力を継ぎし者
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第40話 禁忌の代償

 クレイユには、しばらく安静にしてもらった方が良いと思い、ローリエは膝枕を買って出た。


 初めは「そんなことはしなくていい」と躊躇っていたクレイユだが、なんだかんだ転がって大人しく頭を撫でられている。


「クレイユ様が幸せだと思う風景を頭に浮かべてみてください」


 負の感情が暴走の引き金となるのなら、幸せなことで頭をいっぱいにすれば良いのでは。

 ローリエはそう思って提案した。


「……幸せ?」

「私はクレイユ様と一緒に過ごす、朝食の時間が幸せです」


 柔らかな陽射しを浴びながら、向かい合って食事をする平和な風景を思い出し、ローリエは顔を緩める。


 クレイユにとっては、なんてことない日常のひとコマかもしれないが、預けられた先で朝食すら与えられてこなかったローリエには、特別幸せを感じる時間なのだ。


「それと、夜一緒に眠る時はドキドキするけど、安心します。クレイユ様はどうですか?」

「僕か……。僕は君と過ごす時間全てが愛おしいよ。いや、一緒にいない時だって、君が何をしているかを考えると幸せな気持ちになる」


 クレイユはローリエを見上げ、愛おしそうに目を細めた。

 言い出したのは自分なのに、いざ答えが返ってくるとくすぐったい。


「あと、君の寝顔を眺めている時も最高に幸せだ」

「えぇ……寝顔を見られていたなんて、恥ずかしすぎます……」


 きっと締まりのない、間抜けな顔を晒していただろうに、クレイユは穏やかな笑みを浮かべてローリエの髪を指で梳く。


「もう少し深く触れ合えたら、天にも昇る気持ちだろうな」


 かぁっと頬が紅潮していくのを感じる。


 夫婦なのだし、お互い好きだと伝えあったのだから、これまでのようにただ並んで眠るだけでは済まないだろう。

 睦事の知識が乏しいローリエにも、それくらいは分かる。


「……心の準備をしておきます」

「時間はたくさんあるから、ゆっくりでいいよ」


 クレイユはくすくす笑うと、おもむろに上体を起こした。 

 全身を覆っていた黒い紋様は跡形もなく消えている。


「大分良くなりましたね」

「ああ、もう大丈夫。本当に格好悪いところを見せた……」


 溜め息をつくクレイユに、今度はローリエが笑いかける。


「これからは、格好つけなくても大丈夫ですよ」


 むしろローリエの前では、格好つけず、我慢せず、全部見せてほしい。 

 そう思うのは傲慢だろうか。


 クレイユの顔がゆっくりと近づいてくる。

 キスされるのだろうと、ぎゅっと目を閉じた瞬間、脳裏にしわがれた声が響いた。――へイルの声だ。


『落ち着いたなら、こちらへ来てほしい』


 クレイユもテレパスを受け取ったらしく、二人は顔を見合わせる。


 絶妙なタイミングで声がかかったということは、魔法か何かで覗かれていたのかもしれない。


「ルビリア様が心配です。ヘイルのもとに向かいましょう」


 ローリエは頬が紅潮するのを感じながら、クレイユの手をとり立ち上がった。

 口づけのことは、ひとまずなかったことにしておこう。



ꕥ‥ꕥ‥ꕥ



『正気を取り戻したか』


 ヘイルはクレイユの顔を見るなり、呆れたようにそう言った。


「不甲斐ないです」

『次にこんなことがあったら、ローリエを返してもらうからな』


 項垂れるクレイユと、鼻を鳴らしてそっぽを向く魔獣――力関係が逆転しているようだが、確かお父様も、ヘイルには頭が上がらなかったような気がする。


「ヘイル、それよりルビリア様は?」

『こちらだ』


 ヘイルについて枝垂れ柳のカーテンを抜けると、藁の上に寝かされる人の姿があった。

 ローリエは思わず息を呑む。


「これは……」

『無事だがこのあり様だ』


 力なく横たわる人物は一見老婆のようだった。

 彼女の白く美しかった肌には皺が寄り、体も幾分か縮んでしまったように見える。


(本当にルビリア様なの? どうしてこんなことに……)


 呆然とするローリエの横で、クレイユがぽそりと呟く。


「禁術を使ったせいだ」

「もしかして、魔物を操る魔法のことですか?」


 超上級クラスの魔物であるへイルさえも従える、強力な魔法だった。

 ルビリアは難なく使いこなしているように見えたが、後から反動が来たということだろうか。


「本来魔物を統べるのは魔王の力。その理を捻じ曲げる従属魔法は人の命を蝕む」

「ということは、寿命が縮んで年老いてしまったということでしょうか」

「恐らくは」


 クレイユはそれからしばらく黙り込み、暗い表情でルビリアを見つめていた。

 きっと自分を責めているのだろう。


『ふん。此奴は己の欲を満たすために禁術に手を染めた。自業自得というやつだ』


 ヘイルはぴしゃりと言い切るが、ローリエも同じようにやるせない気持ちで、クレイユの側に寄り添った。

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