大聖女ルビリア様
大聖女のために設けられた、中央教会の特別室の中。椅子に踏ん反り返って座ったルビリア=マルトゥールは、苛立ちを隠せず、足をゆすっていた。
「あーあ。魔物が一番集まるところに置いてきたのに、何で生きてるのかなぁ」
第一王子から、クレイユが結婚したという噂を聞き、まさかと思って北の城を訪れてみれば、相手はなんとも冴えない魔力なしの娘ではないか。
あんなのが、勇者の初恋の女だなんて。
許せなかった。
国の英雄クレイユ=オルトキアは、世界一可憐で素敵な、大聖女ルビリアのものでなくてはならない。
強く、美しい、あの男に釣り合うのは、ルビリアくらいだろう。
逆に言えば、ルビリアに相応しい男は彼しかいない。
国を救った美男美女カップルの誕生を、国民たちだって望んでいるはずだ。
「はぁ。これはちょっと不味い状況かも。上手いこと、クレイユ様への言い訳を考えなくちゃ」
――そして、何処の馬の骨とも分からぬ女を始末する方法も。
コンコン、と部屋の扉がノックされた瞬間、ルビリアは姿勢を正して、慈悲深い笑顔を貼り付ける。
「ルビリア様、礼拝のお時間です」
「ありがとう。今向かいますわ」
呼びに来た神官見習いは、ルビリアに微笑まれて、ぽっと頰を染めていた。
大丈夫。一目見れば皆、ルビリアの虜。
きっと、クレイユも今に目が覚める。
 




